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88.カルコの街
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街に到着した私たちは門で兵士に裸男たちの事を説明。そして道中スリップホースがスレイプニルに進化し、新たに契約獣とした旨を話し終える頃には夜になってしまった。
街中へ入り、そのまま冒険者ギルドへ直行。この街は中心部に双方のギルドが隣り合わせに建っている。街灯が灯る時間になると商業ギルドは人の出入りが少なくなるが、冒険者ギルドはまだ混雑している為人通りも多い。スレイプニル2頭立ての馬車はかなり目立っていた。
まずはレオンとシュカが中へ行き、程なくしてすらっとした中年男性と共に戻ってきた。続けて職員の男性も数名出てくる。
「確認させてもらうぞ」
「ああ」
男性が裸男たちの馬車を覗く。街へ入る少し前から起きだしていた奴らが呻き声を上げているのが聞こえた。
「…確かに。おい、こいつらを地下牢へ放り込んでおけ」
「は、はい」
サニーとサックスに驚いていた職員たちは、声をかけられて我に返り馬車を裏へ移動していった。
「スレイプニルか…久々に見たな。中で話を聞かせてくれ、契約獣も一緒で構わん」
私たちは2頭を外して馬車をしまい、中へ入った。
ギルドは3階建てでかなりの大きさだ。おそらくヴェスタに次ぐ広さではないだろうか。騒がしかった1階はスレイプニルの登場で一瞬静まり、それまで以上の喧騒に包まれる。契約獣の確認は後からという事で3階のマスター部屋へ通された。
契約獣とはいえ体の大きなサニーとサックスまで部屋へ入れてもらえるとは…。私は少し驚いたけどレオンとエヴァが平静なのでこれが当たり前なのかもしれない。
ソファーへ落ち着くと男性が口を開く。
「自己紹介しておこう。私はカルコの冒険者ギルドマスター、ロムールだ。そっちの3人はここの冒険者だという事だが君たちは?」
「旅のパーティーだ。俺はレオハーヴェン」
「エヴァントです」
「キラです」
シュカたちも名乗り、簡潔な自己紹介を済ませて早速話に入る。
「詳しく聞かせてくれ」
私たちは順を追って説明した。
「…そうか、分かった」
聞き終えたギルマスは深いため息を吐いて呟くように言葉を発した。
「あいつらの尋問は今夜のうちに済ませる。明日の昼頃もう一度来てくれるか?」
「ああ」
「最後にオーガの確認をさせてくれ」
今度は裏の倉庫へと移動してオーガを出し、確認後解体を頼んでギルマスとは別れた。
「レオンさん達は宿を取るんですか?」
「いや、サニーとサックスの手続きを終えたら一旦街の外へ出る」
「今からじゃ宿が取れるかどうか分からないからね」
シュカの問いに2人が答えた。
時刻はもう21時を迎えようとしている。馬車や大きな契約獣を預けられる宿はそう多い訳ではなく、この時間になれば埋まっている可能性も高い。だから手続きをサッサと済ませてコテージで休もうという事だ。
「そうですか。宿かと思ってました」
「なんでやねん!あのコテージが有んねんで?快適さがちゃうわ」
ボケたわけじゃないだろうけど、すかさずリランがビシッとツッコミを入れる。
「だって完全閉門まであんまり時間ないし…」
「フフ、宿でも良いんだけど今日はね。君たちはギルドの宿?」
「はい、そうです」
「そうか、ならまた明日な」
「はい」
彼らと別れた後は手続きを済ませて閉門前に街を出た。
■
翌日、午前中のうちに街へ入って少し見て回ることにした。昨日は暗くなりかけていたし時間もなかったから見ている余裕などなかったからだ。
港町カルコはこの大陸の五大都市のひとつ。王都とヴェスタに次ぐ広さと人口で南の大陸や周囲に点在する島々から来ている人も多い。この世界での言語はひとつに統一されているが、大陸や地域ごとにいわゆる訛りのような違いが若干あるため聞こえる言葉も様々だ。そしてやはり南ほど陽射しが強いのか街人は皆小麦色に焼けていて異国情緒に溢れている。
建物は大体がこの辺りで掘れる白い石で建てられている。道幅も広く、メインの通りには建物と同じ白い石で石畳が敷かれていて街並みはとても美しい。
「綺麗な街並み…」
通りを歩きながら思わず呟く。以前テレビで見たサント◯ーニ島のようだ。一度行ってみたいと思っていたのだが前世では叶わなかった。それがこんなところで叶うとは。
「気に入ったのなら何日か滞在する?」
「え、良いの?」
思わぬ提案に嬉々として聞き返す。
「ああ、良いぜ。南へ渡る前に依頼のひとつもやっておきてえところだしな」
「それにこの辺りは特有の植物や鉱石が結構あるみたいなんだ。どうせならそれらを採っておきたいよね」
「そうだな」
「そうなんだ。どんなものが採れるか楽しみ」
「ギルマスとの話が済んだら依頼チェックするか」
「そうしよう」
「うん」
そう決めた私たちは早めにランチを食べてギルドへ向かった。
そういえばこの街の女性の髪形はショートカットばかりだったな…何故だろう?
■
ギルドでシュカたちと合流し、カウンターに声を掛けると少し待った後にマスター部屋へ通された。ソファーに腰掛けるとすぐ本題に入る。
「尋問は終了した。君たちから聞いた話と食い違う点はなかったよ。…奴らの行動には以前から問題があった。再三忠告したが聞く耳を持たず、除名も時間の問題だったが今回の事件で除名では済まなくなった。奴隷落ちは確実だろう」
ギルマスはレオンとエヴァ、私の顔を見回すと…
「今回は君らのおかげで死者が出ずに済んだよ。カルコの冒険者を救ってくれてありがとう」
そうお礼を言って頭を下げた。
捕まえた奴らは賞金首でも指名手配犯でもないので金が入る訳ではない。だがこういった行為もギルドへの貢献としてしっかり記録され、評価に繋がるのだ。
マスター部屋を出て1階へ戻ってくると、今度はシュカたちが揃って頭を下げた。
「今回は本当にありがとうございました。おれたちもレックスの皆さんのような上級パーティーを目指して頑張ります」
「別に良い。偶々通りかかっただけだ。お前らなら良い上級パーティーになれると思うぜ」
「「「ありがとうございます!」」」
「フフ、何だが別れの挨拶みたいだけど、まだ何日かいるから会う機会はあるよ」
「ホンマですか!?良かった、まだまだ姐さんと話したかったんです!」
エヴァが笑いながら滞在を伝えるとリランが文字通り飛び上がって喜ぶ。
「姐さん、ウチ一度一緒にお風呂行きたいです」
「お風呂?」
「はい」
リランの話によるとこの街には商業ギルド経営の公衆浴場があるという。生活魔法を持っていない人はもちろん、持っている人も結構利用するのだとか。スキルの効力は魔力の高さに左右される。そのため潮でゴワついた髪は、一度洗浄しただけでは綺麗にならないことも間々あるらしい。
年中吹いている潮風で髪がゴワゴワになってしまい、きちんと洗わないと大変なことになる。そういえばリランが馬車の中でも言ってたね。
「コテージにお風呂があるのは知ってますけど、大きいのも気持ちエエですよ?」
正直この世界の公衆浴場がどんな風なのかとても興味がある。行ってみたいという気持ちを込めてレオンとエヴァを見ると、2人は視線を交わしてから頷いた。
「良いよ。行っておいで」
「ヴェスタにもあったんだがお前は行ったことなかったしな」
「ありがとう。…じゃあ近いうちに行こうか、リラン」
「やった!」
リランが歓喜しているとシュカとメイズも手を上げた。
「おれたちもレオンさんエヴァさんと行きたいです」
「い、行きたいです」
その言葉に2人はまた顔を見合わせた。
「ま、偶には野郎同士も良いか」
「そうだね、キラたちと同じ日で良いかな?」
「もちろんです、やった!」
一緒にお風呂に行けるくらいではしゃいでくれるシュカたちを見て、何だかくすぐったい気分になった私たちです。
街中へ入り、そのまま冒険者ギルドへ直行。この街は中心部に双方のギルドが隣り合わせに建っている。街灯が灯る時間になると商業ギルドは人の出入りが少なくなるが、冒険者ギルドはまだ混雑している為人通りも多い。スレイプニル2頭立ての馬車はかなり目立っていた。
まずはレオンとシュカが中へ行き、程なくしてすらっとした中年男性と共に戻ってきた。続けて職員の男性も数名出てくる。
「確認させてもらうぞ」
「ああ」
男性が裸男たちの馬車を覗く。街へ入る少し前から起きだしていた奴らが呻き声を上げているのが聞こえた。
「…確かに。おい、こいつらを地下牢へ放り込んでおけ」
「は、はい」
サニーとサックスに驚いていた職員たちは、声をかけられて我に返り馬車を裏へ移動していった。
「スレイプニルか…久々に見たな。中で話を聞かせてくれ、契約獣も一緒で構わん」
私たちは2頭を外して馬車をしまい、中へ入った。
ギルドは3階建てでかなりの大きさだ。おそらくヴェスタに次ぐ広さではないだろうか。騒がしかった1階はスレイプニルの登場で一瞬静まり、それまで以上の喧騒に包まれる。契約獣の確認は後からという事で3階のマスター部屋へ通された。
契約獣とはいえ体の大きなサニーとサックスまで部屋へ入れてもらえるとは…。私は少し驚いたけどレオンとエヴァが平静なのでこれが当たり前なのかもしれない。
ソファーへ落ち着くと男性が口を開く。
「自己紹介しておこう。私はカルコの冒険者ギルドマスター、ロムールだ。そっちの3人はここの冒険者だという事だが君たちは?」
「旅のパーティーだ。俺はレオハーヴェン」
「エヴァントです」
「キラです」
シュカたちも名乗り、簡潔な自己紹介を済ませて早速話に入る。
「詳しく聞かせてくれ」
私たちは順を追って説明した。
「…そうか、分かった」
聞き終えたギルマスは深いため息を吐いて呟くように言葉を発した。
「あいつらの尋問は今夜のうちに済ませる。明日の昼頃もう一度来てくれるか?」
「ああ」
「最後にオーガの確認をさせてくれ」
今度は裏の倉庫へと移動してオーガを出し、確認後解体を頼んでギルマスとは別れた。
「レオンさん達は宿を取るんですか?」
「いや、サニーとサックスの手続きを終えたら一旦街の外へ出る」
「今からじゃ宿が取れるかどうか分からないからね」
シュカの問いに2人が答えた。
時刻はもう21時を迎えようとしている。馬車や大きな契約獣を預けられる宿はそう多い訳ではなく、この時間になれば埋まっている可能性も高い。だから手続きをサッサと済ませてコテージで休もうという事だ。
「そうですか。宿かと思ってました」
「なんでやねん!あのコテージが有んねんで?快適さがちゃうわ」
ボケたわけじゃないだろうけど、すかさずリランがビシッとツッコミを入れる。
「だって完全閉門まであんまり時間ないし…」
「フフ、宿でも良いんだけど今日はね。君たちはギルドの宿?」
「はい、そうです」
「そうか、ならまた明日な」
「はい」
彼らと別れた後は手続きを済ませて閉門前に街を出た。
■
翌日、午前中のうちに街へ入って少し見て回ることにした。昨日は暗くなりかけていたし時間もなかったから見ている余裕などなかったからだ。
港町カルコはこの大陸の五大都市のひとつ。王都とヴェスタに次ぐ広さと人口で南の大陸や周囲に点在する島々から来ている人も多い。この世界での言語はひとつに統一されているが、大陸や地域ごとにいわゆる訛りのような違いが若干あるため聞こえる言葉も様々だ。そしてやはり南ほど陽射しが強いのか街人は皆小麦色に焼けていて異国情緒に溢れている。
建物は大体がこの辺りで掘れる白い石で建てられている。道幅も広く、メインの通りには建物と同じ白い石で石畳が敷かれていて街並みはとても美しい。
「綺麗な街並み…」
通りを歩きながら思わず呟く。以前テレビで見たサント◯ーニ島のようだ。一度行ってみたいと思っていたのだが前世では叶わなかった。それがこんなところで叶うとは。
「気に入ったのなら何日か滞在する?」
「え、良いの?」
思わぬ提案に嬉々として聞き返す。
「ああ、良いぜ。南へ渡る前に依頼のひとつもやっておきてえところだしな」
「それにこの辺りは特有の植物や鉱石が結構あるみたいなんだ。どうせならそれらを採っておきたいよね」
「そうだな」
「そうなんだ。どんなものが採れるか楽しみ」
「ギルマスとの話が済んだら依頼チェックするか」
「そうしよう」
「うん」
そう決めた私たちは早めにランチを食べてギルドへ向かった。
そういえばこの街の女性の髪形はショートカットばかりだったな…何故だろう?
■
ギルドでシュカたちと合流し、カウンターに声を掛けると少し待った後にマスター部屋へ通された。ソファーに腰掛けるとすぐ本題に入る。
「尋問は終了した。君たちから聞いた話と食い違う点はなかったよ。…奴らの行動には以前から問題があった。再三忠告したが聞く耳を持たず、除名も時間の問題だったが今回の事件で除名では済まなくなった。奴隷落ちは確実だろう」
ギルマスはレオンとエヴァ、私の顔を見回すと…
「今回は君らのおかげで死者が出ずに済んだよ。カルコの冒険者を救ってくれてありがとう」
そうお礼を言って頭を下げた。
捕まえた奴らは賞金首でも指名手配犯でもないので金が入る訳ではない。だがこういった行為もギルドへの貢献としてしっかり記録され、評価に繋がるのだ。
マスター部屋を出て1階へ戻ってくると、今度はシュカたちが揃って頭を下げた。
「今回は本当にありがとうございました。おれたちもレックスの皆さんのような上級パーティーを目指して頑張ります」
「別に良い。偶々通りかかっただけだ。お前らなら良い上級パーティーになれると思うぜ」
「「「ありがとうございます!」」」
「フフ、何だが別れの挨拶みたいだけど、まだ何日かいるから会う機会はあるよ」
「ホンマですか!?良かった、まだまだ姐さんと話したかったんです!」
エヴァが笑いながら滞在を伝えるとリランが文字通り飛び上がって喜ぶ。
「姐さん、ウチ一度一緒にお風呂行きたいです」
「お風呂?」
「はい」
リランの話によるとこの街には商業ギルド経営の公衆浴場があるという。生活魔法を持っていない人はもちろん、持っている人も結構利用するのだとか。スキルの効力は魔力の高さに左右される。そのため潮でゴワついた髪は、一度洗浄しただけでは綺麗にならないことも間々あるらしい。
年中吹いている潮風で髪がゴワゴワになってしまい、きちんと洗わないと大変なことになる。そういえばリランが馬車の中でも言ってたね。
「コテージにお風呂があるのは知ってますけど、大きいのも気持ちエエですよ?」
正直この世界の公衆浴場がどんな風なのかとても興味がある。行ってみたいという気持ちを込めてレオンとエヴァを見ると、2人は視線を交わしてから頷いた。
「良いよ。行っておいで」
「ヴェスタにもあったんだがお前は行ったことなかったしな」
「ありがとう。…じゃあ近いうちに行こうか、リラン」
「やった!」
リランが歓喜しているとシュカとメイズも手を上げた。
「おれたちもレオンさんエヴァさんと行きたいです」
「い、行きたいです」
その言葉に2人はまた顔を見合わせた。
「ま、偶には野郎同士も良いか」
「そうだね、キラたちと同じ日で良いかな?」
「もちろんです、やった!」
一緒にお風呂に行けるくらいではしゃいでくれるシュカたちを見て、何だかくすぐったい気分になった私たちです。
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