異世界ライフは前途洋々

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53.バイト探し

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 バザール2日目は開店直後から忙しく、昼過ぎには店の前で席の空きを待つ人まで現れた。昨日は裏方だったレオンさんが見かねて少し手伝ってくれたが、親子連れの小さな女の子に怖いと泣かれて奥へ引っ込んだ。

 ちょっと落ち込んでたので後でフォローしようと思いますが…彼に熱視線を送る女性客から離れた事にほっとしてしまったのは私だけの秘密です。

 ランチもケーキも昨日を上回るハイペースで売れた。ランチは何とか足りたが、ケーキは多めに用意したにも関わらずまた翌日分を前倒しで投入することになり、酒場が始まる16時を待たずしてsold-outとなった。



 やっと一息つく暇ができ、奥でコーヒーを飲む。

「読みが甘かったな…ここまで忙しくなるとは思わなかったよ」
「…そうだな。一日や二日ならこれでも良いが、あと3日ある事を考えると何か対策を考えた方がよさそうだぜ?」
「対策…バイトを雇うって手はあるけど、経験者じゃないと却って効率が悪くなると思う」
「経験者か…」

 私も2人の会話を聞きながら考えているが思いつかない。

「「「…」」」

 全員無言になってしまった時、店の方から聞き覚えのある声がした。

「「「売り切れ!?そんなぁ~…」」」

 息ピッタリの大きな声の主は…

「三つ子…」

 そう、デルタの森で会った三つ子君だった。sold-outの張り紙を見てガックリと項垂れている彼らを見てレオンさんが呟く。

「あいつら…確かこないだギルドの酒場でバイトしてたぜ?」
「そっか、ギルドの宿に…」

 うんうん、私もハイミルで手伝ったな…って、ちょっと待った。経験者!

「「いた!」」

 立ち上がろうとしていた私とエヴァさんは同時に声を上げた。











「…という訳なんだ。アルバイト、頼まれてくれないかな?」

 三つ子をカウンターに座らせてコーヒーを出し、バイトの話を持ち掛けたエヴァさんの表情は笑顔なのに何だか怖い。

「バイト代はちゃんと払うよ」

 その言葉に顔を見合わせる3人。うんっ、と頷きあってから1人が言った。

「バイト代、現金じゃないのでお願いできますか?」
「…現金じゃなく?物によるけど…」
「ケーキ付きの賄いと!」
「レオハーヴェンさんの剣術指南!」
「が良いです!」

 ビシッと姿勢を正して声を張り上げる三つ子。それを聞いたレオンさんが立って来て3人を睨む。

「てめえらはイチイチ声がでけえんだよ」
「「「す、すいません…」」」
「レオン、どうする?」
「ちょっと見てやるくらいなら良いぜ」
「君たちはそれで良い?」
「「「はい!」」」

 こうして三つ子のアルバイトが決定した。そうそう、スノウは疲れて眠ってしまいました。




 明日からでも良かったのだが『今からやります!』と張り切っていたので早速手伝ってもらう事に。念のために、とエヴァさんに頼まれて3人を裏で洗浄、乾燥し、予備として複製しておいたハンチングとエプロンを着けてもらう。彼らの身長は私と同じくらいなので、エヴァさんとレオンさん用に作ったロングタイプだとすっごく長い。今日のところはショートを着けた子だけにウエイターを頼み、後の2人は奥でエヴァさんの助手をしてもらう。

 夜の部の酒場は、16時を回った途端冒険者が次々とやって来てあっという間に席が埋まった。

 三つ子の事を知っている者が『何でてめえらがキラちゃんと一緒に働いてんだ!?』と凄んで声を荒げたり…他の人も『キラちゃんお酌してよぉ』と猫なで声を出したり、グラスを置く時に私の手を触ろうとしたり…。何だかハイミルの酒場と似たような事になりそうだな、と思った所でレオンさん登場。私と代わってウエイターを始め、各テーブルに無言の威圧をかけて回った。

 冒険者達は瞬時に静まって大人しくお酒を飲みだす。そして彼らが帰る時、代金を受け取ったエヴァさんが『2度目はないからね』と微笑んで声をかける。目が全く笑っていない氷の微笑に、文字通り震えながら店を出ていった。

 それからポツポツと常連さんが来店し始め、店は漸く落ち着いた雰囲気を取り戻した。

「昨日は魚だったから今日は肉系がいいなぁ、何かオススメある?」
「お肉ならローストホーン(ローストビーフ)はいかがですか?」
「おぉ、いいね。じゃあそれちょうだい」
「かしこまりました」

 頭を下げて戻り、調理場にいるエヴァさんに伝える。

「ローストホーンお願いします」
「はいよ」

 彼が鮮やかな手つきで肉をスライスして盛り付けるのを眺め、出来たものを運ぶ。

「お待たせしました、どうぞ」
「ありがとうキラちゃん」

 お礼を言ってくれたお客さんと笑顔を交わすと、別のお客さんが支払いを済ませて帰るところだ。

「ご馳走さん」
「ありがとうございました」

 出入口方を向いて挨拶すると、すれ違いで誰かが入ってきた。

「いらっしゃいませ」
「よお、バザールに初出店したっつーから来てみたぞ」

 やって来たのはデルタの森でご一緒した鍛冶屋さんたち3人だった。彼らは普段からエヴァさんの酒場に来ていたそうでもちろんレオンさんとも顔見知り。その上カトラリーを作るのに炉を借りたりもしたのだから大変お世話になっている方たちです。

 カウンターに並んで座った彼らは2人と挨拶を交わし、三つ子にも気が付いて声をかける。それぞれオススメやいつものを頼んで陽気にお酒を楽しむ。そのうちお客さんは彼らだけになった。

「いやぁ、新メニューも美味いな。さすがエヴァ」
「さすがといえばレオンだって。見ろよこのフォーク、うちの炉でレオンが作ったんだぞ」
「おぉ、これか。…う~ん…すげえな…」
「んだな、見事な形だべ。それにこの文字もちょいと目を引くなや」
「そうだな、店の名が入るだけで随分印象が変わるもんだ。レオンの考えか?」
「いや、それはキラが考えたんだ」

 レオンさんの答えを聞いて一斉に私の方を見る鍛冶屋さんたち。

「キラちゃんすげえな」
「うん、凄え。おっ、同じ文字がエプロンとかにも入ってる」
「へえ、色々考えるもんだ。店の名前を印象付けるにゃ良い手だな」
「でしょう?エプロンと帽子作りも文字の刺繍も、全部キラがやったんですよ」

 エヴァさんが嬉しそうにそう言うと、皆感嘆の息を漏らした。

「美人で強くて裁縫やら刺繍まで出来て…」
「それだけじゃねえぞ、キラちゃんは料理も上手い」
「何で知ってんだ?」
「レオンが工房に来てた時よ、彼女が作った弁当持って来てたんだ」
「へえ」

 うぅ…自分で聞くには恥ずかしい話になってきましたよ。

「キレイに出来ててよ、一口くれって何度言っても絶対くれなかった」
「まあ、レオンの気持ちはわかるべ」
「だよな。それにお前、いつも食堂でおれと昼飯食ってたじゃねえか」
「だってすげえ美味そうだったんだ。でさ、最終日にとうとう食わせてくれて…食ったことない味だったけど美味かったぞ~」

 ノリノリで話す鍛冶屋さんたちに、とても嬉しそうなエヴァさんとレオンさん。三つ子も興味津々といった感じで聞いている。

 私は羞恥から逃げるようにスノウの様子を見に奥へと行った。

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