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第二部 バンドー皇国編 3章
178.旅の目的の消失
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オーシュー王国王都
「これは…大変な事になりましたね…。」
バンドーに放っていた斥候がもたらした情報にセリカは絶句する。カムリ領での事後処理も一段落し、王都に帰還した途端の出来事だった。
「あらあら、カズト君達、とんでもない時期にバンドーに向かったものね。」
クスクスと可笑しそうに笑う摂政コロナ。
「コロナ様!笑い事ではありません!カズ君達、大丈夫でしょうか…」
「心配はいらんのではないか?あの2人がどうにかなるなど想像もつかないよ。」
心配でたまらないといった風のサニーとあっけらかんとしたグロリア。
「陛下、これはまた国境付近に軍を展開させた方がいいのでは?」
ソアラがセリカに進言する。
「そうですね。アコード団長とアクセル隊長、それにローレルとガイアに召集を掛けて下さい。今後の対応を練りましょう。」
???
「全くとんでもない化け物じゃったわい。まさかこのワシがあの距離で気付かれておったとはな…」
「ふふふ、あんたも耄碌したんじゃないのかい?」
「ふん、抜かしよるわ。それにしても、あのような化け物にマトが保護されたとあってはこれからは随分と難儀になるぞい。」
ある山小屋。小柄な老人が手傷を負い、それを手当しているのは妖艶な色香を隠そうともしない年増の女。
「正直こんな国がどうなろうが知ったこっちゃないが、拾ってもらった分の恩は返さないとねぇ。もしどうにもならないなら逃げちまえばいいのさ。」
「さて…アレを相手にして逃げ切れるかのぉ…」
◇◇◇
「あんたらさあ、そういう身分はもっと秘密にした方がいいぜ?俺達が悪人だったらどうすんの?」
俺は今頭を抱えている。もちろん今しがた助けた『爆弾』のせいだ。
「それで、あんた達はなんで狙われてたんだ?」
「それは…その…」
一応、双子の皇女に理由を聞いてみたが、 ふん、言えないってか。まあそれならそれで。
「あ、そう。まぁ、俺達も無理に聞くつもりも無いし積極的に関わる理由もない。それじゃあ行こう、ライム。」
「うん、それじゃあ、後はよろしくねー!」
「まっ、待たれよ!」
護衛の女の1人が立ちふさがる。
「……」
「貴殿らの腕を見込んでお願いしたい!どうか姫様の護衛をして頂けないだろうか!?」
「理由も聞かずに黙って護衛しろって?バカを言うな。」
「報酬なら必ず!」
「落ち延びて来た姫様に報酬が払えるとも思えないし、さっきから言ってるだろ。訳も分からずに依頼なんか受けられるか。それに理由を知りすぎた奴が後で権力者に消されるなんてのはよくある話だしな。どっちみち俺達にメリットはないだろう?」
「…分かりました。無理を言ってしまい申し訳ありませんでした。あなたの言われる通り、今の私達にはお支払い出来る報酬もございません。命の恩人に対し何も報いる事が出来ず…ごめんなさい…」
こっちはジュリアだったか?正直まだ見分けが付かないんだけど。姫さん達は個人的には好感が持てる人柄だと思う。
「私達はオーシューのセリカ女王陛下とエツリアのサーブ国王陛下にお会いする為にここまで逃げて来ました。」
「ジュリエッタ!!」
「いいえお姉様!ここは駆け引き無しで全てを曝け出して懇願すべきではないでしょうか!?」
いきなり核心に触れようとしたジュリエッタを姉のジュリアが咎めるが、見たところこの姉妹は崖っぷちだ。俺は妹の意見に賛成だな。
「…話すつもりが有るなら聞こう。」
「はぁ…確かにそうですね。すみません、少しお時間を頂戴致します。私達の護衛についてはお話の後で判断なさって下さい。」
ライムは全て俺の判断に任せるつもりなのか、ビートとじゃれている。
「そもそも我がバンドー皇国は皇帝の下に政治と軍務を司る組織が明確に別れています。政治は貴族が、軍務は御家人と呼ばれる武家が。貴族の殆どは皇都に居を構えており、逆に御家人は国内各地に領地を与えられています。」
「少し前までは貴族も御家人達も強硬派が殆どで周辺諸国に水面下で工作を仕掛けていましたがオーシューの内乱後、情勢が変わりました。」
「……」
「エツリアは明確に親オーシューの立場を表明し、オーシューに至っては一個人の強大な武力を敢えて見せつける事で逆に我が国の戦意を削ぎ落しました。」
「それを受けて貴族達は軒並み和平派へと乗り換え、我が父も和平をよしとする旨を表明しようとしたのですが…」
「御家人達の頂点に立つ将軍職にある者がそれをよしとせずに和平派を追い落としに掛かったのです。もともと御家人にとっては貴族は目障りだったのでしょう。これを好機とばかりに。」
なるほど、王女達は和平派で隣国の王に助けを求めるつもりだった訳か。でもなぁ…
「あんた達はバンドーが隣国に何をして来たか分かっててそれでも助けを求めに行くってのか?」
「はい。謝罪ならいくらでもしますしこの首が望みならば差し出す覚悟です。あなた方もこの国の民を見たでしょう?救いたいのです。折角訪れた和平の機会なのです!ここを逃したら…」
「なるほどな。確かに周辺国家からすればバンドーが軍事国家になっていくのは都合が悪い。そこに付け込むって事だな?」
「はい。言い方は悪いですがその通りです。」
「話は分かった。だが、俺達はおそらくあんた達の敵だ。」
「え!?」
「俺の名はカズト。あっちのはライム。セリカに召喚された異世界人だ。」
「「な!?」」
「俺達はな。今までいろいろやらかしてくれたこの国の皇帝に謝らせるために旅をしてるんだよ。さて、どうする?」
俺達の正体を聞いて絶句する双子姉妹。しかし立ち直りは意外なほど早かった。
「これは好都合です。ジュリエッタ。あなたは何としてもサーブ王に会うのです。私はここでカズト様にこの首を。」
「お姉様!それならば私が!」
麗しい姉妹愛だが俺は首なんていらないっての。
「あいにく、俺は美少女の生首なんて要らない。欲しいのは皇帝の謝罪とオーシューにちょっかいを出さないって言う確約だ。」
「申し訳ありませんがそれは叶いません…」
「ん?」
「父上は…暗殺されました…」
なんだぁ!?マジかよ… 俺達がわざわざバンドーまで来た目的が…
「これは…大変な事になりましたね…。」
バンドーに放っていた斥候がもたらした情報にセリカは絶句する。カムリ領での事後処理も一段落し、王都に帰還した途端の出来事だった。
「あらあら、カズト君達、とんでもない時期にバンドーに向かったものね。」
クスクスと可笑しそうに笑う摂政コロナ。
「コロナ様!笑い事ではありません!カズ君達、大丈夫でしょうか…」
「心配はいらんのではないか?あの2人がどうにかなるなど想像もつかないよ。」
心配でたまらないといった風のサニーとあっけらかんとしたグロリア。
「陛下、これはまた国境付近に軍を展開させた方がいいのでは?」
ソアラがセリカに進言する。
「そうですね。アコード団長とアクセル隊長、それにローレルとガイアに召集を掛けて下さい。今後の対応を練りましょう。」
???
「全くとんでもない化け物じゃったわい。まさかこのワシがあの距離で気付かれておったとはな…」
「ふふふ、あんたも耄碌したんじゃないのかい?」
「ふん、抜かしよるわ。それにしても、あのような化け物にマトが保護されたとあってはこれからは随分と難儀になるぞい。」
ある山小屋。小柄な老人が手傷を負い、それを手当しているのは妖艶な色香を隠そうともしない年増の女。
「正直こんな国がどうなろうが知ったこっちゃないが、拾ってもらった分の恩は返さないとねぇ。もしどうにもならないなら逃げちまえばいいのさ。」
「さて…アレを相手にして逃げ切れるかのぉ…」
◇◇◇
「あんたらさあ、そういう身分はもっと秘密にした方がいいぜ?俺達が悪人だったらどうすんの?」
俺は今頭を抱えている。もちろん今しがた助けた『爆弾』のせいだ。
「それで、あんた達はなんで狙われてたんだ?」
「それは…その…」
一応、双子の皇女に理由を聞いてみたが、 ふん、言えないってか。まあそれならそれで。
「あ、そう。まぁ、俺達も無理に聞くつもりも無いし積極的に関わる理由もない。それじゃあ行こう、ライム。」
「うん、それじゃあ、後はよろしくねー!」
「まっ、待たれよ!」
護衛の女の1人が立ちふさがる。
「……」
「貴殿らの腕を見込んでお願いしたい!どうか姫様の護衛をして頂けないだろうか!?」
「理由も聞かずに黙って護衛しろって?バカを言うな。」
「報酬なら必ず!」
「落ち延びて来た姫様に報酬が払えるとも思えないし、さっきから言ってるだろ。訳も分からずに依頼なんか受けられるか。それに理由を知りすぎた奴が後で権力者に消されるなんてのはよくある話だしな。どっちみち俺達にメリットはないだろう?」
「…分かりました。無理を言ってしまい申し訳ありませんでした。あなたの言われる通り、今の私達にはお支払い出来る報酬もございません。命の恩人に対し何も報いる事が出来ず…ごめんなさい…」
こっちはジュリアだったか?正直まだ見分けが付かないんだけど。姫さん達は個人的には好感が持てる人柄だと思う。
「私達はオーシューのセリカ女王陛下とエツリアのサーブ国王陛下にお会いする為にここまで逃げて来ました。」
「ジュリエッタ!!」
「いいえお姉様!ここは駆け引き無しで全てを曝け出して懇願すべきではないでしょうか!?」
いきなり核心に触れようとしたジュリエッタを姉のジュリアが咎めるが、見たところこの姉妹は崖っぷちだ。俺は妹の意見に賛成だな。
「…話すつもりが有るなら聞こう。」
「はぁ…確かにそうですね。すみません、少しお時間を頂戴致します。私達の護衛についてはお話の後で判断なさって下さい。」
ライムは全て俺の判断に任せるつもりなのか、ビートとじゃれている。
「そもそも我がバンドー皇国は皇帝の下に政治と軍務を司る組織が明確に別れています。政治は貴族が、軍務は御家人と呼ばれる武家が。貴族の殆どは皇都に居を構えており、逆に御家人は国内各地に領地を与えられています。」
「少し前までは貴族も御家人達も強硬派が殆どで周辺諸国に水面下で工作を仕掛けていましたがオーシューの内乱後、情勢が変わりました。」
「……」
「エツリアは明確に親オーシューの立場を表明し、オーシューに至っては一個人の強大な武力を敢えて見せつける事で逆に我が国の戦意を削ぎ落しました。」
「それを受けて貴族達は軒並み和平派へと乗り換え、我が父も和平をよしとする旨を表明しようとしたのですが…」
「御家人達の頂点に立つ将軍職にある者がそれをよしとせずに和平派を追い落としに掛かったのです。もともと御家人にとっては貴族は目障りだったのでしょう。これを好機とばかりに。」
なるほど、王女達は和平派で隣国の王に助けを求めるつもりだった訳か。でもなぁ…
「あんた達はバンドーが隣国に何をして来たか分かっててそれでも助けを求めに行くってのか?」
「はい。謝罪ならいくらでもしますしこの首が望みならば差し出す覚悟です。あなた方もこの国の民を見たでしょう?救いたいのです。折角訪れた和平の機会なのです!ここを逃したら…」
「なるほどな。確かに周辺国家からすればバンドーが軍事国家になっていくのは都合が悪い。そこに付け込むって事だな?」
「はい。言い方は悪いですがその通りです。」
「話は分かった。だが、俺達はおそらくあんた達の敵だ。」
「え!?」
「俺の名はカズト。あっちのはライム。セリカに召喚された異世界人だ。」
「「な!?」」
「俺達はな。今までいろいろやらかしてくれたこの国の皇帝に謝らせるために旅をしてるんだよ。さて、どうする?」
俺達の正体を聞いて絶句する双子姉妹。しかし立ち直りは意外なほど早かった。
「これは好都合です。ジュリエッタ。あなたは何としてもサーブ王に会うのです。私はここでカズト様にこの首を。」
「お姉様!それならば私が!」
麗しい姉妹愛だが俺は首なんていらないっての。
「あいにく、俺は美少女の生首なんて要らない。欲しいのは皇帝の謝罪とオーシューにちょっかいを出さないって言う確約だ。」
「申し訳ありませんがそれは叶いません…」
「ん?」
「父上は…暗殺されました…」
なんだぁ!?マジかよ… 俺達がわざわざバンドーまで来た目的が…
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