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★閑話7(視点:闇に溺れる者)
しおりを挟む何がいけなかった?
何が私の引き金となった?
それはすべて、私を愛してくれないあの方のせいよ。
私ではない女に、愛情を注いだあの方が悪かったの。私は何一つ悪くない。
ただあの方に愛して欲しかっただけだったの……。
それは一目惚れだった。一目見たときからあの方の妃になりたいと願った。
それは簡単だった。私はすぐに王妃の座を与えられた。
私は満足していた。あの女の存在を知るまでは……。
あの方の隣には、一人の美しい女がいた。
二人は嬉しそうに微笑み、女の膨れたお腹を愛おしそうに撫でいた。
どうして? どうしてその女なの!!
私を愛していてくれたから、王妃の座を与えてくれたんじゃないの!?
その頃から私は少しずつ狂い始めた。
妊娠中の女を抱けるはずのないあの方を、誘惑した。
王妃である私を蔑ろにすることもできなかったのか、あの方は渋々といったように私を抱いた。
それだけで私の心は満足だった。
あの方が私を抱きながら、あの女の名前を呼ぶまでは……。
どうして私の名前を呼んでくれないの? 私はこんなにもあなたを愛しているというのに……。
それから間もなくして私は妊娠した。自分のお腹の中にあの方の子供がいる。
とても愛しい。
これであの方に愛してもらえると私は信じていた。
それをまたしてもあの女が邪魔してきた。
明らかに膨れた女のお腹を、あの方は優しい手つきで撫でる。そして、あの女に優しく言う。
「可愛い君に似た子がいいな」と。
すると、女は嬉しそうに微笑みながら言った。
「私はディオスに似た優しい男の子がいいな」と。
あの方は、愛おしそうに女の頬に口付けた。
許せなかった。私の持っていないものを持っているあの女が……。
すると、誰かが私に呼びかけた。
「邪魔者は、殺せばいいのよ」と。
殺す? そうだわ、邪魔者は殺せばいいの。
でもただ殺すだけではダメだわ。私のことを苦しめた分だけ、苦しんで死んでもらわないと気が済まない。
それから私は妊娠中の女をことあるごとに呼び出した。
そして、いじめた。
長時間冷たい廊下で待たせてみたり、わざとあの女のドレスの裾を踏んで転ばせてみたり、などなど。
妊娠中の女にとっては辛いことばかりを。
ふふ、言い様だわ。
自分の身の程を弁えず、あの方の寵愛を得たからよ。
女は苦しみながらこの世を去った。
そして私はまた闇に取り憑かれる。
しかし、女はこの世に自分の忘れ形見を置いていった。
それがあの王子。
恐ろしいぐらいあの女に似た王子だった。
邪魔者(女)を消したはずなのに、まだ私の邪魔をするというの!!
私はあの王子を殺したくて堪らなかった。
でも、流石の私も妊娠中で、何もすることができなかった。
あの方は、妊娠中の私の部屋を一度だけ訪れた。
てっきりあの方が、私に愛を囁きにきたのだと思った。
しかし、それは違った。
「お前がイルーナを殺したんだ! 私はお前が憎い!!」
あの方はそう言って、私の部屋から出ていった。
どうしてあの女じゃなくて私を愛してくれないのよ!!
どうして……私を見てくれないの……。
絶望する私に、また誰かが呼びかける。
「それなら奪えばいい。お前が愛した男が作ったものを全てを奪えばいい。そうすればあの男はお前のものになる」と。
……そうか、全て奪えばいいのね。
そうすれば自ずとあの方が私のものになる。
だって、私があの方の全てを持っているのだから!!
それが私の引き金となった。
そして、私は闇に堕ちた。
あの方の全てを手に入れるために……。
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