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第一章 生活の予行練習の章
第九話 何故か試験を受ける事になりました・後編
「いつぶりだろう…試験を受けたのって?」
私は現在、流されるままに…冒険者ギルドカードの取得の為の試験を受けております。
試験は、筆記試験、実技試験……と、前世の様な試験内容になっているみたいですが、ハッキリ言って筆記試験の内容が全く分かりません。
私はこの世界に降り立ってから、まだ10日ですよ?
この世界の…特に魔物に関する知識なんかあるわけが無いじゃ無いですか!
《…と言えたら、楽なんだろうなぁ~?》
この世界の人達の頭に入っている当然の知識は、私にはまだありません。
なので、何が書かれているかが全く理解出来ません。
あ、別に理解出来なくてもいっか。
私の欲しいのはギルドカードであって、冒険者ギルドカードじゃ無いんだし。
…という事で、私は魔物のイラストが描かれている説明に対して、前世の類似する魔物の特徴を詳細に書いておきました。
適当に短文だけでは失礼にあたりますからね。
「さてと、次は実技試験よね…一体どんな内容なんでしょ?」
~~~~~冒険者ギルド内の試験採点室~~~~~
「な……一体何なんだ、この詳細過ぎる内容は‼︎」
「この魔物の生態は、ついこの間…調査員が偶然に発見したとされるものだったというのに、何故に受験者がその回答を知っているのだ⁉︎」
「この問題だけではありません! 他の魔物の詳細な解答ですが、これも一部の者しか共有されていない内容が…」
…と、大混乱が起きている様です。
勿論、全てが正解というわけではありません。
中には全く検討外れな解答もあるのですが、それよりも…今迄に発見されていなかった魔獣の生態が詳細に語られており、その生態が瀕死の重症を負った調査員と同じという事が⁉︎
~~~~~再び実技会場~~~~~
「次に貴方達には、この場に現れた魔物と戦って貰います。」
そう言って現れたのは、鎖に繋がれた…醜く太った二足歩行の豚だった。
「マジかよ…普通は、ゴブリンだろ?」
「何でオークが…⁉︎」
あ……これ、多分私の所為だ。
誰かが怪我をしても、私が回復魔法をして……いえ、私が土壇場なこの状況で魔法を使ってオークを倒す…という事が見たいだけだよね?
「では、魔物を見事に倒して…この試験に合格をしてみて下さいね。 それと…受験者セリア、貴女の活躍を期待しているわよ!」
やっぱりかぁ…私は回復魔法を使えても攻撃系の魔法は一切ないんだけど?
あ、いえ……相手がアンデットだったなら、ヒールもピュリフケーションも有効な攻撃手段だとは思うけどさぁ?
生活魔法の火や水では倒せそうもないし…。
「おい、嬢ちゃん……お前に何かあるのか?」
「そういえば、受付で神童とか聞こえて来たが…あれは嬢ちゃんの事だったのか?」
私は首を傾けて分からないフリをしました。
水晶球の砕けた破片が頬を引っ掻いた時に、咄嗟に回復魔法で治した事に対して、魔法を使った事はないと言った筈なのに…?
信じてないのか、信用して貰えてないのか……どちらにしても、何かあると思って勝手な期待をしているんだよね?
本当に私って、オークを倒せる様な攻撃魔法は無いんだけどなぁ。
「あ、別に試験に合格する必要はないか…」
そうよ、そうなのよ!
そもそも私は、ギルドカードを発行してもらう為に来たのであって、冒険者になりたいなんて一言も言ってないし。
なので…?
「今回の試験は辞退します。 とりあえず今回は、ギルドカードのみを頂けませんか?」
「な……本気で言っているのですか‼︎」
窮地に陥って、試験を辞退する人がいるというのなら分かるけど…まだ戦ってすらいない者が、試験を辞退するだなんて…前代未聞の事だろう。
しかも、試験を辞退しようとしているのが、魔力検査用の水晶球を破壊させる程の受験者なのだから。
「試験は、受けるのも辞退するのも自由だと…先程に仰ったじゃないですか!」
「確かに言いました…ですが、貴女の様な可能性を秘めた人には…」
これは、意地でも私を帰らせない気ね………どうしようかなぁ?
私は、アイテムボックスの中に手を入れた。
以前に薬草を採取する際に、薬草以外の野草も手に入れた事があった。
その中の幾つかの野草に面白そうな効果があったんだけど、魔物に試そうと思っていたら、結局は行けずにそのままになっていたものが。
「これがあったけど…試してないんだよねぇ。」
私が初めて作った試作品3号のバーサークパウダーという。
材料は、油と興奮薬とレッドペッパーです。
最初は水で作ってみたのですが、掛けてもさらりと表面を伝って流れ落ちるので、水から油に変更しました。
まぁ、見た目が辣油っぽい液体になっちゃったけど。
「これを、オークの顔…特に、鼻の周りに掛けて貰えませんか?」
「そんなもの…お前がやれよ!」
「私は、もう1つの仕掛けを用意しなければなりませんので…まぁ、別にやっても構いませんが、奮闘している私以外はただ眺めているだけ…で、試験に合格出来るのでしょうか?」
私は同じ受験者のリザードマンに、少し意地悪く伝えると…?
私が持っている興奮薬の瓶を掴んで行った。
…というか、オークって豚だったよね?
ここにいる受験者って、虎人族とか、トカゲとか、バイソンみたいな獣人がいるんだけど、それでもオークの方が強いのかなぁ?
リザードマンが、虎人族とバイソン…族?に耳打ちをしていました。
どうやら、虎人族とバイソン族の二人がオークを押さえている間に、頭上から興奮薬を掛けるみたいです。
「よし、やるぞ‼︎」
「「おぅ!」」
「フゴッ⁉︎」
リザードマンは、虎人族とバイソン族に声を掛けると、身構えた瞬間に向かって行った。
そして、作戦通りに二人がオークの身体を押さえながら、リザードマンが素早くオークの背後をするりと上り、顔目掛けて興奮薬をぶっ掛ける。
…だったけど?
「おい………動かねぇぞ‼︎」
「みんな、早くその場から離れて‼︎」
三人は急いでオークから距離を取った。
…けど、オークが何もアクションを起こさない事に、私も不思議だった。
興奮薬には、主に麻薬草が用いられる。
なので、興奮薬には麻薬を含ませたんだけど、どうやら麻薬草が興奮ではなくて、鎮静の効果になってしまったのかな?
「いや、それにしてはおかしいなぁ? 普通…鼻に辣油なんか入れられたら、凄まじい勢いで暴れ出す筈なんだけど?」
私は、早く試験を終わらせる為に、興奮薬を使用する事を選んだ。
肝心のオークが、暴れ出して会場をメチャクチャにしてくれたら、試験どころの騒ぎじゃなくなるからだ……というのを狙ったんだけどね。
そんな考えとは別に、先程…行動を起こした三人が、動かない事をチャンスと捉えて襲い掛かろうとしていた。
「ちょ、ちょっと!」
そんな私の制止も聞かずに、さっきの三人はオークに持っていた剣で身体を貫いた。
普通なら、これで命が終わる……筈だった。
「ウ………ウガガガガガガガガガガガ~~~~~」
オークは謎の奇声を上げながら、両腕を振り回し始めた。
オークに剣で貫いた三人も、オークの急な叫びに驚いて、振り回した腕に巻き込まれて吹っ飛んで行った。
暴走は興奮薬、痛みは麻薬により無痛化……本当にバーサーカーを作り出してしまったのだった。
それも凶暴化して、かなり厄介な方向に……?
三人以外に受験生達も戸惑っていたが、何を思ったのか…今がチャンスと思って武器を構えて攻め込んで行った。
オークが無造作に暴れているので、冷静な判断が出来ないと思ったみたいだった。
「あーあ…何であんな状態にオークに突っ込んで行くかなぁ?」
私は、試験場の隅っこで気配を消して座り込んだ。
前世の入院生活の時から、面倒事を回避する為に、気配を消して隠れるのが得意になっていた。
「さすが、冒険者になろうとする人たちは違うね。 あんなにも勇敢に攻め込んで行くだなんて…それにしても、実際のオークって…あんなに強いんだね?」
私の読んでいたライトノベルだけだったのかもしれないけど、オークはザコ敵として描かれていたので、こんなにも強いとは予想していなかった。
それが十数人もの冒険者を目指す受験者が挑んでも、全く倒す事が出来ないなんて。
「この状態で私が最後の1人になったら、さすがに試験は中止よね?」
受験者はどんどん減っていく。
立っているのは残り二名、あ…今一人倒れました。
残り一人も…戦意喪失で動かないので、ぶっ飛ばされて……で、残りは私だけなんだけど?
な~ぜか、職員が期待をした様な目で私を見ているのよねぇ?
私に、今のオークを止められる様な魔法は無いから!
……まぁ、会場の隅の柱の影に隠れて気配を消している私を見付けられる訳はない……筈?
その為に、興奮薬を鼻に掛かるように撒いて貰った訳だしね。
ただ、あそこまで制御不能になったのは計算外だったけど。
「さてと、多分来ないとは思うけど…もしもの為の最終手段を用意しておかなければね?」
リザードマンに頼んだ時のもう一つの仕掛け…それは、攻撃手段ではありません。
あいも変わらず…武器はダガーで、攻撃系の魔法は無い私に他の攻撃手段は…って、あのオーク…こっちに来てない?
「来るなら来なさい! とっておきをぶち撒けてあげるわ‼︎」
私は、アイテムボックスの取り出し口をオークに向けた。
アイテムボックスの入り口も、本人には見える仕様で周囲の者が見ることは出来ない。
この世界にいる数人の魔力持ちには見えるかも知れないけど?
「必殺…魔力無しの人が見たら、思わず魔法と勘違いする水属性攻撃……発射!」
すると、アイテムボックスの取り出し口から、ホースのストレートの様に水が勢い良く発射された。
この大量の水は、ナビターの話によると…他国で女性の化粧品として使われている材料という話だった。
とてもヌルヌルしていて、一部の種族がこの液状を好んで肌に塗るという話なのですが、地面に垂れると土ですらこの液状を吸わない位に弾くらしく、このファークラウド大陸では使用を禁止されているという話です。
何でも…使用した後に片付けるのが面倒なのと、処理をするのが大変という話なので。
なので、地面に溜まった液状を踏んだオークは、ひっくり返って顔面を強打していました。
「あぁ……アレは痛い。」
オークは鼻から大量の血を流しておりました。
興奮薬の赤い油は、血と一緒に流れきったかな?
「受験者セリア、今のは貴女の魔法ですか? 魔力の波動は一切感じませんでしたが…」
「そうですよ、これが私の魔法です……これが見たかったんですよね?」
魔法……と言えば、魔法になるのかな?
アイテムボックスは魔法の一種だし、この液体を作った時の火魔法も、覚えた生活魔法で煮出した訳だし。
【ヌルヌルローションの作り方】
材料・水沃葉×1枚、ツボ×1、大きなタライ×1…
まずは、ツボの中に水沃葉を入れてから、生活魔法の火魔法にかけます。
ツボの中がある一定の温度になりますと、水沃葉から大量の液体が滲み出てきます。
水沃葉の質量よりも、遥かに大量に溢れ出す液体の受け皿として、大きなタライに受け皿にします。
…が、すぐに満杯になりますので、残りの分をアイテムボックスで吸引させます。
流石に、異世界の物だと感心しました。
地球の海藻でも、ヌルヌルはしますけど…ここまでの量は出て来ないものね。
ちなみに、この水沃葉も薬草探索の際に採取致しました。
山で水が溜まっている所には、この水沃葉が生えているという証らしいです。
気温が30℃を越えると、滲み出て泉を作るそうです。
「これで…良いですか? 良いですよね?」
「あ、はい…第387回・冒険者ギルドカード合格者は、セリアに決まりました。」
私は別に、合格をしたかった訳じゃなかったんだけどね。
でも、これに関してまた何か言うと、何か面倒ごとで解放されなくなりそうだし。
さっさと、ギルドカード貰って出ましょうか。
こうして私は、受験に合格して…冒険者ギルドカードを取得致しました。
最初は手に入れる気は全くなかったんだけど、店を出てからの買い物時で、このカードの素晴らしさを実感する事になるんだけどね。
私は現在、流されるままに…冒険者ギルドカードの取得の為の試験を受けております。
試験は、筆記試験、実技試験……と、前世の様な試験内容になっているみたいですが、ハッキリ言って筆記試験の内容が全く分かりません。
私はこの世界に降り立ってから、まだ10日ですよ?
この世界の…特に魔物に関する知識なんかあるわけが無いじゃ無いですか!
《…と言えたら、楽なんだろうなぁ~?》
この世界の人達の頭に入っている当然の知識は、私にはまだありません。
なので、何が書かれているかが全く理解出来ません。
あ、別に理解出来なくてもいっか。
私の欲しいのはギルドカードであって、冒険者ギルドカードじゃ無いんだし。
…という事で、私は魔物のイラストが描かれている説明に対して、前世の類似する魔物の特徴を詳細に書いておきました。
適当に短文だけでは失礼にあたりますからね。
「さてと、次は実技試験よね…一体どんな内容なんでしょ?」
~~~~~冒険者ギルド内の試験採点室~~~~~
「な……一体何なんだ、この詳細過ぎる内容は‼︎」
「この魔物の生態は、ついこの間…調査員が偶然に発見したとされるものだったというのに、何故に受験者がその回答を知っているのだ⁉︎」
「この問題だけではありません! 他の魔物の詳細な解答ですが、これも一部の者しか共有されていない内容が…」
…と、大混乱が起きている様です。
勿論、全てが正解というわけではありません。
中には全く検討外れな解答もあるのですが、それよりも…今迄に発見されていなかった魔獣の生態が詳細に語られており、その生態が瀕死の重症を負った調査員と同じという事が⁉︎
~~~~~再び実技会場~~~~~
「次に貴方達には、この場に現れた魔物と戦って貰います。」
そう言って現れたのは、鎖に繋がれた…醜く太った二足歩行の豚だった。
「マジかよ…普通は、ゴブリンだろ?」
「何でオークが…⁉︎」
あ……これ、多分私の所為だ。
誰かが怪我をしても、私が回復魔法をして……いえ、私が土壇場なこの状況で魔法を使ってオークを倒す…という事が見たいだけだよね?
「では、魔物を見事に倒して…この試験に合格をしてみて下さいね。 それと…受験者セリア、貴女の活躍を期待しているわよ!」
やっぱりかぁ…私は回復魔法を使えても攻撃系の魔法は一切ないんだけど?
あ、いえ……相手がアンデットだったなら、ヒールもピュリフケーションも有効な攻撃手段だとは思うけどさぁ?
生活魔法の火や水では倒せそうもないし…。
「おい、嬢ちゃん……お前に何かあるのか?」
「そういえば、受付で神童とか聞こえて来たが…あれは嬢ちゃんの事だったのか?」
私は首を傾けて分からないフリをしました。
水晶球の砕けた破片が頬を引っ掻いた時に、咄嗟に回復魔法で治した事に対して、魔法を使った事はないと言った筈なのに…?
信じてないのか、信用して貰えてないのか……どちらにしても、何かあると思って勝手な期待をしているんだよね?
本当に私って、オークを倒せる様な攻撃魔法は無いんだけどなぁ。
「あ、別に試験に合格する必要はないか…」
そうよ、そうなのよ!
そもそも私は、ギルドカードを発行してもらう為に来たのであって、冒険者になりたいなんて一言も言ってないし。
なので…?
「今回の試験は辞退します。 とりあえず今回は、ギルドカードのみを頂けませんか?」
「な……本気で言っているのですか‼︎」
窮地に陥って、試験を辞退する人がいるというのなら分かるけど…まだ戦ってすらいない者が、試験を辞退するだなんて…前代未聞の事だろう。
しかも、試験を辞退しようとしているのが、魔力検査用の水晶球を破壊させる程の受験者なのだから。
「試験は、受けるのも辞退するのも自由だと…先程に仰ったじゃないですか!」
「確かに言いました…ですが、貴女の様な可能性を秘めた人には…」
これは、意地でも私を帰らせない気ね………どうしようかなぁ?
私は、アイテムボックスの中に手を入れた。
以前に薬草を採取する際に、薬草以外の野草も手に入れた事があった。
その中の幾つかの野草に面白そうな効果があったんだけど、魔物に試そうと思っていたら、結局は行けずにそのままになっていたものが。
「これがあったけど…試してないんだよねぇ。」
私が初めて作った試作品3号のバーサークパウダーという。
材料は、油と興奮薬とレッドペッパーです。
最初は水で作ってみたのですが、掛けてもさらりと表面を伝って流れ落ちるので、水から油に変更しました。
まぁ、見た目が辣油っぽい液体になっちゃったけど。
「これを、オークの顔…特に、鼻の周りに掛けて貰えませんか?」
「そんなもの…お前がやれよ!」
「私は、もう1つの仕掛けを用意しなければなりませんので…まぁ、別にやっても構いませんが、奮闘している私以外はただ眺めているだけ…で、試験に合格出来るのでしょうか?」
私は同じ受験者のリザードマンに、少し意地悪く伝えると…?
私が持っている興奮薬の瓶を掴んで行った。
…というか、オークって豚だったよね?
ここにいる受験者って、虎人族とか、トカゲとか、バイソンみたいな獣人がいるんだけど、それでもオークの方が強いのかなぁ?
リザードマンが、虎人族とバイソン…族?に耳打ちをしていました。
どうやら、虎人族とバイソン族の二人がオークを押さえている間に、頭上から興奮薬を掛けるみたいです。
「よし、やるぞ‼︎」
「「おぅ!」」
「フゴッ⁉︎」
リザードマンは、虎人族とバイソン族に声を掛けると、身構えた瞬間に向かって行った。
そして、作戦通りに二人がオークの身体を押さえながら、リザードマンが素早くオークの背後をするりと上り、顔目掛けて興奮薬をぶっ掛ける。
…だったけど?
「おい………動かねぇぞ‼︎」
「みんな、早くその場から離れて‼︎」
三人は急いでオークから距離を取った。
…けど、オークが何もアクションを起こさない事に、私も不思議だった。
興奮薬には、主に麻薬草が用いられる。
なので、興奮薬には麻薬を含ませたんだけど、どうやら麻薬草が興奮ではなくて、鎮静の効果になってしまったのかな?
「いや、それにしてはおかしいなぁ? 普通…鼻に辣油なんか入れられたら、凄まじい勢いで暴れ出す筈なんだけど?」
私は、早く試験を終わらせる為に、興奮薬を使用する事を選んだ。
肝心のオークが、暴れ出して会場をメチャクチャにしてくれたら、試験どころの騒ぎじゃなくなるからだ……というのを狙ったんだけどね。
そんな考えとは別に、先程…行動を起こした三人が、動かない事をチャンスと捉えて襲い掛かろうとしていた。
「ちょ、ちょっと!」
そんな私の制止も聞かずに、さっきの三人はオークに持っていた剣で身体を貫いた。
普通なら、これで命が終わる……筈だった。
「ウ………ウガガガガガガガガガガガ~~~~~」
オークは謎の奇声を上げながら、両腕を振り回し始めた。
オークに剣で貫いた三人も、オークの急な叫びに驚いて、振り回した腕に巻き込まれて吹っ飛んで行った。
暴走は興奮薬、痛みは麻薬により無痛化……本当にバーサーカーを作り出してしまったのだった。
それも凶暴化して、かなり厄介な方向に……?
三人以外に受験生達も戸惑っていたが、何を思ったのか…今がチャンスと思って武器を構えて攻め込んで行った。
オークが無造作に暴れているので、冷静な判断が出来ないと思ったみたいだった。
「あーあ…何であんな状態にオークに突っ込んで行くかなぁ?」
私は、試験場の隅っこで気配を消して座り込んだ。
前世の入院生活の時から、面倒事を回避する為に、気配を消して隠れるのが得意になっていた。
「さすが、冒険者になろうとする人たちは違うね。 あんなにも勇敢に攻め込んで行くだなんて…それにしても、実際のオークって…あんなに強いんだね?」
私の読んでいたライトノベルだけだったのかもしれないけど、オークはザコ敵として描かれていたので、こんなにも強いとは予想していなかった。
それが十数人もの冒険者を目指す受験者が挑んでも、全く倒す事が出来ないなんて。
「この状態で私が最後の1人になったら、さすがに試験は中止よね?」
受験者はどんどん減っていく。
立っているのは残り二名、あ…今一人倒れました。
残り一人も…戦意喪失で動かないので、ぶっ飛ばされて……で、残りは私だけなんだけど?
な~ぜか、職員が期待をした様な目で私を見ているのよねぇ?
私に、今のオークを止められる様な魔法は無いから!
……まぁ、会場の隅の柱の影に隠れて気配を消している私を見付けられる訳はない……筈?
その為に、興奮薬を鼻に掛かるように撒いて貰った訳だしね。
ただ、あそこまで制御不能になったのは計算外だったけど。
「さてと、多分来ないとは思うけど…もしもの為の最終手段を用意しておかなければね?」
リザードマンに頼んだ時のもう一つの仕掛け…それは、攻撃手段ではありません。
あいも変わらず…武器はダガーで、攻撃系の魔法は無い私に他の攻撃手段は…って、あのオーク…こっちに来てない?
「来るなら来なさい! とっておきをぶち撒けてあげるわ‼︎」
私は、アイテムボックスの取り出し口をオークに向けた。
アイテムボックスの入り口も、本人には見える仕様で周囲の者が見ることは出来ない。
この世界にいる数人の魔力持ちには見えるかも知れないけど?
「必殺…魔力無しの人が見たら、思わず魔法と勘違いする水属性攻撃……発射!」
すると、アイテムボックスの取り出し口から、ホースのストレートの様に水が勢い良く発射された。
この大量の水は、ナビターの話によると…他国で女性の化粧品として使われている材料という話だった。
とてもヌルヌルしていて、一部の種族がこの液状を好んで肌に塗るという話なのですが、地面に垂れると土ですらこの液状を吸わない位に弾くらしく、このファークラウド大陸では使用を禁止されているという話です。
何でも…使用した後に片付けるのが面倒なのと、処理をするのが大変という話なので。
なので、地面に溜まった液状を踏んだオークは、ひっくり返って顔面を強打していました。
「あぁ……アレは痛い。」
オークは鼻から大量の血を流しておりました。
興奮薬の赤い油は、血と一緒に流れきったかな?
「受験者セリア、今のは貴女の魔法ですか? 魔力の波動は一切感じませんでしたが…」
「そうですよ、これが私の魔法です……これが見たかったんですよね?」
魔法……と言えば、魔法になるのかな?
アイテムボックスは魔法の一種だし、この液体を作った時の火魔法も、覚えた生活魔法で煮出した訳だし。
【ヌルヌルローションの作り方】
材料・水沃葉×1枚、ツボ×1、大きなタライ×1…
まずは、ツボの中に水沃葉を入れてから、生活魔法の火魔法にかけます。
ツボの中がある一定の温度になりますと、水沃葉から大量の液体が滲み出てきます。
水沃葉の質量よりも、遥かに大量に溢れ出す液体の受け皿として、大きなタライに受け皿にします。
…が、すぐに満杯になりますので、残りの分をアイテムボックスで吸引させます。
流石に、異世界の物だと感心しました。
地球の海藻でも、ヌルヌルはしますけど…ここまでの量は出て来ないものね。
ちなみに、この水沃葉も薬草探索の際に採取致しました。
山で水が溜まっている所には、この水沃葉が生えているという証らしいです。
気温が30℃を越えると、滲み出て泉を作るそうです。
「これで…良いですか? 良いですよね?」
「あ、はい…第387回・冒険者ギルドカード合格者は、セリアに決まりました。」
私は別に、合格をしたかった訳じゃなかったんだけどね。
でも、これに関してまた何か言うと、何か面倒ごとで解放されなくなりそうだし。
さっさと、ギルドカード貰って出ましょうか。
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