眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

文字の大きさ
160 / 166

最終決戦 ①

しおりを挟む
夜が明ける。ヴァンパイアチームはそろそろ眠りに入る時刻だ。

俺は布団の中で、今夜、白神がどんな方法で「人払い」をするのかに思いを巡らせる。
白神は誰も傷つけることなく人払いをすると言っていたが、本当だろうか?
俺は、それが本当のような気がしていた。
白神の積年の目的を果たす時が目の前に迫っている。ここで、嘘をつくことにメリットは何もない。

眠れない俺は、白神の起こした事件の一つ一つを考えはじめる。悪事を働き、金を貯め、人間とヴァンパイアを反目させ、そうまでして、祖母を取り戻したかったのか、、、。
奴の望みはただ一つ、祖母の安芸の復活それだけなのだろう。

祖母は、そんなの絶対に嫌だと俺に言った。白神の思いはここに来ても一方通行な事を考えると少し白神が気の毒になる。

白神は、祖母が死んでからその為だけに生きて来た。この世の終焉も、祖母の為に必要な環境を整えることが目的なのかもしれない。
もし、どんな環境でも祖母が生きていけるのであれば、あるいは俺を使って祖母を蘇らせて、どこかでひっそりと暮らしたのかもしれない。そうだったら、どんなに良かったか、、、。

結局、眠れなかった俺は、シャワーを浴びることにした。
白神と会ってから彼の悪意が全身にまとわりついているような気がしたからだ。
シャワーを浴びるとだいぶさっぱりした気分になった。そのまま何か食べ物を探しに台所へ行く。

そこでは里美さんと、結女さんが、眷属メンバーの為に朝食を作っている最中だった。

「あら、一宇さん。寝なくって大丈夫なの?」
里美さんがそう言って優しく微笑みかける。

「ははは、なんかお腹が減っちゃって、、。」
俺は嘘をついた。

「それなら、ちょうどご飯が炊けたところだからおにぎりでも作りましょうね。」
そう言って里美さんがおにぎりを作りはじめる。

俺は、宗助所長と高木さんが話していたことを思い出して、里美さんに聞いてみる。

「あの。白神剣護って、今何歳なんですか?」

「彼なら、今の私とそう変わらない年のはずよ。彼は、ヴァンパイアだから私より見た目はずっと若いでしょうけどね。剣護さんの年齢がどうかしたの?」

俺は、昨夜の宗助所長と高木さんの会話を里美さんに話して聞かせた。

「それは、宗助様の言うことが正しいわね。いくら人間より見た目が若いって言っても、中年くらいの見た目にはなってるはずですよ。」
里美さんがそう言って笑った。

「それなら、、私に心当たりがあります。」
そう言ったのは、俺たちの会話を聞いていた結女さんだった。

「ちょっと、ここお願いしていいですか?」
そう言って、結女さんが台所から出て行く。

俺は、里美さんの作ったおにぎりと出された味噌汁を食べながら、結女さんの帰りを待った。

20分ほどで結女さんが戻って来る。

「ごめんなさい。家に誰もいないから探すのに手間取ってしまって。」
結女さんがすまなそうにそう言いながら、一冊の古い本を食堂のテーブルの上に置いた。

「結女さん、これは?」

「これは、白神家に伝わる本なんですが、この中に不老に関する禁術が書かれてあるんです。先代様、剣護様のお父さんが、私に話してくれたことがあったんです。当時、先代様は剣護様に当主の座を譲ったばかりでした。その時に、納戸の整理を手伝っていた私に「結女は女性だから年は取りたくないか?」と仰って、この白神家に伝わる禁術のお話をしたんです。私がその術を使ったら旦那様もまだまだお仕事ができたんじゃありませんか?って申し上げたら、誰でも老いて行くのは自然な事で悲しい事でも何でもないって。それにこの術を使うのは良くないことだとも言ってました。」

「良くないって、どんな風によくないんですか?」

「ごめんなさい。ずいぶんと昔の話だし、私も不老には全く興味がなかったから、、、。憶えてないんです。」

「その本、見ても良いですか?」

「守人様なら見ても問題ないと思います。」

俺は急いで本を開いてみる。

駄目だ、、、、。
筆書きのウネウネした文字、、。なにが書いてあるのかさっぱりわからない。

「ですよね。白神家にある本は、そんなのばっかりですから。」
そう言って結女さんが笑った。

「一宇様、何がお知りになりたいんですか?私、少しなら読めますけど。」

「それなら、その術の方法と、術を解除する方法。あと、その術がヴァンパイアに与える影響も出来れば知りたいです。」

「まさか、一宇様。不老にご興味があるんですか?」

「無いですよ~、おれ。ただでも童顔で子供っぽく見られることが多いから、早く大人の男の顔になりたいって思ってるくらいなんですから。」

「わかりました。それなら。」
そう言って結女さんは、古い本をぱらぱらとめくり読み始める。10分ほど本に目を通していた結女さんが、ようやく口を開く。

「読めないところもあるので、正確とはいいがたいんですが。」
そう前置きして、結女さんが話しだした。

身体を不老の状態にするには、人間の血液とヴァンパイアの血液を墨に混ぜたインクで刺青を入れることだと結女さんは言った。結女さんは、本に描かれた不思議な模様のマークを指さしこの模様を体に彫るらしいですよ。っと言った。
そして、体に与える悪影響はほぼ無い。ただし、その模様が一部でも消えたり、欠けたりした場合は、その時点から老化が進み始めると書いてあると言った。

ということは、もし白神の身体にその模様を見つけたら、それに傷をつければ彼は、老化して動きが鈍くなるかもしれない、、、。

でも、それは、白神を倒す有効手段になるとは思えなかった。年を取ったとしても白神はまだまだ動ける年齢な事に変わりはない。中年の白神もきっと強いだろう。

「なにか参考になりましたか?」
結女さんが俺に訊ねる。

「ものすごく参考になりました!」
俺は、また嘘をつく。

「一宇さん。何か食べたいものはありませんか?」
食堂を出ようとする俺に里美さんが聞いた。

「あ、なら。俺。ナポリタンが食べたいです。ちょっと麺が伸び気味のやつ。」

里美さんは、あっ、という顔をして「任せてください。それなら昔、お手本になる美味しいのを食べたことがありますから。」と言った。彼女はじいさんの勝也と食べたナポリタンを憶えていたらしい。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。

四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……? どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、 「私と同棲してください!」 「要求が増えてますよ!」 意味のわからない同棲宣言をされてしまう。 とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。 中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。 無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち

半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。 最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。 本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。 第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。 どうぞ、お楽しみください。

『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇  

設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡ やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡ ――――― まただ、胸が締め付けられるような・・ そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ――――― ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。 絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、 遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、 わたしにだけ意地悪で・・なのに、 気がつけば、一番近くにいたYO。 幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい           ◇ ◇ ◇ ◇ 💛画像はAI生成画像 自作

処理中です...