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第2.5章 草原の詩
少年の眼差し
しおりを挟むちょっとした護衛だと思っていたのに、とんだ事態に巻き込まれて精魂尽き果てたアリス一行は、ようやく儀式を終え村へと帰ってきた。
「やっと、村に着いたぞーーっ!!!」
「つ、疲れた…」
「お二人とも、今回は本当にありがとうございました。
一人では本当に命を落としていたでしょう。」
ガイリは荷物を下すと、二人に向け深く頭を下げた。
アリスはそれを優しい眼差しを向け、ラックは照れくさそうにそっぽを向く。
「んなことはいいよ、金は貰ってんだ」
「ああ、そうだな。
ガイリ殿こそよくやってくれた。」
ガイリを顔を上げ二人の顔を見る。
先ほど起こった出来事は決して軽いものではない。
本当に命を落としかねない状況だった。
それにも関わらずこの二人は「気にするな」と簡単に言いのけてくれる。
冒険者とは、こうも心意気のある人間なのか。
ガイリは自分の記憶に刻みこもうと、じっと二人の顔を見つめた。
「おやおや、お帰りなさい。
三人とも随分と汚れているが、どうしたのじゃ?」
三人が帰ってきたことを知った村長が出迎えにやっていた。
村長からすれば例年よりも多少危険な程度の認識。
冒険者が同行すれば、万が一などないだろうと考えていた。
「村長、話があります」
「どうしたのじゃガイリ、あらたまって」
ガイリは洞窟で起こったあらましを説明した。
話を聞いた村長は驚愕の表情を浮かべ、一つの推論に達する。
「もしやすると大賢者様の封印が解けたのかもしれぬ」
「!!!」
「杞憂かも知れぬが、警戒しておいた方がよいだろう。
おぬしらが倒したその魔物が大賢者様の封じた魔物という可能性もある」
「しかし、かつての賢者が倒せなかった相手を、俺たちが倒せたなんて」
「長年の封印で弱体化していた、ということもかんがえられる。
とにかく今はどうしようもない。
ガイリが無事帰ってきたことを喜ぼう。
おめでとう、ガイリ。
お前もこれで一人前の大人じゃ」
「…はい、村長。
これからもよろしくお願いいたします」
村長の前に膝をつけ、頭を下げる。
一人の青年が、無事大人へとなった瞬間。
「お兄ちゃん!!!」
そこへ駆け寄る一人の少年。
レイリである。
兄と同様に泥だらけの様相に、ガイリは何事かと思った。
レイリは無事帰ってきた兄の胸に飛び込む。
「良かった、無事だったんだね!」
「お帰りレイリ。
それにしてもその服どうしたんだ?」
「へへ、ちょっとね。
それよりもガイリ兄ちゃんにプレゼントがあるんだ」
「プレゼント?」
レイリは腰にぶらさげた布袋から一本の短剣を取り出す。
「おめでとうお兄ちゃん!!」
「レイリ、これはどうしたんだ?」
ガイリは自身に鑑定眼があるとは思わない。
だが目の前の短剣がそこらへんにあるような短剣とは違うことくらい分かる。
日の光すらも吸いこむような真っ白な刀身。
緻密に掘られた不思議な紋様。
直ぐにも壊れそうな儚さと、永遠に残り続けるような強靭さを感じさせる不思議な存在感。
ガイリは一瞬延びかけた手を止めた。
そして目の前の泥だらけの弟を見つめる。
その顔は村を出る前の弱気な少年ではない。
自分が儀式へ出向いている間、何があったのかは知らないが、自分と同じようレイリも大きく成長していた。
その強い眼差しを見て、ガイリは自分のことのように嬉しくなった。
「……レイリ、ありがとうな。
その気持ちだけで兄ちゃんは十分だよ。
お前がこれを探し出すのにすごく苦労したのも分かる。
あの臆病だったお前が、俺のために。
はは、こんな嬉しいことがあるもんか!
それが何よりのプレゼントだよ!」
「ガイリ兄ちゃん…」
「それはお前が持っていろ。
自分の力で初めて得た獲物だ、将来レイリが大人になった時、それを使うといい。
それまでは、その短剣に見合う男になれるよう鍛錬するんだぞ!」
ガイリはレイリの頭にポンと手を乗せ、くしゃくしゃと荒く撫でた。
レイリは嬉しそうに笑顔を浮かべ強く頷いた。
「うん、わかったよ兄ちゃん!!
この村一番、ううん、この国一番の男になるよ!!!」
後年。
レイリは大陸一番の冒険者となる。
他に類を見ない白い短剣を操り、一撃で魔物を屠するその姿は英雄そのもの。
華奢な見た目からは想像も出来ない程の剛腕、脚力。
人の限界を超えし者として、一部の者からは勇者ではないかと嘯かれる。
彼が如何様にしてその力を身に着けたのかは誰も知らない。
彼自身も多くは語らない。
何故ならレイリ自身、記憶があやふやなのである。
幼い頃体験した不思議な出来事。
強大な化け物を一撃で倒した、小さな少女の存在。
今考えればそれは夢幻でしかない。
話した所で誰も信じるわけがない。
あの強さを目指し鍛錬してきたからこそ、如何に途方もない強さであるかが分かった。
今もまだ自分は、あの少女の足元にすら辿り着けていない。
レイリは今日も相棒の短剣を操り、少女の強さを目指し、最強へ至らんとする。
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