種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖痕回収編

燃え盛る悪夢

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――バルが壁を抜けた先は、想像以上の光景が広がっていた。


ゴォオオオオオオオオオッ――!!


「……はっ……?」


裏庭に出ると燃え盛る侯爵家の屋敷と焼け野原と化した庭だけが広がっており、バルは自分が悪夢の世界にでも迷い込んだのかと本気で思い込んだが、間違いなく炎に炙られて感じる「熱」は本物だった。辺りを見渡しても、一面が炎で囲まれており、バルは煙で目と喉がやられない様に抑えるが、獣人であるために人よりも遥かに優れた五感が仇となる。


「げほっ!!げほっ……!!くそ、どうなってるんだい……!?何が起きた!?」


あれほどの警備兵と魔術師、さらには王国直属の騎士団の姿も無く、あるのは燃え盛る建物と凄まじく燃え盛る火炎のみ。牢獄内の建物は幸い飛び火はしていないが、このままでは時間の問題だろう。バルは逃げることを忘れ、慌てて中に居る青年たちを助け出そうと魔方陣に目を向けるが、


「……そんな……!?」


またもや魔方陣が消散しており、内側から青年達に消されたのか、それともこの炎によって血液で描いた魔方陣その物が既に蒸発してしまったのかは分からないが、どちらにしろ新しく魔方陣を書く猶予はバルには残されていなかった。


ドォオオオオオンッ!!


「うわっ!?」


屋敷内に激しい爆発が発生し、爆風が周囲に広がる。武器庫にでも保管されている火薬にまで炎が燃え広がったのかと思ったが、今は確認している暇などない。何が起きているのかは不明、それでも自分が死地に追い込まれている状況なのは間違いない。このまま焼野原の中を駆け抜けるか、それとも牢獄内に戻るか、選択肢は2つのみ。


(迷う必要はないねぇっ!!)


仮にここが自分の人生の死地だとしても、死ぬのならば牢獄内で囚われている青年たち「家族」と共に焼け死ぬことを決意し、バルは牢獄の出入口に向かおうとした時、


「――見つけたぞ」


ドスッ!!


「……があぁっ……!?」


突如として、背中に強烈な激痛が走り、振り返るとそこには薙刀を構えた「ダークエルフ」が、彼女に向けて振り下ろしていた。バルは激痛で地面に転がり込み、しかし、瞬時に体勢を立て直して振り返る。これでも以前は戦場の第一線で戦っていた身であり、その動きは素早い。


「なかなか良い反応だ……と、言いたいところだが……気付くのが遅すぎる」
「……っ……あんたは……誰だい!?」


このダークエルフが間違いなく、先ほどの伝令兵が伝えていた侯爵家に正々堂々と真正面から侵入したという「化け物」であり、既に他の人間達は彼女の手によって葬り去られた可能性が高い。一目見ただけでダークエルフが放つ荒ぶる炎の魔力を感じ取り、バルはより最悪な状況に陥ったことだけは理解した。

武器は回収され、2度の「壁抜け」の魔方陣のせいで魔力は切れかかり、このまま戦ったとしても勝機は無い。既に周囲は焼野原のため、逃げ場すらない。


「……お前「達」に聞きたいことがある」
「……達……?」


自分がまとめている「黒猫(ブラックキャット)」の事を指しているのかと思っただ、どうやら違うようだ。

ダークエルフは薙刀を振るい、それだけで凄まじい風圧が発生し、周囲の炎を振り払う。単純な身体能力や武力だけでも、彼女は自分よりも遥か先に居ると判断し、バルは舌打ちをする。真面に戦っても勝ち目は無い。まあ、万全の状態で戦ったとしても勝機は無いのだろうが。


「お前らの組織の「長」は何処だ……?」
「長……まさか、あんた……!?」


ここでバルはダークエルフが探し求めているのは自分たちの事ではなく、嘗てバルが所属していた「ある組織」のボスを探している事に気が付く。彼を探しているのは間違いないが、バルは口が裂けても彼の事を話すことは出来ない。それは彼女以外の組織の人間達も同じである。自分たちは「話せない」ようにされたのだ。


「……どうやら知っているようだな。だが、他の奴等同様に話せないと……」
「くっ……あんた、あいつに会って何をしようって言うんだい!?」
「ふむっ……」


バルの質問に彼女は考え込む素振りを見せ、



「――復讐だ。奴を見つけるまで、お前たちを追い詰める」



――馬鹿かこの女は!?



バルの脳裏にそんな考えが浮かぶ。バルを見つけ出すために王国貴族であるハナムラ侯爵家を焼き討ちし、数多くの王国騎士団を葬るという行為を犯したことは「バルトロス王国」を敵に回したということだ。六種族の中でも最も規模が大きく、そして最強と言われる王国を相手に彼女は躊躇なく喧嘩を撃った形になる。

しかし、眼の前のダークエルフは特にふざけた様子は無く、黙って無表情で腰を抜かしたバルを見下ろすだけだった。


「さて……奴は何処だ?」
「くっ……言えないってのは知ってるんだろ!?私達は……!!」
「黙れ……死に急ぐか?」


ビュンッ!


薙刀を構えられ、バルは息を飲む。今までに幾度も魔物や王国の兵士たちとの戦闘を繰り広げ、それなりの修羅場を乗り越えたが、ここまでの「殺意」は感じ取ったことは無い。


「お前に尋ねても答えられないというのであれば、他の奴等に聞いてみようか……そこの牢獄に隠れている餓鬼どもにでも」
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