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第二部 バンドー皇国編 3章

198.だって女の子だもん

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 敵の第一波を退けて街に凱旋した私達を人々は熱狂して迎え入れてくれた。兵士や騎士団に歓声が浴びせられ、それに手を振り応える兵士や騎士達。そしてしんがりで街に足を踏み入れた私とソレイユ。狼を従えて目覚ましい活躍を見せたソレイユ達の凱旋には一際大きな歓声があがる。でも。

 私とビート、エスプリが入門した時、歓声が止まった。

 ああ、分かる。これは怯えだ。なにか恐ろしいものでも見るような、そんな目をしてる。

 「あはは、こんな血まみれじゃみんな引くよね!私、洗ってくるよ!」

 なぜだろう?私は街の為に戦い、汚名を被るのを承知の上で敵を虐殺したのに。感謝して欲しくてやった訳じゃないのに。何一つ恥じる事なく堂々と凱旋すれば良かったんだ。だけど。

 怖くなった。

 怯えや恐れを多分に含んだ幾百、幾千もの視線に耐え切れずに私は街の外へと逃げ出した。人気の少ない森の中で膝を抱え一人蹲る。

 「カズにぃは今までこんなにキツい思いをしてきてたんだね。私はいつもカズにぃに守られていた。カズにぃは…強いなぁ…カズにぃに会いたいな。。。」

 会いたい。会いたい!カズにぃに会いたい!!

 いつしか私は泣いていた。そして泣き疲れて眠っていた。

◇◇◇

 「なんなんだよ、この雰囲気は?」

 なんて言うか、バケモンでも見るような目で俺達を見てるんすよ。いや、俺達を、じゃねえな。正確に言えば姐さんをだ。

 姐さんは確かに強え。バケモンなんかよりずっと強え。でもまだ18の娘さんなんだ。それがっすよ?必死に街の為に戦って来たのに戻って来てみりゃこの視線だ。逃げ出したくなるってもんすよ。

 案の定、姐さんは明るく振舞ってたけど街の外に飛び出して行っちまった。

 「猫先生、エスプリ先生、姐さんをお願いするっす。」

 俺達には俺達に出来る事をやらなきゃな。俺は腹の底からでっかい声を絞り出して叫んだっすよ。

 「こらあああ!お前ら!お前らは恩人に対してそんな目をする様なくそったれなのか!!!お前らがそんなんだったら俺達はもうこの街を守るのやめんぞコラーーー!!」

◇◇◇

 ステイブル・ブリジの援軍2000を引き連れた俺は南へと向かっていたが、ある程度街に近付くと既に戦闘が始まっている事を理解した。索敵エリアにはまだ入っていないがサンタナが言うには精霊達が騒いでいるらしい。

 「ジュリア、もう始まっているみたいだ。俺はチェロを連れて先に行くから後から付いて来い。」

 「はいっ!ご武運を!」

 ライムがいるんだ。滅多な事にはならないと思うが…

 「ラン、チェロ、急ごう。」

 【承知!主よ、全速力で行く!】
 
 全力で走るランとチェロのスピードはそれ程時間を掛けずに俺を戦場へと運んでくれた。尤も、今は誰もいない無人の荒野だ。血の匂いが酷く濃い。
 
 【既に終わっていましたか…】
 【うむ、ライムにビート、それにアクア様が付いていてよもや負ける事は無いだろうが…】

 索敵でライムの反応を探す。

 ……いた。何故か街の外で。一人ぽつんと。何かあったのか?俺は反応のある場所へ急行した。

 「ラン、チェロ。ここで待っててくれ。」

 少し離れた場所でランとチェロを待てせておき、膝を抱えて蹲っているライムへと歩み寄る。泣いてるのか?らしくないな、と思いながら俺は無言でライムの横に腰かけた。

 「……おかえり、カズにぃ…」

 ライムは顔を伏せたままだ。

 「ああ、ただいま。」

 「…私ね、頑張ったよ。カズにぃが居なくても大丈夫なように頑張った…」

 「…ああ。」

 「…わかってた。覚悟はしてた。でも…街の人達の視線に耐えられなかった…」

 「………」

 「私ね、たくさん殺した。後々の事を考えるとね、その方がいいと思ったの。最初に相手の心を折った方がいいって。日和見を決めてる周りの領主達を引き込む為にもその方がいいって。」

 ライムはここで漸く顔をあげて俺を見る。ひどい顔だ。俺のライムにこんな顔させやがって。

 「ライム。お前が辛いならこんな国見捨ててオーシューに戻ってもいいんだぞ?どうせ敵国だし俺達の前世から見てもジュリア達は仇の血脈だ。」

 「ううん。私は決めたんだ。ジュリアとジュリエッタと…赤備えのみんな…ソレイユって名前になったんだけどね。みんなを死なせたくないから頑張るって。」

 再び俯いてライムは続ける。

 「でもね、私の心は弱かった。ごめんね、カズにぃ。私はカズにぃみたいに強くなかった。だからカズにぃに頼らせて?世界中に嫌われてもカズにぃさえいてくれたら私頑張れるから。」

 俺は立ち上がりライムの正面に立つ。そしてライムの左手を手に取って立ち上がらせた。強引に。勢い余ってライムが俺の胸の中に飛び込んでくる。

 「あっ…」

 そのまま包み込むようにライムを抱きしめて囁いた。

 「今お前を引っ張った左手の指輪。ただのアクセサリーじゃないだろ?お前を受け入れる俺の覚悟だ。今更こんな恥ずかしい事言わせんな。」

 「カズにぃ…」

 「悪かったな。もうお前の側から離れないよ。いつも俺が支えてやる。…ってさっきからお前なに?」

 さっきから視線を感じてたんだがいい雰囲気だったから無視してたんだよ。でもさ、でっけえ狼が俺の事クンクンしてくるんだよ。

 【貴様、何者だ?我が主にナニをしようとしている?】

 は?ライムが主?そしてナニとか言うな、いかがわしく聞こえるだろ。

 「あはは、ダメだよエスプリ。この人がカズにぃ。この人に絡んじゃだめだよ?ミンチにされて食べられちゃうからね?で、この子はエスプリ。ロートブルクの主でフェンリルなの。私の眷属になっちゃったんだ。私共々よろしくね?ペコリ。」

 恐ろしく美しい毛並みの巨大な銀狼が可愛くお座りして尻尾を振っている。馬と同じくらいの大きさの狼だ。なるほど、大した魔力だな。

 【なるほど、貴殿が主の…ユニコーンとバイコーンが居たのでまさかとは思ったのだが。】

 へえ、でもあいつらと喧嘩にならなかったのか?

 【ユニコーンの方から主の匂いがしたのでな。話をしてみたのだ。そして警告されたのだ。くれぐれも攻撃を仕掛けるなと。】

 「はは、そうか。じゃあこれからもライムを宜しく頼むよ。守ってやってくれ。」

 それにしてもこいつ…モフり甲斐がありそうだ。ふふ、ふふふふ…
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