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地下室の悲劇

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蒔は高田になだめられ、少し落ち着きを取り戻した。

そう。。
私自身の飛躍の為にもがんばらなきゃいけないんだ。

「わ、分かりました。私、頑張ります。もう逃げません。だから、縄は解いてください。腕が折れそうに痛いんです。」

再び意志を固めた蒔。。

だが、その決意は次の瞬間、高田と男の会話によってあっけなく砕かれる事になる。

男は、ニャッと笑いながら、蒔に言った。

「縄は解かない方がいいと思うぜ。でないと、とても耐えられないだろうからな。」

「え?!ど、どういう事?」

蒔は顔色を変えて高田の方を見た。
そこには、辛そうな表情をした彼の顔があった。

「すまんな、若王子さん。実はこの仕事を引き受けてもらう為に、彼に特別ボーナスを支払う事になってね。」

「と、特別ボーナスって。。」

「ヒヒヒッ、あんたに麻酔なしで焼き印を押させてもらう事にしたんだよ。」

男は残忍な笑みを浮かべながら、蒔の右の太股を撫でた。
ジーンズを履いていても、男の醜悪さが電気ショックを受けた様に蒔の体を突き抜けた。蒔は震え上がって高田に向かって叫んだ。

「冗談じゃないわ!は、話が違うじゃない。確かに焼き印を押す事に同意はしたけど、ちゃんと麻酔をして苦痛のない様にするって約束だったでしょ。そ、そんなの耐えられる訳ないじゃない。でなきゃ、やるなんて言わない。そんなの絶対嫌よ。」

口調は一見強気にも聞こえたが、蒔の高田を見る目は、追いつめられた獲物の様に怯えていた。

だが、何も言わずに黙っている高田に変わって、再び蒔の訴えに答えたのは男の方だった。

「心配はいらない。別にあんたは耐えられなくてもいいんだ。あんたの手足はきっちり固定されているんだからな。いくらもがこうが、焼き印の仕上がりが悪くなる事はないだろうよ。」

「な、何言ってるのこの人。。」

蒔は愕然とした。
この男は、蒔の事など全く気にかけてはいないのだ。高田がまさかこんな男に依頼するとは、蒔はまだ信じがたかった。
蒔にとっては大切な人生がかかった一大事だというのに。

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