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決戦前夜

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寺に戻った俺は、アヤメを心配して俺の帰りを待っていた類に、アヤメは杜人家で賢人衆と話し合いをしていて今夜は戻らないと、帰る道すがら考えた嘘をついた。
類の安心した顔を見て心が痛む。
「一宇とすれ違いだったんだね。皆にそう言ってくるよ。」
類が、心配していた人たちに事情を説明しに走っていくと、俺は自分で付いた嘘と、明日の戦いで自分が負けたらどうなってしまうのか、その責任の重さに潰れそうになる。

敵は百戦錬磨の白神剣護で、俺と言えばほとんど実戦経験もない新米の守人。俺に勝ち目はあるのか?白神の言った通りゆずに助太刀を頼むという考えが一瞬頭をよぎる。
俺はそんな弱気な心を振り払う。ゆずを危険な目に合わせるわけにも、辛い目に合わせるわけにもいかない。

明日は、是が非でも白神を倒し、東門や日本に暮す全ての人を、そしてアヤメを救うしかない。
おれは、皆が俺の不在を不審に思わないように「散歩に行ってくる」と言って再び寺を出た。
そして、祖父母の眠る社へ向かった。

”じいちゃん。ばあちゃん。明日、白神剣護と戦う事になったよ。俺,正直言って勝てるかどうか自信がない。”
俺は言葉に出さず、心の中で祖父母に本音をぶちまけた。

”俺が負けたら、東門が開かれて東日本は大惨事になる。それだけは避けたい。俺の力でどこまで奴に太刀打ちできるかわからないけど、やれるだけ頑張ってみる。それと、、、、ばあちゃん。もし俺が負けても、白神の好きにはさせないから、安心して。じいちゃんとの最後の約束も、守れるように頑張るよ俺。”

「こちらにおられたのですか、お館様。」

俺を探しに来た、ゆずがいつの間にか俺の後ろに立っていた。

「ゆずも、一緒にお参りそさせていただきます。」
ゆずは、社に向かって何かを一心に願っている。

「ゆず。お前、お賽銭入れたのか?」

「え??お賽銭を入れないと駄目なのでございますか!」
ゆずはポケットから小さな財布を取り出し、賽銭箱を探している。

「うそだよ。ゆず。」

「ひどいです!お館様!」

「ははははは。ごめんな、ゆず。お前があんまり真剣に願い事してるからさ。つい。ところで、お前そんなに真剣に何をお願いしていたんだ?」

「ないしょでございますよ、お館様、ゆずの願いが叶いましたら、ゆずの小遣いでお花を買ってここにお供えに参ります。」

「そうか。ゆずのお願いが叶うと良いな。」
その為にも、俺は明日頑張らなくてはいけない、俺はゆずと共に寺へと戻った。

男部屋では、白神について、宗助所長と高木班長が議論の真っ最中だった。

「だから、申し訳ないですけど、宗助さんより白神剣護の方が若いんですって!俺、バーナイトメアで奴の姿をはっきり見たんですから。」

「えええ。そんなわけあるはずがないですよ。剣護兄ちゃんは俺より10歳は年上のはずですから。」

俺の姿を見つけた高木班長が俺にも聞いてくる。

「だよな?本田君。君も近くで白神剣護を見ただろ?どう見ても、奴は宗助さんより若かったよな?」

「ですよね、、。」

「えええ、一宇君までそんなぁ。白神剣護がどんなに若作りしたって、アタシより若いってのはおかしいですよ。しかも、髪が真っ白なんでしょ?それなら、実際より老けて見えるのが普通ってもんです。」

宗助さんが、納得できないと言った感じで反論したが、俺と高木班長の二人にそう言われて引き下がった。

「一宇君。なんか元気がないように見えますが、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ、宗助所長。早く平和な世界に戻って、「TIME」のコーヒーが飲みたいって思っただけです。」

「TIMEのコーヒーですかぁ。良いですねぇ。もし、そうなってTIMEに行くときは、アタシも誘ってくださいよ。」

「もちろんです。」

「そう言えば、ケンタロウとハルカちゃん。結婚するそうですよ。」

「えええ。本当に?」

「ただし。恋のキューピッドの君が、大変な仕事をしているのに自分たちばかりが幸せになるわけにいかないし、結婚式には是非君にも出てほしいから、君がすべてを終えて帰ってくるのを待つって言ってましたよ。ですから、一日も早くこの非常事態を終わらせて、市内に帰りましょう。ね、一宇君。」

ここに来て、俺にはまた守らなければならない未来が一つ増えた。


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