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プロローグ

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 「セレナ・ヴィシュランティス! お前を勇者パーティーから追放する‼」
 「あーはいはい、わっかりました。」

 なんか懐かしいな、この感じ…。
 私は溜息交じりに息を吐いた。

 私の名前は、セレナ・ヴィシュランティスで年齢は19歳でジョブは聖女と呼ばれている。
 私が聖女に認定されたのは、今から7年前の神託の儀式での出来事だった。
 当時私が住んでいた国は、カロナック王国という場所だった。
 私はそこの準男爵の家の次女として生を受けた。
 貴族…と聞こえは良いけど、準男爵なので暮らしは平民と大差がない。
 そして浪費家の両親に自分の事をお姫様か何かと勘違いしている姉と共に暮らしていたが、私が聖女を授かった瞬間に生活が一変した。
 まず、爵位が準男爵から男爵に昇爵し領地を手に入れた。
 今迄は貧しい暮らしをしていたが、急に裕福になって両親と姉はやりたい放題だった。
 そして私はというと、聖女は代々カロナック王国の王族に嫁ぐという事で王宮での生活に変わった。

 「王宮での暮らしは憧れていたけど、まさかあんな事になるなんてね…」

 王宮に招き入れられた聖女は、優遇されて上級貴族の様な暮らしが出来る!
 そう聞いていた筈だったのが、全くの期待外れだった。
 まず…早朝から神殿での長い祈りをしてから、王宮で王子妃になる為に躾けやマナー講習。
 そして聖女の能力だけならこんな問題にはならなかったんだけど、私には他にも魔法の才能があると言われて、マナー講習の後は、宮廷魔術師による魔法講義が夜遅くまで続いた。
 食事を摂る暇があまりない上に、睡眠時間も多くは無かった。
 そして更に…武術の才能もあると鑑定で発覚し、その翌日からは剣術訓練が追加された。
 ハッキリいって、気が休まる暇が全く無かった。
 
 14歳からはマナー講習から開放されたが、今度は戦場に赴いて魔物討伐や兵士達の回復魔法による癒しをして回った。
 この時の頃は、聖女って何なんだろうという疑問だけが頭の中を支配していた。
 だって、婚約者である王子にすらまだ会っていなかったからだ。
 王子側も私には会おうとはしなかった。
 そして1年後の15歳の時に、やっと婚約者である王子と顔合わせ。
 王子は私を見るなり下卑た眼差しを向けて擦り寄って来た。
 私の印象としては最悪な出会いだった。
 それ以降というもの、神殿の祈りや剣術訓練や魔法講習等をしている時に関係なく王子は会いに来るのだが?
 自慢話ばかりでハッキリ言って、鬱陶しい事この上なかった。
 しまいには……

 「俺はこんなにもお前に会いに来ているのにも関わらず、お前は俺の婚約者としての自覚はあるのか?」

 …何て言われる始末。
 普段から碌に大した事をしていないで、良く解らない遊びの自慢ばかりしている奴と私のしている事の多さを一緒にして欲しくは無かった。
 王宮に来てからという物、休みという休みは殆ど無くて…毎日毎日何かしらの勉強ばかりやらされていた。
 こんな王子でも結婚をすれば生活は幾らか変わるのかと期待していた翌年の16歳にある事件が起きた。
 その日、国王夫妻は他国に会合で居なかった事を良い事に、王宮内で王子主催のパーティーが開かれた。
 私の年齢は16歳で、王子とは将来結婚をする事は国に知れ渡っていたので婚約を発表するのかと思っていた。
 ところが、ここ半年くらいは王子が私の所に一切来る事が無いと思っていたら…私の目の前にいた王子が見知らぬ女性の肩を抱きながらこう言って来た。

 「セレナ・ヴィシュランティス! 貴様との婚約破棄を命じ、更に国外追放とする‼」

 あーそう来たか。
 この時の印象はそんな感じだった。
 私はハッキリ言って、この王子を好きだと思った事は一度も無いので婚約破棄はありがたかった。
 不満があるとすれば、こんな鹿の為に12歳から今迄必死になって休みも無く勉強や鍛錬の日々を過ごしていた事くらいだろう。
 そしてこの馬鹿王子は、さらにこんな事を言いだしてきた。

 「セレナは、俺が愛するドロシーに数多くの嫌がらせをしたという話ではないか! これは断じて許せる事ではない‼」

 知らねーよ、そんな女…会うのは初めてだし、私は魔法授業や剣術の訓練で他の人と会う事すら難しいというのに、虐めをする余裕なんかあるか!
 これは浮気を正当化する為か、あまりにも構っていなかったから他の女を見付けたパターンだな。
 まぁ、どうでも良いけど…ありもしない罪を擦り付けられるのもしゃくなので一応聞いてみる事にした。

 「そちらのドロシー嬢ですか、お会いするのは初めてですが?」
 「嘘を吐くな! ドロシーが言っていたぞ、ドロシーが城に来る度にセレナに嫌がらせの数々をされていたと‼」
 「具体的にはどの様な?」
 「城の噴水に突き飛ばしてドレスをずぶ濡れにしたり、紅茶に毒を仕込んだり、更には城の大階段からつき飛ばしたり…とな‼」

 馬鹿王子はその階段を指さして行った。
 この大階段は全部で89段ある階段で、補助魔法を掛けていても上から下まで転げ落ちたら結構な怪我をする。

 「あの…この階段から突き飛ばされたのはいつですか?」
 「それは2日前という話だ!」
 「あのぉ…普通こんな階段から突き飛ばされたら大怪我では済みませんよ? どうやって助かったのですか?」
 「それはドロシーに聖女の力が宿って、自らの大怪我を癒して見せたのだ! そして俺がセレナを婚約破棄する理由はな、ドロシーという聖女が生まれた事でお前が不要になったのだ‼」

 この世界で回復魔法が出来る者は別に少なくはない。
 ただ大怪我を回復出来る魔法を持つとなれば話は別になる。
 この馬鹿王子は簡単に引っ掛かりそうだなぁ、恐らくドロシーが大階段から突き落とされたと言って大した怪我でもない自分の体に回復魔法を使った事で聖女の力が出現したという話を真に受けたのだろう。
 …頭が痛くなってきた。

 「ドロシー様、新たな聖女覚醒おめでとうございます。」
 「分かりましたかセレナ、もう貴女は不要という事です。」
 「そうですね…ドロシー様に聖女の力が宿っていればの話ですが。」
 「セレナよ、疑うというのか‼」

 疑っているに決まっているでしょ。
 聖女は一度その者が授かったら、その者が死なない限りは次の聖女は生まれない。
 それは神殿内では当たり前の話なんだけど、多分知らないのだろうな。

 「分かりました、一応確認させて貰っても宜しいですか?」
 「確認?」

 私は王子の隣にワープすると、ドロシーの手を取ってから大階段の上にワープした。
 そして私は大階段の上からドロシーを突き飛ばした。
 ドロシーは悲鳴を上げながら転げ落ちて行った。
 階段の下まで転げ落ちると、ドロシーは全身を複雑骨折していた。

 「さぁ、ドロシー様! 聖女の力で自らの体を癒して御覧下さい!」
 「やれ、ドロシー! そしてセレナに聖女の力を見せ付けろ‼」

 ドロシーは階段下で蹲っているだけで動こうとはしなかった。
 そして動ける様になった時には、自分の体のあちこちが異常な迄に腫れていたり、骨折した姿を見て泣き出したのだった。

 「ドロシー様、そんな演出は不要ですから…さっさと治して見せて下さい。」
 「何をやっているのだドロシー‼ 聖女の力を見せてやれ‼」

 まぁ…無駄なのはわかっている。
 あの状態になっていると、私でも意識を保ちながら回復というのは難しい。
 そんなドロシーに同情…する訳でも無く、私は追い打ちをかけた。

 「以前も大階段から突き落とされて、聖女の力で回復成されたのですよね? 早くしないと腫れはもっとひどくなりますわよ!」
 「そうだドロシー、さっさとやるんだ‼」

 ドロシーは痛みと恐怖で大泣きして喚き散らしていて収拾がつかなくなっていた。
 周りにいた貴族達も、王子が発表したドロシーが新たな聖女という話に疑問を抱き始めていた。

 「うっく…ひっく……セレナさ…ま、私を治して下さいませんか?」
 「何故です? ドロシー様は先程私に向かって…私の事を呼び捨てにしてからといって罵ってくれたじゃありませんか! そんな私が何故貴女を治さないといけないのです? そんな事よりも、早く自分で回復してなさって下さい。 以前にも私に大階段から突き落とされたんですよね?」

 私の事を蔑んだ目で睨んで来たこの女を治す義理は無い。
 聖女の癒しは、傷付いた民達を癒すのが目的だけど…聖女偽装を名乗り上げ、更には婚約者を奪ってから私を国外追放する切っ掛けの女に手を施す程、私はお人好しではない。
 するとドロシーは王子を見ていたが、王子はそんなドロシーを見限ったらしく声は掛けてはいなかった。

 「さてと、私は国外追放の為に色々準備しないといけませんので、これにて失礼させて頂きますね!」
 
 私はその場で礼をしてから立ち去ろうとすると、馬鹿王子は再び私に声を掛けて来た。

 「ま…待ってくれ‼ セレナよ、俺はどうやらドロシーに騙されていたみたいだった!」
 「だから何です? 私はこの国の王族から偽王女の汚名を着せられて、更には追放される身です。 そんな私に何の御用がおありで?」
 「国外追放の話は無しにしてやる! 更には婚約破棄も取り消してやっても良い‼」

 まぁ、何という事でしょう!
 自分勝手にも程がある上に、今迄大して好きでもなかった男が更に憎くて堪らないというのに…婚約破棄を取り消して良い? 
 国外追放は無しにする? 
 何を言っているのでしょうか、この馬鹿王子は!
 私は無視をして廊下に出ると、馬鹿王子は私に着いて来た。

 「今更一体何の用があるのですか?」
 「セレナが勝手に出て行くものだから、何処に行くのかと…」
 「婚約破棄されて、国外追放される者に何の興味があるのですか? さっさと戻ってドロシー様に寄り添ってあげたら良いのではないですか?」
 「あの女は…聖女と偽った。 なのであの女にはもはや用はない‼」

 何という清々しいまでのクズなのでしょうか?
 こんなのは放っておいて、さっさと…ってそういえば私のお給料はどうなっているんだろう?
 神殿の祈りや人々の治癒、更には魔物討伐で結構稼いだ筈なのにお給料を貰った事が無いわ?

 「王子様に1つお聞きしたい事があります!」
 「何だ? 考えを改めてくれたのか?」
 「いえ、そういう訳ではなく…私が今迄聖女として活動していたお給料は何処にあるのでしょうか?」
 「そんな物は国が徴収したに決まっているだろ。 聖女はいずれ俺と結婚してこの国の王妃となる女だ。 なのでつまりはお前の稼いだ物は全て王国が徴収して管理する事になっている。」
 
 は?
 何それ??
 ふっっっざけんじゃないわよ‼
 こっちは12歳の頃から神殿で祈りを捧げてから、昼には王子妃になる為の教育を受けてから、夜には魔法講義で寝るまもなく過ごしていた上に、碌に食事がとれずに睡眠すらままならない日々を過ごして、更には戦場で魔物討伐や兵士や騎士の癒しを施して、王国内の魔物進入用の結界を維持していて社交界やパーティーには一切参加出来ない、買い物すら碌にさせてもらえない日々を送っていたというのに、稼いだ給料が無いですって?

 「確か宝物庫はこっちよね。」
 「宝物庫? 一体何を考えている⁉」
 「国外追放される身なので、今まで稼いできた分のお給金を回収したいと思っています。 さすがに無一文で外に放り出されたら生きていく術はありませんからね。」
 「そんな事をしなくても!」
 「うっさい、黙れ‼」

 流石の私もこの馬鹿王子の言動にキレた。
 馬鹿王子は私が今迄に無い位に叫んだのが驚いたのか、無言になった。
 そして宝物庫に着くと、私は身体強化魔法で扉を強引にこじ開けた。
 宝物庫の中には、金銀財宝や宝剣や魔石や宝石類など数多く山の様にあった。
 初めは私が稼いできた分を回収しようと思っていたけど、私が国を出て迄結界を維持する必要もない。
 結界を解除すれば魔物や魔獣の類が押し寄せてきて、私が稼いできた分を回収してその残りを宝物庫の物を残しても国が滅びたら意味がない。
 なので私は宝物庫の中身を全て収納魔法に回収した。

 「な…何をした⁉」
 「私が今迄に稼いできた分を回収しました。 まぁ、少し多めに貰いましたが構いませんよね?」
 「こんな事…両親が帰って来たらただでは済まないぞ‼」
 「大丈夫でしょう。 国王陛下がいつ帰って来るかは分かりませんが、戻って来る頃には王国はほとんど壊滅しているでしょうし。」
 「王国が壊滅だと?」
 「今迄に魔物や魔獣がこの王国に入って来れなかったのは、私が常に神殿での祈りで結界を張っていたお陰なんですよ。 そんな私が王国から出て行けば結界なんて当然無くなりますし、魔物や魔獣がこの王国に雪崩れ込んできますからね。」
 
 私はそのまま歩きだした。
 すると馬鹿王子も何故か着いて来たので、私は中庭に行くと王国内に張り巡らせていた結界を解いた。
 
 「王国に張られていた壁が無くなったぞ‼」
 「結界を解除したのですよ、ほらあそこの方にワイバーンが侵入して来たでしょ?」
 「お前…何を考えている⁉」
 「私ですか? 私はこれからこの王国を去って別な国に行くだけですから、この王国と心中する気はありませんよ。」
 「な…何故⁉」
 「先程貴方が私を国外追放すると仰ったではありませんか! 私はこの後に神殿に赴いてから、聖女の杖や法衣などの装具を回収しなければなりませんので、ここで失礼致しますね!」
 
 街の方を見ると、あちらこちらで魔獣や魔物の声や火柱や煙が立ち上っていた。
 これはゆっくりはしていられないなぁ、早く装具を回収しに行かないと。

 「セレナ! もう一度結界を張り直せ‼」
 「え? 嫌です! こんな所で油を売っていないで、さっさと戻ってドロシー様に新たな結界を張り直して貰えば良いのではないですか?」
 「あの女には…って、セレナ! 大人しく言う事を聞け‼」

 馬鹿王子は私に向かって来た。
 戦場を経験している私と、城でほとんど何もしていない馬鹿王子では戦闘レベルが遥かに違う。
 魔法で吹っ飛ばしても良いかと思ったけど、どうせなら今迄の怨みや辛みを拳に乗せて放つ事にした。

 「一撃必殺・真……怒業龍聖拳‼」
 「ぐぇぷぅーーーーーー!!!」

 腰を落としてから気を纏った拳で正拳突きを王子の顔面がめり込む位に殴った。
 すると王子は、良く解らない奇声を発しながら吹っ飛ばされて行き…壁に激突してめり込んでいた。
 欲を言えば、後数千発はぶち込みたい所だけど…そんな事をしている暇はないので、私は神殿に転移魔法を使って移動した。

 「聖女セレナ! これは一体何事ですか⁉ 急に王国の結界が無くなって、魔物や魔獣が攻めて来たのですが…」
 「この度、セレナ・ヴィシュランティスは王子に婚約破棄をされた挙句、国外追放される身となりましたので城の宝物庫から今迄働いた分のお給料を貰い、結界の維持を解除しました。」
 「な…何だと‼ あの馬鹿王子は何を血迷った事を抜かしたのだ‼」
 「更に城の大広間のパーティー会場には、ドロシー様という新たな聖女様が誕生成されましたので…以後はそちらの聖女様に結界の維持をお願い申し上げます!」
 「馬鹿な! 聖女はどの時代でも1人しか現れないのだ‼」
 「そうなんですよねぇ? 不思議ですね!」

 この神殿長も私に対して優しくして貰った記憶がない。
 教育の為と称して、結構好き勝手なことを言ったりしてきたのだ。
 なので、言う事を聞こうなんて言う義理は全く無い。
 私は神殿のステンドグラスの下に飾られている装具を手元に引き寄せるアポートという魔法を使って引き寄せてから、収納魔法に放り込んだ。

 「セレナよ、これからどうするのです?」
 「私は王国からさっさと退散しますよ。 心中するつもりは毛頭ないので、他の国に行ってから冒険者にでもなって細々と暮らして行きます。」
 「ならば、私も連れて行ってくれないか?」
 「何故です? この国はどうなさるつもりですか?」
 「この王国の未来はもう見えている。 私も此処で朽ち果てるのは…」
 「着いてくるのは構いませんが、そうですねぇ…魔物に囲まれたら囮にして逃げますがそれでも良ければ。」
 「な…何だと⁉」

 足手纏いに着いて来られても旅がし難くなるだけで、邪魔でしかない。
 どうせ私の力を当てにして着いてくるだけだろうから、そんな同行者は死んでも御免だ。
 そんな事を話していると、神殿の屋根がワイバーンの炎ブレスの攻撃で破壊されて崩れて来た。

 「もう時間がありませんね、では神殿長…さ・よ・う・な・ら!」
 「待ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 私は以前に遠征で立ち寄った村に転移した。
 その村は高台になっているので、遠くの方を見るとカロナック王国が見えたのだけど…?
 カロナック王国は半分以上が火の海と化していて、城の塔などが破壊されて落とされていた。
 私は最後まで看取る事はしないで、その場所から他の街に向かって歩き出した。
 そしてカロナック王国は、その日に魔物や魔獣達の襲撃によって壊滅されたという話だった。
 噂では数百人が生き残っていたという話だが、王国としての機能は成り立たない状態だったという話だ。

 こうして私は他の街に行ってから、冒険者の資格を得てから細々とランクを上げて上位のランクを手に入れた。
 そして私は勇者パーティーに入ってから旅をしていたのだけれど…こうしてまた追放される事になるのでした。
 理由は…次回に話すとします。
 だって、あまりにも馬鹿らしく…あの馬鹿王子と似た内容だったから。

 …という訳で、物語の始まりです!
 
 「そういえば、あの馬鹿王子の名前って何だっけ? まぁ、どうせ二度と会えないだろうし良いか!」
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