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元治元年

告白(弐)

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(…………)

 私は黙って天井を見上げる。さっき大広間で会ったばかりの幹部たちの顔が浮かんでは消える。史実と違って美形ぞろいなのはきっと気にしてはいけないことなんだと思う。

 いい人たちだけど、6・7年後には半分以上が亡くなってるんだよね………。

(でも新選組って、史実ではどう頑張っても救われないんだよね………)

 言ってから気づいたが、こういう何気ないつぶやきも、心の声としてほむろに伝わるんだった。やっべ。

『…………』

 ほむろが布団の横でお座りして、私の方を何か言いたそうな目で見上げている。これは聞かれるな。まあ、隠しておきたいと思っていたわけじゃないからいいけど。いずれ話すつもりだったし。

『………雫。前々から思っておったんじゃが、お主って時々未来を知っているような発言をするよな?』

 布団の横に丸まりながら、ほむろがそう言ってきた。やっぱ来た。

(……………話してなかったんだっけ?)
『聞いておらぬぞ』
(ごめん、ずっと黙ってて。ちょっと、勇気がなかったのかな?)
『妾の方は話したのに、お主の方はいつ話すのかとずっと思っておったぞ』
(ごめんって)

 思わず苦笑。確かに半年間、いつ話してもよかったよね。

(じゃあ寝る前に私の話を聞いてくれる?そんなたいした話でもないけど)
『うむ、聞こう』

 ほむろがむくりと起き上がる。私も上半身を起こし、布団の上に座る。ほむろが私の足の膝の上に乗ってきた。

(話を聞くに当たって、ありえないって思っても突っ込まないでね。全部事実だから)
『わかった』

 猫のくせにこくりと頷くほむろがちょっとおかしかったが、私は構わず話を続ける。

(私は、この幕末の時代に生まれた人間じゃないの)




 私はほむろに、自分は今から200年ぐらい未来の世界からやってきたこと、その世界で薬の勉強をしていたこと、両親を亡くして叔父の家に世話になっていたことなどを話した。

『だからお主は薬を扱うのがえらい上手だったのか。妾でも知らぬような薬も作っておったし』
(この時代にはないものばかりだからね)
『200年後の薬を知っているお主から見たら、この時代の薬学や医学はさぞ時代遅れに見えるじゃろうな』
(まあ………。私が生まれた世界では、薬を学ぶのってすごい金がかかるけど、最初は叔父に出してもらおうかと思ってたの。でもかなり嫌そうだったから、だったらてめえの手なんて借りねえよ、ってバイトして稼いだり、親の財産を使ったけど)
『ばいと、とは何かわからぬが………お主、その叔父とは仲が悪かったのだな』

 ほむろがポツリとつぶやいた。
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