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剣乱武闘編
大会二日目
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枯葉の森でそれなりに有意義な休息を終えると、翌日の朝早くにレノ達は闘技場に移動する。コトミは一先ずはバルに預け、ポチ子とレノは闘技場の地下施設へ向かう。
「ポチ子達は今日から参加だっけ?」
「わぅんっ!」
「そうかそうか……」
「……完全に犬扱いしてるな、というか、今の返事を理解できたのかい?」
螺旋階段を降り切ると意外な人物が立っており、そこにはいつもの王子服の姿とは違い、テンペスト騎士団の服団長の服装に着替えたアルトがいた。どうやら彼も今日からの予選に参加するらしい。
「アルト?」
「やあ……第一次予選突破おめでとう」
「どうも……」
まるで苦虫を潰したような表情を浮かべながらも、アルトは賛辞の言葉を贈る。そんな彼の態度にポチ子は不安を抱き、レノの後ろに回り込む。明らかに1ヶ月前よりも態度が可笑しいが、不意に彼はレノに笑みを浮かべ、そのまま横を通り過ぎて螺旋階段に足を伸ばす。
「試合が楽しみだよ」
アルトは横切る際にレノの耳元に一言呟き、振り返った時には既に階段を登っていた。
「……何だったんだ?」
「き、きっとレノさんをお祝いに来てくれたんですよ……たぶん」
「そうかな……」
以前と会った時と雰囲気が少し変わっており、気のせいかも知れないが不穏な魔力を感じ取った気がする。だが、彼は常に王国側の兵士の護衛を付けており、センチュリオンと接触して何かをされたとは考えにくい。
「すんすん……レノさん」
「ん?」
ポチ子が袖を引き、レノが顔を向けると彼女が真剣な表情で前方の通路を凝視しており、
「……変な臭いがします。まるで、生き物が腐っているような……」
「……何?」
「わうっ……あの地下迷宮でも感じた臭いです……」
鼻を抑えるポチ子にレノは視線を向けるが、通路には冒険者らしき者達が無数に行き来しており、彼らはポチ子が感じている死臭には気付いていないのか、特に反応は無い。
「どこから感じる?」
「分かりません……けど、そんなに遠くありません」
「……死人か?」
「う~ん……もしかしたら、喰人(グール)かも知れません……」
どちらにしろ、通路内に死臭を放つ存在がいるのは間違いないようであり、レノは不意に例の死霊使いの事を思い出す。もしかしたら、既にこの地下施設に入っている可能性も否定出来ない。
(……右手は……反応しているな)
右手を確認すると、あまりにも微弱で分からなかったが、確かに紋様が死霊使いの所持している(と思われる)聖痕に反応している気がするが、どうにもいつもと様子がおかしい。
今までは紋様が聖痕の力を感じ取り、だいたいの位置を把握できたが、今回は複数の聖痕の力を感じ取る。他にも聖痕所持者が集まっているのかと疑うが、どうにも反応の数が多すぎる。
――恐らく、アルファとフレイが宿していた「樹の聖痕」の例もあり、聖痕の力は複数に分ける事が可能かもしれない。あの死霊使いがこの大会に参加しているならば、複数の死人を使役している可能性も高い。恐らく、死霊使いの手によって作り出された死人には聖痕の力が宿っている(以前にも死霊使いが操作していたビルドが所持していた杖からも聖痕の反応があった例もある)。
そう考えると、右手から感じ取れる多数の「聖痕」の反応も納得できる。が、あまりにも数が多すぎて逆に細かい感知が出来ない。
「……厄介だな」
「鼻がもげそうです……」
ポチ子はプルプルと鼻を抑えながらレノの身体にしがみ付き、取りあえずは避難も兼ねて特別個室の方角へと向かう。第一次予選を勝ち抜いたレノにも個室は用意されており、森人族や不審人物と出会わぬ様に願いながら移動を開始する。
「おっ……」
「むっ……レノ、ポチ子」
「あ、ゴンさん!!」
「……レノ?」
少し歩くと、通路の隅で座り込んだゴンゾウの姿を確認し、位置的に彼の隣に隠れる形で座っていたリノンが2人に気が付く。彼女はレノ達の姿を確認すると、慌てた様子で立ち上がり、
「良かった……無事だったんだな!!」
「無事?」
「わぅんっ……?」
「だから言った。2人なら、平気だと」
「それはそうだが……」
「何の話?」
話の内容が掴めず、率直に尋ねると、リノンは言いにくそうに周囲に視線を向け、レノ達を呼び寄せて小声で話しかける。
「……昨日、選手たちが襲撃される事件が起きた」
「襲撃?」
「ああ……別にそれだけなら珍しくは無いが……」
剣乱武闘の選手たちを狙ってくる者は多数存在する。例えば優勝するため、わざわざ闇ギルド通して腕利きの冒険者達に依頼を申し込み、他の選手たちを襲撃させる輩も大勢いる。
他にも単純に大会に参加できなかった事(参加証を入手できなかったり、金銭的な問題で断念した者など)の腹いせに、選手たちに勝負を申し込む者も多いが、
「今回の事件は予選を勝ち抜いた者達だけではなく、敗退した冒険者たちも狙われている。無差別に多くの参加者が襲撃され、その誰もが襲撃者の姿を確認していないらしい……」
「どういう事?」
「襲われたのに……誰も襲った人を見てないんですか?」
首を傾げるポチ子とレノに、リノンはどう説明すればいいのかと悩んでいる様子であり、
「……襲われた者の証言によると、突然、身体が動かなくなり、そのまま後方から衝撃が走って気絶した……と言っている」
「ポチ子達は今日から参加だっけ?」
「わぅんっ!」
「そうかそうか……」
「……完全に犬扱いしてるな、というか、今の返事を理解できたのかい?」
螺旋階段を降り切ると意外な人物が立っており、そこにはいつもの王子服の姿とは違い、テンペスト騎士団の服団長の服装に着替えたアルトがいた。どうやら彼も今日からの予選に参加するらしい。
「アルト?」
「やあ……第一次予選突破おめでとう」
「どうも……」
まるで苦虫を潰したような表情を浮かべながらも、アルトは賛辞の言葉を贈る。そんな彼の態度にポチ子は不安を抱き、レノの後ろに回り込む。明らかに1ヶ月前よりも態度が可笑しいが、不意に彼はレノに笑みを浮かべ、そのまま横を通り過ぎて螺旋階段に足を伸ばす。
「試合が楽しみだよ」
アルトは横切る際にレノの耳元に一言呟き、振り返った時には既に階段を登っていた。
「……何だったんだ?」
「き、きっとレノさんをお祝いに来てくれたんですよ……たぶん」
「そうかな……」
以前と会った時と雰囲気が少し変わっており、気のせいかも知れないが不穏な魔力を感じ取った気がする。だが、彼は常に王国側の兵士の護衛を付けており、センチュリオンと接触して何かをされたとは考えにくい。
「すんすん……レノさん」
「ん?」
ポチ子が袖を引き、レノが顔を向けると彼女が真剣な表情で前方の通路を凝視しており、
「……変な臭いがします。まるで、生き物が腐っているような……」
「……何?」
「わうっ……あの地下迷宮でも感じた臭いです……」
鼻を抑えるポチ子にレノは視線を向けるが、通路には冒険者らしき者達が無数に行き来しており、彼らはポチ子が感じている死臭には気付いていないのか、特に反応は無い。
「どこから感じる?」
「分かりません……けど、そんなに遠くありません」
「……死人か?」
「う~ん……もしかしたら、喰人(グール)かも知れません……」
どちらにしろ、通路内に死臭を放つ存在がいるのは間違いないようであり、レノは不意に例の死霊使いの事を思い出す。もしかしたら、既にこの地下施設に入っている可能性も否定出来ない。
(……右手は……反応しているな)
右手を確認すると、あまりにも微弱で分からなかったが、確かに紋様が死霊使いの所持している(と思われる)聖痕に反応している気がするが、どうにもいつもと様子がおかしい。
今までは紋様が聖痕の力を感じ取り、だいたいの位置を把握できたが、今回は複数の聖痕の力を感じ取る。他にも聖痕所持者が集まっているのかと疑うが、どうにも反応の数が多すぎる。
――恐らく、アルファとフレイが宿していた「樹の聖痕」の例もあり、聖痕の力は複数に分ける事が可能かもしれない。あの死霊使いがこの大会に参加しているならば、複数の死人を使役している可能性も高い。恐らく、死霊使いの手によって作り出された死人には聖痕の力が宿っている(以前にも死霊使いが操作していたビルドが所持していた杖からも聖痕の反応があった例もある)。
そう考えると、右手から感じ取れる多数の「聖痕」の反応も納得できる。が、あまりにも数が多すぎて逆に細かい感知が出来ない。
「……厄介だな」
「鼻がもげそうです……」
ポチ子はプルプルと鼻を抑えながらレノの身体にしがみ付き、取りあえずは避難も兼ねて特別個室の方角へと向かう。第一次予選を勝ち抜いたレノにも個室は用意されており、森人族や不審人物と出会わぬ様に願いながら移動を開始する。
「おっ……」
「むっ……レノ、ポチ子」
「あ、ゴンさん!!」
「……レノ?」
少し歩くと、通路の隅で座り込んだゴンゾウの姿を確認し、位置的に彼の隣に隠れる形で座っていたリノンが2人に気が付く。彼女はレノ達の姿を確認すると、慌てた様子で立ち上がり、
「良かった……無事だったんだな!!」
「無事?」
「わぅんっ……?」
「だから言った。2人なら、平気だと」
「それはそうだが……」
「何の話?」
話の内容が掴めず、率直に尋ねると、リノンは言いにくそうに周囲に視線を向け、レノ達を呼び寄せて小声で話しかける。
「……昨日、選手たちが襲撃される事件が起きた」
「襲撃?」
「ああ……別にそれだけなら珍しくは無いが……」
剣乱武闘の選手たちを狙ってくる者は多数存在する。例えば優勝するため、わざわざ闇ギルド通して腕利きの冒険者達に依頼を申し込み、他の選手たちを襲撃させる輩も大勢いる。
他にも単純に大会に参加できなかった事(参加証を入手できなかったり、金銭的な問題で断念した者など)の腹いせに、選手たちに勝負を申し込む者も多いが、
「今回の事件は予選を勝ち抜いた者達だけではなく、敗退した冒険者たちも狙われている。無差別に多くの参加者が襲撃され、その誰もが襲撃者の姿を確認していないらしい……」
「どういう事?」
「襲われたのに……誰も襲った人を見てないんですか?」
首を傾げるポチ子とレノに、リノンはどう説明すればいいのかと悩んでいる様子であり、
「……襲われた者の証言によると、突然、身体が動かなくなり、そのまま後方から衝撃が走って気絶した……と言っている」
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