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2、愛情なんて不要?
寂しいんだもの
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何気の満喫できている生活。退屈だったが、今は侍女のみんなの勧めで繕い物や刺繍をしている。もともと裁縫は得意だったので、なにもしないよりは楽しい。
変わったことと言えば、セルザイト殿下の態度だろう。離れ過ぎず、近づき過ぎない距離でいるつもりだったが、セルザイト殿下はやたらと壁を作って質問にもあやふやな回答ばかり。なんだか、避けられているというか、放って置かれるていると思う。それで構わない。きっとあの女性だってセルザイト殿下が自分とあまり親しくすると、良い気はしないだろう。
そろそろ村の友人、ディオルガに書いた手紙の返事も届くだろう。
ディオルガはたくさんの人から好かれる明るい性格だ。感覚としては兄のような感じだが、関係性としては元恋人。元、と言ってもセルザイト殿下との結婚が無ければ、ディオルガと結婚していただろう。あんなに優しいディオルガは、ほとんど感情がない。両親から受けた虐待により、身体中に痣や、火傷の跡がある。そんなディオルガも自分には「本当の感情」を教えたり、見せてくれたりする。ディオルガと恋人になる経緯は、いたって単純だった。「一緒にいてあげたいから」暖かな笑みを浮かべて言った。そして「一緒にいてくれる人がいるなら」と言って送り出してくれた。
そんなディオルガに会いたくなった。たった一人「家族」と呼べる存在に会いたいと思った。
「アーシャ様、お身体の採寸をさせていただきたいのですが、よろしいですか? 」
ここのところ式の準備がとてつもない速さで進んでいる。そして式の後に行われる晩餐会の準備も同時進行である。色はセルザイト殿下が決めてくれるそうだ。今日の採寸は夕方にする予定だったのだが、なにせ時間が無いので少し早まったのだろう。
「はい、どうぞ。」
予想を軽々と上回るたくさんの女性。若い人や年配の方もいる。
あまり他人に体を触れられるのは好きでは無いが、仕方がない。そういう立場になったことを自覚しなければいけないのかもしれない。
***
疲れた。ずっと同じ体勢でいるのはとても大変だった。ふぅと息を吐き、アイスティーをかき混ぜる。
砂糖が混ざり、飲もうとコップに口をつける。
トントン、トントン、トントントントントントン・・・・・
勢いよく振り返る。その遠心力でアイスティーが溢れる。
自分でも分かるくらい目が大きくなる。
「ディオ!?」
後ろにいたのはディオルガだった。随分近くにいて、驚いた。無表情なのに、なんとなく嬉しそうだな、と思った。
「アーシャ、会いに来たよ?」
突然来たことを詫びれる様子もなく、いたって普通に言う。それでも嬉しくて、ホッとする。
「も~いつからいたの、ディオ?」
「ん、多分二、三時間前かな。寝て待ってて起きたらアーシャが帰って来てた。」
ツッコミ所が多過ぎて、それでも平然としているディオルガはすごいと思う。何があっても冷静で、的確な判断ができる。そんなディオルガはやっぱり兄のようで、尊敬する。
「でもどうやって来たの?勝手に部屋入れないはずだけど・・・」
外には護衛の人がいつも立っているし、そもそも王宮に入るにも許可が必要だったはずだ。だから、面倒で外出できなかった。
「これで普通にできた。」
ディオルガの手のひらの上には紫色の炎が揺らめいている。
「なんなのそれ?」
「よく分からないけど、アーシャだってできるでしょ?」
魔法のことだろうか。よくよく思い出すと幼い頃ディオルガと「魔法ごっこ」という遊びをしていた。
あの頃から魔法が使えたのか、と今更ながらに感心する。早く育つようにお祈りをしたら、目が出た。など、幼い子供なら簡単に信じられたのかもしれない。
そしてディオルガはかくれんぼが強かった。何度やっても見つけられないのだ。声も聞こえるし、意地悪に背中をつついたりされるのに、見つからない。最終的に泣き出してしまい、ディオルガがわざと見つかってくれる。
昔から魔法が使えた。ディオルガも使えていた。衝撃的なことを思い出し、固まってしまう。
「アーシャ?で、何か用事でもあったの?」
用事などない。ただ、会いたくなっただけ。ただ、話を聞いてほしかっただけ。側に、いてほしいだけ。
「そういうわけじゃないんだけど、ちょっと話、聞いてもらっていい?」
結局セルザイト殿下がどんな人か、から始まり、つい先日見たセルザイト殿下と女の人がキスをしているところの話まで。
全部聞いてもらった。ディオルガに聞いてもらったら、少し軽くなったような気がする。
「アーシャ、セルザイト殿下はとっても優しくて良い人だって言ってたよね?」
「うん。本当に良い人だよ。」
確かめるような口調で聞かれ、再度確認する。セルザイト殿下はすごく優しい人だ。とても真面目で、親切で優しい。
「良い人だったら、その女の人との関係をはっきりさせて、ちゃんとアーシャに話すと思うけどな。」
そうなのかもしれないけれど、セルザイト殿下の優しさから言わないのかもしれない。言えば結婚してもらえないかもしれない。それなら隠した方が良いに決まっている。
「そうかな・・・・・ねぇディオ、また来てくれる?」
「アーシャ殿、入ってもよろしいですか?」
セルザイト殿下の声だ。
「じゃあもう行くよ。」
「待ってっ。」
「セルザイト殿下、今はお客様がいらしているので、後ほどお部屋に伺います。」
もう少しディオルガといたかった。またしばらくディオルガに会えなくなる。セルザイト殿下には恋人がいるのだから、ディオルガと会うくらいは許されると思う。
毎日一緒に生活していたディオルガがいないことが、少し寂しいという気持ちもある。
「分かりました。お待ちしています。」
「早く行ってあげなよ。また来るから。」
そう言って消えてしまった。
変わったことと言えば、セルザイト殿下の態度だろう。離れ過ぎず、近づき過ぎない距離でいるつもりだったが、セルザイト殿下はやたらと壁を作って質問にもあやふやな回答ばかり。なんだか、避けられているというか、放って置かれるていると思う。それで構わない。きっとあの女性だってセルザイト殿下が自分とあまり親しくすると、良い気はしないだろう。
そろそろ村の友人、ディオルガに書いた手紙の返事も届くだろう。
ディオルガはたくさんの人から好かれる明るい性格だ。感覚としては兄のような感じだが、関係性としては元恋人。元、と言ってもセルザイト殿下との結婚が無ければ、ディオルガと結婚していただろう。あんなに優しいディオルガは、ほとんど感情がない。両親から受けた虐待により、身体中に痣や、火傷の跡がある。そんなディオルガも自分には「本当の感情」を教えたり、見せてくれたりする。ディオルガと恋人になる経緯は、いたって単純だった。「一緒にいてあげたいから」暖かな笑みを浮かべて言った。そして「一緒にいてくれる人がいるなら」と言って送り出してくれた。
そんなディオルガに会いたくなった。たった一人「家族」と呼べる存在に会いたいと思った。
「アーシャ様、お身体の採寸をさせていただきたいのですが、よろしいですか? 」
ここのところ式の準備がとてつもない速さで進んでいる。そして式の後に行われる晩餐会の準備も同時進行である。色はセルザイト殿下が決めてくれるそうだ。今日の採寸は夕方にする予定だったのだが、なにせ時間が無いので少し早まったのだろう。
「はい、どうぞ。」
予想を軽々と上回るたくさんの女性。若い人や年配の方もいる。
あまり他人に体を触れられるのは好きでは無いが、仕方がない。そういう立場になったことを自覚しなければいけないのかもしれない。
***
疲れた。ずっと同じ体勢でいるのはとても大変だった。ふぅと息を吐き、アイスティーをかき混ぜる。
砂糖が混ざり、飲もうとコップに口をつける。
トントン、トントン、トントントントントントン・・・・・
勢いよく振り返る。その遠心力でアイスティーが溢れる。
自分でも分かるくらい目が大きくなる。
「ディオ!?」
後ろにいたのはディオルガだった。随分近くにいて、驚いた。無表情なのに、なんとなく嬉しそうだな、と思った。
「アーシャ、会いに来たよ?」
突然来たことを詫びれる様子もなく、いたって普通に言う。それでも嬉しくて、ホッとする。
「も~いつからいたの、ディオ?」
「ん、多分二、三時間前かな。寝て待ってて起きたらアーシャが帰って来てた。」
ツッコミ所が多過ぎて、それでも平然としているディオルガはすごいと思う。何があっても冷静で、的確な判断ができる。そんなディオルガはやっぱり兄のようで、尊敬する。
「でもどうやって来たの?勝手に部屋入れないはずだけど・・・」
外には護衛の人がいつも立っているし、そもそも王宮に入るにも許可が必要だったはずだ。だから、面倒で外出できなかった。
「これで普通にできた。」
ディオルガの手のひらの上には紫色の炎が揺らめいている。
「なんなのそれ?」
「よく分からないけど、アーシャだってできるでしょ?」
魔法のことだろうか。よくよく思い出すと幼い頃ディオルガと「魔法ごっこ」という遊びをしていた。
あの頃から魔法が使えたのか、と今更ながらに感心する。早く育つようにお祈りをしたら、目が出た。など、幼い子供なら簡単に信じられたのかもしれない。
そしてディオルガはかくれんぼが強かった。何度やっても見つけられないのだ。声も聞こえるし、意地悪に背中をつついたりされるのに、見つからない。最終的に泣き出してしまい、ディオルガがわざと見つかってくれる。
昔から魔法が使えた。ディオルガも使えていた。衝撃的なことを思い出し、固まってしまう。
「アーシャ?で、何か用事でもあったの?」
用事などない。ただ、会いたくなっただけ。ただ、話を聞いてほしかっただけ。側に、いてほしいだけ。
「そういうわけじゃないんだけど、ちょっと話、聞いてもらっていい?」
結局セルザイト殿下がどんな人か、から始まり、つい先日見たセルザイト殿下と女の人がキスをしているところの話まで。
全部聞いてもらった。ディオルガに聞いてもらったら、少し軽くなったような気がする。
「アーシャ、セルザイト殿下はとっても優しくて良い人だって言ってたよね?」
「うん。本当に良い人だよ。」
確かめるような口調で聞かれ、再度確認する。セルザイト殿下はすごく優しい人だ。とても真面目で、親切で優しい。
「良い人だったら、その女の人との関係をはっきりさせて、ちゃんとアーシャに話すと思うけどな。」
そうなのかもしれないけれど、セルザイト殿下の優しさから言わないのかもしれない。言えば結婚してもらえないかもしれない。それなら隠した方が良いに決まっている。
「そうかな・・・・・ねぇディオ、また来てくれる?」
「アーシャ殿、入ってもよろしいですか?」
セルザイト殿下の声だ。
「じゃあもう行くよ。」
「待ってっ。」
「セルザイト殿下、今はお客様がいらしているので、後ほどお部屋に伺います。」
もう少しディオルガといたかった。またしばらくディオルガに会えなくなる。セルザイト殿下には恋人がいるのだから、ディオルガと会うくらいは許されると思う。
毎日一緒に生活していたディオルガがいないことが、少し寂しいという気持ちもある。
「分かりました。お待ちしています。」
「早く行ってあげなよ。また来るから。」
そう言って消えてしまった。
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