異世界立志伝

小狐丸

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一罰百戒 2

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 サーリット王国の王都を目前に、俺達の目の前には弓を構えた馬鹿どもが並んでいる。
 スーロベルデは愚王を抑えきれなかったみたいだな。騎士団長じゃ愚王と長老を抑え込むのは無理があったか……、分かってたけどね。

「我等エルフの領域に無断で足を踏み入れる愚か者達よ!今すぐ立ち去れ!」

 エルフの兵士をまとめる隊長格の男が叫んでいる。スーロベルデを待ちたい所だけど、この状況じゃなぁ。

「聞こえぬのかぁ!」

 うるさいなぁ、全部で100人程か、俺達なら五分かからないだろ。エピルやオウカも増えたしな。

「ルキナはらなくても良いからね」

 さすがにルキナの手を汚させるのは嫌だからな。

「え~、ルキナ、オウカおねえちゃんより強いよ~!ダメ~パパ~」

「うん、ルキナは強いけどな。でも魔物じゃなくて、相手は人だからな。今回はパパ達に任せてくれるかな」

 何とかぐずるルキナを説き伏せる。

「しかたないの、今日はパパの言うこと聞くの」

「ありがとうルキナはエライな~。

 オウカはルキナの護衛をよろしく」

「はい、任せて下さい!」

 棍を握り締め張り切るオウカ。

「ええーい!無視しおってぇ!

 かまわん!射殺せーー!!」 

 隊長格のエルフが号令を下し、弓兵が俺達に向け一斉に矢を射掛ける。

 その全ての矢を、ルシエルと俺の魔法障壁が防ぎきる。

「あ~あ、先に攻撃しちゃったな。
 あいつらルシエルが見えてないのか?」

 仮にも最年少で長老に選出される目前だった、エルフの英雄と呼ばれてたんじゃなかったのか?

「カイト様、多分あの兵達は、私を罠に嵌めた新長老の息がかかった者達だと思います」

 全ての矢が魔法障壁に弾かれると、矢の中に魔法が混じり始める。

「……これはこいつら殺っちゃって良いよな」

 この程度の魔法で俺達を倒せると思っている所がオメデタイ奴等だ。

「しかたがありませんよね。同朋を殺める事になりますが、もともと私も騙され罠に掛けられ、奴隷として売られた恨みも少しありますし」

 それを確認したら、もう我慢する事ないな。

「さくっと蹴散らすぞ!」

 俺がそう言い終わるや否や、ランカス、ユーファン、バルデスが飛び出す。
 それを見てエピルもモップを振り回して突撃する。

「俺の出番なさそうだな」

「そうですね。皆さん張り切ってますから」

 俺が呆れるように呟くのにイリアが頷く。



 飛び来る矢を盾で防ぎながら、剣を抜きエルフ兵士に襲いかかるランカス。
 ユーファンも獣人族のスピードを活かし、一瞬で懐に入って短剣を振るう。
 巨大な戦斧を豪快に振り回すバルデス。エルフ兵が剣で反撃しようとするが、剣ごと戦斧に叩き折られてエルフ兵が吹き飛ぶ。
 エピルは蜘蛛の糸とバトルモップでエルフ達を粉砕する。糸に絡められて動けなくなったエルフ兵士をモップの一撃で葬り去る。


「他に増援の部隊は無いようです」

 音も無く俺の側に黒豹人族のフーガが現れて報告して来た。フーガは一足先に斥候として王都で情報収集していた。

「要するにルシエルを嵌めた奴が独断で動いたのか」

「そのようです。スーロベルデ殿は騎士団を抑えているようです」

 フーガと話している間に戦闘は終わっていた。

「まぁ直ぐに終わるよな」

 王都の門前で足止めしていたエルフ兵士を排除した俺達は、堂々と門から王都へ入り王城へ向かう。

 街の中では、エルフ達が不安そうに遠巻きに俺達を見ている。
 街の守備隊も俺達に近付こうとしない。スーロベルデからなにか言われているのかもしれない。

 ルキナは初めて見るエルフの王都の街並みに、遠足気分でルフトの上で鼻歌を歌っている。



 やがて王城の前までたどり着いた。

「これは、ある意味見事だな」

 サーリット王国の王城は、とても幻想的なモノだった。
 白い石造りの外壁に、巨大な樹木が縦横無尽に絡まっている。所によりツリーハウスの様な場所もあり、緑の葉が茂るその様子は、ファンタジー世界に転生したと改めて感じさせるものだった。

「この木はこれで一本の木なのか?」

「はい、この巨大な樹木が世界樹の苗木です」

「これで苗木なのか…………」

「はい、まだこの木は千年程の若い木ですから。

 本来の世界樹が種を落とし、その種が芽吹いた場所にサーリット王国の王都を移したのです」

 ルシエルの説明ではここ五百年程、この世界樹の苗木の成長が止まっているらしい。
 これは驕るフォロンバード王と六長老の所為ではないかとルシエルは思っているらしい。世界樹には意志があり、自ら成長を止めていると言う。

「精霊の声が聴こえない愚王の所為です」

 そうルシエルは言い切った。

「フォロンバード王の代わりは居るのか?」

 フォロンバード王を排除してもそれで終わりではない。

「大丈夫です。彼の王弟は出来た人間です。その所為でフォロンバード王に疎まれ飼い殺しにされています」

「なら問題ないな」

 俺達は王城の門前へ行く。そこにはスーロベルデが門を開けて待っていた。

「お待ちしておりました」

「案内を頼む」

 さあ、馬鹿を引きずり降ろそうか。



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