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10話

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 加賀美浩介と姫川麻里は、個人訓練をしてるだけあって、中々の動きだった。
 特に姫川麻里の浄化の力は、賞賛に値すると思う。
 瘴気は、人の身体に害を与えると言われている。昔、瘴気を体内に取り込みすぎて魔物に変化した人もいたらしい。
 姫川麻里が胸の前で手を組み、何かを祈りを捧げる度に、穢れた空気が浄化されていく。多くの騎士達が、その光景に魅入っていた。
 しかし、悠理は違った。それ以上に目を見張る奴がいたのだ。

 ……イケメン王子ことルイ王子である。

「悠理!! 後方から魔物が来るよ!」

「は、はい!!」

 ルイ王子はそこらの騎士よりも剣術に長けており、魔物の攻撃が悠理に届く前にその息の根を止めていた。
 
「殿下、流石です!!」

 レオン君がルイ王子を賞賛する。
 レオン君も中々いい動きをするのだが、ルイ王子の方が僅かに早い。

 ……いやいや、おかしすぎるでしょう。どうして、一国の王子様がこんなにも強いわけ? 普通、ロイトさんやレオン君達に守られているような存在でしょう。
 もしかして……こんなに強いから簡単に王達達の了承を得られたのか。納得せざるを得ない。

「……それにしても流石聖職者だな。瘴気がみるみる浄化れていく」

「浄化の力って凄いのですね……私にも出来るのかな……」

「え? 悠理が浄化の力を?」

 ルイ王子が不思議そうに問いかけてくる。

「あ、いえ……その、もし出来たらルイの役に立てるのになあって」

「ふふ、今の悠理でも十分役に立っているよ」

 満面の笑みを浮かべてルイ王子はそう言った。

 ……これを無自覚にやっているんだと思うと、なんて恐ろしい人なんだ。

「あ、ありがとうございます」

 悠理は、若干頬を染めながらそう言った。

「おいおい、お前らもイチャイチャしやがって。一応言っておくが、ここは危険地帯だからな!!」

 ロイトさんが声を荒げる。

「イ、イチャイチャなんてしてません!」

「どうだか……」

 ロイトさんの目がいつもよりも鋭いのは気のせいでしょうか?
 本当にイチャイチャなんてしてませんから!! てか、その前にルイとはそんな関係ではありません!

 それから悠理達は、順調に魔の森の奥へ奥へと進んでいった。


◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ 


 魔の森に入って、三時間ほど経っただろうか?
 悠理は未だに魔物を討伐することなく、ルイ王子を始めとする護衛隊(ロイトさん、レオン君達)に守られていた。

 分かってますよ……でもね、私も魔法は使えるんですよ! それも全属性! 少しぐらい皆の役に立ちたいのにこれは酷くないですか!! 

 怪我人は出るだろうと思っていたのだが、皆さんかなりお強いらしく、擦り傷や切り傷程度で済んでいるのだとか。

「今日はユウリがいるからかな? いつもより調子がいい気がする」

「ユウリ殿のおかげかは分かりませんが、確かにいつもより身体が軽い気がします」

 ルイ王子とレオン君が、何の根拠もないのに悠理を褒める。

 いやいや、そんなわけないでしょう。

 悠理は久しぶりに『ステータス』を開いてみた。

『ステータス』

【名前】ユウリ シノノメ
【職業】聖女
【スキル】
 ・全属性魔法
 ・加護付与
【加護】
 ・女神の加護

 何ッ!? 加護付与だと!? 
 その前に加護付与って何?

 そう思った瞬間、目の前にウィンドウが飛び出してくる。

【加護付与】
 発動者の味方だと思われる者に、一定期間、加護(中)が付与される。

 おお! なんと分かりやすい説明なんだ……っていつの間にスキルが増えているのよ!

「ユウリ? 難しい顔をして、どうしたの?」

 ルイ王子が心配そうな顔をして尋ねてくる。

「な、何でもないわ。ねえルイ、後方が少し騒がしい気がするんだけど?」

「え?」

 悠理は指摘され、ルイ王子は後方に目を向ける。
 悠理は、何かがこちらに向かって走ってきているような気がした。それも人では何かが……。

「あ、あれはッ! 白狼だ!! それもかなり大きい!! 何でこんなところに……ユウリ、走るよ!」

「へ?」

 ルイ王子は、悠理の手首を掴み、走り出す。

「レオン!! 悠理を安全な場所に逃すから時間稼ぎを頼む!!」

「はい!!」

 ルイ王子に命令され、レオン君はこちらに向かってくる白狼と合間見える……が、何故かその白狼はレオン君を無視し、こちらに走ってくる。

 何でこっちに来るのよ! せっかくレオン君が相手してあげるって言っているのに!!

「何故……もしや……」

 ルイ王子は走りながら悠理に目を向ける。

 走っているのに、どうしてルイは息が乱れていないのよ!

「ハアハア……ん、どうしたの?」

「……あの白狼の狙いは悠理かもしれない」

「う、嘘……」

 悠理とルイ王子は、ひたすら森の中を走った。

「ち、なんて諦めの悪い狼なんだ!」

 そうなんです。十分間近く、白狼と追いかけっこしているんです。もうヘトヘトです。ちなみにルイ王子が自分と悠理の足に補正をかけ、走るスピードを早くしているため、白狼に追いつかれる心配はないです。
 でもね……体力がそろそろ限界です。

 それから少し走っただろうか、突然視界が開けた。
 そして、悠理達の前に立ちはだかったのは谷。谷底には大きな川が流れているようで、水が流れる音が聞こえる。

「ここまでか……ユウリ、ごめんね」

「え?」

 悠理は、突然ルイ王子に抱きしめられる。

 白狼が迫ってきているというのにこの人は何をしているんですか!!

 そう抗議しようとした瞬間、悠理はなんともいえない浮遊感に襲われる。

「う、嘘でしょう~~!!」

 なんとルイ王子が悠理をきつく抱きしめ、谷底の川めがけて飛び落ちたのである。



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 更新遅れてしまい、すみません。
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