5 / 19
1、結婚なんてできません
今日から新婚生活スタート
しおりを挟む
慣れない場所なので、初めは眠れないかもしれないと思っていたが、疲れもあり心地好い寝台の上でゆっくりと眠ることができた。
隣で眠るセルザイト殿下に目をやると、すやすやと規則正しい寝息を立てて眠っていた。どうやらこの突然の結婚話で、随分仕事を詰めていたそうで、徹夜することもあったそうだ。眠るセルザイト殿下の姿は、とても無防備で可愛らしく見えた。
サラサラとした少し薄めの亜麻色の髪。透き通るような瑠璃色の瞳。整った顔立ちによく似合う。髪も目も曖昧に曇った自分とは違い、セルザイト殿下の髪や瞳は澄んでいて美しい。
起き上がりたいのもやまやまだけれど、それで起こしてしまうのは申し訳ない。
「ん・・・」
セルザイト殿下の眉間に皺がよる。
起こしてしまったのだろうか。
「リネア・・・すまない・・・・・」
誰かの夢を見ているのだろうか。辛そうなセルザイト殿下の表情。もしかしたら恋人かもしれない。少し複雑な気持ちになるが、仕方ない。自分だって将来、結婚を考えていた相手くらいいる。
ゆっくりと開かれるまつ毛の長い目と、目が合う。
至近距離で目が合い、無意識にドキッと胸が疼く。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
やはり先ほどのは単なる寝言だったのだろう。そんなことだが、やはり気になる。しかし、瑠璃色の瞳に見つめられると、そんなことどうでもよくなった。
「はい。本日はお忙しいのですか?」
昨日は忙しかったようだから、今日も忙しいのかもしれない。結婚の話で更にお仕事を詰めているのだから、少し手伝えることをしたい。
「しばらく仕事はないのです。強いて言えば、アーシャ殿と仲睦まじくなるということです。」
にこりと笑うセルザイト殿下。悪意のない爽やかな笑顔に、見惚れる。仲睦まじくなるというのはどういう意味なのだろう。
「私は着替えてきますが、アーシャ殿はここで待っていてください。もうすぐ侍女が来ますから。」
セルザイト殿下の後ろ姿を見ると、ため息が溢れた。
この人の隣に立つのは恥ずかしい。不釣り合いな村娘と結婚なんて、セルザイト殿下だって誰かしら影口を言いふらす人だっているだろう。それはこちらが耐えられない。
「アーシャ様、入ってもよろしいでしょうか?」
そんなふうに呼ばれる日が来るなんて、と思いつつ「どうぞ」と言う。これが王太子妃ということなのだろうか。
「おはようございます。昨夜はよくお眠りになれましたか?」
三人の侍女が入ってきた。三人揃って体をジロジロと見てくる。少々気まずいが、やましいことなんて一つもない。
「お先にお着替えをさせていただきますね。」
すると、更にたくさんの人が入ってきた。それだけ萎縮してしまい、今すぐどこかに隠れてしまいたくなった。こんなにたくさんの人に肌を見られる。恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなくなった。
「本日はこのドレスでよろしいですか?明日には残りの九着も届きますし、針子を読んで仕立ててもらいますので申し訳ありません。」
うまく理解ができないが、とりあえずこのドレスを着れば良いようだ。見せられたドレスは黄緑色に胸元は黄色いビーズで縁取られている。可愛らしいと思いつつ、きっと似合わないだろう。気を使うみんなの顔が浮かび、内心落ち込む。
不釣り合いなドレスを着せられ、鏡を見る。
「アーシャ様、とてもお似合いです。セルザイト殿下に早く見せて差し上げたいですわ。」
「セルザイト殿下は本当にお美しい姫君を娶られましたね。」
かなり盛られたお世辞。それでも充分嬉しかった。
「次はお髪を結わせていただきますね。」
銀と薄い水色の中間の変な髪の色。もう少し薄かったら、と何度も思った深すぎる深緑色の瞳。セルザイト殿下とは比べ物にならない。
「髪は自分で結わせてもらえませんか?」
綺麗に艶があったり、映える色だったら良いのだが、量が多くて燻んだ髪を他人に触れられるのはなんだか気がひける。
「そうですか・・・・分かりました。櫛とリボンを置いておきますね。では、失礼します。」
リボンもたくさん置いてあった。色の違うもの、生地が違うもの。なんだかそれを見ているだけで、楽しくなってしまう。
ベルベットの深緑色のリボンを選んだ。今日のドレスに合わせた色。左右に編み込みをして、後ろで一つにまとめる。なかなか上手にできたな、と鏡を見てにやにやとする。
***
はぁとため息を吐く。服を持ってきた侍女達はジロジロと見てきたし、母からも遠回しに言ってくるだろう。他の王族がどうなのかは知らないけれど、さすがに初めて会ってその日の夜に肌を重ねるなんてしない。
村娘と聞いていたから、もっとおてんばな感じかと思っていたが、おしとやかで謙虚な娘だった。
それにかなり美人だ。きっと貴族の傲慢な娘と比べれば、ずっと心も顔も綺麗だと思う。
まだ初々しさがある16歳。若いのに結婚してしまって良いのだろうかと思う。
夫婦とは互いに欠いているところを補い合うものだと思う。しかし自分は彼女のどこを補えば良いのだろう。自分には魔力がない。彼女はそこを補って、結婚するということになった。しかし彼女は全て、持っているのかもしれない。少なくとも、自分が持っているものは全て持っているだろう。
旦那として何ができるだろう。
***
「セルザイト殿下?」
セルザイト殿下の部屋に入ると、セルザイト殿下は読書をしていた。本もよく似合うなと思った。
「とてもよく似合っていますよ。」
みんなそう言ってくれるけれど、きっとドレスの方が浮いてしまっているだろう。これから先、どう生活したら良いのだろう。大きな不安と、セルザイト殿下に迷惑ばかりかけている自分に対して怒りを覚える。
「ありがとうございます。」
セルザイト殿下の優しさに、この人のことを好きになりたいと思った。彼のことを本気で愛したいと思った。恋の仕方なんて分からないけれど、いつか彼のことを愛せるように、彼のことをたくさん知りたいと思った。
「あの、セルザイト殿下には好きな人だったり好きだった人はいないのですか?」
別にいたって構わないけれど、さっきの「リネア」がひっかかっている。もしかしたら大切な人がいたのかもしれないと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「いませんよ?恋愛に全く興味がなかったので。」
不思議そうな顔をして言った。そういえば王妃もそんなことを言っていた。リネアが女性とは限らないし、考えすぎなのかもしれない。
「そうなのですか?そのようなご容姿では、女性が放って置かないのでは?」
すごく女性に人気があるだろうし、そんな女性に対してもきっと優しいのだろう。
「そんなことありませんよ。アーシャ殿はそういったお相手はいないのですか?」
お相手、一人思い当たる人がいる。けれどきっとそういうことって言わない方が良いのだろうし、少しの間「恋人同士」という関係だっただけだ。その程度はセルザイト殿下にだったいたと思う。
「いませんよ。セルザイト殿下ほど魅力的な男性と結婚できるなんて、本当に私は幸せです。」
住んでいた村では、孤児が多かった。自分もその孤児の一人だった。村長が孤児を見つけては連れて帰ってきて、村長の家で育ててくれていた。
だから、セルザイト殿下のように優しい人が家族になるのがとても嬉しく、幸せだった。
セルザイト殿下はふいと顔を背けて、とても小さな声で「朝食にしましょうか」と言った。
隣で眠るセルザイト殿下に目をやると、すやすやと規則正しい寝息を立てて眠っていた。どうやらこの突然の結婚話で、随分仕事を詰めていたそうで、徹夜することもあったそうだ。眠るセルザイト殿下の姿は、とても無防備で可愛らしく見えた。
サラサラとした少し薄めの亜麻色の髪。透き通るような瑠璃色の瞳。整った顔立ちによく似合う。髪も目も曖昧に曇った自分とは違い、セルザイト殿下の髪や瞳は澄んでいて美しい。
起き上がりたいのもやまやまだけれど、それで起こしてしまうのは申し訳ない。
「ん・・・」
セルザイト殿下の眉間に皺がよる。
起こしてしまったのだろうか。
「リネア・・・すまない・・・・・」
誰かの夢を見ているのだろうか。辛そうなセルザイト殿下の表情。もしかしたら恋人かもしれない。少し複雑な気持ちになるが、仕方ない。自分だって将来、結婚を考えていた相手くらいいる。
ゆっくりと開かれるまつ毛の長い目と、目が合う。
至近距離で目が合い、無意識にドキッと胸が疼く。
「おはようございます。よく眠れましたか?」
やはり先ほどのは単なる寝言だったのだろう。そんなことだが、やはり気になる。しかし、瑠璃色の瞳に見つめられると、そんなことどうでもよくなった。
「はい。本日はお忙しいのですか?」
昨日は忙しかったようだから、今日も忙しいのかもしれない。結婚の話で更にお仕事を詰めているのだから、少し手伝えることをしたい。
「しばらく仕事はないのです。強いて言えば、アーシャ殿と仲睦まじくなるということです。」
にこりと笑うセルザイト殿下。悪意のない爽やかな笑顔に、見惚れる。仲睦まじくなるというのはどういう意味なのだろう。
「私は着替えてきますが、アーシャ殿はここで待っていてください。もうすぐ侍女が来ますから。」
セルザイト殿下の後ろ姿を見ると、ため息が溢れた。
この人の隣に立つのは恥ずかしい。不釣り合いな村娘と結婚なんて、セルザイト殿下だって誰かしら影口を言いふらす人だっているだろう。それはこちらが耐えられない。
「アーシャ様、入ってもよろしいでしょうか?」
そんなふうに呼ばれる日が来るなんて、と思いつつ「どうぞ」と言う。これが王太子妃ということなのだろうか。
「おはようございます。昨夜はよくお眠りになれましたか?」
三人の侍女が入ってきた。三人揃って体をジロジロと見てくる。少々気まずいが、やましいことなんて一つもない。
「お先にお着替えをさせていただきますね。」
すると、更にたくさんの人が入ってきた。それだけ萎縮してしまい、今すぐどこかに隠れてしまいたくなった。こんなにたくさんの人に肌を見られる。恥ずかしくて恥ずかしくてたまらなくなった。
「本日はこのドレスでよろしいですか?明日には残りの九着も届きますし、針子を読んで仕立ててもらいますので申し訳ありません。」
うまく理解ができないが、とりあえずこのドレスを着れば良いようだ。見せられたドレスは黄緑色に胸元は黄色いビーズで縁取られている。可愛らしいと思いつつ、きっと似合わないだろう。気を使うみんなの顔が浮かび、内心落ち込む。
不釣り合いなドレスを着せられ、鏡を見る。
「アーシャ様、とてもお似合いです。セルザイト殿下に早く見せて差し上げたいですわ。」
「セルザイト殿下は本当にお美しい姫君を娶られましたね。」
かなり盛られたお世辞。それでも充分嬉しかった。
「次はお髪を結わせていただきますね。」
銀と薄い水色の中間の変な髪の色。もう少し薄かったら、と何度も思った深すぎる深緑色の瞳。セルザイト殿下とは比べ物にならない。
「髪は自分で結わせてもらえませんか?」
綺麗に艶があったり、映える色だったら良いのだが、量が多くて燻んだ髪を他人に触れられるのはなんだか気がひける。
「そうですか・・・・分かりました。櫛とリボンを置いておきますね。では、失礼します。」
リボンもたくさん置いてあった。色の違うもの、生地が違うもの。なんだかそれを見ているだけで、楽しくなってしまう。
ベルベットの深緑色のリボンを選んだ。今日のドレスに合わせた色。左右に編み込みをして、後ろで一つにまとめる。なかなか上手にできたな、と鏡を見てにやにやとする。
***
はぁとため息を吐く。服を持ってきた侍女達はジロジロと見てきたし、母からも遠回しに言ってくるだろう。他の王族がどうなのかは知らないけれど、さすがに初めて会ってその日の夜に肌を重ねるなんてしない。
村娘と聞いていたから、もっとおてんばな感じかと思っていたが、おしとやかで謙虚な娘だった。
それにかなり美人だ。きっと貴族の傲慢な娘と比べれば、ずっと心も顔も綺麗だと思う。
まだ初々しさがある16歳。若いのに結婚してしまって良いのだろうかと思う。
夫婦とは互いに欠いているところを補い合うものだと思う。しかし自分は彼女のどこを補えば良いのだろう。自分には魔力がない。彼女はそこを補って、結婚するということになった。しかし彼女は全て、持っているのかもしれない。少なくとも、自分が持っているものは全て持っているだろう。
旦那として何ができるだろう。
***
「セルザイト殿下?」
セルザイト殿下の部屋に入ると、セルザイト殿下は読書をしていた。本もよく似合うなと思った。
「とてもよく似合っていますよ。」
みんなそう言ってくれるけれど、きっとドレスの方が浮いてしまっているだろう。これから先、どう生活したら良いのだろう。大きな不安と、セルザイト殿下に迷惑ばかりかけている自分に対して怒りを覚える。
「ありがとうございます。」
セルザイト殿下の優しさに、この人のことを好きになりたいと思った。彼のことを本気で愛したいと思った。恋の仕方なんて分からないけれど、いつか彼のことを愛せるように、彼のことをたくさん知りたいと思った。
「あの、セルザイト殿下には好きな人だったり好きだった人はいないのですか?」
別にいたって構わないけれど、さっきの「リネア」がひっかかっている。もしかしたら大切な人がいたのかもしれないと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「いませんよ?恋愛に全く興味がなかったので。」
不思議そうな顔をして言った。そういえば王妃もそんなことを言っていた。リネアが女性とは限らないし、考えすぎなのかもしれない。
「そうなのですか?そのようなご容姿では、女性が放って置かないのでは?」
すごく女性に人気があるだろうし、そんな女性に対してもきっと優しいのだろう。
「そんなことありませんよ。アーシャ殿はそういったお相手はいないのですか?」
お相手、一人思い当たる人がいる。けれどきっとそういうことって言わない方が良いのだろうし、少しの間「恋人同士」という関係だっただけだ。その程度はセルザイト殿下にだったいたと思う。
「いませんよ。セルザイト殿下ほど魅力的な男性と結婚できるなんて、本当に私は幸せです。」
住んでいた村では、孤児が多かった。自分もその孤児の一人だった。村長が孤児を見つけては連れて帰ってきて、村長の家で育ててくれていた。
だから、セルザイト殿下のように優しい人が家族になるのがとても嬉しく、幸せだった。
セルザイト殿下はふいと顔を背けて、とても小さな声で「朝食にしましょうか」と言った。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。
その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。
そこで待っていたのは、最悪の出来事――
けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。
夫は愛人と共に好きに生きればいい。
今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。
でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。
妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。
過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜
日々埋没。
ファンタジー
「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」
かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。
その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。
レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。
地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。
「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」
新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。
一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。
やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。
レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる