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第二部 バンドー皇国編 3章

199.ライムの異名とカズトの野暮用。

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 ランとチェロの所まで戻るとそこにはビートが待っていた。

 【お帰りなさいませ、カズト様。】

 「なんだよビート。お前もこいつと来れば良かったのに。」

 親指でエスプリを指さしながら言う。

 【そんな無粋な真似はしませんわ。だってカズト様はライムの特効薬ですもの。ほら、もう憑き物が落ちたような顔をしてましてよ?】

 ライムはと言えばにへ~と締まらない顔で俺の腕にしがみ付いている。

 【ライム。もう少し表情を引き締めてチェロに騎乗なさい。街の皆が待っていますわよ?】

 「え…? どうして?私は…」

 ライムがまた表情を曇らせる。

 【ソレイユの7人が熱弁を振るいましてね。稚拙ですが魂を奮わせる演説でしたわ。】

 「あの7人が……」

 【そもそも街の人があなたに抱いた感情は確かに『おそれ』。でもそれは『恐怖』ではなく『畏怖』。マイナスばかりではないでしょう?】

 ライムとしては信じられない話を聞かされているので今一つビートの話を飲み込めていないようだ。

 【これは少々女のプライドが邪魔をして話したくは無い事だったのですが…凱旋した時のライム。貴方の姿は全身血化粧を施した凄絶な美しさがありましたわ。神々しさすら感じる程の。私が気圧される程に。】

 へえ、そりゃ一目見たかったな。

 【ご主人様。そういう事は言葉にした方が乙女は喜びます。】

 おわ!サンタナ?

 【ご主人様。そういう事は言葉にした方が乙女は喜びます。】

 わかった!わかったって!

 「あー、らいむ。おれもひとめみたかったなー。」

 「何その無理矢理言わされてる感丸出しの棒読み…」

 ジト目が四方から飛んでくる。

 「でもまあ、カズにぃがそう思ってくれてるのはホントなんだよね。どうせサンタナ様に『ご主人様。そういう事は言葉にした方が乙女は喜びます』とか言われたんでしょ。」

 エスパーか。

 【それでライム。貴方には異名が付きましたの。街の人は畏怖を込めてこう呼んでいますのよ。『血粧姫けっしょうき』と。】
 
 ふふっ、カッコいいじゃねえの。「血化粧した姫」か。

 「…カズにぃ…私戻りたくないかも。」

 この後ライムをなだめすかして何とか街に戻る。どうせならハデに行っちまえって事でサンタナとアクアも現出させて同行させた。もちろん正規の精霊王の姿で。

 出迎えの観衆は声も出ない。俺達一行の威光の前に平伏している者すらいる。そんな出迎えの中に代官の姿を見つけた。なんでアンタも平伏してるんだよ。

 「代官殿!それに街のみんな!間もなくジュリア皇女殿下が援軍を率いて到着される!出迎えの準備を!」

 俺のその一言で突然街全体が騒がしくなる。俺はランから降り代官の側まで行って耳打ちする。

 「あとは任せた。盛大に出迎えて領民の士気を上げてくれ。それから、ジュリエッタの方はエツリアの援軍を領都で出迎える予定だ。今後は二方面作戦になると思ってくれ。」

 「うむ、承知した。悪いが殿下の事もお主たちの事もプロパガンダにさせて貰おう。」

 代官が悪い笑みを浮かべる。

 「程々に頼むよ。あ、そういえば近隣の領主の反応はどうなってるんだ?恐らくセリカはヤシューの領内を、別動隊はヒタチの領内を通過する公算が高いんだが。」

 「今回の戦の終始を詳しく流そうと思う。」

 ああ、なるほど。天秤を一気にこっちに傾けるのね。

 「よろしく頼むよ。俺は少し野暮用がある。」

 「うむ。任された。殿下の出迎えには同席してくれい。」

 間に合えば、な。



 
 俺は街から出て少し歩き、立ち止まる。索敵には赤い点が2つ。付かず離れず付いて来る。

 「用があるなら出て来いよ。」
 
 立ち止まってそう言うと、急激に赤い反応が離れていく。今度は逃がさないよ?

 奴らの逃げ道を塞ぐようにマジックミサイルを絶え間なくお見舞いしてやる。赤い点は動くに動けないのだろう。停止したままだ。

 「待って!待っておくれよ!」

 「イタタタタ…全く、年寄はもっと大事に扱わんかい…」

 観念したのか2人が両手を上げて姿を現した。もっとも反応は赤いままだしどんな状況になろうと一つ二つ隠し玉は持っているのが忍者と言うものだ。そう、気配の隠し方や尾行の仕方が素人じゃない。この時点でユキと戦っていた日本人だと当たりを付けている。

 「小柄な髭の爺さんとお色気の年増…か。なるほど。『飛び加藤』と『歩き巫女』か。」

 無抵抗を装っていたが突然殺気を剥き出しにしてきた。

 「小僧…なぜその名を…うお!」

 最後まで言わせずにマジックミサイルを叩き込む。

 「ちっ!可愛い顔して容赦がないねえ!!!」

 「こやつ!とんでもないのお!!」

 まだ軽口を叩けるのか。もっと密度を上げてやろう。

 「おおおおおお!!!」
 「きゃあああ!!」

 流石に今度は余裕がないだろ。

 「はあはあ、ま、待て。話を聞いてくれんか。」
 
 飛び加藤はどこに隠してあったのか暗器の類をガシャガシャと放り出しどっかと胡坐をかいて観念した様子を見せる。

 「そう、この通り。もう抵抗する気はないよ。」

 『歩き巫女』こと望月千代女はスルスルと衣服を脱ぎ棄て一糸纏わぬ姿で無抵抗をアピールする。それでもまだ反応は赤い。

 赤い以上はこいつらは敵だ。容赦する必要はない。俺はカラクリに魔力を流し…

 「疾ッ!!」

 魔刃を乱れ撃つ。

 「くっ!こやつめ!」

 「ちぃっ!可愛げのないボーヤだねえ!」

 2人は魔刃を躱すと飛び加藤は口から火炎を、望月は毒霧を吹き出し逃走を図る。

 「無駄。」

 俺はバインド・チャクラムを飛ばし2人の両足を拘束する。

 「だから言ったじゃろう?逃げるのも難しかろうと。」

 「ち、爺さんの言う通りだったね。ボーヤ。アタシの負けだよ。煮るなり焼くなり好きにしな。」

 ここで漸く諦めたのか反応は赤から中立を現す白へと変わった。

 「やっとまともに話が出来そうだな。」
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