拝啓、お姉さまへ

一華

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第一章 4月

お姉さまに聞きたいことがあります! ★6★

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どうにかお風呂タイムを終えた頃には、二年生が何人かお風呂から上がってきていた。
大浴場を出て、食堂の前を通ると
「そこのゆっくりした一年生、寄っていかない?」
はるか先輩から声を掛けられた。
奥には常葉学園のセーラー服に身を包んだ見知らぬ人が座っている。
長くまっすぐな髪を一筋の乱れも感じないポニーテールでまとめ、つり目がちの凛々しい表情。
誰かな?
「今、我が寮の副寮長かつ高等部生徒会長である、長谷川はせがわ凛子りんこが帰ってきた所なのよ」
「止めてよ、遥。さっきから一年生が通るたびに」
遥先輩が芝居がかって説明すると、紹介された凛子先輩はため息をついて、立ち上がるとこちらに微笑んだ。
「初めまして。高等部3年、長谷川凛子です。ご紹介頂いた通り生徒会長をさせて頂いてます。とはいえ、寮で『生徒会長』なんて呼ばないでね」
確かに生徒会長と言われれば、これ以上生徒会長らしい人もいないかもしれない。
実に堂々とした様子で、響く声をしている。眼光鋭く、威厳ある容貌だ。

高村たかむらかおるです」
春野幸はるのゆきです」
小鳥遊たかなし柚鈴ゆずです」
つられるように名前を名乗り、3人でよろしくお願いしますと頭を下げた。
凛子先輩は何かに反応するようにまっすぐ柚鈴を見てくる。
視線が、今日の誰より、痛い。
やっぱりこれも、苗字に反応しているんだろうか?

「1年生はこれで最後ね。あなたたち、入寮祝いに凛子が自販機の飲み物をどれでもご馳走してくれるそうよ。どれが良い?」
「なんだか今日はそういうことになってしまったのよ。良ければ皆さんどうぞ」
「良いんですか?ありがとうございます」
遥先輩がふんわり笑って促すと、凛子先輩が自販機にお金を入れる。
幸さんは早速、飛びつくように、自販機の前で飲み物を選び始め、薫さんは迷わずコーヒー牛乳の紙パックを選ぶ。
出遅れた柚鈴に、凛子先輩がどうぞ、と自販機の前に手招いた。
「柚鈴さんは、どうする?」
「あ、じゃあオレンジジュースを」
悩み続ける幸さんを追い越す形でオレンジジュースの紙パックを自販機から取る。
慌てたのは幸さんだ。
「ぅぅ!待って、待ってて。そして飲んで行こうよ」
「待つから、あんたは早く選びなさい」
薫さんが席に着くので、柚鈴も笑って隣に座った。
「なんか、あの子。実家の豆柴に似てるわ」
薫さんが、やれやれとため息をつくと、凛子先輩と遥先輩がテーブルを囲むように向かい側の席に着いた。

「みんな凛子に恐縮したのか、飲み物持って早々と部屋に帰ってしまったのよね。あなたたちで最後みたいだし、ご一緒してもいい?」
遥先輩はちゃっかり紅茶の紙パックを持っている。
「ごちそうさま、凛子」
「はいはい」
『ごちそうさまです』
薫さんと柚鈴が2人でお礼を言った後に、ようやく幸もイチゴ牛乳を選んで来た。
「いただきまーす」
幸せそうに一口飲んで、美味しそうに頬を緩める幸さんは子供のようだ。
「なんだか、イチゴ牛乳も喜んでそう」
思わず私が口にすると、薫さんがニヤリと笑う。
幸さんが意味がわからない風の顔をしている。
きょとん、とした顔が可愛らしいのだ。
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