おいでよ、最果ての村!

星野大輔

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第2.5章 草原の詩

閑話 帰郷1

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ここは最果ての村。
今日ものほほんとした牧歌的な雰囲気で溢れかえっている。

誰もが自分に与えられた仕事をこなし、今日一日を精一杯生きています。
村はずれの家に住む奥さんは、布団叩きでフレイムトードを撃退。
農家は害虫のジャイアントアンツの大群を殲滅しながら、田畑を耕し。
肉屋は相変わらず古代竜の群れを狩っている。
相変わらずほのぼのとした村である。

そんな中、大声を出し騒ぎ立てる男がひとり。

「もう我慢できん、俺はいくぞ!!」
「あらあら、困ったわね」
「母さんは心配じゃないのか!?
 ちーちゃんが家を出て、もう二ヶ月経つんだぞ!!
 所在も知れず、ああ、もしかしたら今この時も、お父さん寂しいよ…って泣いてるかもしれないんだ。
 想像しただけで、この身が引き裂かれそうだ!!
 待ってろちーちゃん!!!」
「待つのはあなたです、お父さん」

ぼぐっ。

母シーレは、手に持った大根で父ブンタの頭を強く殴打する。
鈍い音を響かせ、ブンタは地に伏せた。

「あらあら、ちょっと強く打ち過ぎたかしら」
「……か、かあさん。
 手加減をしておくれよ。
 母さんの方がレベルが高いんだから…さ」
「ごめんなさね、お父さん。
 わざとじゃないのよ」
「と、とりあえず、回復薬……を。がくり」

シーレの大根アタックにより、ブンタの意識は深い闇へと落ちていった。




その頃、村はずれの森の中に青白い光が瞬いた。
それは一瞬の出来事であり、誰も気づいたものはいなかった。

光の発生源には、石造りの不思議なサークルがあり、その中心には一人の男が立っていた。

「帰ってきたぞ、我が故郷!!!
 魔王軍参謀ガイランド、ただいま帰郷なり!!!」

バッと大きく手を広げ、存在感をアピールするが、それに反応してくれるものはおらず、青く晴れ渡る空に小鳥の鳴き声がさわやかに響くだけであった。

「ふむ、出迎えの者は居らぬか。
 まあ良い、久々の帰郷だ。
 近所を見て回るのも乙であろう」

ガイランドは周囲を見渡し、進むべき方向を決める。

「ん、何やら美味しそうな匂いが」

目を瞑り鼻をくんくんとならしながら、足は自然と村の方向へ向いていた。
何百年もまともな食事を取っていないガイランドに取って、家庭から零れる日常味溢れた匂いは我慢ならないものである。

数分と経たないうちにガイランドは村へとたどり着く。

「む、もしかして、ここは魔王城近くの村ではないか?
 おお懐かしいな、あまり来たことは無いが、あの中央にそびえる木は見覚えがあるぞ!!
 うむうむ、こうして見知ったものがあると、帰ってきた実感がわくな、わーっははははは!!」

ガイランド、遂に村へと足を踏み入れる。

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