拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さまに聞きたいことがあります! ★7★

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薫さんはなんてことないように、顔をそらして、先輩方に向き合った。
「あの、先輩方にお伺いしたいんですけど」
「何かしら?」
薫さんが手を上げると、どうぞと促される。
「常葉学園の助言者メンター制度なんですけど。今日陸上部の二年生の先輩からペアになるように申し込まれたんですが、あれは断れないんですか?」  
「お断りしたいの?」
「はい」
きっぱりとした薫さんの言葉に、二人の先輩は顔を一度見合わせてから、凛子先輩の方が質問を重ねた。
「どうしてか聞いてもいい?」
「自分より記録の出ない人に、教わることがあるように思えないからです」
薫さんが、あっさりと言い切った言葉に思わず固まってしまう。
幸さんも目を丸くして、驚きを表現していた。
薫さんの言葉は、あまりにはっきりとしていた。

「なるほど」
遥先輩は驚かなかったのか、クスクスと笑って凛子先輩を見つめた。凛子先輩は気まずそうに遥先輩を見返してから、一度肩を竦めた。
「薫さんは有望な一年生と聞いてるわ。陸上部は代々、部長が次期部長にバッチを渡しているみたいだから、その二年生は次期部長なのかもしれないわね」
「決まり、なんですか?」
「伝統、みたいなものかしら?でも助言者メンター制度は上級生が助言する立場だから、後輩の方が優れてるなら、お断りも可能なはずよ。元々お互いの意思も必要だし」
そこで一度区切って、生徒会長は言い淀んだ。何かを考えるように思案してから顔を上げる。
「私から、陸上部の部長か顧問の先生に話してみましょうか?」
「あ、いえ。大丈夫です」
薫さんははっきりとしている。
「断れるのが分かればそれで。後は自分でなんとかします」
だ、大丈夫なんだろうか?
あまりにもさっぱりしている薫さんの態度に、心配になってしまう。
それは多分、凛子先輩もだろうが、あっさりと頷いた。
「そう。じゃあ何かあったら相談してね」
「分かりました」
薫さんがニッと笑って了承する。
どこか男性的な仕草が、目を引く人だ。
顔だちも整っているし、薫さんは女性にモテそうだなと思う。
言ったら嫌がられそうな気もするから言わないけど。

「この際だから、何か疑問があったら聞いたら?」
空気を変えるように遥先輩がにっこり笑って促すと、幸さんが手をあげた。
「どうぞ」
「凛子先輩のされてるバッチが、生徒会長のバッチなんですか?」
いわれて生徒会長の襟元を見ると、両翼の絵の金のバッチが見えた。
「ええ、そうよ」
「そうなんですね!うわあ」
感動するような幸さんの声に、柚鈴は首を傾げた。
この金バッチが生徒会長のバッチ?
色の違いに意味があるということ?
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