愛し合えない夫婦です

十人 秋夜

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1、結婚なんてできません

今日から新婚生活スタート

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 慣れない場所なので、初めは眠れないかもしれないと思っていたが、疲れもあり心地好い寝台の上でゆっくりと眠ることができた。
 隣で眠るセルザイト殿下に目をやると、すやすやと規則正しい寝息を立てて眠っていた。どうやらこの突然の結婚話で、随分仕事を詰めていたそうで、徹夜することもあったそうだ。眠るセルザイト殿下の姿は、とても無防備で可愛らしく見えた。
 サラサラとした少し薄めの亜麻色の髪。透き通るような瑠璃色の瞳。整った顔立ちによく似合う。髪も目も曖昧に曇った自分とは違い、セルザイト殿下の髪や瞳は澄んでいて美しい。
 起き上がりたいのもやまやまだけれど、それで起こしてしまうのは申し訳ない。

「ん・・・」

 セルザイト殿下の眉間に皺がよる。
 起こしてしまったのだろうか。

「リネア・・・すまない・・・・・」

 誰かの夢を見ているのだろうか。辛そうなセルザイト殿下の表情。もしかしたら恋人かもしれない。少し複雑な気持ちになるが、仕方ない。自分だって将来、結婚を考えていた相手くらいいる。
 ゆっくりと開かれるまつ毛の長い目と、目が合う。
 至近距離で目が合い、無意識にドキッと胸が疼く。

「おはようございます。よく眠れましたか?」

 やはり先ほどのは単なる寝言だったのだろう。そんなことだが、やはり気になる。しかし、瑠璃色の瞳に見つめられると、そんなことどうでもよくなった。

「はい。本日はお忙しいのですか?」
 
 昨日は忙しかったようだから、今日も忙しいのかもしれない。結婚の話で更にお仕事を詰めているのだから、少し手伝えることをしたい。

「しばらく仕事はないのです。強いて言えば、アーシャ殿と仲睦まじくなるということです。」

 にこりと笑うセルザイト殿下。悪意のない爽やかな笑顔に、見惚れる。仲睦まじくなるというのはどういう意味なのだろう。

「私は着替えてきますが、アーシャ殿はここで待っていてください。もうすぐ侍女が来ますから。」

 セルザイト殿下の後ろ姿を見ると、ため息が溢れた。
 この人の隣に立つのは恥ずかしい。不釣り合いな村娘と結婚なんて、セルザイト殿下だって誰かしら影口を言いふらす人だっているだろう。それはこちらが耐えられない。

「アーシャ様、入ってもよろしいでしょうか?」

 そんなふうに呼ばれる日が来るなんて、と思いつつ「どうぞ」と言う。これが王太子妃ということなのだろうか。

「おはようございます。昨夜はよくお眠りになれましたか?」

 三人の侍女が入ってきた。三人揃って体をジロジロと見てくる。少々気まずいが、やましいことなんて一つもない。

「お先にお着替えをさせていただきますね。」

 すると、更にたくさんの人が入ってきた。それだけ萎縮してしまい、今すぐどこかに隠れてしまいたくなった。こんなにたくさんの人に肌を見られる。恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなくなった。

「本日はこのドレスでよろしいですか?明日には残りの九着も届きますし、針子を読んで仕立ててもらいますので申し訳ありません。」

 うまく理解ができないが、とりあえずこのドレスを着れば良いようだ。見せられたドレスは黄緑色に胸元は黄色いビーズで縁取られている。可愛らしいと思いつつ、きっと似合わないだろう。気を使うみんなの顔が浮かび、内心落ち込む。

 不釣り合いなドレスを着せられ、鏡を見る。

「アーシャ様、とてもお似合いです。セルザイト殿下に早く見せて差し上げたいですわ。」

「セルザイト殿下は本当にお美しい姫君を娶られましたね。」

 かなり盛られたお世辞。それでも充分嬉しかった。

「次はお髪を結わせていただきますね。」

 銀と薄い水色の中間の変な髪の色。もう少し薄かったら、と何度も思った深すぎる深緑色の瞳。セルザイト殿下とは比べ物にならない。

「髪は自分で結わせてもらえませんか?」

 綺麗に艶があったり、映える色だったら良いのだが、量が多くて燻んだ髪を他人に触れられるのはなんだか気がひける。

「そうですか・・・・分かりました。櫛とリボンを置いておきますね。では、失礼します。」

 リボンもたくさん置いてあった。色の違うもの、生地が違うもの。なんだかそれを見ているだけで、楽しくなってしまう。
 ベルベットの深緑色のリボンを選んだ。今日のドレスに合わせた色。左右に編み込みをして、後ろで一つにまとめる。なかなか上手にできたな、と鏡を見てにやにやとする。

***

 はぁとため息を吐く。服を持ってきた侍女達はジロジロと見てきたし、母からも遠回しに言ってくるだろう。他の王族がどうなのかは知らないけれど、さすがに初めて会ってその日の夜に肌を重ねるなんてしない。
 村娘と聞いていたから、もっとおてんばな感じかと思っていたが、おしとやかで謙虚な娘だった。

 それにかなり美人だ。きっと貴族の傲慢な娘と比べれば、ずっと心も顔も綺麗だと思う。
 まだ初々しさがある16歳。若いのに結婚してしまって良いのだろうかと思う。
 夫婦とは互いに欠いているところを補い合うものだと思う。しかし自分は彼女のどこを補えば良いのだろう。自分には魔力がない。彼女はそこを補って、結婚するということになった。しかし彼女は全て、持っているのかもしれない。少なくとも、自分が持っているものは全て持っているだろう。

 旦那として何ができるだろう。

***

「セルザイト殿下?」

 セルザイト殿下の部屋に入ると、セルザイト殿下は読書をしていた。本もよく似合うなと思った。

「とてもよく似合っていますよ。」

 みんなそう言ってくれるけれど、きっとドレスの方が浮いてしまっているだろう。これから先、どう生活したら良いのだろう。大きな不安と、セルザイト殿下に迷惑ばかりかけている自分に対して怒りを覚える。

「ありがとうございます。」

 セルザイト殿下の優しさに、この人のことを好きになりたいと思った。彼のことを本気で愛したいと思った。恋の仕方なんて分からないけれど、いつか彼のことを愛せるように、彼のことをたくさん知りたいと思った。

「あの、セルザイト殿下には好きな人だったり好きだった人はいないのですか?」

 別にいたって構わないけれど、さっきの「リネア」がひっかかっている。もしかしたら大切な人がいたのかもしれないと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「いませんよ?恋愛に全く興味がなかったので。」

 不思議そうな顔をして言った。そういえば王妃もそんなことを言っていた。リネアが女性とは限らないし、考えすぎなのかもしれない。

「そうなのですか?そのようなご容姿では、女性が放って置かないのでは?」

 すごく女性に人気があるだろうし、そんな女性に対してもきっと優しいのだろう。

「そんなことありませんよ。アーシャ殿はそういったお相手はいないのですか?」

 お相手、一人思い当たる人がいる。けれどきっとそういうことって言わない方が良いのだろうし、少しの間「恋人同士」という関係だっただけだ。その程度はセルザイト殿下にだったいたと思う。

「いませんよ。セルザイト殿下ほど魅力的な男性と結婚できるなんて、本当に私は幸せです。」

 住んでいた村では、孤児が多かった。自分もその孤児の一人だった。村長が孤児を見つけては連れて帰ってきて、村長の家で育ててくれていた。
 だから、セルザイト殿下のように優しい人が家族になるのがとても嬉しく、幸せだった。

 セルザイト殿下はふいと顔を背けて、とても小さな声で「朝食にしましょうか」と言った。
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