愛し合えない夫婦です

十人 秋夜

文字の大きさ
7 / 19
2、愛情なんて不要?

寂しいんだもの

しおりを挟む
 何気の満喫できている生活。退屈だったが、今は侍女のみんなの勧めで繕い物や刺繍をしている。もともと裁縫は得意だったので、なにもしないよりは楽しい。
 
 変わったことと言えば、セルザイト殿下の態度だろう。離れ過ぎず、近づき過ぎない距離でいるつもりだったが、セルザイト殿下はやたらと壁を作って質問にもあやふやな回答ばかり。なんだか、避けられているというか、放って置かれるていると思う。それで構わない。きっとあの女性だってセルザイト殿下が自分とあまり親しくすると、良い気はしないだろう。
 そろそろ村の友人、ディオルガに書いた手紙の返事も届くだろう。
 
 ディオルガはたくさんの人から好かれる明るい性格だ。感覚としては兄のような感じだが、関係性としては元恋人。元、と言ってもセルザイト殿下との結婚が無ければ、ディオルガと結婚していただろう。あんなに優しいディオルガは、ほとんど感情がない。両親から受けた虐待により、身体中に痣や、火傷の跡がある。そんなディオルガも自分には「本当の感情」を教えたり、見せてくれたりする。ディオルガと恋人になる経緯は、いたって単純だった。「一緒にいてあげたいから」暖かな笑みを浮かべて言った。そして「一緒にいてくれる人がいるなら」と言って送り出してくれた。
 そんなディオルガに会いたくなった。たった一人「家族」と呼べる存在に会いたいと思った。

「アーシャ様、お身体の採寸をさせていただきたいのですが、よろしいですか? 」

 ここのところ式の準備がとてつもない速さで進んでいる。そして式の後に行われる晩餐会の準備も同時進行である。色はセルザイト殿下が決めてくれるそうだ。今日の採寸は夕方にする予定だったのだが、なにせ時間が無いので少し早まったのだろう。

「はい、どうぞ。」

 予想を軽々と上回るたくさんの女性。若い人や年配の方もいる。
 あまり他人に体を触れられるのは好きでは無いが、仕方がない。そういう立場になったことを自覚しなければいけないのかもしれない。

***

 疲れた。ずっと同じ体勢でいるのはとても大変だった。ふぅと息を吐き、アイスティーをかき混ぜる。
 砂糖が混ざり、飲もうとコップに口をつける。

 トントン、トントン、トントントントントントン・・・・・

 勢いよく振り返る。その遠心力でアイスティーが溢れる。
 自分でも分かるくらい目が大きくなる。

「ディオ!?」

 後ろにいたのはディオルガだった。随分近くにいて、驚いた。無表情なのに、なんとなく嬉しそうだな、と思った。

「アーシャ、会いに来たよ?」

 突然来たことを詫びれる様子もなく、いたって普通に言う。それでも嬉しくて、ホッとする。

「も~いつからいたの、ディオ?」

「ん、多分二、三時間前かな。寝て待ってて起きたらアーシャが帰って来てた。」

 ツッコミ所が多過ぎて、それでも平然としているディオルガはすごいと思う。何があっても冷静で、的確な判断ができる。そんなディオルガはやっぱり兄のようで、尊敬する。

「でもどうやって来たの?勝手に部屋入れないはずだけど・・・」

 外には護衛の人がいつも立っているし、そもそも王宮に入るにも許可が必要だったはずだ。だから、面倒で外出できなかった。

「これで普通にできた。」

 ディオルガの手のひらの上には紫色の炎が揺らめいている。

「なんなのそれ?」

「よく分からないけど、アーシャだってできるでしょ?」

 魔法のことだろうか。よくよく思い出すと幼い頃ディオルガと「魔法ごっこ」という遊びをしていた。
 あの頃から魔法が使えたのか、と今更ながらに感心する。早く育つようにお祈りをしたら、目が出た。など、幼い子供なら簡単に信じられたのかもしれない。
 そしてディオルガはかくれんぼが強かった。何度やっても見つけられないのだ。声も聞こえるし、意地悪に背中をつついたりされるのに、見つからない。最終的に泣き出してしまい、ディオルガがわざと見つかってくれる。

 昔から魔法が使えた。ディオルガも使えていた。衝撃的なことを思い出し、固まってしまう。

「アーシャ?で、何か用事でもあったの?」
 
 用事などない。ただ、会いたくなっただけ。ただ、話を聞いてほしかっただけ。側に、いてほしいだけ。

「そういうわけじゃないんだけど、ちょっと話、聞いてもらっていい?」

 結局セルザイト殿下がどんな人か、から始まり、つい先日見たセルザイト殿下と女の人がキスをしているところの話まで。
 全部聞いてもらった。ディオルガに聞いてもらったら、少し軽くなったような気がする。

「アーシャ、セルザイト殿下はとっても優しくて良い人だって言ってたよね?」

「うん。本当に良い人だよ。」

 確かめるような口調で聞かれ、再度確認する。セルザイト殿下はすごく優しい人だ。とても真面目で、親切で優しい。

「良い人だったら、その女の人との関係をはっきりさせて、ちゃんとアーシャに話すと思うけどな。」

 そうなのかもしれないけれど、セルザイト殿下の優しさから言わないのかもしれない。言えば結婚してもらえないかもしれない。それなら隠した方が良いに決まっている。

「そうかな・・・・・ねぇディオ、また来てくれる?」

「アーシャ殿、入ってもよろしいですか?」

 セルザイト殿下の声だ。 

「じゃあもう行くよ。」

「待ってっ。」

「セルザイト殿下、今はお客様がいらしているので、後ほどお部屋に伺います。」

 もう少しディオルガといたかった。またしばらくディオルガに会えなくなる。セルザイト殿下には恋人がいるのだから、ディオルガと会うくらいは許されると思う。
 毎日一緒に生活していたディオルガがいないことが、少し寂しいという気持ちもある。

「分かりました。お待ちしています。」

「早く行ってあげなよ。また来るから。」

 そう言って消えてしまった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【1話完結】あなたの恋人は毎夜わたしのベッドで寝てますよ。

ariya
ファンタジー
ソフィア・ラテットは、婚約者アレックスから疎まれていた。 彼の傍らには、いつも愛らしい恋人リリアンヌ。 婚約者の立場として注意しても、アレックスは聞く耳を持たない。 そして迎えた学園卒業パーティー。 ソフィアは公衆の面前で婚約破棄を言い渡される。 ガッツポーズを決めるリリアンヌ。 そのままアレックスに飛び込むかと思いきや―― 彼女が抱きついた先は、ソフィアだった。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱え、離縁を突きつけ、家を出た。 そこで待っていたのは、最悪の出来事―― けれど同時に、人生の扉がひらく瞬間でもあった。 夫は愛人と共に好きに生きればいい。 今さら「本当に愛していたのは君だ」と言われても、裏切ったあなたを許すことはできない。 でも、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 過去を悔いながらも、愛を手に入れることを決めた彼女が辿り着いた先には――

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約していました~

marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」 「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」 私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。 暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。 彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。 それなのに……。 やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。 ※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。 ※イメージが伝わればと思い、表紙画像をAI生成してみました。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

あなたが決めたことよ

アーエル
恋愛
その日は私の誕生日パーティーの三日前のことでした。 前触れもなく「婚約の話は無かったことにしよう」と言われたのです。 ‪✰他社でも公開

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

処理中です...