異世界ライフは前途洋々

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67.禍を転じて福と為す?

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「はい、あ~ん」
「…」

 差し出されたスプーンには温かいスープ、そのスプーンを持つのはエヴァ。

「キラ、食わねえと力出ねえぞ」
「…」

 ベッドの上で背後から支えるように私を抱いているレオンに言われて口を開く。スープは私好みのあっさりした味付けでとても美味しい。でもこの状況には少々不満があります。

 昨夜は結局イキ落ちするまで責められ、目が覚めたのはもう昼近く。今までにも腰から下に力が入らなくて立てなかったことはあったけど今回はそれより重い。全身が怠くてベッドに起き上がるのも億劫なのだ。

 2人の夫曰く、精液は血の次に魔力が濃く混じっているという。ギルドの登録や各手続きなどで血を垂らすのは、混じっている魔力で個人を特定して情報管理するためらしい。

 要するに精を直接体内に入れた分魔力の相性による影響が大きかったという事だ。そういえば2人とした後レオンが『…寝ちまうかと思ったが大丈夫だったな』って言ってたっけ…。あれは影響が大きいから最初の頃のようにすぐ眠ってしまうと思ってのセリフだったのだろう。始まる前にもエヴァが『明日は起きられなくても良いよね?』って…まさかこんなに怠いとはね…。

「キラ、次はこっち。あ~ん」

 一口サイズのサンドイッチを持った手にぱくん、と食いつく。これも私の好きなバターとラズベリージャムが挟んである。

「…美味しい」

 多少膨れっ面をしながらもそう呟くと2人はホッとしたように笑った。

「良かった。コーヒーも君の一番好きな豆だよ?」
「…飲む」
「ほら」

 レオンがカップを受け取って飲ませてくれる。

「…すっごく美味しい」
「キラ、機嫌は直ったか?」
「…うん」
「ごめんねキラ」
「…私もごめんなさい」

 考えてみればいつもより怠いから怒るなんて大人げない。そう思って謝ると両頬にキスされた。

「お前が謝ることねえよ、俺らが昨夜やり過ぎたんだ。…悪かったな」
「次から気を付けるよ」
「…うん、ありがとう。レオン、エヴァ」

 不思議なもので、夫婦になったのだと実感し始めると自然にさん付けが取れた。2人は微笑んでもう一度キスしてくれた。するとエヴァの肩で黙っていたスノウが私の肩に移動してくる。

「きらだいじょぶ?」
「うん、大丈夫だよ」
「よかったの!」

 スノウはこういう時のタイミングの取り方が上手い。可愛くて空気の読めるフェニックスです。



 私が食べ終えて間もなく来客があった。それは商業ギルドからの使いで、できれば今すぐ来てほしいという。エヴァ1人でも構わないと言うので使いと一緒にギルドへ向かうことに。代金の件は彼に一任しました。











 家を出て僅か30分後、エヴァントは城の中を兵士に先導されて歩いていた。ギルドへ着くや否や統括に『王子が直接会って報酬を渡したい』と言っている、と聞かされてすぐにギルドが手配したタクシー馬車に乗ってここまで来たのだ。なんとも急な話だが相手が王子なだけに嫌とも言えない。しかしエヴァントは呼ばれたのが今日で良かったかもしれないと思っていた。

 案内されたのは謁見室ではなく応接間だった。なんとすでに王子が席に着いている。挨拶を交わした後促されて座るとお茶が出され、メイドが出て行くとジャスティンが口を開く。

「急に呼び出してすまなかったね。どうしても直接お礼がしたくてな」
「とんでもございません。勿体ないお言葉です」
「はは、楽にしてくれ。そのために謁見室を避けたのだ」
「はい」

 ジャスティンはお茶を一口飲んでから続けた。

「今日は1人なのだな?てっきり3人で来ると思っていたよ」
「申し訳ありません、妻が少々体調が優れないもので1人で参りました」

 という一言に少々目を見開く王子。

「…夫婦だったのか?」
「はい、実はつい先日3人で婚姻の誓いを行いまして」
「3人で…そうか。おめでとう」
「ありがとうございます」

 若干声のトーンが落ちる。ともすれば見落としそうなほど僅かだったがエヴァントはしっかり確認した。バザールの時に発した言葉、支払いを済ませた後キラを見た時の表情、そして今の反応。間違いなく王子はキラに惹かれていた。

 だがこれで大丈夫だろうとエヴァントは内心ホッとする。結婚前なら積極的にアプローチしてきただろうし、一夫多妻なら気に入ったから妾に、という事も無いとは言えない。しかしキラはもう人妻、しかも一妻多夫なのだからもう王子の出る幕は無い。それに結婚していたとしても、今日3人で来ていれば何かと理由を付けて贈り物やらされていたかもしれないのだ。権力者と面識を持つのは良い事だが、相手が王子では存在が大き過ぎてこちらが利用されかねない。そういった面でも近々旅立つのだから安心である。

「新婚の妻が体調が優れないとは…心配だろう」
「ええ、そうですね…」
「ではこちらの要件も手際よく進めるとしよう」
「お気遣いありがとうございます」

 こうしてエヴァントの予想通り事は進み、あまり時間を掛けることなく城を後に出来たのだった。その後しばらくの間、ジャスティンの溜息が城にこだましていたとかいなかったとか。











「…エヴァ遅いね」

 多少楽になったのでベッドに起き上がってスノウを撫でながら時間を確認する。辺りはもう薄暗くなってきてランプが必要な頃合いだ。彼が出掛けてもうかれこれ6時間は経っている。統括だって忙しいのだからギルドで報酬の話をしてくるだけならこんなに掛かる筈が無い。ちょっと心配になってしまう。

「心配ねえよ」

 レオンが私の額にキスすると、スノウがこちらを見上げた。

「えばならもうそこまできてるの」
「え?」
「そこまでって…分かるのか?」

 思ってもいなかったスノウ言葉に2人して目をパチクリさせてしまう。相手がエヴァではなく私なら契約獣の気配が分かるので逆も可能だろうけど…。

「かぞくになったからわかるの」
「…婚姻の誓いをしたからか?」
「それもあるの」

 理由を聞いてみると誓いをしただけでは条件として不十分で、スノウが幻獣だという事が重要なのだとか。これには強さと知力が大きく関係していて、この2つが高ければ離れても主の家族の気配まで分かるらしい。さすがフェニックス。

「…便利だな」

 レオンがそう呟いた時、スノウの言った通りエヴァが帰ってきた。

「ただいま」
「お帰りなさい」

 彼は部屋に入ってくるとベッドのそばへきて腰掛け、軽くキスする。

「体調はどう?大丈夫?」
「うん。歩くと疲れるけどこうしてれば大丈夫」
「遅かったな」
「実は王子に呼ばれて城まで行ってきたんだ」
「えっ!」

 ギルドへ行ってすぐに城へ向かい、報酬を頂いてもう一度ギルドへ。すると統括が取り込み中だったので帰ろうとしたが職員に待つよう頼まれ、それから統括と話した。城での事、報酬の事、そして近々旅に出ることも報告するとひどく残念がられて話が長引いたとのことだった。

 まさかお城に呼ばれるとは…。

「なるほどな…そうきたか。で、デュパリー統括とは話がついたんだな?」
「ついたよ。設計図の代金ももらった。ただランク変更には本人が行かなきゃならないけどね」
「そうか、なら後は双方のギルドでの手続きだけだな」
「そうだね。キラ、発つ前に買い足したいものはある?」
「少しあるかな。手続きの帰りにでも寄って良い?」
「もちろんだよ。準備は万端にしないとね」
「ああ」

 またもや話の切れ目を狙ってスノウが鳴く。

「スノウおなかすいたの…ごはん…」
「…お前そればっかだな」
「フフ、今夕飯にするよ」

 エヴァは笑ってベッドルームを出て行った。
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