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人食い花に転生しました ~復讐~~その人を食べる日まで~

洞窟

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 中庭を抜け、東側にある礼拝堂を訪れます。中は暗く、ほとんど見えません。私はマップを頼りに移動しました。《アズール》さんは、見えているのでしょうか……。

「はい、この絨毯の下に、地下への入り口があります」

「一体何があるのですか?」

「私が求めていたものです」

「と、いいますと?」

「見てのお楽しみです」

《アズール》さんは、絨毯を引き上げ、床を持ち上げていました。中は真っ暗です。

「階段があります。注意してくださいマドモアゼル」

「わかりました」

 私は、根を触覚かわりに生やして足元を確認します。そしてゆっくりと《アズール》の後を追います。いったいこの先に何があるのでしょうか……。

 ひんやりとした空気が体を冷やします。私と《アズール》の足音だけが周囲に響き渡ります。

 ずっと左に曲がりながら下っています。ここは、らせん階段のようです。どのぐらい下ったでしょうか……何か地下から嫌な瘴気がただよってきます。

 …………。

 とても……静かです。

「灯りをつけます。マドモアゼル」

《アズール》の声がしました。

「【ファイヤー】!」

《アズール》の手から、複数の火の玉が飛び出しました。その火の玉は、壁のランプを全て灯します。たちまち通路は明るくなりました。

「《アズール》さん……ここは、魔法が使えなかったのではないのですか?」

「この辺りからは古い建物になっています。『魔封石』が使われていないのでぇす。なので、ここからは魔法が使えまぁす」

「そうでしたか。詳しいのですね……あなたは……ただの『グール』ではないですね」

 最下層につきました。朽ちた扉があります。《アズール》は、その扉を無理やりこじ開けます。中から強い瘴気が出てきました。とても生臭く、おいしそうな臭いがします。この先にいったい何が……。

「ちょっとだけ、私の話をしましょうか」

「お聞きします」

《アズール》は、指を鳴らし、どこからともなくランプを取り出しました。その灯りで扉の中を照らします。中は、洞窟のような通路になっていました。

「先へ進みながらお話ししましょう」

 私は、《アズール》の後を追い、普通の人間であれば1分と持たないような濃い瘴気の出ている洞窟内に入りました。


 200年前の話でぇす、その時期は国の政治が不安定でした。私はその頃、大魔導師という立派な職についていましてねぇ……。

 ある時、ある村に疫病が蔓延しました。特殊な疫病で魔力耐性付の厄介なものでしたぁ。ま、いまでは『邪封の像』を使って治療できますがねぇ。

 そして私は国王の密命を受けました。村を焼けと。そしてそれを一人で実行しました。汚れ仕事でぇす。

 まあ、その仕事を終えたのはいいんですが、隣国から非難を浴びましてねぇ。村を焼いた悪魔とか、死神とか……。

 結局私は体を『魔封石』で固められ、さらに古井戸に投げ込まれ、生埋めにされましたぁ。

 ですが、私は死にませんでしたぁ。正確に言うと死ななくなった、というべきでしょうかねぇ……。

 私の埋められた古井戸は、魔物退治をしていたころ、狩っていた『グール』を封じ込めていた場所だったのでぇす。何かの研究に使えると思って、保存しておいたかいがあったというものでぇす。

 私は『古代魔術』を使い、保存しておいたグールと融合しましたぁ!

 『古代魔術』は『魔封石』で封じることはできませぇん。そして、あの人たちはぁ、私がその魔法を使えることを知らなかったぁ!

 今の私があるのは、そんな理由なわけなのでぇす。


 私は、《アズール》さんの過去に触れてしまいました。彼もまた、人間に恨みをもっているのでしょうか……少し、親近感を覚えました。

「では、今は何を目的に生きているのですか?」

「そうですねぇ、本当は私は一介の研究者でありたかったのですよぉ。だからもう一度、身分を隠して研究に打ち込みましたぁ! しかぁし! 世の中は成果を軽んじまぁす! 実は『邪封の像』も私が開発したものなのでぇす。それなのにいいぃぃ! 研究費は出ない! 開発するのは当たり前? 研究者の分際で? 貴族たちは何もわかっていない! いろいろなものを試行錯誤し、生み出してきた私たちの存在がなければ、今の豊かな国家はあり得ない! そう思いませんかぁ、マドモアゼル。 もう人間には愛想が尽きましたぁ!」

「苦労……なされたのですね……」

「おお、マドモアゼル! わかっていただけるのですねぇ」

「私も……苦労しましたから……」

「だから、私は力を得て、この国を支配しようと思ってるんですよぉ。国民がこんなにも歪んでしまったのも、すべてこの歪んた国の体制がいけないのでぇす」

「そうですね……全てが歪んでいると思います」

「なのでぇ……私がこの国を変えることにしまぁす! 歪みは正さなきゃいけなぁい! そしてぇ! それを成し遂げるための力が、ここにあるのでぇす!」

「野心家……なのですね……」

 国をいただくのですね……。国が良くなると……人間が増えて食べ放題になるのでしょうか……少しだけ、《アズール》さんに期待してしまいました。

 洞窟は行き止まりになります。その先に、頑丈そうな鉄の扉がありました。

《アズール》さんは扉に魔法陣を描きました。すると、扉がゆっくりと開きました。

 中からとても臭いにおいと強い瘴気が噴き出しました。人間だったら即死レベルです。

「では、行きましょうかぁ」

「はい」

 私たちは、ゆっくりと扉の向こうへと足を踏み入れました。
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