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地下室の悲劇

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蒔は、高田にそう言われて胸が苦しくなった。

そんな事は分かっている。。

蒔だって強がっているだけなのだ。
自分の体に一生消えないかもしれない醜悪な印を刻まれるなんて、女の蒔には過酷過ぎる仕打ちだった。

しかし。。

雑誌モデルをしていながら、今一つ売れない蒔にとって、今回は世間に顔を売るまたとないチャンスだった。それは、多額の報酬以上に魅力的だった。
まさに、悪魔の囁きだった。

若い男は、蒔に近づくとニヤリと笑った。こんな夜更けに、しかも室内にいるのに黒いサングラスをかけていて、表情は分からなかったが、どう見ても気質には見えなかった。

その若い男は、蒔の横をゆっくりと通り過ぎると治療台の後ろに回り込み、上から蒔の顔を覗き込んだ。

「ふ~ん。高田さんが言ってた通り、いい女ですねえ。ヒヒヒ。。こんな女をいたぶれるなんて、最高ですよ。」

男は品のない口調で高田に言った。
思わず後ろを振り返り、体をこわばらせる蒔。

「専務さん、この人まともじゃないわ。私、こんな人に焼き印を押されるのは嫌です。。。あの。。やっぱり帰ります。」

蒔は身の危険を感じて治療台から立ち上がろうとした。

すると、いきなり背後から若い男が蒔の両手を掴み、乱暴に椅子の背の後ろに回した。

「い、いや。。痛いっ!放してよ!」

男は、蒔を無視するかの様に、いつの間にかロープを手にし、淡々と蒔の両手首を縛り上げていく。

その力は情け容赦なく、蒔の細い腕は折れてしまいそうだった。

「若王子さん。今更往生際が悪いんじゃないか。君には十分過ぎる程の報酬を渡してある筈だがね。」

高田はクールに言い放った。本当は蒔に対して同情や申し訳ない気持ちがない訳ではない。しかし、由香理の為には心を鬼にするしかなかった。

「お、お願い。。お金なら返します。だからやめて。。助けて。。」

泣きながら許しを請う蒔。しかし、男は手を止める様子はなかった。
男は両手をがっちりと縛り終えると、今度は蒔の両足の拘束に取りかかった。

男は、蒔の左足を椅子の足に縛りつけると、右足を持ち上げて椅子の横の診察台の上に乗せ、足首と膝の部分に縄をかけていった。
蒔の両足は大きく開脚した状態で固定されたが、今の彼女に恥ずかしがる余裕はなかった。

「今夜はジーンズ姿でよかったな。」

高田は目の前で足を大きく広げた蒔をからかうかの様に言った。が、すぐに優しい表情に戻ると、蒔を諭す様にゆっくりと話し始めた。

「少し気持ちを落ち着かせて考えてみなさい。焼き印を押す事は君の飛躍のチャンスでもあるんだよ。君自身も納得している筈だと思うがね。決して金の為だけではないだろう?」

高田は、蒔の横に立つと、涙で濡れた頬を優しく撫でた。

「君はいきなりこの男が現れて動揺しているだけだよ。怖がる事はない。事前に打ち合わせた通りの事をやるだけなんだからね。」
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