異世界から花嫁を攫ってきました

戸をノックする音がした。
「誰だ、悠里か？紀藤か？」
「紀藤です優也様、この度は鳳凰の間での儀式お疲れ様でした」
紀藤が戸越に話しかけてきた。
「・・・」
そろそろお時間ですが・・・」
「分かったすぐ行く」
紀藤が鳳凰のままで迎えに来た。
（珍しい、何かあったか？）
紀藤が迎えに寝室に来ることが珍しかった。
「もう、行ってしまうんですか？」
フォンが寂しそうな表情で優也を見上げている。
（う、上目遣い・・・）
フォンは自覚がない。
自分が可愛くて美しい事を知らないのだ。
初めあった時は薄汚れて分からなかったが、フォンは稀に見る美少女だったのだ。
そんな表情をされたらそれだけで押し倒して行為に及びたくなる。
しかし、紀藤が待っているので優也は我慢した。
「ああ、だがなるべく早くお前の所に行くよ」
頭を撫でてやったそうすると少し安心したように微笑んだ。
（なるべくはやくフォンの所へ戻ってこよう）
「フォン様、お迎えに上がりました。一緒に部屋へ戻りましょう」
「はい」
タイミングよく悠里もやってきた。
悠里にはまだ心を開いていないらしく声と表情が硬い。
紀藤にはまだ怯えている感じがする。
暫く”お披露目の儀”は出来そうにない。
この人間不信と怯えをどうにかしないといけないと身支度しながら優也は思った。

「フォン様を本当に王妃になさるおつもりですか？それにあんなに小さい子を抱いたんですか？」
「・・・」
自分の後ろからそのようなことを言われ、振り返らない者などいないだろう。
優也は足を止め振り返りながら言った。
「俺は本気だ。あの娘以外嫌だ。それに体は小さくてもちゃんと抱けたぞ」
「結城様は小さい娘が好みだったんですね・・・」
「人をロリコンみたいに言うな！！体は成熟した女性そのものだった」
「今回結城様が人獣を連れてきたことが王家と貴族の間でもう話題になっています」
「・・・相変わらずうるさい奴らだな」
（人獣のどこが悪い。俺から見れば王族や貴族の方がよっぽど金に群がる獣に見えるがな）
「面倒なことになりそうだな」
「面倒ごとを起こすのはいつも優也様ではないですか」
・・・相変わらず嫌なことをさらりと紀藤だった。
だが飾らずに本音でぶつかってくるので優也は紀藤といると楽しい。
紀藤は媚びへつらうような男ではない。
いつだってこんな感じで接してくる。
さぁ、今回の件どうするか・・・。
「紀藤は今回の王妃の件賛成か反対か」
「今更聞きますか！？」
紀藤ははっきり言った。
「反対です！！」
「何故だ？」
「・・・人獣だからです。彼女もあなたの母上と同じ目に合うかもしれません」
「？」
紀藤は昔あった事を話した。
美優への数々の嫌がらせ。
しかも今回は人獣。
国民はきっと受け入れてくれるだろうが王族たちは違うだろう。
紀藤はその心配をしていたのだった。
「そうか、ならば全力で守らねばならないな」
紀藤の話を聞いてもフォンを王妃にすることをもう決めている優也の意思は揺るがなかった。

「フォン様、お薬をお持ちしましたよ。出てきてください」
フォンは悠里と二人きりになることも怖かった。
ふぅっとため息をついてフォンが登っている木を見つけ、降りてくるように説得した。
しかしフォンは降りることを拒んだ。
説得を諦めた悠里はひらりと木に登り、持ってきた薬を手渡した。
そして一言いい残し去って行こうとした。
「そんなに怯えないでください。本当に何もしませんから」
そう言いながらフォンの頭を軽くなでた。
その一言を聞いてフォンは叫んだ。
「悠里さんすみません！あの、本当に怖くて・・・」
「私がですか？」
「いいえ、人間がです」
「ここの人たちが優しいことはもうわかっています。本能的に逃げてしまうんです」
「少しずつ人に慣れていかないといけませんね」
悠里は優しくそう語りかけた。
フォンも分かってはいるのだがつい怯え、逃げてしまう。
（・・・じゃあ、どうして私、優也様なら平気なんだろう）
フォンは不思議に思った。
だが精神が未熟なフォンはそれが恋をしているからとは気付けないでいた。
（はやく優也様に会いたい。また頭を撫でてもらいたい）
フォンはそんな事を考えていた。