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やっと6歳

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 さすが王城といった広い庭園。その奥まったところにあった、ベンチに腰掛けます。隣に座ったオニキスにもたれかかり、ほっと一息つきました。

「あぁ、驚いた。詳しく聞いてもいいですか? オニキス」

 オニキスは他の精霊について話すのを嫌っている節があります。無理に聞き出すこともないかとそのままにしていましたが、今回はできれば聞いておきたいです。
 目を伏せて逡巡したのち、オニキスが口を開きました。

『あの者に寄生しているのは火の精霊だ。それもかなり大きい・・・力が強い』

 燃えるような深紅の髪ですからね。精霊の属性の色が濃いほど、その力も強いとされています。ゲームでも精霊の加護が強い設定でしたし。
 精霊には、力の強さが大きさで見えるのでしょうか?

『あぁ、そうだ。しかもかなり気の強い精霊のようで、まわりの精霊たちを威圧してまわっていた』

 よほどうるさかったのか、オニキスの眉間にしわが寄ります。

「それは宿主にも影響が?」
『聞くに堪えない言葉で、口汚く罵っていたからな。聞こえているならつらいだろう。周りの人間の精霊たちは委縮していたし、その宿主にも少なからず忌避感が伝わっていると思うぞ』

 すごくインパクトの強い精霊なのですね。ゲームの主人公は彼を攻略するのですが、彼女の精霊は大丈夫だったのでしょうか?

『あぁ。光の精霊は別格だからな。信奉している精霊も多い』

 あ、そうなんですか。
 そういえばゲームでも、好感度を上げる前から、主人公へ頻繁に接触してきたような。あれは主人公へ近づくと、煩い精霊の声が聞こえなくなるからだったのでしょうか。
 光の精霊は精霊たちにとって、神様なのかな?

『神ではないが・・・それに近い扱いだ』

 オニキスの眉間のしわが深くなります。
 やはりあまり話したくない話題のようですね。十分ですので、ここまでにしましょう。

「ありがとう、オニキス」

 オニキスをぎゅっと抱きしめ、眉間のしわを人差し指でぐりぐり解します。
 ふうぅとオニキスが深いため息をつきました。そして鼻先を頬に押し付けられたので、お返しに目元に口づけをしました。オニキスは嬉しそうに目を細めると、私の膝にゆっくりと頭を乗せます。

 そう。誰にだって、話したくないことくらいある。

 膝の上のオニキスの頭を撫でながら、社交シーズンが始まる前の、素晴らしい秋晴れの空を見上げます。
 テトラディル領は南にあるため、年中暖かく、防寒着はいりません。なのに雪は降らないものの、冬の肌寒い時期に王都で過ごすなんて、なんの得になるのか。

 「カーラ・テトラディル」なんてやめて、オニキスとどこか遠くで暮らしたい。
 時々、そう思います。オニキスの力を借りれば可能でしょう。そう決めたなら、セバス兄妹はついてくるのでしょうか。

 でも遅すぎた。
 情が移ってしまった。

 家族とは距離を置いて、なるべくかかわらないようにしていたつもりだったのに。
 私を少し怖がりながらもほほ笑む母に、なんの気負いもなく駆け寄ってくる弟に、嫌われ者の娘を守ろうと尽力する父に。
 結局、私も寂しさに耐えられなかったということでしょうか。

 こわい。

 恐ろしい。

 大切なものができることが。



 今度こそ、

 今度こそ、



 気付くことができるだろうか?

『カーラ? 大丈夫か?』

 思わず身震いした私を、オニキスが見上げました。私の不安を読み取っているでしょうに、何も言わず、慰めるようにすり寄ってきます。それが今はありがたい。

「大丈夫です。最近、夢見が悪くて。少し、思い出してしまっただけですから」

 そう、大丈夫。今の私には力があるのだから。
 これ以上、大切なものを増やさなければ、きっと、大丈夫。
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