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第三話 ~秋~ 獄卒方、読書の秋って知っていますか? ――え? 知らない? なら、私がその身に叩き込んで差し上げます。
ゴールです♪
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その後しばらくは、筋斗雲の上からのんびりとマラソン観戦です。
マラソンコースでは今まさに、怒号と絶叫と歓声が入り混じる、大スペクタクルが繰り広げられています。
次のチェックポイントを速攻で抜けるため、逃げながら分担して童話集を暗唱する約二百五十人の社蓄共。
肉食恐竜の血が騒ぐのか、はたまた動く者を追ってしまう習性か、嬉々して職員達を追い詰めるティラノサウルス。
両者死力を尽くしての鬼ごっこは、大変見応えのあるものです。
なお、歓声を上げているのは総勢五十人程いる子鬼さん達です。何と彼ら、ティラノサウルスの上に乗ってはしゃいでいます。
ティラノサウルスを見た瞬間、目を輝かせて踵を返した彼らは、あっという間にその巨大な体によじ登ってしまいました。
後はずっと、遊園地のアトラクションにでも乗っているようなはしゃぎぶりです。
いやはや、子鬼タイプの鬼さん達は、本当に怖いもの知らずで人生(?)楽しそうですね。
何はともあれ、主催者側としては喜んでもらえてうれしい限りです。
「ぬおーっ! 儂は生きるんだ! あいる、びー、ばああああああああああっく!」
「生きるも何も、ここは地獄ですよ~」
社蓄共に交じって、閻魔様もハッスルしています。名作映画のセリフなんか叫んだりして、ある意味一番この状況を楽しんでいるかもしれません。
上司のダイエットに協力した上にストレス解消にも手を貸すなんて、私は何とできた部下なのでしょう。
これはもう、殊勲賞ものですね。今度、特別ボーナスを請求しましょう。
――おっ! そうこうする内に、兼定さんが待つ、次のチェックポイントが見えてきました。
「みなさーん、お待ちしていましたよー!」
「「「ご託はいいから、早く問題を言え!」」」
おお! これはすごいです。一糸乱れぬ唱和で、問題を催促しました。
社蓄共、ここに来て結束力がグーンとアップしましたね。これは殊勲賞に加えて、職員の意識改革に対する功労賞でダブルボーナスですよ。
「では問題です。竹取物語でかぐや姫は最後、どこへ帰って行ったでしょうか?」
「答えがわかるやつ、報告!」
「俺が読んだところにあったぞ! 七十四ページの八行目だ!」
「よくやった、同士よ!」
答えが書かれたページがわかると、鬼達はこれまた一糸乱れぬ動きで同じページを開きました。
おや? よく見れば、子鬼さん達もティラノサウルスの上で、答えのページを開いていますね。えらい、えらい!
「答えはわかった。いくぞ、諸君。せーの……」
「「「月(つき~)!」」」
「正解です」
「よっし! 全員、全速前進! 気合を入れていけ!」
「「「オーッ!」」」
兼定さんが丸と書かれたプラカードを取り出すと、全員がスピードを上げてチェックポイントを駆け抜けていきます。
「「「お~っ!」」」
「グルガルウッ!」
「ガルァ!」
「「「てめえらは気合入れんでいい!」」」
ツッコミまで見事なユニゾンですね。素晴らしいシンクロ具合です。愉快、愉快。
――と、その時です。
「フッ……。ついにこの時が来ましたか……」
走り去る鬼達の間を抜けた兼定さんが、ティラノサウルス達の前に立ちはだかりました。
昨日、眠っているティラノサウルスを見て、心底残念そうにしていましたからね。色々と、堪え切れなくなってしまったのでしょう。
「さあ、来な――」
――パクリ!
「あ、食べられた」
兼定さん、おいしく丸呑みされてしまいましたよ。
これはさすがの兼定さんも……、――あれ?
「おええええっ!」
「あ、吐き出された」
兼定さん、速攻で体外排出されてしまいました。
ふむ、前言撤回しましょう。兼定さんはおいしい・おいしくない以前に、存在そのものが劇薬レベルの危険物だったようです。
「あ、ティラノサウルスさん達、逃げ出しましたね」
本能的な恐怖を感じたのでしょう。二頭のティラノサウルスは、我先にと兼定さんのもとから走り去っていきました。
何と言いますか……妙なものを配置してしまい、すみません。
「フフフ。まだですよ……」
吐き出されて唾液にまみれた兼定さんが、ゆらりと起き上がりました。
丸呑みされたとはいえ、即吐き出されたものだから、体の方に別状はなかったようですね。
――チッ、残念。
「丸呑み一回で私を満足させられると思ったら、大きな間違いです! さあ、どんどん来なさい!」
そう叫んで、兼定さんがティラノサウルス達を追って走り始めました。
「ギャシャアアアアアアアアアアッ!」
「グルギャアアアアアアアアアアッ!」
後ろから忍び寄る得体のしれない恐怖に、ティラノサウルス達はさらにスピードを上げて逃げ出します。
結果、事情を知らない社蓄&閻魔様は……。
「ぎゃああああああああああ! 恐竜達が速度上げてきた!」
「閻魔様、あんた地獄裁判所の筆頭裁判官でしょ! 丸々太っておいしそうですし、漢気見せてくださいよ、この豚野郎!」
「ぬおーっ! どさくさにまぎれて儂が一番気にしていることを言いおって! 絶対にお断りだ!」
いよいよティラノサウルス達が本気で食いに来たと勘違いし、すったもんだの大騒ぎです。
そのまま兼定さん>ティラノサウルス(with子鬼さん軍団)>閻魔様&社蓄の奇妙な追いかけっこは続き……。
「お、おい! 何だよ、あの集団! 後ろを走ってるの、恐竜か?」
「やべえ! このままだと絶対巻き込まれる。――逃げるぞ、タカシ」
「おう、聖良布夢!」
全員がほぼ一丸となって、元不良コンビが逃げ出して無人となったゴールを駆け抜けます。
ただ、彼らの勢いはゴールを突き抜けても止まらず、一団は再びスタートゲートをくぐって二週目に突入していきました。
「いやはや、あの社蓄共、本当に体力だけはありますね」
元気に走り去る彼らを見送りつつ、私と子鬼三兄弟は賢く退避したタカシさんと聖良布夢さんの隣へ降り立ちました。
「さて、これ以上付き合うのはぶっちゃけ面倒ですし、私達は撤収作業をしましょうか」
「は~い!」
「へ~い!」
「ほ~い!」
「「う、ウス……」」
ゆる~い返事をする子鬼三兄弟、唖然とする元不良コンビを引き連れ、私はさっさと後片付けを始めました。
めでたし、めでたし。
「「「めでたくなーい!」」」
どこからともなく、ものすごい数の魂の叫びが聞こえた気がしますが……無視の方向で♪
マラソンコースでは今まさに、怒号と絶叫と歓声が入り混じる、大スペクタクルが繰り広げられています。
次のチェックポイントを速攻で抜けるため、逃げながら分担して童話集を暗唱する約二百五十人の社蓄共。
肉食恐竜の血が騒ぐのか、はたまた動く者を追ってしまう習性か、嬉々して職員達を追い詰めるティラノサウルス。
両者死力を尽くしての鬼ごっこは、大変見応えのあるものです。
なお、歓声を上げているのは総勢五十人程いる子鬼さん達です。何と彼ら、ティラノサウルスの上に乗ってはしゃいでいます。
ティラノサウルスを見た瞬間、目を輝かせて踵を返した彼らは、あっという間にその巨大な体によじ登ってしまいました。
後はずっと、遊園地のアトラクションにでも乗っているようなはしゃぎぶりです。
いやはや、子鬼タイプの鬼さん達は、本当に怖いもの知らずで人生(?)楽しそうですね。
何はともあれ、主催者側としては喜んでもらえてうれしい限りです。
「ぬおーっ! 儂は生きるんだ! あいる、びー、ばああああああああああっく!」
「生きるも何も、ここは地獄ですよ~」
社蓄共に交じって、閻魔様もハッスルしています。名作映画のセリフなんか叫んだりして、ある意味一番この状況を楽しんでいるかもしれません。
上司のダイエットに協力した上にストレス解消にも手を貸すなんて、私は何とできた部下なのでしょう。
これはもう、殊勲賞ものですね。今度、特別ボーナスを請求しましょう。
――おっ! そうこうする内に、兼定さんが待つ、次のチェックポイントが見えてきました。
「みなさーん、お待ちしていましたよー!」
「「「ご託はいいから、早く問題を言え!」」」
おお! これはすごいです。一糸乱れぬ唱和で、問題を催促しました。
社蓄共、ここに来て結束力がグーンとアップしましたね。これは殊勲賞に加えて、職員の意識改革に対する功労賞でダブルボーナスですよ。
「では問題です。竹取物語でかぐや姫は最後、どこへ帰って行ったでしょうか?」
「答えがわかるやつ、報告!」
「俺が読んだところにあったぞ! 七十四ページの八行目だ!」
「よくやった、同士よ!」
答えが書かれたページがわかると、鬼達はこれまた一糸乱れぬ動きで同じページを開きました。
おや? よく見れば、子鬼さん達もティラノサウルスの上で、答えのページを開いていますね。えらい、えらい!
「答えはわかった。いくぞ、諸君。せーの……」
「「「月(つき~)!」」」
「正解です」
「よっし! 全員、全速前進! 気合を入れていけ!」
「「「オーッ!」」」
兼定さんが丸と書かれたプラカードを取り出すと、全員がスピードを上げてチェックポイントを駆け抜けていきます。
「「「お~っ!」」」
「グルガルウッ!」
「ガルァ!」
「「「てめえらは気合入れんでいい!」」」
ツッコミまで見事なユニゾンですね。素晴らしいシンクロ具合です。愉快、愉快。
――と、その時です。
「フッ……。ついにこの時が来ましたか……」
走り去る鬼達の間を抜けた兼定さんが、ティラノサウルス達の前に立ちはだかりました。
昨日、眠っているティラノサウルスを見て、心底残念そうにしていましたからね。色々と、堪え切れなくなってしまったのでしょう。
「さあ、来な――」
――パクリ!
「あ、食べられた」
兼定さん、おいしく丸呑みされてしまいましたよ。
これはさすがの兼定さんも……、――あれ?
「おええええっ!」
「あ、吐き出された」
兼定さん、速攻で体外排出されてしまいました。
ふむ、前言撤回しましょう。兼定さんはおいしい・おいしくない以前に、存在そのものが劇薬レベルの危険物だったようです。
「あ、ティラノサウルスさん達、逃げ出しましたね」
本能的な恐怖を感じたのでしょう。二頭のティラノサウルスは、我先にと兼定さんのもとから走り去っていきました。
何と言いますか……妙なものを配置してしまい、すみません。
「フフフ。まだですよ……」
吐き出されて唾液にまみれた兼定さんが、ゆらりと起き上がりました。
丸呑みされたとはいえ、即吐き出されたものだから、体の方に別状はなかったようですね。
――チッ、残念。
「丸呑み一回で私を満足させられると思ったら、大きな間違いです! さあ、どんどん来なさい!」
そう叫んで、兼定さんがティラノサウルス達を追って走り始めました。
「ギャシャアアアアアアアアアアッ!」
「グルギャアアアアアアアアアアッ!」
後ろから忍び寄る得体のしれない恐怖に、ティラノサウルス達はさらにスピードを上げて逃げ出します。
結果、事情を知らない社蓄&閻魔様は……。
「ぎゃああああああああああ! 恐竜達が速度上げてきた!」
「閻魔様、あんた地獄裁判所の筆頭裁判官でしょ! 丸々太っておいしそうですし、漢気見せてくださいよ、この豚野郎!」
「ぬおーっ! どさくさにまぎれて儂が一番気にしていることを言いおって! 絶対にお断りだ!」
いよいよティラノサウルス達が本気で食いに来たと勘違いし、すったもんだの大騒ぎです。
そのまま兼定さん>ティラノサウルス(with子鬼さん軍団)>閻魔様&社蓄の奇妙な追いかけっこは続き……。
「お、おい! 何だよ、あの集団! 後ろを走ってるの、恐竜か?」
「やべえ! このままだと絶対巻き込まれる。――逃げるぞ、タカシ」
「おう、聖良布夢!」
全員がほぼ一丸となって、元不良コンビが逃げ出して無人となったゴールを駆け抜けます。
ただ、彼らの勢いはゴールを突き抜けても止まらず、一団は再びスタートゲートをくぐって二週目に突入していきました。
「いやはや、あの社蓄共、本当に体力だけはありますね」
元気に走り去る彼らを見送りつつ、私と子鬼三兄弟は賢く退避したタカシさんと聖良布夢さんの隣へ降り立ちました。
「さて、これ以上付き合うのはぶっちゃけ面倒ですし、私達は撤収作業をしましょうか」
「は~い!」
「へ~い!」
「ほ~い!」
「「う、ウス……」」
ゆる~い返事をする子鬼三兄弟、唖然とする元不良コンビを引き連れ、私はさっさと後片付けを始めました。
めでたし、めでたし。
「「「めでたくなーい!」」」
どこからともなく、ものすごい数の魂の叫びが聞こえた気がしますが……無視の方向で♪
応援ありがとうございます!
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