上 下
116 / 281
第一章:始まりの世界 ”自己啓発編”

♯16. リカ姐の素朴な疑問①

しおりを挟む
「そうだ。マイカの話をずっと気になってた事があるん
だけど聞いても良い?」
 リカは体が冷えてきたのでベランダから部屋に戻って
扉を閉める。
「もちろん良いよ。私が知ってる範囲で良ければだけど」
 このタイミングで扉を閉めてくれたのは正直、有難い
立花だった。もう少し体が冷えてたら体操座りにしよう
と考えていたからだ。
「やったね! 宮間さんは道具を使わずに、どうやって
ヒカルさんに催眠術を掛けたの?」
 瞳をランランと輝かせて催促するリカ。
「あぁ。その事か。説明するの完璧かんぺきに忘れてた。えぇと
催眠術の古典的な手法として幅広く知られているのがひも
に五円玉をぶら下げて振り子運動を目で追わせる手法だ
けど宮間さんが使ったのは高等テクニックで道具を使わ
なかったの」
「知ってる情報だし。それじゃぁ、答えになってない!」
「慌てない慌てない。簡単に言ったら面白おもしろみに欠ける気
がしたからフェイクを入れてみました」
 リカがねた声を出しているのを理解しながららし
作戦を結構する立花。
「フェイクで遊ばれるの年上の私なんだけど……」
 チクリとするリカ姐の言葉の圧力を受けて真面目に、
話し始める立花。
「ゴメンです。ちょっとした悪ふざけになったみたいだ
からトリックのネタバラシなんだけど瞳を一定のリズム
で左右に移動させて誘導催眠をし続けていたんだって」
「つまり、黒目を移動させて振り子運動させていた訳だ」
「そういう事。まぁ話術も得意じゃないと目を追う動作
にだって移行しない訳だし、さりげなく警戒心けいかいしんいた
あたりから投入してたらしいよ」
「その事も脚本に書いてあったの?」
「もちろん。太い文字フォントで書いてあったわ」
「それって面白いね! 私にも脚本読ませてよ~」
「ダメに決まってます」
「何でよっ」
「私が話すことが無くなっちゃうから……」
 視線を下げてうつむき加減になる立花。
「そういう心配か。まぁ文字で認識してしまえば疑問に
思うことも少なくなるのは確かに一理あるよね」
「それに手書きじゃないから味が無いと思う」
「そうかな。パソコンで文章作成ソフトで入力してプリ
ンターで印刷は普通だって」
 意見が真っ二つに分かれたが相手の本心を理解すると
揉める事無く、笑顔で肩に寄り添う二人だった。
しおりを挟む

処理中です...