116 / 163
ジェシカ・ボードウィル
しおりを挟む
私、ジェシカ・ボードウィルは男爵家の長女に生まれた。
跡取りは、嫡男のお兄様がいる。そのお兄様を補助する弟もいる。だから私は本来なら貴族の娘として政略結婚するはずだった。
ボードウィル男爵家は代々武官を輩出してきた家だ。兄や弟は勿論、私も幼い頃から剣を振り育ってきた。
そんな私は大人しく政治の駒になる事に反抗し、努力の結果、騎士団へと入る事が出来た。
お父様もなかば諦めもあるだろうが、私が騎士団に入る事を黙認してくれた。
騎士団へ入団してからの私は、周りの男達に負けたくない。その気持ちだけで人の何倍も努力して出世していった。
激しい訓練や実戦で、私は顔に大きな傷を残す事になってからは、家からも婚姻の事は言ってこなくなった。それはそうだ、顔に傷がある女を貴族が求める訳がない。
それでかえって吹っ切れたのか、私はドンドン出世して行った。
だけど女の私が出世する事を面白くないと思う者も多かった。
それはゴンドワナ帝国がサーメイヤ王国に敗戦し、好機とみた我がローラシア王国が帝国へ侵攻した戦争で起こった。
戦鬼ガルフレア将軍が軍を率いて帝国へ侵攻した。
戦闘は終始ローラシア王国が押し気味で推移していたのだが、やはり帝国の毒蛇ザール将軍は一筋縄ではいかなかった。
混沌として行く戦場で異変が起こった。
中隊を率いる私の身体が麻痺し始めたのだ。
次に私が気が付いたのは、売られた奴隷商の部屋だった。
訳が分からなかった。
捕虜として捉えられるのはまだ分かる。いきなり奴隷商に売られているという事に、混乱して思考が追いつかない。捕虜交換や金銭での保証で国へ返される筈の捕虜が、何故奴隷商の部屋にいるのかという答えは、この奴隷商館のハヌックが教えてくれた。
この商館の主人ハヌックが言うには、
帝国の違法奴隷を仲買いする業者を通じてハヌックが買い取ったらしい。
そしてハヌックは様々な情報から推測される事を話してくれた。
身体が麻痺したのは、多分ローラシア王国の騎士団の誰かの仕業だろうという事。
ゴンドワナ帝国に捕虜として捉えられた後、捕虜交換や金銭による返還にならず、いつの間にか違法奴隷の仲買い人に売られたのも、私を罠に嵌めた奴等の根回しによるものだろう事。
おそらく女だてらに、異例の早さで出世していく私への僻みと嫉妬からの犯行だろうとハヌックは言った。
それからの日々は、私にとって絶望と向き合う日々だった。
不幸なのか、幸運なのか、私は自分で言うのもなんだが容姿は優れている。本来なら貴族や豪商なら金に糸目をつけず性奴隷として買うだろうとハヌック殿は言った。でも私の顔には大きな傷がある。そのせいで貴族や豪商などには見向きもされなかった。
そしてそんな私に運命の日がやって来る。
その日もハヌックが客を部屋に連れて来た。
部屋に入って来たのは、銀色の髪に翠の瞳の青年と、美しい女性と兎人族の女。
その銀髪の青年があかしたその名を聞いて、そしてその圧倒的な存在感に、私の身体は震えが止まらなくなった。
「俺はサーメイヤ王国のカイト・グラーフ・フォン・ドラークだ。少し話を聞かせて貰うけど構わないか?」
ゴンドワナ帝国のチラーノス辺境伯軍一万を相手に、ほぼ単騎で蹴散らした男。
【厄災】と帝国からもローラシア王国からも呼ばれる男。
その後のゴンドワナ帝国との戦争でも、バスターク辺境伯軍と連携して、帝国の領地を切り取る活躍をした男。
その側に寄り添う美しい女性と獣人族の女も、並々ならぬ実力を持つ事が私程度にも分かった。それも、ローラシア王国騎士団の中隊長である私が、足元にも及ばない程に。
さらに、獣人族の女が自分の事を【厄災】の妻だと言った。他にもエルフと狐人族の妻も居るという。
貴族の妻に獣人族など、人族至上主義のローラシア王国やゴンドワナ帝国では想像だに出来ないだろう。げんに私がそうなのだから。
しかもその獣人族は、戦闘種族とは言いづらい兎人族の女なのだから。
でも私はその後に知る事になる。彼女の小さな娘すら私とは隔絶した力を持っているという事を。
私は【厄災】ドラーク伯爵に買われる事になったようだ。
この先が不安で仕方がない。
跡取りは、嫡男のお兄様がいる。そのお兄様を補助する弟もいる。だから私は本来なら貴族の娘として政略結婚するはずだった。
ボードウィル男爵家は代々武官を輩出してきた家だ。兄や弟は勿論、私も幼い頃から剣を振り育ってきた。
そんな私は大人しく政治の駒になる事に反抗し、努力の結果、騎士団へと入る事が出来た。
お父様もなかば諦めもあるだろうが、私が騎士団に入る事を黙認してくれた。
騎士団へ入団してからの私は、周りの男達に負けたくない。その気持ちだけで人の何倍も努力して出世していった。
激しい訓練や実戦で、私は顔に大きな傷を残す事になってからは、家からも婚姻の事は言ってこなくなった。それはそうだ、顔に傷がある女を貴族が求める訳がない。
それでかえって吹っ切れたのか、私はドンドン出世して行った。
だけど女の私が出世する事を面白くないと思う者も多かった。
それはゴンドワナ帝国がサーメイヤ王国に敗戦し、好機とみた我がローラシア王国が帝国へ侵攻した戦争で起こった。
戦鬼ガルフレア将軍が軍を率いて帝国へ侵攻した。
戦闘は終始ローラシア王国が押し気味で推移していたのだが、やはり帝国の毒蛇ザール将軍は一筋縄ではいかなかった。
混沌として行く戦場で異変が起こった。
中隊を率いる私の身体が麻痺し始めたのだ。
次に私が気が付いたのは、売られた奴隷商の部屋だった。
訳が分からなかった。
捕虜として捉えられるのはまだ分かる。いきなり奴隷商に売られているという事に、混乱して思考が追いつかない。捕虜交換や金銭での保証で国へ返される筈の捕虜が、何故奴隷商の部屋にいるのかという答えは、この奴隷商館のハヌックが教えてくれた。
この商館の主人ハヌックが言うには、
帝国の違法奴隷を仲買いする業者を通じてハヌックが買い取ったらしい。
そしてハヌックは様々な情報から推測される事を話してくれた。
身体が麻痺したのは、多分ローラシア王国の騎士団の誰かの仕業だろうという事。
ゴンドワナ帝国に捕虜として捉えられた後、捕虜交換や金銭による返還にならず、いつの間にか違法奴隷の仲買い人に売られたのも、私を罠に嵌めた奴等の根回しによるものだろう事。
おそらく女だてらに、異例の早さで出世していく私への僻みと嫉妬からの犯行だろうとハヌックは言った。
それからの日々は、私にとって絶望と向き合う日々だった。
不幸なのか、幸運なのか、私は自分で言うのもなんだが容姿は優れている。本来なら貴族や豪商なら金に糸目をつけず性奴隷として買うだろうとハヌック殿は言った。でも私の顔には大きな傷がある。そのせいで貴族や豪商などには見向きもされなかった。
そしてそんな私に運命の日がやって来る。
その日もハヌックが客を部屋に連れて来た。
部屋に入って来たのは、銀色の髪に翠の瞳の青年と、美しい女性と兎人族の女。
その銀髪の青年があかしたその名を聞いて、そしてその圧倒的な存在感に、私の身体は震えが止まらなくなった。
「俺はサーメイヤ王国のカイト・グラーフ・フォン・ドラークだ。少し話を聞かせて貰うけど構わないか?」
ゴンドワナ帝国のチラーノス辺境伯軍一万を相手に、ほぼ単騎で蹴散らした男。
【厄災】と帝国からもローラシア王国からも呼ばれる男。
その後のゴンドワナ帝国との戦争でも、バスターク辺境伯軍と連携して、帝国の領地を切り取る活躍をした男。
その側に寄り添う美しい女性と獣人族の女も、並々ならぬ実力を持つ事が私程度にも分かった。それも、ローラシア王国騎士団の中隊長である私が、足元にも及ばない程に。
さらに、獣人族の女が自分の事を【厄災】の妻だと言った。他にもエルフと狐人族の妻も居るという。
貴族の妻に獣人族など、人族至上主義のローラシア王国やゴンドワナ帝国では想像だに出来ないだろう。げんに私がそうなのだから。
しかもその獣人族は、戦闘種族とは言いづらい兎人族の女なのだから。
でも私はその後に知る事になる。彼女の小さな娘すら私とは隔絶した力を持っているという事を。
私は【厄災】ドラーク伯爵に買われる事になったようだ。
この先が不安で仕方がない。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
11,306
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる