奇跡の少女セリア〜私は別に特別ではありませんよ〜

アノマロカリス

文字の大きさ
10 / 32
第一章 生活の予行練習の章

第九話 何故か試験を受ける事になりました・後編

 「いつぶりだろう…試験を受けたのって?」

 私は現在、流されるままに…冒険者ギルドカードの取得の為の試験を受けております。
 試験は、筆記試験、実技試験……と、前世の様な試験内容になっているみたいですが、ハッキリ言って筆記試験の内容が全く分かりません。
 私はこの世界に降り立ってから、まだ10日ですよ?
 この世界の…特に魔物に関する知識なんかあるわけが無いじゃ無いですか!

 《…と言えたら、楽なんだろうなぁ~?》

 この世界の人達の頭に入っている当然の知識は、私にはまだありません。
 なので、何が書かれているかが全く理解出来ません。
 あ、別に理解出来なくてもいっか。
 私の欲しいのはギルドカードであって、冒険者ギルドカードじゃ無いんだし。
 …という事で、私は魔物のイラストが描かれている説明に対して、前世の類似する魔物の特徴を詳細に書いておきました。
 適当に短文だけでは失礼にあたりますからね。

 「さてと、次は実技試験よね…一体どんな内容なんでしょ?」

 ~~~~~冒険者ギルド内の試験採点室~~~~~

 「な……一体何なんだ、この詳細過ぎる内容は‼︎」
 「この魔物の生態は、ついこの間…調査員が偶然に発見したとされるものだったというのに、何故に受験者がその回答を知っているのだ⁉︎」
 「この問題だけではありません! 他の魔物の詳細な解答ですが、これも一部の者しか共有されていない内容が…」

 …と、大混乱が起きている様です。
 勿論、全てが正解というわけではありません。
 中には全く検討外れな解答もあるのですが、それよりも…今迄に発見されていなかった魔獣の生態が詳細に語られており、その生態が瀕死の重症を負った調査員と同じという事が⁉︎

 ~~~~~再び実技会場~~~~~

 「次に貴方達には、この場に現れた魔物と戦って貰います。」

 そう言って現れたのは、鎖に繋がれた…醜く太った二足歩行の豚だった。

 「マジかよ…普通は、ゴブリンだろ?」
 「何でオークが…⁉︎」

 あ……これ、多分私の所為だ。
 誰かが怪我をしても、私が回復魔法をして……いえ、私が土壇場なこの状況で魔法を使ってオークを倒す…という事が見たいだけだよね?
 
 「では、魔物を見事に倒して…この試験に合格をしてみて下さいね。 それと…受験者セリア、貴女の活躍を期待しているわよ!」
 
 やっぱりかぁ…私は回復魔法を使えても攻撃系の魔法は一切ないんだけど?
 あ、いえ……相手がアンデットだったなら、ヒールもピュリフケーションも有効な攻撃手段だとは思うけどさぁ?
 生活魔法の火や水では倒せそうもないし…。

 「おい、嬢ちゃん……お前に何かあるのか?」
 「そういえば、受付で神童とか聞こえて来たが…あれは嬢ちゃんの事だったのか?」
 
 私は首を傾けて分からないフリをしました。
 水晶球の砕けた破片が頬を引っ掻いた時に、咄嗟に回復魔法で治した事に対して、魔法を使った事はないと言った筈なのに…?
 信じてないのか、信用して貰えてないのか……どちらにしても、何かあると思って勝手な期待をしているんだよね?
 本当に私って、オークを倒せる様な攻撃魔法は無いんだけどなぁ。

 「あ、別に試験に合格する必要はないか…」

 そうよ、そうなのよ!
 そもそも私は、ギルドカードを発行してもらう為に来たのであって、冒険者になりたいなんて一言も言ってないし。
 なので…?

 「今回の試験は辞退します。 とりあえず今回は、ギルドカードのみを頂けませんか?」
 「な……本気で言っているのですか‼︎」

 窮地に陥って、試験を辞退する人がいるというのなら分かるけど…まだ戦ってすらいない者が、試験を辞退するだなんて…前代未聞の事だろう。
 しかも、試験を辞退しようとしているのが、魔力検査用の水晶球を破壊させる程の受験者なのだから。

 「試験は、受けるのも辞退するのも自由だと…先程に仰ったじゃないですか!」
 「確かに言いました…ですが、貴女の様な可能性を秘めた人には…」
 
 これは、意地でも私を帰らせない気ね………どうしようかなぁ?
 私は、アイテムボックスの中に手を入れた。
 以前に薬草を採取する際に、薬草以外の野草も手に入れた事があった。
 その中の幾つかの野草に面白そうな効果があったんだけど、魔物に試そうと思っていたら、結局は行けずにそのままになっていたものが。

 「これがあったけど…試してないんだよねぇ。」

 私が初めて作った試作品3号のバーサークパウダーという。
 材料は、油と興奮薬とレッドペッパーです。
 最初は水で作ってみたのですが、掛けてもさらりと表面を伝って流れ落ちるので、水から油に変更しました。
 まぁ、見た目が辣油っぽい液体になっちゃったけど。
 
 「これを、オークの顔…特に、鼻の周りに掛けて貰えませんか?」
 「そんなもの…お前がやれよ!」
 「私は、もう1つの仕掛けを用意しなければなりませんので…まぁ、別にやっても構いませんが、奮闘している私以外はただ眺めているだけ…で、試験に合格出来るのでしょうか?」

 私は同じ受験者のリザードマンに、少し意地悪く伝えると…?
 私が持っている興奮薬の瓶を掴んで行った。
 …というか、オークって豚だったよね?
 ここにいる受験者って、虎人族とか、トカゲとか、バイソンみたいな獣人がいるんだけど、それでもオークの方が強いのかなぁ?
 リザードマンが、虎人族とバイソン…族?に耳打ちをしていました。
 どうやら、虎人族とバイソン族の二人がオークを押さえている間に、頭上から興奮薬を掛けるみたいです。

 「よし、やるぞ‼︎」
 「「おぅ!」」
 「フゴッ⁉︎」

 リザードマンは、虎人族とバイソン族に声を掛けると、身構えた瞬間に向かって行った。
 そして、作戦通りに二人がオークの身体を押さえながら、リザードマンが素早くオークの背後をするりと上り、顔目掛けて興奮薬をぶっ掛ける。
 …だったけど?

 「おい………動かねぇぞ‼︎」
 「みんな、早くその場から離れて‼︎」

 三人は急いでオークから距離を取った。
 …けど、オークが何もアクションを起こさない事に、私も不思議だった。
 興奮薬には、主に麻薬草が用いられる。
 なので、興奮薬には麻薬を含ませたんだけど、どうやら麻薬草が興奮ではなくて、鎮静の効果になってしまったのかな?
 
 「いや、それにしてはおかしいなぁ? 普通…鼻に辣油なんか入れられたら、凄まじい勢いで暴れ出す筈なんだけど?」

 私は、早く試験を終わらせる為に、興奮薬を使用する事を選んだ。
 肝心のオークが、暴れ出して会場をメチャクチャにしてくれたら、試験どころの騒ぎじゃなくなるからだ……というのを狙ったんだけどね。
 そんな考えとは別に、先程…行動を起こした三人が、動かない事をチャンスと捉えて襲い掛かろうとしていた。

 「ちょ、ちょっと!」

 そんな私の制止も聞かずに、さっきの三人はオークに持っていた剣で身体を貫いた。
 普通なら、これで命が終わる……筈だった。

 「ウ………ウガガガガガガガガガガガ~~~~~」

 オークは謎の奇声を上げながら、両腕を振り回し始めた。
 オークに剣で貫いた三人も、オークの急な叫びに驚いて、振り回した腕に巻き込まれて吹っ飛んで行った。
 暴走は興奮薬、痛みは麻薬により無痛化……本当にバーサーカーを作り出してしまったのだった。
 それも凶暴化して、かなり厄介な方向に……?
 三人以外に受験生達も戸惑っていたが、何を思ったのか…今がチャンスと思って武器を構えて攻め込んで行った。
 オークが無造作に暴れているので、冷静な判断が出来ないと思ったみたいだった。

 「あーあ…何であんな状態にオークに突っ込んで行くかなぁ?」

 私は、試験場の隅っこで気配を消して座り込んだ。
 前世の入院生活の時から、面倒事を回避する為に、気配を消して隠れるのが得意になっていた。

 「さすが、冒険者になろうとする人たちは違うね。 あんなにも勇敢に攻め込んで行くだなんて…それにしても、実際のオークって…あんなに強いんだね?」

 私の読んでいたライトノベルだけだったのかもしれないけど、オークはザコ敵として描かれていたので、こんなにも強いとは予想していなかった。
 それが十数人もの冒険者を目指す受験者が挑んでも、全く倒す事が出来ないなんて。

 「この状態で私が最後の1人になったら、さすがに試験は中止よね?」

 受験者はどんどん減っていく。
 立っているのは残り二名、あ…今一人倒れました。
 残り一人も…戦意喪失で動かないので、ぶっ飛ばされて……で、残りは私だけなんだけど?
 な~ぜか、職員が期待をした様な目で私を見ているのよねぇ?
 私に、今のオークを止められる様な魔法は無いから!
 ……まぁ、会場の隅の柱の影に隠れて気配を消している私を見付けられる訳はない……筈?
 その為に、興奮薬を鼻に掛かるように撒いて貰った訳だしね。
 ただ、あそこまで制御不能になったのは計算外だったけど。

 「さてと、多分来ないとは思うけど…もしもの為の最終手段を用意しておかなければね?」

 リザードマンに頼んだ時のもう一つの仕掛け…それは、攻撃手段ではありません。
 あいも変わらず…武器はダガーで、攻撃系の魔法は無い私に他の攻撃手段は…って、あのオーク…こっちに来てない?
 
 「来るなら来なさい! とっておきをぶち撒けてあげるわ‼︎」

 私は、アイテムボックスの取り出し口をオークに向けた。
 アイテムボックスの入り口も、本人には見える仕様で周囲の者が見ることは出来ない。
 この世界にいる数人の魔力持ちには見えるかも知れないけど?

 「必殺…魔力無しの人が見たら、思わず魔法と勘違いする水属性攻撃……発射!」

 すると、アイテムボックスの取り出し口から、ホースのストレートの様に水が勢い良く発射された。
 この大量の水は、ナビターの話によると…他国で女性の化粧品として使われている材料という話だった。
 とてもヌルヌルしていて、一部の種族がこの液状を好んで肌に塗るという話なのですが、地面に垂れると土ですらこの液状を吸わない位に弾くらしく、このファークラウド大陸では使用を禁止されているという話です。
 何でも…使用した後に片付けるのが面倒なのと、処理をするのが大変という話なので。
 なので、地面に溜まった液状を踏んだオークは、ひっくり返って顔面を強打していました。

 「あぁ……アレは痛い。」

 オークは鼻から大量の血を流しておりました。
 興奮薬の赤い油は、血と一緒に流れきったかな?

 「受験者セリア、今のは貴女の魔法ですか? 魔力の波動は一切感じませんでしたが…」
 「そうですよ、これが私の魔法です……これが見たかったんですよね?」

 魔法……と言えば、魔法になるのかな?
 アイテムボックスは魔法の一種だし、この液体を作った時の火魔法も、覚えた生活魔法で煮出した訳だし。

 【ヌルヌルローションの作り方】
 材料・水沃葉×1枚、ツボ×1、大きなタライ×1…
 まずは、ツボの中に水沃葉を入れてから、生活魔法の火魔法にかけます。
 ツボの中がある一定の温度になりますと、水沃葉から大量の液体が滲み出てきます。
 水沃葉の質量よりも、遥かに大量に溢れ出す液体の受け皿として、大きなタライに受け皿にします。
 …が、すぐに満杯になりますので、残りの分をアイテムボックスで吸引させます。

 流石に、異世界の物だと感心しました。
 地球の海藻でも、ヌルヌルはしますけど…ここまでの量は出て来ないものね。
 ちなみに、この水沃葉も薬草探索の際に採取致しました。
 山で水が溜まっている所には、この水沃葉が生えているという証らしいです。
 気温が30℃を越えると、滲み出て泉を作るそうです。

 「これで…良いですか? 良いですよね?」
 「あ、はい…第387回・冒険者ギルドカード合格者は、セリアに決まりました。」

 私は別に、合格をしたかった訳じゃなかったんだけどね。
 でも、これに関してまた何か言うと、何か面倒ごとで解放されなくなりそうだし。
 さっさと、ギルドカード貰って出ましょうか。
 こうして私は、受験に合格して…冒険者ギルドカードを取得致しました。
 
 最初は手に入れる気は全くなかったんだけど、店を出てからの買い物時で、このカードの素晴らしさを実感する事になるんだけどね。
感想 2

あなたにおすすめの小説

「通訳など辞書で足りる」と追放された令嬢——三国会談で、婚約者は一言も話せなくなった

歩人
ファンタジー
宮廷通訳官エレノーラは五つの言語を操り、婚約者クラウスの外交を陰で支えてきた。 だがクラウスは言った。「通訳など辞書で足りる。お前は要らない」 追放されたエレノーラは隣国で新たな道を歩み始める。 一方、クラウスは三国会談の場で辞書片手に立ち往生。 誤訳が外交問題に発展し、窮地に陥ったその場に、隣国の通訳官として現れたのは——。 「その言葉は、もう翻訳できません」

本の虫な転生赤ちゃんは血塗りの宰相の義愛娘~本の世界に入れる『ひみちゅのちから』でピンチの帝国を救ったら、冷酷パパに溺愛されてます

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。

家族に忘れられていた第五王子は愛され生活を送る

りーさん
ファンタジー
 アズール王国の王宮には、多くの王子や王女が住んでいる蒼星宮という宮がある。  その宮にはとある噂が広まっていた。併設されている図書館に子どもの幽霊が現れると。  そんなある日、図書館に出入りしていた第一王子は子どものような人影を見かける。  その時、父である国王にすら忘れられ、存在を知られていなかった第五王子の才覚が露になっていく。

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

『お前の針仕事など誰でもできる』——なら社交界のドレスの裏地を、めくってごらんなさい

歩人
ファンタジー
「地味な針仕事しかできない令嬢は要らない」——公爵家の嫡男にそう言い渡された伯爵令嬢ティナは、 裁縫道具だけを持って屋敷を出た。その翌週、社交界が凍りつく。王妃の夜会服も、公爵令嬢の舞踏会 ドレスも、第一王女の外交用ローブも——仕立てた職人が消えたのだ。しかもティナが十年かけて縫った 全てのドレスの裏地には、二重縫いで隠された署名が残されていて——。 辺境の小さな仕立て屋で穏やかに暮らすティナの元に、王都から使者がやってくる。

「仲睦まじい夫婦」であるはずのわたしの夫は、わたしの葬儀で本性をあらわした

ぽんた
恋愛
サヤ・ラドフォード侯爵夫人が死んだ。その葬儀で、マッケイン王国でも「仲睦まじい夫婦」であるはずの彼女の夫が、妻を冒涜した。その聞くに堪えない本音。そんな夫の横には、夫が従妹だというレディが寄り添っている。サヤ・ラドフォードの棺の前で、夫とその従妹はサヤを断罪する。サヤは、ほんとうに彼らがいうような悪女だったのか?  ※ハッピーエンド確約。ざまぁあり。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

「お前がいると息が詰まる」と追放された令嬢——翌週から公爵家の予定が全て狂った

歩人
ファンタジー
クラリッサは公爵家の日程管理を一手に担う令嬢。前世の社畜経験を活かし、行事計画、来客対応、予算管理まで完璧にこなしていた。 だが婚約者ヴィクトルは言った。「お前がいると息が詰まる。もっと華やかな女がいい」 追放されたクラリッサが去った翌週、公爵家の予定が全て狂い始める。 舞踏会の招待状は届かず、外交晩餐会の料理は手配されず、決算書類は行方不明。 一方クラリッサは、若き領主の元で「定時退社」という夢を叶えていた。 「もう、残業はしません」

刺繍妻

拓海のり
恋愛
男爵令嬢メアリーは魔力も無くて、十五歳で寄り親の侯爵家に侍女見習いとして奉公に上がった。二十歳まで務めた後、同じ寄り子の子爵家に嫁に行ったが。九千字ぐらいのお話です。