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1巻

1-2

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「おいゼフ」

 授業が終わってまたトイレに行こうとすると、太った丸刈りの少年がワシに話しかけてきた。
 にやにやとしながら、ワシを見下ろしてくる。
 丸刈りの少年を無視して行こうとすると、他の少年たちがワシの前に立ちふさがってきた。
 何なのだ一体。

「おいゼフ、いつもトイレ行って何してんだよ」
「あれか? お前ひょっとして……んこしてんの?」
「はぁ?」

 訳のわからぬ問いに呆れ顔を返すと、少年たちはゲヒャゲヒャと笑った。
 それに釣られたのか、教室の生徒たちも皆くすくす笑っている。

「あ~……」

 もしかしてワシ、からかわれているのか?
 そういえば子供というのは、こんな感じだったかな。
 ぽりぽりと頭をかいていると、少年たちがワシの周りを囲み、下品な単語を連呼している。
 やれやれ、少しおきゅうえてやる必要があるか。

「まったく、下品が過ぎるな」
「あん? なんだっ――」

 リーダー格の丸刈りの少年が言い終わらぬうちに、ワシはレッドボールを念じて発動させる。
 少年の横を過ぎ去った火の玉は、壁に行き着く前に燃え尽きてしまった。
 うーむ、まだ全然距離も飛ばないな。
 しかし、少年をビビらせるのには十分すぎる威力だったようで、丸刈りの少年はへなへなと床に崩れ落ちていった。
 どうも漏らしてしまったらしく、教室の中にレッドボールで焦げた空気と少年の小便の臭いが立ちこめる。
 ワシはへたり込む丸刈りの少年を、ほんの少しだけ殺気を込めて見下ろした。

「あまりこういったことは感心しないぞ?」
「ひっ……!?」

 ワシの威圧に少年は気を失ってしまったようだ。
 ワシを囲む少年たちに向け一歩踏み出すと、少年たちは悲鳴と共に道を開けてくれた。
 ワシはそのまま、すたすたとトイレに歩いていく。
 昔からこの手のやからに絡まれることには慣れているが……流石さすがに子供相手にやりすぎだったかもしれんなぁ。

「さて、修業修業っと」

 トイレの扉を開けて中に入ると、即座にれいが鳴り始めた。
 くそ、修業一回分の時間を無駄にしたではないか。


     ◆ ◆ ◆


 放課後。
 皆が下校する中、ワシは家とは反対の方角に向かっていた。
 目的地は街の外、理由は魔物を狩るためだ。
 歩きながらてのひらの上にグリーンボールを浮かべると、魔力の消失と同時にすい系統の魔力が増したような感じがした。
 どうやらまたレベルが上がったな。
 魔導というものはこうした「から撃ち」でもきたえることができるが、実戦で使った方がその上昇率は断然高い。
 もっとも、空撃ちで魔導レベルが上がるとわかったのはスカウトスコープができた後で、それまではフェイントやトラップなど、実戦を模して鍛えていた。
 ナナミの街は壁に囲まれていて、数ヵ所ある門には門番が立っている。
 しかし、ワシはこの街を知り尽くしているので問題ない。
 壁が壊れてできた隙間から難なく抜け出し、広い荒野を歩いていく。
 その際、事前に用意しておいた木の棒を持って行くのを忘れない。
 街の外を少し歩くと、目の前に青いぶよぶよしたゼリー状の魔物があらわれた。
 地面からせりあがってきたこいつは、そう系統に属する魔物、アクアゼル。
 このような魔物があらわれるのは、大地から時折湧き出すマナが原因である。
 マナは魔力の素のようなものだが、その湧き出たマナが何らかの物質を透過し、その物質の影響を受けて具現化したもの――それが魔物なのだ。
 魔物は透過した物質の形を模して具現化することが多く、このアクアゼルは雨水を模した魔物とされている。
 魔物の多くは、人々のことを大地を破壊するものと認識して襲ってくる。そのため、街の外へ出る者には、ある程度の戦闘能力が必須だ。
 街には守護結界がかけられているので魔物は発生しないし、入ってくることもできないが、人間が一歩外へ出るとその気配を感じ取り襲いかかってくるのだ。
 ワシは木の棒を構え、打撃と同時にグリーンボールを念じてアクアゼルにぶつける。
 衝撃と共に、ぼよん、とアクアゼルは地面を跳ね転げ、ワシの方に触手を伸ばしてくる……が。

「ハッ、遅すぎる」

 ワシは触手を木の棒でさばき、同時にまたグリーンボールを念じる。
 グリーンボールは攻撃範囲が狭く、打撃と共にしか当てることができないが、威力は高めである。
 十発ほどグリーンボールを当てて、やっとアクアゼルは消滅した。
 今のワシのレベルでは、こんなに時間がかかってしまうのか……
 しばらくすると、体中に力がみなぎってくるのを感じる。
 消滅した魔物はマナに還元され、その一部が倒した者に吸収される。それがある程度蓄積されるとレベルが上昇するのだ。
 力の上昇を感じつつ、消耗した魔力を回復させるため、ワシは手ごろな岩に腰を下ろすのだった。




 2


 ゼフ=アインシュタイン
 レベル 5
 魔導レベル
  緋:2
  蒼:2
  翠:5
  空:4
  魄:0


 街の周辺のアクアゼル狩りを続けて十日ほど、それなりにレベルも上がってきた。
 はくの魔導を全くきたえていないのは、この魔導を行使するにはジェムストーンという特殊な媒体が必要だからだ。
 ジェムストーンはそこそこ高価なため、子供のワシには手に入れることができないのである。

「ま、今は他の魔導を使っていればいい」

 ナナミの街周辺にあらわれるのは、魔物の中では最弱クラスに属するアクアゼルのみ。
 経験値効率はあまりよくないが、今は倒せる魔物も少ないし、しばらくはこいつで我慢するしかない。

「というワケだ、相手になってもらうぞ……!」

 あらわれたアクアゼルに木の棒での殴打を仕掛け、同時にグリーンボールを念じる。
 三度、グリーンボールを撃ち込まれ、ぐしゃりと崩れたアクアゼルはゆっくり消滅してしまった。
 最初は十発くらいかかっていたが……うむ、着実に強くなっているな。
 息を整えていると、足元にニュルリとした感触。
 ちっ、新手のアクアゼルか!
 もがき振りほどこうとするが、子供の力では上手くいかない。
 ワシは足を引っ張られ、逆さまになったままアクアゼルの頭上に持ち上げられた。
 がぱりとアクアゼルの身体が二つに割れ、ワシを食らうかのように挟み込もうとする。

「させるかよ……っ!」

 吊り下げられたワシはアクアゼルの身体に手をかざし、魔力を集中させていく。
 ――系統中等魔導、レッドクラッシュ。
 魔導の発動と同時にてのひらから生まれた爆炎が、アクアゼルを一撃で消し飛ばす。
 背中から地面に落ちたワシ。そこには運悪く泥水があり、服が汚れてしまった。

「やれやれ、母さんに怒られてしまうではないか」

 レッドクラッシュは爆炎で目の前の敵を焼き払う魔導で、念唱時間の割に威力も高く、近距離用の魔導では一番使いやすい。
 現状のグリーンボールを使った戦い方では、かなり時間がかかってしまう。
 そのため、一体目の戦闘中に二体目の魔物があらわれた時など、やむを得ぬ場合にはレッドクラッシュを使って一気に片をつけることにしているのだ。
 だが、魔力を全て使い果たしてしまったな。
 ワシはだらりと脱力し、意識を集中させていく。
 ――瞑想めいそう
 魔力を体内に循環させるイメージをして体内の魔力線を活性化させ、普段より数倍の速度で魔力を回復させる技術である。
 術者によってその性能は大きく異なり、普通は座って行う。しかし、ワシほどになると立ったまま、歩きながら、果ては戦闘中においてもそれを行うことができるのだ。
 ……ま、大人しく座って瞑想した方が回復は速いのだがな。
 瞑想により魔力を回復させてはアクアゼルを倒す。
 それを何度か繰り返し、本日七体目のアクアゼルを撃破した。

「おっ」

 アクアゼルを倒した後に、青い宝石を見つけた。

「ジェムストーンの破片だな……純度が低いので宝石屋に安く売れる程度だが」

 魔物を倒すと、アイテムをドロップすることがあり、このような宝石だけでなく、例えば剣や盾といった武器防具など、その種類は多岐たきにわたる。
 力尽きた戦士や魔導師の武具を透過したマナと他の物質を透過したマナが混ざり合って魔物化し、その魔物が倒されたときに、マナがアイテムとして再構成されると言われているが、詳しいことはわかっていない。
 ちなみに冒険者たちはこういったドロップアイテムを売り買いし、日々の生活を送っているのである。
 ジェムストーンの破片をポケットにしまっていると、暗くなってきたことに気づく。夕方という時間に加え、雲が出てきたせいでいっそう暗く感じる。

「っと、そろそろ帰るとするか。あまり遅くなると、母さんに怒られてしまうしな」


 街へ帰るべく歩いていると、はるか先に多くの馬車が隊列を組んでいるのが見えた。
 行商隊だろうか。何かレアなアイテムを売りに来たのかもしれないな。
 ま、今のワシには関係ないし、とりあえず家に帰らなければな。
 そう思ってのんびり歩いていると、馬車の一つから火の手が上がっているのが見えた。
 遠目からでよくわからないが、武器を持った男が馬車を襲っているようだ。
 先刻まで、他に人などはいなかった……ということはつまり――

「雇った傭兵の裏切りか」

 もしくは、盗賊が傭兵にふんしていたか。
 やれやれ、謝礼をケチって身元のわからぬ怪しい傭兵を雇っていたのだな。
 しかしこの状況、行商隊の人たちには不幸だが、ワシにとっては幸いともいえる。
 ここで彼らを助ければ、謝礼として高価なアイテムをもらえるかもしれないからな。
 とはいえ、盗賊の強さ次第だ。
 魔導が使えるとはいえ、今のワシはまだまだレベルが低い。
 どうしたものかと思案していると、少女を乗せた馬がワシのいる方に向かって駆けてきた。
 あの戦闘から逃げてきたらしく、少女は血相を変えてワシの前に立ちふさがる。

「キミっ! 早く逃げなさい! 私は街へ知らせてくるから、どこか奴らの目の届かない場所へ……」

 そこまでしゃべったところで、少女の胸から一本の矢が突き出てくる。
 まみれの矢じりに目線を落とした少女は、直後に口から血をごぶりと吐き出した。
 ゆっくりと、スローモーションのように馬から転げ落ちた少女はワシの方に手を伸ばし、ワシの背後を指さす。
 口をぱくぱくと動かしていたが、すぐにその目からは光が失われた。
 ――逃げて。
 くちびるの動きから察するに、そう言ったようだ。
 あまりの出来事に呆然としたが、それはすぐに怒りに変わった。
 最後までワシを心配していた少女の横に座り、見開かれたままのまぶたを閉じてやる。

「まったく、ワシの心配より自分の心配だろうがよ……!」

 こぶしを握り締め、ゆっくりと視線を少女から行商隊へ移す。そこには、馬に乗った盗賊が、手に持っている弓を下ろし、ワシの方を向いているのが見えた。
 背負った矢筒からゆっくりと矢を取ってつがえる。
 のろのろとした動作で狙いをつけているのは、ワシが逃げ惑うさまを見たいからだろうか。
 だが、お前の思うようにはなるまいよ――!!
 ゆっくりと弓を引き絞る盗賊目がけて念じるのは、くう系統初等魔導ブラックショット。
 魔力で生まれた風の弾丸は盗賊の頭に命中し、その拍子に引き絞っていた矢はあらぬ方向へ飛んで仲間の背中に突き刺さった。
 二人の盗賊が馬から落ち、他の盗賊もそれに気づいてワシの方を見る。
 二人の仲間が子供の魔導師に倒された、その事実に大いに動揺しているようだ。
 対して、こちらは冷静。
 先刻はつい感情的になって攻撃してしまったが、今はひどく落ち着いている。
 この手のどうは掃いて捨てるほどいる。
 それこそ、前世ではいくら狩ったか覚えていないほどに……!
 ――さくり、と効率的に。

「狩ってやろう、ゴミ共……!」

 ワシの言葉に呼応するように、黒い雲の隙間から稲妻が走る。小雨が降りだし、風も吹いてきた。

「大降りになる前に帰りたいところだな」

 残りの三人の盗賊共とワシの間には、かなりの距離がある。
 先ほど使ったブラックショットは、ブラックボールの強化版だ。
 弾速の速い空系統、しかもその強化版とはいえ、これだけの距離があると大したダメージは与えられない。
 しかもさっきの奴は油断していたからな。こちらに気づいた今となっては、大人しく当たってなどくれないだろう。
 盗賊共はバラバラと、左右に散り始める。距離を取りつつ弓矢で攻撃するつもりだろう。
 魔導師相手の戦闘の基本は距離を取っての遠距離合戦か、犠牲を覚悟した上での突撃である。
 盗賊共は、前者を取ったというワケだ。
 とはいえ、こちらもそれは想定のうち。バラけ終わる前に、連中に向けてレッドウェイブを念じる。
 ――系統初等魔導、レッドウェイブ。
 広範囲に熱風を走らせ、攻撃する魔導である。威力は低いが攻撃範囲がかなり広く、敵の注意を自分に向けさせたり動きを止めたりと、様々な使い方ができるのだ。
 地面を走る熱風が、馬の脚毛を焼いていく。

「ヒヒィィィン!」

 突然、熱風に襲われ驚き暴れ出した馬たち。乗っていた盗賊たちは、馬を制するのに必死だ。
 とはいえ、この位置からの魔導では盗賊共を殺しきれない。
 単体魔導で一人は倒せても、一度に三人を仕留めるのは厳しい。
 今のワシが一撃で全員を仕留めるには――

「大魔導を使うしかないか」

 いつの間にか黒雲が頭上を覆い尽くし、雨も風も強くなってきた。
 そろそろ頃合いだろう。
 精神を集中し、呪文の詠唱を開始する。

「あまねく精霊よ、嵐のごとく叫び、雷のごとく鳴け。天にあだなす我が眼前の敵を消し去らん……ブラックサンダー!」

 魔導を解き放つと、空を覆う黒雲が突如裂け、そこから強烈な閃光が盗賊三人に降り注いだ。
 まぶしい光が辺りを包み、少し遅れて轟音ごうおんが鳴り響く。
 盗賊たちの立っていた場所にものすごい土煙が上がり、しばらくすると雨と風で徐々に収まっていった。

「さて、ちゃんと倒せたかね……」

 一応、雷の落ちた場所を確認しに行く。
 地面はえぐれ、土は黒く焼け、盗賊共は跡形もなく消滅していた。
 ほっと一息ついた瞬間、意識を持っていかれそうなほどの眩暈めまいに襲われる。
 ギリギリのところで踏みとどまったワシは、目をつぶり深呼吸を繰り返した。
 大魔導の消費魔力はかなり多い。今のは恐らく、魔力の限界を少し超えてしまったのだろう。
 ごろりと大の字に寝転び、目を閉じた。
 瞑想めいそうにより、少しずつだが身体が楽になっていく。
 ――くう系統大魔導、ブラックサンダー。
 他の大魔導に比べ消耗は少ないが、曇天どんてんでしか使えない欠陥魔導である。ただしその効果は凄まじく、対象を全てサーチし、回避不可能の強力な一撃をお見舞いするのだ。
 まぁ使いにくいが、強力な魔導ではある。
 しばらく瞑想したおかげである程度魔力が回復し、大分まともな思考力が戻ってきた。
 だが、未だけんたいかんがつきまとい、気分も悪い。やはり魔力を使いすぎてしまったのであろう。
 行商隊の方を見やると、一人のでっぷりとした男がワシの方をちらちらと見ていた。恐らくあいつが行商隊のリーダーだろう。
 ワシは何とか立ち上がり、まずは改めて少女の遺体に向かって手を合わせた。
 そして、本来の目的を果たすべく、行商隊の方へと歩き出す。
 男に近づくと、向こうから声をかけてきた。

「おお、素晴らしい! 君が私達を助けてくれたんだね! まだ少年なのに、ここまで強力な魔導が使えるとは!」

 もじゃもじゃのひげを束ねた中年の男性が、ワシを褒めちぎる。
 行商隊のリーダーと名乗ったこの男は、しっかりと助けてもらった恩を感じているようだ。
 こちらとしては、話が早くて助かる。

「しかし運が良かった。君が助けてくれねば、我々は全滅していたよ。本当に感謝している!」
「だが残念だったな。犠牲も出てしまったのだろう」
「最悪の事態は回避できた。やはり運がよかったよ!」

 盗賊に襲われている時点で、運はよくないと思うのだが。
 まぁ、何事もポジティブなのは良いことか。

「とりあえず礼の品をいただきたいところだな。魔導師用のアイテムなどが望ましい」

 ワシの要求に、きょとんと目を丸くする行商隊のリーダー。
 む、少しストレートすぎたか? いまいち、こういった交渉事は苦手だ。
 しかし、彼はすぐさま笑みを浮かべた。

「はっはっは。あぁいや、そうだな。言葉だけの礼では意味がない。当然、存分に礼をさせてもらうよ」

 外見が子供なのが幸いしたようだ。少しばかり失礼な物言いだっただろうが、男は気にしなかったようである。
 ワシは昔からこういった人の心の機微きびを読むのが苦手なので、実際どう思ったかはわからないが……

「しかし流石さすがにこの状態ではもてなすことはできぬ。明日辺りにでも、また改めて礼をさせてもらえないか?」
「わかった」
「では、街までお送りしよう」

 ワシは行商隊の馬車に乗せられ、ナナミの街へ移動していく。
 行商隊の者たちに英雄扱いされてワシは良い気分を味わえたが、一部の者はひどく沈んでいた。
 恐らく、盗賊の犠牲者の遺族であろう。先刻殺されたあの少女の知り合いもいるのだろうな。
 仕方があるまい。ワシも長年連れ添った仲間と死に別れたことは幾度となくある。
 確かに辛いが、今のワシには可哀想かわいそうに、と言葉をかけるくらいしかできない。


 しばらくして、ナナミの街に辿たどり着いた。
 行商隊一行の街での滞在先を聞いて、彼らと別れる。
 そして、やっと家に帰ってくることができた。
 夜も遅いのに部屋には明かりが灯っている。
 う~む、これは確実に一時間説教コースだな。
 頭に角を生やしているであろう、母さんの顔を想像しつつ、げんなりした顔でワシは家のドアを叩くのであった。


     ◆ ◆ ◆


 ――瞑想めいそう
 精神を集中させ、魔力を効率的に回復させる技術である。
 体内に張りめぐらされた魔力線を通して、魔力を増幅させながら体中に行き渡らせていく。

「……ぃてるの? ……フ?」
「……」
「ゼフっ!!」
「はいっ、ごめんなさい、母さん」

 すまなそうな顔をするワシを、怒り心頭といった顔でにらむ母親。
 本日夜遅く帰ってきたので心配しているのだろうが、ちょっと説教が長すぎではないか。
 結局二時間近く説教され、その間ずっと瞑想していたおかげでワシの魔力は十二分に回復していた。
 冷めた食事をとって自室に戻ると、ベッドに腰掛けてスカウトスコープを念じる。


 ゼフ=アインシュタイン
 レベル7
 魔導レベル
  緋:6/62
  蒼:6/87
  翠:9/99
  空:8/89
  魄:0/97


 おっ、スカウトスコープで見られる範囲が増えているぞ。
 スカウトスコープのレベルが上がったのだろう。ここのところ、しょっちゅう使っていたからな。
 未だレベル0のはくの魔導だが、そろそろ修業に取り掛かれるかもしれない。
 行商隊のアイテムをちらりと見せてもらったが、良いモノがあったのである。
 くっくっ、今から楽しみだな。
 明日もらえるものに期待しながらワシは布団を被り、眠りについた。


     ◆ ◆ ◆
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