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1巻該当内小話
純情乙女エマリアさんの事情
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「ではこれがエマリア様の指名依頼の受注書ですわ」
「ありがとう、ジュエル」
クリスタルホーンラビットの角の取引を終えた私、エマリアは故郷からの指名依頼を受け、一度帰郷しなければならなくなった。
本当はこの後もヒビキと一緒に冒険するつもりだったのに、我が故郷ながらなんて間が悪い人達なのかしら。
まるで神様が私とヒビキの邪魔をしているみたい。て、それは考えすぎね。神が選んだ勇者や賢者じゃあるまいし、私達の運命に干渉する訳ないか。
「どうしたの、エマリアさん? 眉間に皺が寄ってるよ?」
「何でもないわ」
受注書を眺めながらいつの間にか気持ちが顔に出ていたみたい。すぐに眉間の皺を解してパッと余裕の笑みを浮かべた。ヒビキに心配されるなんて、なんだか恥ずかしいもの。
「じゃあヒビキ、そろそろお暇しましょうか?」
「うん」
プチ、プチプチプチンッ!
今、立ち上がった瞬間すぐ近くで変な音がしたような? 周囲を見回しても特に変なところはない。気のせいかしら?
「エ、エマリア様!?」
「え? どうしたの、ジュエル?」
ソファーに座っていたジュエルは驚きの声で私を呼ぶと即座に立ち上がり、私をクルリと半回転させた。一体何なの!?
「ヒビキ様、少々エマリア様に用がありますの。しばらくバルス様とご歓談していてくださいませ」
「ちょっと、ジュエル!?」
「俺はいいけど、どうかしたの?」
「いいのか!? ジュエル!」
私の背を押して応接室を出ようとするジュエルに対して、私は訳が分からず困惑した。ヒビキは要領が掴めずキョトンとした顔をしていたし、バルスはサプライズプレゼントを貰ったように物凄く嬉しそうな顔をしていた。
大丈夫かしら、二人きりにして……凄く心配なんだけど。
私の心配についてはジュエルがしっかり対応してくれた。
「いいですか、バルス様。お話だけですわ。私が戻ってきて少しでもソファーから離れた形跡が見つかったら……」
……目だけ笑わない笑顔が上手ね、ジュエル。その、首を切るジェスチャーも様になっているわ。いつもやっているのかしら?
「ひいいっ! 分かってる! 分かってるからさっさと行け!」
バルスは本気で顔を青くしていた。普段からどんな扱いを受けているのかしら? ちょっと興味が湧くわね。怯え顔のバルスの顔に満足したジュエルは、今度は満面の笑みで私に振り向いた。ただ、どことなく慌てているようにも見えた。
「これで大丈夫でしょう。エマリア様、行きますわよ」
「本当にどうしたの? じゃあ、ちょっとだけ待ってて、ヒビキ。すぐ済ませて戻るから」
「うん、いってらっしゃい」
ジュエルに背中を押されて扉に向かった私は、首だけヒビキに向けてそう言うと応接室を後にした。
ジュエルに連れられたのは医務室だった。医務室に誰もいないことを確認したジュエルは窓のカーテンを閉め、扉に鍵を掛けた。
「どうしたの、ジュエル? 何か大事な話でもあるの?」
ジュエルがここまで人目を気にするなんて、よっぽど重要な話があるのかしら? でも、ヒビキ達から離れてまでする話なんて身に覚えがないんだけど……?
「やっぱり気づいていらっしゃらないのですね」
「どういう意味?」
ジュエルは少し呆れた顔をしながら私の前に右手を差し出した。手の平の上には、見慣れた四つのボタンがあった。
「あ、あれ? これって……?」
ちらりと胸元へ視線を向けると、そこには私の胸の谷間が……。
「い、いやああああ、んぐ!?」
「こんなところで大声を上げないでくださいませ!」
あまりのことに絶叫していたみたい。ジュエルに口を塞がれて初めて気がついた。
さっきの変な音はこれだったのね!? どうしよう! またしてもヒビキに見られたの!? は、恥ずかしすぎる!
「ご安心下さい。すぐにエマリア様を隠したのでヒビキ様もバルス様もお気づきではありませんわ」
「そ、そう。よかった。ありがとう、ジュエル。おかげで余計な恥をかかずに済んだわ」
ジュエルは少し恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。
「殿方の前で胸をはだけさせるなんて、一度だって御免被りたいアクシデントですものね。ギリギリ間に合ってよかったですわ。……あら? どうかなさいましたか、エマリア様? 顔が真っ赤ですわよ?」
「い、いえ! 何でもないわ。とりあえずボタンを直すわね」
既に昨日やらかしたなんて絶対に言えない!
「ええ、そうですわね。でも、今のお召し物はエマリア様の体格には小さいようですわ。洗濯して縮んでしまいましたの?」
もう、苦笑するしかなかった。最近更に大きくなったなんて恥ずかしくて言えるわけ無いでしょ!
縫い直して着た服はやはり胸元が少しきつかった。
仕立屋で新調する時間は無いから、とりあえず糸とボタンの予備を沢山用意しておかないと。絶対にまた弾ける!
「バルス兄貴、大丈夫かな? 真っ青だったけど……」
「まあ、元冒険者なんだし耐えられるでしょう」
「何に?」
「……」
ちょっとヒビキには言いたくないかなぁ。
私とジュエルが応接室にこっそり戻ると、バルスはしっかりヒビキの隣を陣取っていた。私達が豪快に扉を開けて入った時のバルスの顔面蒼白具合といったら、逆に可哀想なくらいだったわ。
きっと私達の気配を感じたら元の席に戻るつもりだったんでしょうね。今頃ジュエルがどんなお仕置きをしていることやら。
ギルドを出て、私達は宿屋へ向かっていた。
私とヒビキは友達だけどまだまだ知らないことが多い。何気ない世間話をしながら通りを歩いていた。
「あ、そうだ。後で借りているこの外套、返さないとね」
そういえば、私の外套をヒビキに貸しているんだったわ。ヒビキが着るとほんの少しブカブカなのは地味に悲しいわね。
「それはヒビキにあげるわ。あなたの服だと目立つしね」
「そんな、悪いよ」
「いいのよ、餞別だと思って貰ってちょうだい」
「でも、エマリアさんにはこの外套は必要でしょ? さっきだってまた服のボタン外れていたし」
……?
「ヒビキ……今、なんて……」
「さっき応接室で服のボタンが取れちゃったでしょ? エマリアさんには今の服だと小さいみたいだし、もしもの事を考えると外套は持っていた方が絶対にいいよ」
ヒビキは真剣な面持ちで私に向かってそう告げた。
「……」
「? エマリアさん? あれ!? 待ってよ、エマリアさん!」
私は走った。それはもう全速力で。
「結局、二回見られてるんじゃないのよおおおおおおおお!」
羞恥のために全力疾走した私が一度ヒビキを撒いてしまったのは言うまでもない。
とりあえず、ヒビキと別れたら新しい外套を買わなくちゃ!
とういか、もう少し意識してもいいんじゃない!?
「ありがとう、ジュエル」
クリスタルホーンラビットの角の取引を終えた私、エマリアは故郷からの指名依頼を受け、一度帰郷しなければならなくなった。
本当はこの後もヒビキと一緒に冒険するつもりだったのに、我が故郷ながらなんて間が悪い人達なのかしら。
まるで神様が私とヒビキの邪魔をしているみたい。て、それは考えすぎね。神が選んだ勇者や賢者じゃあるまいし、私達の運命に干渉する訳ないか。
「どうしたの、エマリアさん? 眉間に皺が寄ってるよ?」
「何でもないわ」
受注書を眺めながらいつの間にか気持ちが顔に出ていたみたい。すぐに眉間の皺を解してパッと余裕の笑みを浮かべた。ヒビキに心配されるなんて、なんだか恥ずかしいもの。
「じゃあヒビキ、そろそろお暇しましょうか?」
「うん」
プチ、プチプチプチンッ!
今、立ち上がった瞬間すぐ近くで変な音がしたような? 周囲を見回しても特に変なところはない。気のせいかしら?
「エ、エマリア様!?」
「え? どうしたの、ジュエル?」
ソファーに座っていたジュエルは驚きの声で私を呼ぶと即座に立ち上がり、私をクルリと半回転させた。一体何なの!?
「ヒビキ様、少々エマリア様に用がありますの。しばらくバルス様とご歓談していてくださいませ」
「ちょっと、ジュエル!?」
「俺はいいけど、どうかしたの?」
「いいのか!? ジュエル!」
私の背を押して応接室を出ようとするジュエルに対して、私は訳が分からず困惑した。ヒビキは要領が掴めずキョトンとした顔をしていたし、バルスはサプライズプレゼントを貰ったように物凄く嬉しそうな顔をしていた。
大丈夫かしら、二人きりにして……凄く心配なんだけど。
私の心配についてはジュエルがしっかり対応してくれた。
「いいですか、バルス様。お話だけですわ。私が戻ってきて少しでもソファーから離れた形跡が見つかったら……」
……目だけ笑わない笑顔が上手ね、ジュエル。その、首を切るジェスチャーも様になっているわ。いつもやっているのかしら?
「ひいいっ! 分かってる! 分かってるからさっさと行け!」
バルスは本気で顔を青くしていた。普段からどんな扱いを受けているのかしら? ちょっと興味が湧くわね。怯え顔のバルスの顔に満足したジュエルは、今度は満面の笑みで私に振り向いた。ただ、どことなく慌てているようにも見えた。
「これで大丈夫でしょう。エマリア様、行きますわよ」
「本当にどうしたの? じゃあ、ちょっとだけ待ってて、ヒビキ。すぐ済ませて戻るから」
「うん、いってらっしゃい」
ジュエルに背中を押されて扉に向かった私は、首だけヒビキに向けてそう言うと応接室を後にした。
ジュエルに連れられたのは医務室だった。医務室に誰もいないことを確認したジュエルは窓のカーテンを閉め、扉に鍵を掛けた。
「どうしたの、ジュエル? 何か大事な話でもあるの?」
ジュエルがここまで人目を気にするなんて、よっぽど重要な話があるのかしら? でも、ヒビキ達から離れてまでする話なんて身に覚えがないんだけど……?
「やっぱり気づいていらっしゃらないのですね」
「どういう意味?」
ジュエルは少し呆れた顔をしながら私の前に右手を差し出した。手の平の上には、見慣れた四つのボタンがあった。
「あ、あれ? これって……?」
ちらりと胸元へ視線を向けると、そこには私の胸の谷間が……。
「い、いやああああ、んぐ!?」
「こんなところで大声を上げないでくださいませ!」
あまりのことに絶叫していたみたい。ジュエルに口を塞がれて初めて気がついた。
さっきの変な音はこれだったのね!? どうしよう! またしてもヒビキに見られたの!? は、恥ずかしすぎる!
「ご安心下さい。すぐにエマリア様を隠したのでヒビキ様もバルス様もお気づきではありませんわ」
「そ、そう。よかった。ありがとう、ジュエル。おかげで余計な恥をかかずに済んだわ」
ジュエルは少し恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。
「殿方の前で胸をはだけさせるなんて、一度だって御免被りたいアクシデントですものね。ギリギリ間に合ってよかったですわ。……あら? どうかなさいましたか、エマリア様? 顔が真っ赤ですわよ?」
「い、いえ! 何でもないわ。とりあえずボタンを直すわね」
既に昨日やらかしたなんて絶対に言えない!
「ええ、そうですわね。でも、今のお召し物はエマリア様の体格には小さいようですわ。洗濯して縮んでしまいましたの?」
もう、苦笑するしかなかった。最近更に大きくなったなんて恥ずかしくて言えるわけ無いでしょ!
縫い直して着た服はやはり胸元が少しきつかった。
仕立屋で新調する時間は無いから、とりあえず糸とボタンの予備を沢山用意しておかないと。絶対にまた弾ける!
「バルス兄貴、大丈夫かな? 真っ青だったけど……」
「まあ、元冒険者なんだし耐えられるでしょう」
「何に?」
「……」
ちょっとヒビキには言いたくないかなぁ。
私とジュエルが応接室にこっそり戻ると、バルスはしっかりヒビキの隣を陣取っていた。私達が豪快に扉を開けて入った時のバルスの顔面蒼白具合といったら、逆に可哀想なくらいだったわ。
きっと私達の気配を感じたら元の席に戻るつもりだったんでしょうね。今頃ジュエルがどんなお仕置きをしていることやら。
ギルドを出て、私達は宿屋へ向かっていた。
私とヒビキは友達だけどまだまだ知らないことが多い。何気ない世間話をしながら通りを歩いていた。
「あ、そうだ。後で借りているこの外套、返さないとね」
そういえば、私の外套をヒビキに貸しているんだったわ。ヒビキが着るとほんの少しブカブカなのは地味に悲しいわね。
「それはヒビキにあげるわ。あなたの服だと目立つしね」
「そんな、悪いよ」
「いいのよ、餞別だと思って貰ってちょうだい」
「でも、エマリアさんにはこの外套は必要でしょ? さっきだってまた服のボタン外れていたし」
……?
「ヒビキ……今、なんて……」
「さっき応接室で服のボタンが取れちゃったでしょ? エマリアさんには今の服だと小さいみたいだし、もしもの事を考えると外套は持っていた方が絶対にいいよ」
ヒビキは真剣な面持ちで私に向かってそう告げた。
「……」
「? エマリアさん? あれ!? 待ってよ、エマリアさん!」
私は走った。それはもう全速力で。
「結局、二回見られてるんじゃないのよおおおおおおおお!」
羞恥のために全力疾走した私が一度ヒビキを撒いてしまったのは言うまでもない。
とりあえず、ヒビキと別れたら新しい外套を買わなくちゃ!
とういか、もう少し意識してもいいんじゃない!?
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