拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉ちゃん、て呼んで? ★4★

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「甘いわよ。柚鈴ちゃん。これからの高校生活に胸を弾ませているんでしょう。でも甘いわよ」 
志奈さんは、とにかく私が家から出ていくのが不満らしい。
ぷりぷりしながら不安を煽るような言い方をしている。

とは言え、絶妙に憎めない。
志奈さんの行動は、基本的に全部好意からきていることが分かるし、そもそも人が嫌に感じるような雰囲気を持っていない。
どこか駄々をこねる子供みたいなのだ。
私は困りつつ、愛想笑いを浮かべて聞き返す。
「別に胸を弾ませているわけじゃないです。でも、なんですか?甘いって」  
「柚鈴ちゃんも知ってるでしょう?常葉学園はそもそも、歴史の長ーい女学校なのよ。昔の風習が理事が変わった今でも、根強く残ってるんだから。面倒くさい習慣も多いのよ。特に」 
勿体つけるように、アクセントを付ける志奈さんに思わず相槌を打ってしまう。
「特に?」 
「外部受験からの一年生は、色んな先輩方に目を付けられて振り回されるのが慣例なのよ」 
「はあ?」 
言われてる意味が分からない。
先輩方に振り回されるのが慣例とは、どういう意味だろう?
くるくる回される絵が浮かぶが、いや、きっとそういうことじゃない。

志奈さんは愛らしく小首を傾げてみせた。 
「んーていのいいメイドさん、みたいな感じかなー。学園公認の恐ろしい制度があるの。その制度を使って、結構やりたいようにやる上級生も多い、みたいな感じかしら」 
「なんですか?それ」
学校公認の制度?
パンフレットにそんなもの記載されていただろうか?
全く覚えていない。
というか、そろそろ家から出ようと思っていたのに、気づけば志奈さんのペースで随分混乱してきている。
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