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第36話 俺、二つ名を付けられる

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 アーサーはすぐに見つかった。リーメルの喫茶店へ行くと1人カウンターでコーヒーを飲んでいたからだ。アーサーの姿を俺は確認し隣の席へと座り、エルも俺の隣の席へ着席する。

「あ! お師匠様! エルさん! お疲れ様です!」
「おう、お疲れさん。あ! 店員さんコーヒー頂戴、ブラックね」
「お……つかれ。私…もコーヒー、ミルクと砂糖お願い」
「畏まりました。少々、お待ちください」

 男性店員は奥に消えていき、入れ違いでリーメルがこちらへ近づいてきた。

「見てたわよ~。あんたやり過ぎよ? 逃げ惑う参加者にドロップキックかまして、倒れたところを馬のりになって無理やりワッペンむしり取るなんて」
「だって、そっちの方が手っ取り早いじゃん?」
「一般人も見てるのよ? あんた子供達になんて呼ばれてるか知ってる?」
「え! 二つ名みたいなもんがあるのか? 聞かして聞かして」
「……その名も“妖怪ワッペンむしり“よ」
「ブ……フォ!」
「の、喉がー! 水! 水下さい!」

 リーメルが俺の二つ名を言った途端、エルが吹き出し肩を震わせながら笑いはじめ、アーサーは熱々のコーヒーが器官に入ったのか悲惨な事になっている。

「――納得いかーん! なんだその身も蓋もない変なあだ名は!」
「貴方の傍若無人っぷりを見ていた子供たちが付けた二つ名よ。良かったわね貴方子供に大人気よ。ところで話変わるんだけど、どの位のワッペン手に入れたの?」
「私は5つく……らい」
「凄いじゃない! 上出来よ! あんたは?」
「399枚」

 後ろからカシャーンという音が聞こえた。どうやら客がフォークを落とした様だった。

「ごめん、耳が腐ったみたい。もう一度言ってもらえる?」

 俺はわざとゆっくり大きめの声で、リーメルに向かって喋る。

「さんびゃくきゅうじゅうきゅうまい」

 俺はワッペンの入った大きめの袋をカウンター置く。

「集め過ぎよ! あんた馬鹿じゃないの!?」
「何か問題でも?」
「問題ってあん――」

リーメルが何か言おうとした瞬間、何かが引きずられる様な音が聞こえ、俺は後ろに振り向く。見ると喫茶店にいた冒険者風の男女全員が席を立っていた。

 冒険者風の男がリーメルに近づくとこう言った。

「コーヒー美味しかったよ……ありがとう。変なローブの兄ちゃん、俺の分まで頑張ってくれ」
「あ……ああ、ありがとう」

 俺がそういうと、次々と冒険者達が立ち上がり店を出ていった。皆一直線に冒険者ギルドへと向かっていった様だった。

「そんな……稼ぎ時なのにぃ」
「何だ今のは?」
「あんたねぇ! ほんとにわかんないの!? 諦めたのよ! 彼等は! ギルドにワッペンを返しに行ったの!」
「ふーん、大会参加者が減ったわけか。どうなるんだ?」
「あたしが知るわけないでしょ!?」
「まぁ、良いじゃん。コーヒーおかわり」

 コーヒーのおかわりを要求しようとしたその時、突然頭の中に声が響いた。

《選手のお呼び出しでーす! チームパープルえー、紫のワッペンを付けているゲイン様とエル様は至急冒険者ギルドへおいでくださーい!》

「なんかギルドから呼び出しくらったんだけど?」
「当たり前よ、明らかにやり過ぎだもん。まぁ、精々叱られてくるのね。もしかしたら、失格もあり得るかも」
「まじですかぁ? やばいやん、とりあえず金払っとくわ。」
「まいど。ほんと馬鹿なんだから」
「あ! 僕も一緒に行きます!」

 俺達は料金を払いリーメルの喫茶店を出る
「失……格?」
「いや、まだわからんぞ。とにかくギルドへ行こう」

 俺達3人は足早に冒険者ギルドへと向かうのだった。
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