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第四章
攫われて
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「カイト、何故お前がここに呼ばれているか分かるか?」
「はい、イフリート団長。何となくは分かります」
「リリアーナ様の明日の孤児院への慰問だが、護衛はお前ではなく女性騎士を中心にでご希望だそうだ」
「・・・そうではないかと思いました」
「何か心当たりがあるのか?」
「ありますが・・・リリアーナ様のプライベートにも関わるのでここでは申し上げられません。心苦しくはありますが・・・申し訳ありません」
「そうか・・・まあ、大体察しはつく」
イフリートとクリスティアナは婚約中だ。何か話を聞いているかもしれない。
「私はリリアーナ様の騎士を辞するべきでしょうか」
「リリアーナ様からその話は出てないぞ。気になるなら直接本人に聞いたらどうだ?」
カイトは溜息をついた。
「面会を申し入れたのですが、会って下さらないのです」
様子見を考えていたカイトだが、立ち番のローテーションや、公務の警護の予定組み等に支障をきたしつつもあり、面会を申し入れたのだ。
『姫様と何かあったんじゃないの?』と言いたげなフランチェスカの非常に険しい視線と共に断りの返事を頂いたのだ。
「俺は時間が解決してくれると思うがな、近く一緒に酒でも飲みに行こう。今日の用事は以上だ」
「はい、ありがとうございます」
騎士の礼をして退室した。
――翌日の午後。こちらは武具の格納庫、城門に近い場所にある。
「カイト~、さっきからずーっと武具の手入れをしているよな」
馬を連れたスティーブが寄ってきた。
「・・・ああ」
「もうそれ位でいいんじゃね?」
「・・・ああ」
「あ!リリアーナ様が帰ってきた!」
「え・・・!」
カイトが手を止めてすぐに城門を見る。
「何だ。ちゃんと聞こえてんじゃねぇか」
「スティ~ブ~~~」
「お前、何で今回付いて行かなかったの?」
「聞くな」
「姫様に手出して嫌われたんじゃねぇのか?」
「・・・・・・」
「え!? 図星!? ごめんカイト、まさかお前がやるとは思わなくて」
「やめろ。俺が犯罪者みたいなその言い方」
「お詫びに町の見回りに一緒に行かない?」
「何でそれがお詫びなんだ?」
『だがまあ、気晴らしにはなるか・・・』
「馬の用意をしてくる」
「ああ・・・っと、あれ、今日の警護に付いていったジャネットじゃないのか?」
見るとジャネットが馬に乗ったまま慌てた様子で周囲を見渡している。そしてカイトを見つけるや、急いで騎馬したまま近付いてきた。
「カイト!! 黒の森で襲われて、リリアーナ様が攫われそうなの! 敵の数が多すぎて、アルフレッド隊長がすぐ私に応援を呼ぶようにって」
「――分かった、他にも知らせてくれ!」
カイトは手入れしていた武具一式を身につけると、馬に飛び乗り腹を蹴ってあっという間に出ていってしまった。
「俺の馬・・・!って言ってる場合じゃないな――俺も他ので出る。イフリート団長達に知らせてくれ!」
「分かったわ!」
幸い騒ぎを聞きつけて、イフリートとサイラスが駆けつけてきた。カイトにしたよりは詳しく、でも手早く説明した。
「金髪の騎士と銀髪の女性騎士がいたのか・・・」
「どうしたサイラス?」
イフリートが訝しげに尋ねる。
「いや、ちょうどその件でカイトから報告を受けて調べ始めたところだったんだ・・・黒幕はカミラ伯爵未亡人だと思う。俺は用意するものがあるから先に行ってくれ」
「分かった急げよ」
イフリートは集合してきた騎士達に向き直った。
「今ここにいる者だけで救出に出る! 歩兵隊長のグスタフは指令者として残れ、後から集まって来た者も置いていく。城を留守にはできないからだ! 準備ができた者からすぐに出ろ!」
騎士達は雄たけびを上げると、次々と飛び出していった。
その頃、ちょうどスティーブが最初に襲われた現場とおぼしき場所に到着していた。カイトの姿は見当たらない。背中に矢が刺さって倒れている敵もいるので、来たのは間違いないだろう。
「スティーブ!」
「エヴァン先輩! リリアーナ様は? それにカイトも? ここは粗方(あらかた)倒したみたいですね」
「ああ、ちょうど敵と競っている時に、カイトが矢で結構な数を倒したから、随分と助かった。リリアーナ様は攫われて、今アルフレッド隊長と無事な騎士が何人かで追っているはずだ。カイトはこの話を聞いてすぐに出た」
「俺も追います。エヴァン先輩は残りますか?」
「ああ、俺はこいつを見ていないと」
見るとそこには金髪の騎士が縛られていた。
「アルフレッド隊長! 他の皆も屈んで下さい!」
いきなりの声に驚きながらも全員馬を走らせながらできるだけ屈む。頭の上を矢が飛び、前を走っている何人かの敵に当たって落馬した。
「カイト!」
「リリアーナ様は!?」
「まだ先だ。敵の多さにてこずってな。今、目の前にいるあの集団、お前が何人か射倒したやつが一つ。その前にまた一集団、その先に何人か距離を置いてばらけていて、最後にリリアーナ様だ。銀髪の女性騎士に連れて行かれた」
「分かりました――先行きます!」
「おい! 無茶は――」
他の騎士が代わりに答える。
「行っちゃいましたね――」
カイトは更に何本か矢を放ち、敵を射倒すと、混乱をきたした集団の中を駆け抜けて行った。
「よし、俺達も急ぐぞ!」
その混乱している集団が少人数ながらもスピードを上げた。
「うん・・・?」
こちらも負けじとスピードを上げ近付くと、遠くにもう一つ前にいる集団が馬から下りて厚いバリケードを作っているのが見えた。前と後ろでカイトを挟み撃ちにする作戦のようだ。
そこにいる騎士団員は全員思った――
『今のカイトに楯突くなんて・・・』
「あっ、カイト下馬しましたよ・・・うわ! すご! 瞬殺・・・」
「何か、敵の馬を選んでます・・・そうか、城から乗ってきたのが疲れてるから替えるのか・・・あ、もう出た。」
遠目が効く騎士達から報告を受ける。
「俺達も負けていられない! 急ぐぞ!」
「はい!」
『カイト、リリアーナ様を頼んだぞ――』
カイトは青い平原に出た。すぐ右にはエルナウ川が見える。全長は1000kmに及び、川幅は約1km、交易の基幹ルートをになっている。川の中ほどに帆船が停留していた。そしてそこに向かう小船がある。目視でリリアーナが乗っているのが見えた。
『帆船――!?』
異界とはいえ中世に近いこの時代に帆船を個人で持つ事はない。商売のために大抵共同で所有するのである。
『まさか・・・人身売買?』
おまけに帆船で海に出られたら、遠くまで連れて行かれる可能性も高い。
カイトはブーツを脱ぎ、上も脱いで半袖のシャツと後はズボンだけの格好になると、すぐ川に飛び込んだ。
「黒髪の騎士がこちらに向かって泳いできます!」
「無理よ。今更追いつけないわ」
銀髪の女性騎士、シルヴィアが余裕で答える。
「いや、それが・・・あの泳ぎ方は初めて見るのですが、速さが・・・信じられなくて」
見ると、確かに初めて見る泳法だ。それは現代でいうクロールである。そしてこの時代にはまだクロールという泳法はない。動物の模倣で、犬掻きや、せいぜい平泳ぎに似たものでスピードも知れたものだ。それが小船に向かってぐんぐん近付いてくる。
「何て騎士なの!!」
『カミラ様が欲しがるのも頷ける――』
「急ぐのよ!! 速く漕いで! 追いつかれる前に帆船に着かなければ!」
「カイト!!」
リリアーナの叫び声が聞こえる。カイトは歯を食いしばると泳ぐ手足に力を入れた。
帆船に着くのと、カイトが追いつくのが同時であった。男がオールでカイトの頭を叩こうとする。
「やめて!!」
リリアーナとシルヴィアが同時に叫ぶ。リリアーナは心配から。シルヴィアは傷物にしないように言い含められていたからだ。
カイトは自分に向かってきたオールを逆に掴んで引っ張った。男が川に投げ出される。縁に手を掛けボートに素早く乗り込んだ。リリアーナが男に担がれ縄梯子を登ろうとしているところだった。そのすぐ後にシルヴィアがいる。
「やめろ!!」
カイトが怒鳴るのと、後に残った四人の男達が掛かってくるのが同時だった。
「はい、イフリート団長。何となくは分かります」
「リリアーナ様の明日の孤児院への慰問だが、護衛はお前ではなく女性騎士を中心にでご希望だそうだ」
「・・・そうではないかと思いました」
「何か心当たりがあるのか?」
「ありますが・・・リリアーナ様のプライベートにも関わるのでここでは申し上げられません。心苦しくはありますが・・・申し訳ありません」
「そうか・・・まあ、大体察しはつく」
イフリートとクリスティアナは婚約中だ。何か話を聞いているかもしれない。
「私はリリアーナ様の騎士を辞するべきでしょうか」
「リリアーナ様からその話は出てないぞ。気になるなら直接本人に聞いたらどうだ?」
カイトは溜息をついた。
「面会を申し入れたのですが、会って下さらないのです」
様子見を考えていたカイトだが、立ち番のローテーションや、公務の警護の予定組み等に支障をきたしつつもあり、面会を申し入れたのだ。
『姫様と何かあったんじゃないの?』と言いたげなフランチェスカの非常に険しい視線と共に断りの返事を頂いたのだ。
「俺は時間が解決してくれると思うがな、近く一緒に酒でも飲みに行こう。今日の用事は以上だ」
「はい、ありがとうございます」
騎士の礼をして退室した。
――翌日の午後。こちらは武具の格納庫、城門に近い場所にある。
「カイト~、さっきからずーっと武具の手入れをしているよな」
馬を連れたスティーブが寄ってきた。
「・・・ああ」
「もうそれ位でいいんじゃね?」
「・・・ああ」
「あ!リリアーナ様が帰ってきた!」
「え・・・!」
カイトが手を止めてすぐに城門を見る。
「何だ。ちゃんと聞こえてんじゃねぇか」
「スティ~ブ~~~」
「お前、何で今回付いて行かなかったの?」
「聞くな」
「姫様に手出して嫌われたんじゃねぇのか?」
「・・・・・・」
「え!? 図星!? ごめんカイト、まさかお前がやるとは思わなくて」
「やめろ。俺が犯罪者みたいなその言い方」
「お詫びに町の見回りに一緒に行かない?」
「何でそれがお詫びなんだ?」
『だがまあ、気晴らしにはなるか・・・』
「馬の用意をしてくる」
「ああ・・・っと、あれ、今日の警護に付いていったジャネットじゃないのか?」
見るとジャネットが馬に乗ったまま慌てた様子で周囲を見渡している。そしてカイトを見つけるや、急いで騎馬したまま近付いてきた。
「カイト!! 黒の森で襲われて、リリアーナ様が攫われそうなの! 敵の数が多すぎて、アルフレッド隊長がすぐ私に応援を呼ぶようにって」
「――分かった、他にも知らせてくれ!」
カイトは手入れしていた武具一式を身につけると、馬に飛び乗り腹を蹴ってあっという間に出ていってしまった。
「俺の馬・・・!って言ってる場合じゃないな――俺も他ので出る。イフリート団長達に知らせてくれ!」
「分かったわ!」
幸い騒ぎを聞きつけて、イフリートとサイラスが駆けつけてきた。カイトにしたよりは詳しく、でも手早く説明した。
「金髪の騎士と銀髪の女性騎士がいたのか・・・」
「どうしたサイラス?」
イフリートが訝しげに尋ねる。
「いや、ちょうどその件でカイトから報告を受けて調べ始めたところだったんだ・・・黒幕はカミラ伯爵未亡人だと思う。俺は用意するものがあるから先に行ってくれ」
「分かった急げよ」
イフリートは集合してきた騎士達に向き直った。
「今ここにいる者だけで救出に出る! 歩兵隊長のグスタフは指令者として残れ、後から集まって来た者も置いていく。城を留守にはできないからだ! 準備ができた者からすぐに出ろ!」
騎士達は雄たけびを上げると、次々と飛び出していった。
その頃、ちょうどスティーブが最初に襲われた現場とおぼしき場所に到着していた。カイトの姿は見当たらない。背中に矢が刺さって倒れている敵もいるので、来たのは間違いないだろう。
「スティーブ!」
「エヴァン先輩! リリアーナ様は? それにカイトも? ここは粗方(あらかた)倒したみたいですね」
「ああ、ちょうど敵と競っている時に、カイトが矢で結構な数を倒したから、随分と助かった。リリアーナ様は攫われて、今アルフレッド隊長と無事な騎士が何人かで追っているはずだ。カイトはこの話を聞いてすぐに出た」
「俺も追います。エヴァン先輩は残りますか?」
「ああ、俺はこいつを見ていないと」
見るとそこには金髪の騎士が縛られていた。
「アルフレッド隊長! 他の皆も屈んで下さい!」
いきなりの声に驚きながらも全員馬を走らせながらできるだけ屈む。頭の上を矢が飛び、前を走っている何人かの敵に当たって落馬した。
「カイト!」
「リリアーナ様は!?」
「まだ先だ。敵の多さにてこずってな。今、目の前にいるあの集団、お前が何人か射倒したやつが一つ。その前にまた一集団、その先に何人か距離を置いてばらけていて、最後にリリアーナ様だ。銀髪の女性騎士に連れて行かれた」
「分かりました――先行きます!」
「おい! 無茶は――」
他の騎士が代わりに答える。
「行っちゃいましたね――」
カイトは更に何本か矢を放ち、敵を射倒すと、混乱をきたした集団の中を駆け抜けて行った。
「よし、俺達も急ぐぞ!」
その混乱している集団が少人数ながらもスピードを上げた。
「うん・・・?」
こちらも負けじとスピードを上げ近付くと、遠くにもう一つ前にいる集団が馬から下りて厚いバリケードを作っているのが見えた。前と後ろでカイトを挟み撃ちにする作戦のようだ。
そこにいる騎士団員は全員思った――
『今のカイトに楯突くなんて・・・』
「あっ、カイト下馬しましたよ・・・うわ! すご! 瞬殺・・・」
「何か、敵の馬を選んでます・・・そうか、城から乗ってきたのが疲れてるから替えるのか・・・あ、もう出た。」
遠目が効く騎士達から報告を受ける。
「俺達も負けていられない! 急ぐぞ!」
「はい!」
『カイト、リリアーナ様を頼んだぞ――』
カイトは青い平原に出た。すぐ右にはエルナウ川が見える。全長は1000kmに及び、川幅は約1km、交易の基幹ルートをになっている。川の中ほどに帆船が停留していた。そしてそこに向かう小船がある。目視でリリアーナが乗っているのが見えた。
『帆船――!?』
異界とはいえ中世に近いこの時代に帆船を個人で持つ事はない。商売のために大抵共同で所有するのである。
『まさか・・・人身売買?』
おまけに帆船で海に出られたら、遠くまで連れて行かれる可能性も高い。
カイトはブーツを脱ぎ、上も脱いで半袖のシャツと後はズボンだけの格好になると、すぐ川に飛び込んだ。
「黒髪の騎士がこちらに向かって泳いできます!」
「無理よ。今更追いつけないわ」
銀髪の女性騎士、シルヴィアが余裕で答える。
「いや、それが・・・あの泳ぎ方は初めて見るのですが、速さが・・・信じられなくて」
見ると、確かに初めて見る泳法だ。それは現代でいうクロールである。そしてこの時代にはまだクロールという泳法はない。動物の模倣で、犬掻きや、せいぜい平泳ぎに似たものでスピードも知れたものだ。それが小船に向かってぐんぐん近付いてくる。
「何て騎士なの!!」
『カミラ様が欲しがるのも頷ける――』
「急ぐのよ!! 速く漕いで! 追いつかれる前に帆船に着かなければ!」
「カイト!!」
リリアーナの叫び声が聞こえる。カイトは歯を食いしばると泳ぐ手足に力を入れた。
帆船に着くのと、カイトが追いつくのが同時であった。男がオールでカイトの頭を叩こうとする。
「やめて!!」
リリアーナとシルヴィアが同時に叫ぶ。リリアーナは心配から。シルヴィアは傷物にしないように言い含められていたからだ。
カイトは自分に向かってきたオールを逆に掴んで引っ張った。男が川に投げ出される。縁に手を掛けボートに素早く乗り込んだ。リリアーナが男に担がれ縄梯子を登ろうとしているところだった。そのすぐ後にシルヴィアがいる。
「やめろ!!」
カイトが怒鳴るのと、後に残った四人の男達が掛かってくるのが同時だった。
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