狂った勇者が望んだこと

夕露

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第一章 召還

22. 「ざまあみろ」

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森からマース平原に戻ってしばらく歩いたところで、恐らくスリャ村だろう村が見えてきた。ハースに確認してみれば、やはりそうらしい。

「セルリオ、待機。ハースは俺と来て」
「え?俺?」
「僕1人で待機ですか?」

犯罪者と子供と兵士と勇者が小さな村にいきなり現れたら困りものだろう。
小さすぎる村では犯罪者が現れた場合、連絡球にて犯罪者を収容できる施設を持つ街や国に報告を上げ連行してもらうか自分たちで連行しなければならない。
遠めに見ても小さなスリャ村に監獄なんて当然ありはしない。
しかも話が本当なら村の中の1人が殺された状況でもしかしたら人身売買をしたのが村人なのかもしれない。村は騒然としているだろう。
まずは様子見だ。

「ん。そいつらに逃げられても困るし」
「正直僕1人だけだと不安なんですが」
「こいつらも聞いている場で口に出来るところがお前の凄いところだと思う」
「え?」

会話を聞いていた男達が無言でアイコンタクトをしている。
縛られて座りながら大人しくしている彼らだが、逃亡を企てているのは目に見えている。
見張るのがセルリオだけだと分かったいま彼らが自信を含ませ口元を緩めたのは間違いない。なんだか残念な気分になって、呆れたように呟いたハースの言葉に頷いてしまう。
ザックからロープを取り出して魔法をかける。気分は青い狸だ。

「はい、どんなに頑張っても切れないロープをやるから全員1人ずつ間隔空けて木に縛り付けて。全員同じ方向に見えるように、座った状態で腰から背中、胸元から脇の下とおって首、両手首、両足首をしっかりくくって最後に猿轡」
「念入れすぎじゃね?」
「セルリオは自信がねーみたいだし、これからいざこういうときが来たとき、さっと縛るプロが1人いたら便利だろ」
「縛るプロて」
「セルリオ手先器用だし」
「……僕もっと訓練頑張るよ」

身をよじる男達にまったく眼中なく項垂れるセルリオがロープを手にしたのを見届けてから、黙って木にもたれて座っていたラウラのところに向かう。
口を真一文字に結ぶ彼女はなにを言われるか分かっているみたいだった。

「ラウラもここで待ってて?」
「嫌。私も行く」

自分の村だしお父さんにも会いたいだろうから行きたい気持ちは分かる。でも人身売買に村人が関与した疑いもある状態で彼女を連れて行くのには抵抗がある。
同じように懸念を抱いたハースがセルリオに任せようと提案してくるがこちらの様子を窺って精一杯睨みつけてくる彼女の意思は固そうだ。

「ラウラはお父さんを殺した人を見た?」

言いながらセルリオに縛られている男達に視線を移して、もう一度、ラウラを見る。いままでの様子を見る限りこの中にはいなさそうだった。
案の定ラウラも男達をちら見しただけで無言で首を振ると俯いた。

「サク班長」
「ハース黙ってろ」
「……見た。私誰だか分かる。お兄ちゃんたちには見つけられないよ」
「そっか。戻ったらいるんだね。それでどうしたい?」
「私が捕まえる」
「逃げるしかできなかったのに?」

小さな体で頭でいっぱい色んなことを考えているんだろう。
見た犯人だけじゃない他の協力者がいるかもしれない。もしかしたら勘違いかもしれない。
なにせ同じ村に住む人だ。
事件が起きるまでは普通に挨拶をする仲だっただろう。疑心暗鬼に囚われるはずだ。捕まえたいけれど、捕まえられないかもしれない。逆に捕まるかもしれない。
くしゃりと歪む顔にはいまに涙が流れそうだけど、強く握る拳がそれをなんとか抑えているようだった。

「……俺たちだって出来ることはそんなに多くない。だから、助けてくれる?」

ラウラの頭を撫でながら、逃げるときにもぐりこんだだろう葉っぱを一つ一つ取り除いていく。
目を見開いたラウラの目尻から涙が零れた。

「うん。……うん。お願い、助けて」
「分かった。それじゃあオマジナイするね。村の人に見えないようにかくれんぼしよう。ラウラの姿は俺達だけにしか見えない」
「そんな魔法あるの?」

目を瞬かせるラウラの小さな両手を握って、願う。

「行こっか。じゃ、セルリオ後はよろしく。ハース行くぞ」
「おー」
「うー」

ラウラの手を握ってスリャ村に向かって歩く。
スリャ村はいままで見てきたどの村よりも小さな村だった。村の入り口から村全体が大体把握できてしまう。村を囲う塀は木材を重ねて釘を打っただけで村人が作ったのだろうと考えさせられる出来だ。
人通りの多い場所や集落にはそれほど魔物や獣は近づかないらしいので大丈夫だろうがここで暮らす人は毎日心配だろう。
呪いや結界を始め場合に応じて兵士や魔法使いも国から派遣されるらしいが、どうだろうか。
もし私がこの村に過ごすならと考えてみたら安心できない。
元の世界でも工事などで住む場所を追いやられた動物が人里に下り結果人を襲ったという話を耳にした。魔物も獣と似た特徴を多く持つらしいから獲物を狩にわざわざ普段寄らない人が住む村に来るかもしれない。

今回犯罪に走った人はそんな不安からだろうか。

人の声とすすり泣く声が聞こえる。
村の外に多くの人が集まっていた。村の墓は村の外にあったらしい。
村の囲いに隣接してある沢山の墓に続くように新しい穴が作られていた。近づこうとしたときラウラがズボンを握り締めたため、止まる。

「お父さんね、お母さんが死んでから、私のことほとんど家から出さなかったの。外は危ないっていつも言ってて、私はそれが凄く嫌だった。私だって他の子たちみたいにいっぱい遊びたかった。ミーナおばさんもディグ爺も女の子だからねって私を村から出そうとしなかった。危ないから、危ないからって。守ってくれてるって分かるけど、ずっとこのまま?って思うと毎日嫌でしょうがなかった」

ごめんなさい、そう最後に呟いてラウラはズボンから手を離した。
ハースが先を歩いて、私もラウラの頭を撫でてから後に続く。小さな足音が後ろから聞こえた。

「埋葬か?」
「……そうですが、どなた様でしょう」
「俺は3等兵士ハース。後ろにいるのが勇者サク。魔物の集落討伐完了の旨を伝えに来た」
「おお!これは失礼した!もう討伐を済ませてくださったのか!有難い。自警団だけでは対処できない量でしたのでな。数匹だけなら大丈夫なのだが、集落となると数が多くて困っていたのだ。村を代表して礼を言う」

頭を下げる初老の男にラウラが「ディグ爺」と零す。物腰丁寧な人だ。

「仕事だ。気にしないでくれ。それよりなにか手伝えることはあるか?」
「……少し、いいですかな」

ディグ爺はハースと視線を交わしたあと近くにいた村人に挨拶をしてからこちらに向かってくる。数人の村人達がちらりとこちらを見てきたが、また、視線を穴の中へと戻した。
横たわる布をかけられた人が誰か分かっているのだろう。
ラウラはじっと穴を見ている。

「お初にお目にかかります。勇者サク。儂はこの村で村長を務めているディグと申します。この度は魔物の討伐にご尽力いただきありがとうございます」
「いえ。……お話があるようですが」
「はい。いま埋葬していますのは村人ですが、寿命ではなく殺されました。
そしてこの村で数少ない女の子供と、村人が1人いなくなりました。恐らくいなくなった村人が子供を誘拐したのだと思われます。どうか子供を助けてやってはくれないでしょうか」
「いなくなった村人の手がかりはありますか」
「……名前はフール。齢26の男で自警団の一員です。……いつも外に強い憧れを持っておりました。小さすぎるこの村が嫌でしょうがないと、いつかここを出るのだと……いい男なんです」
「そうだろうな」

良い面も悪い面もあるだろう。ただ今回は、悪かった。
つんと手を引っ張られる。見上げてくる瞳に暗い感情が見える。ラウラは小さな唇を動かした。

「その人」
「分かった。ああ、そうだ。どこに逃げたかとかっていう情報はない?」
「緊急に使う灯り火が魔の森から空に上ってすぐ駆けつけたのですが、既に子供の親は死んでいました。後から村人を確認したところでフールと子供がいないことにようやく気がついたのですが、そのときにはもうなんの手がかりもない状態でした」
「村の入り口の反対側。フールが言ったの。ちょっと冒険に出てみるか?って」
「え?」
「勇者?」

走り出したラウラに、会話の途中だけど後を追う。
そういえば不思議だったのだ。
ラウラのお父さんを殺してラウラを誘拐した人が村人なのだとしたら、何故、あの男達と別行動になったのだろう。男達から報酬を貰ってすぐ別行動?1人で出来たのだろうか。
いままで外に強い憧れを持ちつつも外に出ることはなかったという話から考えれば、1人で移動できる力がないから26になっても村から出られなかったはず。
なにかいい魔法具が見つかったのか、あてが出来たのか、力は足りていたが金銭がなかっただけなのか。それとも──。

村の裏側にまわりこんで見つけたのは木の囲いを見ているラウラの姿。一部穴が空いている。地面も削られていて、子供がくぐれそうな大きさだった。

「ここ……ここから出ればいいって言ってた。私すっごくワクワクした。ちょっとしたらすぐ戻るつもりだったの。
今まで本当に外に出して貰えなかった。だからちょっとぐらい外に出たっていいでしょ?お父さんが時々外から摘んできてくれるお花を自分で摘もうって思ってた。
そこをくぐったらフールは偉いって私の頭を撫でてくれた。それで、とっておきの場所があるって魔の森に入って行ったの。ちょっと怖かったけど大丈夫。だってお父さんがいっぱい魔の森のことを教えてくれてたもん。数回だけだけどディグ爺たちも一緒に魔の森に散歩に行ったことだってあったし」

ラウラが手を繋いでくる。

「迷っちゃうと帰り道が分からなくなるから」
「ハース殿?それに勇者も一体どうされたのですか。……!この穴は、なんと、まあ。ラウラは自分でここから村を出たのでしょうか」
「みたいだね。ディグさん少し待っていてくれますか?村から離れすぎると結界も効果を成さないんだろ?集落はおとしたけどまだ単体はいるから」

一方的な私の言葉に頷きながらもディグ爺が首を傾げる。
そりゃ初めて来た村でいなくなった村人を探すのに迷いなく歩いていたらおかしく思うだろう。ハースも苦笑いを浮かべている。
小さな足が早く早くと急かしながら前に進んでいく。

「お兄ちゃんは魔の森に入ったことがある?」
「いいや、ないよ」
「魔の森ってね、行きたい場所には正しい道順で歩かないと辿りつけないの。森に溜まった魔力がそうさせるんだって。面白いから私すぐ覚えちゃった。フールと行った場所だって簡単だった」
「だから俺達には見つけられないって言ってたんだね」
「うん」

魔の森に入る入り口に血を吸った地面を見つけた。ラウラの様子を見るにここでダケットは殺されたんだろう。

「お父さんは私を外に出したフールに凄く怒ってた。フールも私を村に連れ戻そうとしたお父さんに凄く怒ってた。そんなつもりじゃなかったって言ってた」

森に入って、どこを目安としているのか分からないけれど、ラウラは右に曲がったかと思えば左に曲がってと予想できない歩きかたをする。滅茶苦茶に歩いているようだったけれど、森に入って薄暗くなっていた景色が明るくなる。
開けた場所に出た。

そしてダーリスの唸り声となにか、金属をひっかく音が聞こえた。檻だ。しかも檻の中には頭を抱える男が1人。恐らくフールだろう。だけどあの檻はなんだろうか。とっておきというのはそういうこと?疑問に思いながら武器を取り出してラウラの手を離す。

「死んでなかった」

ホッとしたような、残念なようなそんなニュアンスだった。

「……あれ、ラウラがしたの?」

黒板をひっかくような耳障りな音は止まない。時々体当たりで揺れる檻に男の悲鳴が聞こえた。
外に出れなかったと何度も言っていたラウラらしい魔法だ。熊の魔物の攻撃を凌げるほどの強固な檻。それほど想いが強かったんだろう。

「ここであいつらに引き渡されそうになったときフールに逃げられたくなくて魔法を使ったの。あいつらも一緒に捕まえたかったけどうまくできなくて逃げた。無茶苦茶に逃げ回ってたらお兄ちゃん達と出会った」
「そっか」

矢を番えて弓を引く。森に響いた魔物の悲鳴と同時に、檻を攻撃していた他の魔物がぐるりと身を翻して私達を目に留めながら走り出す。草に紛れて走り回っている。一匹どこかに隠れてしまった。もう一匹の走り回る音が近づいてくる。檻の中にいた男が檻にしがみついて私達に助けを求めている。
魔物の動向が分かりやすいように開けた場所へと移動した。

「ここから出してくれ!閉じ込められたんだっ!」
「誰に?フール」
「はやっ……く。お前、誰だ?」
「誓おうか。嘘は許さない。嘘を言った瞬間お前は話すことしかできず動けなくなる。答えるチャンスは2回。魔物もいることだし5秒以内に答えて。ダケットを殺した?」
「殺していない。……っ」
「檻は消そうか」

驚きをみせた男を見上げる無感情なラウラは肩の力を抜いた。

魔力を多く使ったんだろう。疲れた顔をしている。
檻が消えた状態でピクリとも動けなくなった男は、見える限りの景色を凝視しながら冷や汗をかく。音が聞こえる。
逃げられない場所で、けれど檻の中だからこそ生きながらえた状態で魔物を見ていた彼には恐ろしいことだろう。

「俺が殺した。だけどそんなつもりじゃなかったんだ!あいつが邪魔するからっ!」
「ラウラの誘拐の邪魔をした?」

動けるようになったフールが手を摩りながら叫ぶ。彼は後ろの茂みで目を光らせる魔物に気がついていないみたいだった。ハースはもう一匹の魔物に応戦している。こちらを呼ぶ声が聞こえるが、見た感じ大丈夫そうだから放っておく。

「そうだよ!あいつだって自由になりたがってた!俺が手を貸してやったんだよ!それのなにが悪い!?」
「そして人買いに売り渡した?」
「それがどうした!お前なんなんだよ!それにっ……ラウラ?」

驚いた。私は魔法を解いてはいない。
ラウラは私がかけた魔法に上書きをしたのだろう。ラウラの姿がフールに見えているようだ。
フールが悪かった、と呟く。

「私はお父さんを殺してまで自由になりたかった訳じゃない」
「だけど俺は」
「フールが自由になりたかっただけでしょ。私を理由にしないでよ」
「ちが」
「私を売って貰ったお金で色んなところに行こうとしてたんでしょ。素敵な自由だね」
「いいじゃねえか!何が悪い!お前だってあんな村にいるよりはいいだろうが!金持ちの男に気に入られれば自由な暮らしだって手に入る!なにが不満なんだよっ!お前だって一瞬考えただろ!?ダケットの手を取らなかったじゃねえかっ!」
「サクッ!お前、いい加減にしろよ!くっそ、なに呑気に見物してんだよ!」

魔物を倒し終えたハースが汗と血を拭いながら近づいてくる。戦いの後ともあって興奮している。

「ハースの力量だったらあの魔物、問題なさそうだったし」
「まあそうだけど……つかさっさとこいつ捕まえろよ!もう一匹いるし面倒臭いことはごめんだ」
「これは2人の問題だろ」
「俺達は市民を守る義務がある。……俺は、ある。犯罪者を捕まえる」
「そっか。じゃあそれは3人の問題だね」

私は関係ない。
だけど放っておけば死んでしまう人を放置するのは流石に出来なくて弓を引く。フールに近づいていた魔物は矢を受けて絶命し地面に滑り込んだ。
そこでようやく迫っていた魔物の存在に気がついたフールが足をすくませたところでハースに捕まえられる。

「ダケット殺害と誘拐及び人身売買に関与していた疑いで捕まえる」
「離せっ!離せよ!」
「お兄ちゃん」

叫ぶフールの声に隠れてしまいそうな小さな声だったのに異様によく耳に届いたラウラの声。それはハースもそうだったんだろう。一瞬気まずげにそれた視線が口元を結んだ後、無表情のラウラを見下ろした。

「なんだラウラ」
「どいてよ、お兄ちゃん」
「え、ぅわ!」

また、檻が現れる。今度は小さめで中にはハースが入っている。
あちゃー。
目を白黒させるハースが口をあんぐり開けてラウラを見たあと、私に視線を移す。見られても困るんだけどなー。
とりあえず微笑んでおく。

「どんまい」
「そういう問題じゃねえだろ!つか、ラウラ!これは妨害行為だぞ!」

魔法の使いすぎだろう。肩で息をするラウラは限界が近そうだ。だけどフールはそれに安堵ではなく恐怖を覚えているようだった。それほどフールを睨むラウラの眼光は鋭く、いまにも攻撃を仕掛けてきそうだった。
魔法は感情に左右されると聞いていたけれどこれほど凄いものなんだ。関心しながら近くにあった岩に腰掛ける。

「サク!止めろよ!」

私がどうにかすると思っていたのか、ハースが非難してくる。
さっきも邪魔しなかっただろ。
呟いてみたけれどきっと聞こえていないだろう。
ラウラは攻撃魔法をかけるわけでもなく、恨みの言葉を叫ぶでもなく、ゆっくりフールの方へと歩いて行っている。魔法でなにかしたのか関係せずそうなのか、フールはラウラが近づいてくるのにもかかわらず微動だにしない。
結果を恐れてかハースが傍観に徹する私に向かって叫んでくるがどうしようもない。
私だって邪魔されたくないのに、邪魔するなんて間違いだろ?



「フール。昔からいっぱい遊んでくれたね」



事実を述べるだけの言葉。
過去形の言葉。


「ラウラ、ごめん。本当にごめん」


懺悔をし続ける姿。

「私、フールが色んなところに行きたがってたの知ってるよ。外のことを話すフールは凄く楽しそうだった。フールの夢が叶ったらいいなあっていつも思ってた。それでいつか私も同じように外に出れたらなって思ってた」
「ラウラ」

きっと普段村で生活している時のようにフールがラウラを呼ぶ。ラウラは涙を流し続けながら、笑った。




「ざまあみろ。ずっと閉じ込められればいいんだ」




フールが倒れた。
ハースが言葉をなくしてその光景を眺める。
一応、終わったんだろう。
腰を上げて地面に横たわるフールの傍に移動し、脈をみる。

「生きてるよ。寝てるだけみたい」

それが知りたくてたまらなかっただろうハースに言えば、案の定、ハースはその場にへたりこんで「よかった」と呟いた。彼は案外世話焼きタイプのようだ。

「今度はもっと!小さい場所にとじ、閉じ込められれば、いいんだ」

しゃくりあげながら泣くラウラの隣にしゃがみ込む。まるで自分に言い聞かせるようにラウラは何度も同じことを言う。正当性を持とうとしているのか、心のバランスを取ろうとしているのかは分からない。

「ラウラ。フールが言っていたこと、ラウラが言っていたこと本当?」
「……そうだよ。お父さんと一緒に村に帰ろうとしなかった。またあの村かって思った。それだったらフールと一緒に旅したかったよ。実際は違ったけど、お父さんの手をとらなかったのは本当だよ。お父さんを殺してまで自由になりたくはなかったのも本当。フールを許せないのも本当」
「そっか」
「うん。私、動けるでしょ?」

ラウラが泣き笑って、そうだねと私は心の中で呟いて微笑む。

「お兄ちゃんは力を貸してくれなかったけど邪魔もしなかった。ありがとう」
「この件に関係ないからね」

子供だから老人だから女だから男だから可哀想だからそんなのは関係のないことだ。
行動に勘違いをして思い込み、勝手に行動した結果招いたことに、想った相手がどう感じるかなんてその人には考えもつかなかっただろう。

こんなはずじゃなかった、なんて言い訳だ。

そんなつもりじゃなかったも言い訳だ。そう思わせてしまったのも原因だろう。
当事者同士でしか互いを責められない。
第三者が事実を並べてこっちが悪いあっちが悪いなんていう評価は、当事者たちからしたら笑いの種だ。
私の考えが誰かとの対立を生んで当事者同士になることだってあるだろうけど、それはしょうがない。こちらを睨んでくるハースの視線を流してラウラにハースの檻を消すようお願いする。

「お兄ちゃんはこうしなさいって言わないね」
「言ってほしくないだろ?その代わり全部自業自得。ラウラがいま覚えてる後悔も喜びも罪の意識も全部自分が作ったものだよ」
「うん」
「後、こんな言葉はいらないだろうけどね。ラウラの外に出たいっていうのは可愛い我が侭だったよ。ただ、お父さんもラウラに目の届く場所にいてほしいって我が侭を言っていた。冒険心も、してはいけないって言われてることをしたくなるのも誰でも持ってる気持ち。フールもそうだったね」
「うん」
「奪うと恨みが残る。奪われると恨んでしまう。奪ったらいつか後悔を覚える」

お父さんがラウラから自由を奪ってラウラが外に憧れを募らせたように、それを邪魔するお父さんを疎んでしまったように。外へ出たいが為にラウラを利用して、ラウラに恨みを持たれたフールのように、招いた結果に欲しかったものが消える。
ずっと心に残るだろう。


「……なにが良いとか言えることは俺にはないよ。だけど、頑張ったな」


もしラウラが父を殺した恨みでフールを殺したとしても同じ気持ちを抱くだろう。人を殺すようなことに慣れた環境で育っていないラウラがそうまでしたということだ。きっと私はそこまでしなくてもよかったはずだ、なんて思わない。
泣き続けるラウラの頭を撫でる。
ハースが物言いたげにこちらを見ながら、ロープで縛ったフールを起こした。






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