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1、結婚なんてできません
私が妻でごめんなさい
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セルザイト殿下にお客さんが来ていて、今は一人。セルザイト殿下がとても親切にしてくれるから、この生活にも慣れてきた。それなのに無い物ねだりというのか、何もしない日々が退屈で、怠けているような気がする。
もう直ぐお昼の時間だし、厨房に手伝いに行こうかと思い、部屋を出る。まだ分からない場所がほとんどだが、王妃の部屋と、厨房と、図書室の場所だけは教えてもらった。
一日の大半をセルザイト殿下の私室と、綺麗にしてもらった客室にいる。今はセルザイト殿下が応接室にいるので、客室の方でのんびりと本を読んでいる。
厨房に行こうと思い、カーテンを閉めて、部屋を出る。
曲がる場所を間違えた自分が悪い。
今見た光景で記憶が止まってしまったように、ずっと頭の中で繰り返される。
セルザイト殿下が黒髪の女性の頰に手を当て、ゆっくりと唇を合わせる。それが長いものだったのか、短いものだったのか分からない。
頭がぼうっとして何も考えられない。
あんなに綺麗な人が側にいるのに、こんな自分と結婚しなければならないセルザイト殿下が可愛そうだと思った。そもそも愛す、愛さないの結婚ではないのだ。必要、不必要、の問題。セルザイト殿下は自分の想いよりも魔力を選んだ、ただそれだけ。
ついこの間まで好きだった人を今日突然嫌いになれる訳がない。
自分のせいでセルザイト殿下に辛い思いをさせてしまった。しかし、セルザイト殿下の前から消えることがセルザイト殿下にとって幸せだろうか。きっと違うだろう。
今自分にできるのはセルザイト殿下の血を引く魔力を持った子供を産んで、セルザイト殿下の本当に大切な人との時間を少しでも作ること。当然、その恋愛を引き裂くなんて論外だ。
辛くないと言ったら嘘になるが、それでセルザイト殿下を縛り付けるつもりはない。そんなことをすれば不公平だ。セルザイト殿下の恋愛と自分の恋愛では重さも意味も想いも、全然違う。けれど、自分だって恋人だっていた。恋なんて呼べるようなものではなかったけれど・・・そんなのただの言い訳かもしれない。これ以上なにを望むというのだろう。セルザイト殿下の妃にまでしてもらって、優しくしてもらって、これ以上ない生活をしているのにどれほど自分が醜いか思い知らされる。
すっかり歩き疲れ、やっと知っている廊下に出る。
なんだかとてもお腹が空いた。
***
「セルザイト殿下、手紙を出したいのですが、よろしいでしょうか?」
村にいた時の友人だ。一番親しくしていて、セルザイト殿下との結婚もその友人しか話していない。とても心配していたので、皆とても優しいと、伝えておきたかった。
「えぇ良いですよ。便箋はありますか?」
「はい。侍女の方から頂いて、もう書いてあります。」
優しい侍女の人が、可愛らしい花柄の便箋と封筒をくれた。有り余る時間を使って、早々にかけてしまった。
そろそろ料理とかしたいし、上手に出来たら侍女の人やセルザイト殿下にも食べてほしい。なにせすることが無い。勝手に外に出てはいけないし、「そのようなことをアーシャ様が」と言って何もさせてくれない。貴族の娘がドレスや宝石に夢中になるのも仕方がないのかもしれない。
「そうでしたか。では今、預かりましょう。」
暖かな笑みを浮かべるセルザイト殿下。少しは夫婦らしくなっただろうか。
手紙の入った封筒を渡す。
「ありがとうございます。」
***
アーシャ殿から預かった手紙。突然こちらへ来ることになったから、村の人に出すのだろうか。
一体誰に出すのだろうと気になり、さっき聞けば良かったと後悔した。手にある封筒を裏返すと、隅の方に小さく宛先が書いてあった。
「ディオルガ・ライキ」
いかにも男の名前だ。
なんだか胸の中が煙たくなった。
どうしようもなく、中が気になる。この男とアーシャ殿はどんな関係なのだろう。そんなことばかり考えているうちに、中を見れば分かるかもしれない。そんなふうに思い始めていた。
覗くなんて失礼だと分かってはいるが、夫なのなら見ても良いかもしれない。この男はきっと自分の知らないアーシャ殿を知っている。そう思うと余計に煙たい思いが強くなる。
今までこんなふうにむず痒く、煙たい感情になったことがない。掻きむしりたいような衝動が気持ち悪い。
気づくと手先は封筒を開け、便箋を食いつくように見つめていた。
乱雑に折って、乱暴に封筒に入れた。
奥歯を噛み締める。自分でもどうしたら良いのか分からない。
だけどアーシャ殿に対して、とても怒っていた。
夫に黙って他の男と会おうとしていた。「近いうちに、お会いしたいのですがご予定を教えてください」と書いてあった。他にも色々なことが書いてあったのかもしれないが、その辺りで読むのを辞めてしまった。
近いうち、アーシャ殿はその男と会う。
出かける時は護衛を連れて行くよう言ってあるが、アーシャ殿には魔力がある。なにかしらの魔術を使えば、二人っきりということだってあり得る。
その日の晩、セルザイトは眠れなかった。
もう直ぐお昼の時間だし、厨房に手伝いに行こうかと思い、部屋を出る。まだ分からない場所がほとんどだが、王妃の部屋と、厨房と、図書室の場所だけは教えてもらった。
一日の大半をセルザイト殿下の私室と、綺麗にしてもらった客室にいる。今はセルザイト殿下が応接室にいるので、客室の方でのんびりと本を読んでいる。
厨房に行こうと思い、カーテンを閉めて、部屋を出る。
曲がる場所を間違えた自分が悪い。
今見た光景で記憶が止まってしまったように、ずっと頭の中で繰り返される。
セルザイト殿下が黒髪の女性の頰に手を当て、ゆっくりと唇を合わせる。それが長いものだったのか、短いものだったのか分からない。
頭がぼうっとして何も考えられない。
あんなに綺麗な人が側にいるのに、こんな自分と結婚しなければならないセルザイト殿下が可愛そうだと思った。そもそも愛す、愛さないの結婚ではないのだ。必要、不必要、の問題。セルザイト殿下は自分の想いよりも魔力を選んだ、ただそれだけ。
ついこの間まで好きだった人を今日突然嫌いになれる訳がない。
自分のせいでセルザイト殿下に辛い思いをさせてしまった。しかし、セルザイト殿下の前から消えることがセルザイト殿下にとって幸せだろうか。きっと違うだろう。
今自分にできるのはセルザイト殿下の血を引く魔力を持った子供を産んで、セルザイト殿下の本当に大切な人との時間を少しでも作ること。当然、その恋愛を引き裂くなんて論外だ。
辛くないと言ったら嘘になるが、それでセルザイト殿下を縛り付けるつもりはない。そんなことをすれば不公平だ。セルザイト殿下の恋愛と自分の恋愛では重さも意味も想いも、全然違う。けれど、自分だって恋人だっていた。恋なんて呼べるようなものではなかったけれど・・・そんなのただの言い訳かもしれない。これ以上なにを望むというのだろう。セルザイト殿下の妃にまでしてもらって、優しくしてもらって、これ以上ない生活をしているのにどれほど自分が醜いか思い知らされる。
すっかり歩き疲れ、やっと知っている廊下に出る。
なんだかとてもお腹が空いた。
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「セルザイト殿下、手紙を出したいのですが、よろしいでしょうか?」
村にいた時の友人だ。一番親しくしていて、セルザイト殿下との結婚もその友人しか話していない。とても心配していたので、皆とても優しいと、伝えておきたかった。
「えぇ良いですよ。便箋はありますか?」
「はい。侍女の方から頂いて、もう書いてあります。」
優しい侍女の人が、可愛らしい花柄の便箋と封筒をくれた。有り余る時間を使って、早々にかけてしまった。
そろそろ料理とかしたいし、上手に出来たら侍女の人やセルザイト殿下にも食べてほしい。なにせすることが無い。勝手に外に出てはいけないし、「そのようなことをアーシャ様が」と言って何もさせてくれない。貴族の娘がドレスや宝石に夢中になるのも仕方がないのかもしれない。
「そうでしたか。では今、預かりましょう。」
暖かな笑みを浮かべるセルザイト殿下。少しは夫婦らしくなっただろうか。
手紙の入った封筒を渡す。
「ありがとうございます。」
***
アーシャ殿から預かった手紙。突然こちらへ来ることになったから、村の人に出すのだろうか。
一体誰に出すのだろうと気になり、さっき聞けば良かったと後悔した。手にある封筒を裏返すと、隅の方に小さく宛先が書いてあった。
「ディオルガ・ライキ」
いかにも男の名前だ。
なんだか胸の中が煙たくなった。
どうしようもなく、中が気になる。この男とアーシャ殿はどんな関係なのだろう。そんなことばかり考えているうちに、中を見れば分かるかもしれない。そんなふうに思い始めていた。
覗くなんて失礼だと分かってはいるが、夫なのなら見ても良いかもしれない。この男はきっと自分の知らないアーシャ殿を知っている。そう思うと余計に煙たい思いが強くなる。
今までこんなふうにむず痒く、煙たい感情になったことがない。掻きむしりたいような衝動が気持ち悪い。
気づくと手先は封筒を開け、便箋を食いつくように見つめていた。
乱雑に折って、乱暴に封筒に入れた。
奥歯を噛み締める。自分でもどうしたら良いのか分からない。
だけどアーシャ殿に対して、とても怒っていた。
夫に黙って他の男と会おうとしていた。「近いうちに、お会いしたいのですがご予定を教えてください」と書いてあった。他にも色々なことが書いてあったのかもしれないが、その辺りで読むのを辞めてしまった。
近いうち、アーシャ殿はその男と会う。
出かける時は護衛を連れて行くよう言ってあるが、アーシャ殿には魔力がある。なにかしらの魔術を使えば、二人っきりということだってあり得る。
その日の晩、セルザイトは眠れなかった。
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