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第五章
ナルヴィク 5 カイトの浮気疑惑 後編
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「なぜ横に座るの?」
向かい側に座ると思ったのに――
ぷいっと横を向く。
「逃げられたら困りますし、心理学的に横に座ったほうが話しがしやすいんです」
「シンリガク・・・?」
「すいません、前世での話しです。私から話しますか? それともリリアーナ様から」
「カ、カイトはシンシア様が好きなの!?」
「・・・誤解を受けたとは思いましたが、いきなり`好き ‘ まで飛ぶのですか?」
「じゃあ、何でこんな時間にシンシア様の部屋にいたの? それに秘密にしていたし、シンシア様は美人で優秀でリュートも上手に弾けるのよ!」
我慢してきた思いが爆発して泣き出してしまった。何だか支離滅裂だ。子供みたいで情けなくなる。カイトはリリアーナを胸に抱き寄せようとしたが、リリアーナが抵抗したので、ハンカチを渡すだけにした。
「私はシンシア様を人としてその人間性を好ましく思いますが、恋愛対象として見てはいません。私が好きなのはリリアーナ様です」
リリアーナはまだ疑いの目で見ている。
「じゃあ、何でシンシア様の部屋にいたの? それに、男の人は皆浮気するって」
カイトは苦笑した。
「後の質問は関係ないような気がしますが・・・皆浮気する訳ではありませんし、私にとって一番の女性が目の前にいるのに、他に目はいきません」
リリアーナは少し紅くなり、顔を下に向けた。
「シンシア様の部屋にいたのは、これを頼んでいたからです」
カイトはリリアーナの目の前で小さい箱を取り出す。蓋を開けると中からは金のリングが現れた。それは精緻(せいち)を極めた細工が施(ほどこ)してあり、リリアアーナの誕生石(七月です)であるルビーが嵌め込まれている。
「それは・・・」
「はい、マリッジリングです。金の細工で有名なナルヴィクで注文したくて、前に二日続けて休んだ日に足を運んでフルオーダー(デザインの注文から全てオーダーしてリングを仕上げる)したんです」
「わざわざナルヴィクで?」
「特別なリングですから。その時にはシンシア様の夜会でナルヴィクに来ることは決まっていたので、その際に受け取れるよう交渉したのですが、間に合わないと言われてしまい困っておりました。そこでちょうどお忍びでいらしていたシンシア様にお会いしたのです。シンシア様のお口添えで間に合わせることができた上に、お城まで届けてもらえました」
「じゃあ、さっきのメモはそれを知らせるために?」
「リングが届いたので取りにくるようにと」
「でも、こんな遅くに部屋に呼ばなくても」
「それは・・・私に相談したい事があるとおっしゃってました。昼間だと人目につくし、相談したことを周りに知られたくないとも」
「二人きりで?」
「あの場には、侍女と、シンシア様の乳母もいました。さすがに男性と二人きりではまずかろうと」
「そうだったの・・・」
穴があったら入りたい・・・
「何の・・・相談だったの?」
「アレクセイ様とのことです。夕食の時に、シンシア様はよく溜息を吐いていらっしゃいましたが、私に相談するべきかどうか、その時は思い悩んでいらしたそうです」
「そうだったの・・・」
カイトがまた苦笑した。
「『そうだったの』ばかりですね」
「だって・・・私、勝手に勘違いをして、皆にも心配かけたし・・・わたし」
カイトのキスで口を塞(ふさ)がれた。一度顔を僅かに離す。
「もう抱きしめてもよろしいですか?」
頷く途中で抱きしめられた。カイトは`やっと ‘ というように溜息を吐く。
「お願いですから、二度といきなり消えないで下さい。特に外は駄目です・・・連れ去られたらどうなさるおつもりですか?」
「せっかく仲直りしたのに、お説教をするの?」
「そうです。大事な事ですから・・・そう、大事な事といえば」
カイトは思いついたように身を起こし、肩を軽く掴むとリリアーナを自分からソファの背に寄りかからせ変えた。
「少し遅くなってしまいましたが・・・」
目の前に跪き、そして指輪の入った箱を差し出す。
「リリアーナ様、私と結婚して下さい。一生お守りする事を誓います。貴方がいない人生を考える事はもうできません」
突然のことに紅くなり、少し恥かしくてつい口にしてしまった。
「嬉しいけど・・・少し大袈裟じゃないかしら?」
「いえ、本当です。出会ってしまったから・・・この先、リリアーナ様がいない日々を私は生きていけないでしょう」
カイトは普段とてもクールに見える。自分に対しても感情をあまり見せない。だから意外な言葉であった。自分が言うなら分かるが、カイトの口から出たのが不思議で自然と次の言葉が出た。
「もし私が断ったらどうするの?」
一瞬カイトの自分を見る目が独占欲で剥 (む) き出しになった。すぐにいつもの目に戻ったが、リリアーナは背筋がゾクリとした。そしてそれが嫌ではない、むしろ嬉しい自分に気付く。
「その時は、国王陛下に申し上げた通り、リリアーナ様付きの騎士の座も、騎士団も辞するつもりです」
カイトは少し気持ちを落ち着けるように横を向いた。
「ごめんなさい変な事を聞いて、ただ意外だったから。私も同じ、カイトがいない人生は考えられない・・・喜んでお受けします」
若干ほっとしたように見える。
「指に嵌めてもよろしいですか?」
頷くと、左手の薬指に嵌めてくれた。左手を上げてまじまじと見る。
「とても綺麗・・・サイズもぴったり。ありがとうカイト――」
心の底から嬉しそうな笑顔は、ぱっと花が咲いたようだ。カイトは立ち上がると、リリアーナも立ち上がらせた。そのままぎゅっと抱きしめられる。
リリアーナの華奢 (きゃしゃ) な顎を捉え、カイトが身を屈めてきた。
唇が触れるか触れないかで囁 (ささや) かれる。
「気が遠くなるほどくちづけてもよろしいですか?」
「気を失うのは少し・・・困る・・・」
「それは難しいですね」
貪 (むさぼ) るようにくちづけられた
フランチェスカは気を失ってはいないが、ゆでだこのように真っ赤になったリリアーナを受け取ることとなる。
#この作品における表現、文章、言葉、またそれらが持つ雰囲気の転用はご遠慮下さい。
クリボー様 お褒めの言葉をありがとうございます。どちらになるか楽しんで下さい。(^◇^)
向かい側に座ると思ったのに――
ぷいっと横を向く。
「逃げられたら困りますし、心理学的に横に座ったほうが話しがしやすいんです」
「シンリガク・・・?」
「すいません、前世での話しです。私から話しますか? それともリリアーナ様から」
「カ、カイトはシンシア様が好きなの!?」
「・・・誤解を受けたとは思いましたが、いきなり`好き ‘ まで飛ぶのですか?」
「じゃあ、何でこんな時間にシンシア様の部屋にいたの? それに秘密にしていたし、シンシア様は美人で優秀でリュートも上手に弾けるのよ!」
我慢してきた思いが爆発して泣き出してしまった。何だか支離滅裂だ。子供みたいで情けなくなる。カイトはリリアーナを胸に抱き寄せようとしたが、リリアーナが抵抗したので、ハンカチを渡すだけにした。
「私はシンシア様を人としてその人間性を好ましく思いますが、恋愛対象として見てはいません。私が好きなのはリリアーナ様です」
リリアーナはまだ疑いの目で見ている。
「じゃあ、何でシンシア様の部屋にいたの? それに、男の人は皆浮気するって」
カイトは苦笑した。
「後の質問は関係ないような気がしますが・・・皆浮気する訳ではありませんし、私にとって一番の女性が目の前にいるのに、他に目はいきません」
リリアーナは少し紅くなり、顔を下に向けた。
「シンシア様の部屋にいたのは、これを頼んでいたからです」
カイトはリリアーナの目の前で小さい箱を取り出す。蓋を開けると中からは金のリングが現れた。それは精緻(せいち)を極めた細工が施(ほどこ)してあり、リリアアーナの誕生石(七月です)であるルビーが嵌め込まれている。
「それは・・・」
「はい、マリッジリングです。金の細工で有名なナルヴィクで注文したくて、前に二日続けて休んだ日に足を運んでフルオーダー(デザインの注文から全てオーダーしてリングを仕上げる)したんです」
「わざわざナルヴィクで?」
「特別なリングですから。その時にはシンシア様の夜会でナルヴィクに来ることは決まっていたので、その際に受け取れるよう交渉したのですが、間に合わないと言われてしまい困っておりました。そこでちょうどお忍びでいらしていたシンシア様にお会いしたのです。シンシア様のお口添えで間に合わせることができた上に、お城まで届けてもらえました」
「じゃあ、さっきのメモはそれを知らせるために?」
「リングが届いたので取りにくるようにと」
「でも、こんな遅くに部屋に呼ばなくても」
「それは・・・私に相談したい事があるとおっしゃってました。昼間だと人目につくし、相談したことを周りに知られたくないとも」
「二人きりで?」
「あの場には、侍女と、シンシア様の乳母もいました。さすがに男性と二人きりではまずかろうと」
「そうだったの・・・」
穴があったら入りたい・・・
「何の・・・相談だったの?」
「アレクセイ様とのことです。夕食の時に、シンシア様はよく溜息を吐いていらっしゃいましたが、私に相談するべきかどうか、その時は思い悩んでいらしたそうです」
「そうだったの・・・」
カイトがまた苦笑した。
「『そうだったの』ばかりですね」
「だって・・・私、勝手に勘違いをして、皆にも心配かけたし・・・わたし」
カイトのキスで口を塞(ふさ)がれた。一度顔を僅かに離す。
「もう抱きしめてもよろしいですか?」
頷く途中で抱きしめられた。カイトは`やっと ‘ というように溜息を吐く。
「お願いですから、二度といきなり消えないで下さい。特に外は駄目です・・・連れ去られたらどうなさるおつもりですか?」
「せっかく仲直りしたのに、お説教をするの?」
「そうです。大事な事ですから・・・そう、大事な事といえば」
カイトは思いついたように身を起こし、肩を軽く掴むとリリアーナを自分からソファの背に寄りかからせ変えた。
「少し遅くなってしまいましたが・・・」
目の前に跪き、そして指輪の入った箱を差し出す。
「リリアーナ様、私と結婚して下さい。一生お守りする事を誓います。貴方がいない人生を考える事はもうできません」
突然のことに紅くなり、少し恥かしくてつい口にしてしまった。
「嬉しいけど・・・少し大袈裟じゃないかしら?」
「いえ、本当です。出会ってしまったから・・・この先、リリアーナ様がいない日々を私は生きていけないでしょう」
カイトは普段とてもクールに見える。自分に対しても感情をあまり見せない。だから意外な言葉であった。自分が言うなら分かるが、カイトの口から出たのが不思議で自然と次の言葉が出た。
「もし私が断ったらどうするの?」
一瞬カイトの自分を見る目が独占欲で剥 (む) き出しになった。すぐにいつもの目に戻ったが、リリアーナは背筋がゾクリとした。そしてそれが嫌ではない、むしろ嬉しい自分に気付く。
「その時は、国王陛下に申し上げた通り、リリアーナ様付きの騎士の座も、騎士団も辞するつもりです」
カイトは少し気持ちを落ち着けるように横を向いた。
「ごめんなさい変な事を聞いて、ただ意外だったから。私も同じ、カイトがいない人生は考えられない・・・喜んでお受けします」
若干ほっとしたように見える。
「指に嵌めてもよろしいですか?」
頷くと、左手の薬指に嵌めてくれた。左手を上げてまじまじと見る。
「とても綺麗・・・サイズもぴったり。ありがとうカイト――」
心の底から嬉しそうな笑顔は、ぱっと花が咲いたようだ。カイトは立ち上がると、リリアーナも立ち上がらせた。そのままぎゅっと抱きしめられる。
リリアーナの華奢 (きゃしゃ) な顎を捉え、カイトが身を屈めてきた。
唇が触れるか触れないかで囁 (ささや) かれる。
「気が遠くなるほどくちづけてもよろしいですか?」
「気を失うのは少し・・・困る・・・」
「それは難しいですね」
貪 (むさぼ) るようにくちづけられた
フランチェスカは気を失ってはいないが、ゆでだこのように真っ赤になったリリアーナを受け取ることとなる。
#この作品における表現、文章、言葉、またそれらが持つ雰囲気の転用はご遠慮下さい。
クリボー様 お褒めの言葉をありがとうございます。どちらになるか楽しんで下さい。(^◇^)
応援ありがとうございます!
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