種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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闘人都市編

紅の雷

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「ガルルッ……!!」
「はっ……初めて見せたな、そんな表情」


肩を抉られた白狼は怒りの表情でを浮かべ、レノを睨み付ける。どうやら彼を「獲物」ではなく、やっと「敵」として認めたらしい。だが、戦況はレノに傾いている。白狼の右肩を大きく抉ったことにより、先ほどの高速移動は最早不可能だろう。あの動きは両手両足が万全な状態だからこそ可能な動きだ。

最も、手負いの獣ほど恐ろしい存在はいない。レノは右腕の傷を確認し、大分出血したことを感じ取る。先ほどの「血液伝雷」は彼にとっての「強化術(ソフィアの肉体強化)」と同様の諸刃の剣であり、傷口が電流の熱によって火傷を引き起こし、皮肉にも火傷が止血の役割を行っている。

魔力は十分に残っており、身体も一応は五体満足、ならばここから先は白狼の猛攻を掻い潜り、前に出る必要がある。


(……行くか)


この戦闘で「紋様」は発動しない。というより、先の「銀の鎖」で使用した「転移魔方陣」以来から、どういうことか紋様が発動できない。アイリィ曰く、無理やり吸収した「聖痕」の力を使用したことにより、機械に例えるとオーバーヒートを起こし、しばらくの間は紋様の使用は不可能らしい。

銀の鎖も同様であり、無理に使用し続けたせいで修理が必要らしく、そのために現在はアイリィに預けており、今のレノはこの島に来たばかりの頃と同じ着の身着のままの状態だった。


「ガァアアアァアアッ!!」


ドオオンッ!!


凄まじい咆哮を上げるだけで衝撃波が放たれ、レノは恐怖で震える身体を鞭打ち、前に出る。その両手には撃雷を纏わせ、それは通常のドリル状ではなく、槍の用に先端部を鋭利に尖らせて行く。これこそ撃雷の応用版である「雷槍」であり、反魔紋の雷の魔力付与を行った武器よりも殺傷能力が高い。


バチィィイイイッ!!


「あぁあああああああっ!!」


ドンッ!!


脚に「嵐」の魔力を爆散させ、瞬間的に高速移動を行う。右肩を負傷した白狼も同時に牙を向け、


「ガアッ!!」
「せいっ!!」


ビュオッ!!


白狼は牙を震わせ、レノは右腕の雷の槍を振りかぶろうとした瞬間、


(っ!?)


頭の中に自分の右腕が無残に潰される想像が浮き上がり、咄嗟に腕を止める。


ガキィンッ!!


「ぐあっ!?」


それが功を差し、途中で止めたことで白狼の牙を掠る程度で済んだ。まるで鋼鉄の刃を思わせる鋭利な牙は、レノの胸元から腹部までを抉り出し、激しい出血を起こす。しかし、もしもあのまま攻撃を振り切っていたら腕ごと喰われていただろう。

続けて白狼は瞬時に大きく口を開き、再び牙を向けてくる。レノも咄嗟に両足に瞬脚を行い、後方に下がろうとしたが、


ズザッ!!


「なっ……ぐぁああああっ!!」


ズバァアアアッ!!


あろう事か、足元の雪に足が埋もり、そのまま再び胸元に鋭利な牙が食い込む。今度はかなりの深手であり、先ほどの傷とは反対側の咆哮で傷つけられる。レノの胸元に更に大きな傷口が生まれ、出血が激しいが、今はこの化け物から距離を取るのが最善だと思われたが、


(違うっ……!!)


ここで退いたとしても殺されるだけであり、ならば危険を覚悟で反撃をするしかない。長年の直観がそう告げると、三度目の牙を向けてきた白狼に対し、両腕の「雷槍」を今度こそ振り抜き、


「ぜあっ!!」


ズドォオオオオンッ!!


「グアッ……!?」


今度こそ逆に白狼の胸元に深く突き刺し、雷の槍が内部から白狼の身体を焦がす。そのまま腕からを引き抜いても槍の形を保った電流が白狼の胸元には突き刺さったままだった。。持ち主から離れたにもかかわらず、二つの魔力で構成された雷の槍は帯電し続け、電流を流し続ける。

白狼は苦痛で顔を歪ませるが、しかしすぐに島の王者としての威厳が奮い立たせるのか、そのまま体内の「雷槍」を押し出すように初めて全身から嵐の魔力を引き出す。


――「魔法」が使用できるのは巨人族を除いた他の五つの種族ばかりだけではなく、一部の魔物、や魔獣は「魔力」を纏うことが出来る。白狼の属性は「嵐属性」であり、全身からレノを上回る嵐の魔力が迸らせる。


体内から膨大な魔力を放出し、まるで体内の異物を吐きだすように胸元に突き刺さった雷槍を押し除ける。属性的にも相性が悪いため、すぐに雷の槍は消え去り、白狼は咆哮を上げる。


「グルァァアアアアアアアッ!!」
「くっ!?」


ビュオッ!!


そのまま白狼は全身から魔力を吹き出しながら、距離を取ったレノに向けて大きく腕を振るう。それだけの動作で爪からは三本の風の刃が発生し、レノの乱刃とは比べ物にならないほどの質量の威力を誇る。すぐに上空に避けるしかないと判断し、胸元の傷口を抑えながら上に飛ぶ。


「ぐっ!!」


ダァンッ!!


傷が深すぎるため、肉体強化だけで飛び上がるのは不可能であり、足の裏に嵐を集中させ、何とか瞬脚を使用して飛び上がる。


ズガァアアアアンッ……!!


一瞬にして、先ほどまで立っていたレノの後方に並んでいた枯れ木の群が、白狼の放った衝撃波で薙ぎ倒される。次々と樹木が倒れていく光景を確認し、どうやら本気で眼の前の島の王者をを怒らせたらしい。空中に浮かび上がりながら、レノは前方に視線をやると、既に白狼は二撃目を振り翳す。


「ガァアアッ!!」


ビュォオオオオッ――!!


空中で上手く身動きが取れない状態で向かってくる嵐の衝撃波に対し、レノは特に何も行わず、脱力する。正面から受ければ死は免れない。だが、これほどの威力ならばむしろ身体を任せる事により、


ブォオオンッ!!


接近した嵐の刃を直前で身体を回転させ、そのまま刃の真下を通り抜ける。何もない空間にいるからこそ、衝撃波の風圧を利用して受け流すことに成功した。


「グルルルッ……!?」


まさか何もない空中で避けられるとは思っていなかったのか、初めて困惑したように表情を浮かべる白狼に対し、レノは右手を地上に向け、


「はああ!!」


ブゥンッ!!


最初に展開したプロテクト(防御魔法陣)を作りだし、その魔方陣の上に乗り込むと、魔方陣が展開されているうちに自身の胸元の傷を抑える。空中に固定した魔方陣を足場に使うなど普通の魔術士ならば思いもつかない発想である。

既に魔力操作で擬似的な血管を作りだし、胸元の出血を抑える。その気になれば「反魔紋」の電流を利用して火傷を作り出して止血する事も可能だが、この血液を利用してレノは両腕に血液を付着させる。以前にも考えたことだ。血液を魔力で操作する事が出来るのならば、止血以外にも方法が在るのではないのかと、そして考え出して生まれた戦法が「血液伝雷」だった。


「……血液伝雷……」


ギュオォオオオオッ……!!


「ガァッ……!?」


胸元から出血した血液に魔力を送り込み、操作する。止血ではなく、身体全体に血の「紋様」を生み出し、より「雷」を帯電させる行為。


バチィィイイイッ!!


「ぐぁあああっ……!!」


通常とは比較にならない電流が身体に迸り、それでも尚、レノは反魔紋の雷を放出し続けた。やがて、身体全体に赤い紋様が回ると、レノの全身からこれまでの中で最も帯電された「雷」が構成される。それは嘗ての「雷天のゴウ」に匹敵、もしくはそれ以上の電圧であり、今にも激痛で倒れそうになる。



だが、これならば眼の前の怪物に「届く」――



「だぁああああああっ!!」
「グォォオオオオオオオオッ!!」


ドォオオンッ!!


残りの魔力を絞り込み、レノは魔方陣を崩壊させるほどの「瞬脚」を行い、そのまま白狼に向けて突進する。その速度は急停止することも、方向転換も不可能であり、仮に奴が避けたらそのまま地面に自爆するだろう。

だが、白狼は「逃げない」この島の最強の座に居座り続けたこの獣には「後退」の選択肢などない。正面から敵が来るのならば、自分も全力で答えるのみ。白狼から全魔力を放出させたかのように暴風が吹き荒れ、大きく口元を開き、その鋭利な牙の一本一本にミキサーのように竜巻が迸る。このまま真っ直ぐに突っ込んでくるレノに対し、正面から噛み砕く姿勢だ。


――そして、この決着は一瞬で着くことを1人と1匹は理解し、持てる力全てを賭けて、衝突した。



「おぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「ガァアアアアアアアアアアアアアッ!!」



一筋の「紅の稲妻」と化したレノ、大地にしっかりと踏みとどまり、彼を待ち受ける島の王者、2つの強者はお互いの存在を確かめるように接近し、



「あぁあああああああっ!!」
「アァアアアアアアアッ!!」



左腕を突き出し、紅の雷を迸らせながら、撃雷のような螺旋状でも、ましてや雷槍のように先端を尖らせるわけでもなく、拳ではなく指を開き、獣の牙を思わせる形で突き出す。何故、そのような行為をしたのかはレノ自身も分からなかった。気が付いたら自然とその形にし、遂にレノの肉体は白狼の開かれた牙に接近する。



ガキィィイインッ!!



周囲に牙がぶつかり合う音が鳴り響き、雪景色の腕残っているのは白狼の身体だけであり、



――ズドォオオオオオオッ!!



次の瞬間、白狼の背中から紅の稲妻が貫かれ、



「……グゥオォオオオオオッ……!!」



ドスンッ……!!


そのまま白狼は膝をつき、口から致死量の吐血をしながらゆっくりと倒れこむ。


ズゥウンッ……!!


「……ぐはっ……」


白狼の背中から、血塗れのレノが姿を現す。その身体には無数の刃物傷が走っており、彼は無数の牙を潜り抜けて、白狼の体内に侵入して内側から撃ちぬいたのだ。

頑丈な毛皮で覆われた外側では、レノの攻撃が通じにくい。先ほどの一撃は白狼が油断していたからこそ、紫電で身体を麻痺させて攻撃が当たったのだ。ならば、敢えて正面からの攻撃を誘って危険を承知で突っ込む。白狼が最も頼りにしているのは爪よりも遥かに鋭利な牙なのは長年の付き合いから承知している。

当然、危険は覚悟の上だ。普通に白狼の牙の中に身体を放り込むなどただの自殺行為に等しい。だが、仮に身体全体を魔力で形成した擬似的に「雷」と同じ速度で移動する事が出来れば、牙を掻い潜って体内に侵入できるのではないかと。


だからこそ、危険を覚悟で「血液伝雷」で身体全体に電流を帯び、そのまま人間砲弾の要領で突っ込んだのだ。


「……がはぁっ……」


ズルゥッ……


白狼の体内から抜け出し、体中が自分の血と白狼の返り血で血塗れと傷だらけの状態だが、後ろを振り返れば横たわる巨体が見える。長年の宿敵の最期に、レノは黙って見つめながら、



「……じゃあな」



たった一言だけを告げると、そのままレノは立ち上がり、しっかりと歩き出す。一度も振り返らず、雪の上を歩き出す。

この戦いで何を得たのかは自分でも分からない。ただ一つだけ言える事は、最後まで正面から戦いを挑んだ白狼に対し、レノは行き当たりばったりの奇策だけで挑み続けた。だが、殺し合いの場で卑怯などという言葉は無い。人間の騎士道精神など、最初から持ち合わせていない。それは白狼も承知のはずだ。



――この島での最後の心残りを終え、レノは本当の別れを告げる。



「……クゥウンッ……」



その光景を、一匹の若い「狼」が覗いていたことを知りながらも。
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