種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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剣乱武闘編

新たな転移

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一先ずは他の参加者たちから逃げ切り、路地裏で2人は一息吐くと、メダルを取り出す。


「居場所がばれるんじゃ、メダルを持っているのは不味いな……」
「仕方ない……レノ、先に闘技場に向かってくれ」
「大丈夫?」
「このまま2人で行動するよりは安全だろうし……第一に森人族の目的は君だけだ。私1人を追いかける理由は無い」
「人質として拘束するかもしれないけど?」
「この大会に不正は許されない。作戦の1つとして認められれば別だが、常に観衆の視線がある場でそんな行為は許されないはず」
「あ、そっか」


街中に複数の撮影用クリスタルが設置され、大陸中にその映像が送り込まれている。それに今回は六種族が協同で大会を支援しているため、下手な行動は種族間の沽券にも関わる。

レノはメダルを確認し、確かにリノンの言う通り、どちらかが先に合格する方が妥当だろう。メダルが無ければ木札に表示されることも無く、他の選手に見つかる可能性は低い。


「じゃあ、気を付けて行って来てね」
「……待ってくれ、私は君に先に行けと言ったはずだが」
「ふっ……」
「鼻で笑われた!?」


メダルを差し出すレノにリノンが突き返すが、受け取ろうとしない彼女にレノは溜息を吐き、


「俺がここまで逃げる間に何もしなかったと?」
「は?……うわっ!?」


ジャラララッ!


レノは隣の建物の壁に「星形」の転移魔方陣を書き込み、右手を差し向ける。


「逃げてる間に所々に魔方陣を書き込んでおいた」
「ちょっ……いくら何でも、街中に魔方陣を刻み込むのは問題だぞ?この壁だって、魔方陣の跡が残すのは……」
「別に壁を抉ってるわけじゃないし、これは1回使えば消えるけど」
「そ、そうなのか……知らなかった」


大会に備えてレノはセンリから複数の転移魔方陣を教えて貰い、いつも使用している転移魔方陣とは違い、彼女から教えて貰った「スター・ゲート」と呼ばれるこの魔方陣は一度きりの転移を可能とするらしく、レノがよく使用する魔方陣よりも魔力消費が大幅に少ない。ちなみに聖導教会の騒動の際に彼女の弟子であるツインが使用した転移魔方陣でもある。



「さっきゴンちゃん達と別れた時に刻み込んでおいたから、そこまで送るから先に行ってくれ」
「いや、しかし……レノ1人を置いて行くなんて」
「平気だって」


リノンはどうにも過保護な面があり、必要以上にレノを心配する。こんな態度を取るからこそ、アルトがレノに突っかかって来るのだろうが、


「まあいい……取りあえず転移しよう」
「転移先に待ち構えている可能性はあるのか?」
「その時はリノンの底力を頼りにしてるよ」
「はあ……まあいい、ここに留まっているのも危険だからな。どころで壁に魔方陣を敷いたが、何処に立てばいいんだ?」


いつもの転移魔方陣は紋様の上に待機していればいいが、今回の「スターゲート」は勝手が違い、レノが右手で壁に触れながら左手をリノンに差し出し、


「これは俺に直接触れないと駄目だな。こっちの手を握ってくれ」
「あ、ああ……レノの手は温かいな」
「あ、さっき闘った時に熱がこもったかな」
「……そういえば義手だったな」


リノンにしっかりと黒衣の左手を掴まれながら、レノは魔方陣に魔力を送り込み、2人の身体が眩い光に覆われる。


「途中で手を離したら、多分空中に放り出されるから気を付けてね」
「何故、そんな大事なことを今言う!?」


――カッ!!


がっしりとリノンに左手を掴まれながら、2人の身体が浮き上がり、流れ星と化してそのまま天高く上昇する。



ドォオオオンッ!!



2人の景色が矢継ぎ早に変わり、瞬時に先ほどデュラハンと別れた場所に降り立ち、周囲を確認しても他の参加者たちが待機している様子は無く、安堵の息を吐く。


「あいたたたっ……!!ちょ、これ足元が痛いんだが!?」
「あ、衝撃が走るの忘れてた。ごめん」


リノンが転移の着地と同時に足元を痛め、自分だけはちゃっかりと両足を肉体強化で強化させ、痛みを緩和させていたレノは頭を下げる。

スターゲートは正確に言えば転移というよりは「高速移動」の魔法であり、色々と従来の転移魔法とは勝手が違う。魔力消費が少ないが、魔方陣を通して流れ星と変化して移動を行う。当然、高速で移動する流れ星は視認が可能であり、居場所が悟られる可能性は十分にある。

その一方でスターゲートは移動距離に制限は無く、さらに流れ星と化している間はあらゆる攻撃を無効化出来る。実際に聖導教会で逃げ出したセンチュリオンの2人もこの魔方陣で逃走した。


「今の移動で居場所がばれたかもしれないから、すぐに逃げて」
「いや、だからレノが先に……」
「こんな時に気を遣わなくていい。本戦で会おう」
「……くっ、すまない……」


リノンは立ち上がり、メダルを受け取ると木札を確認して正確な地形を把握しようとした時、


「……ん?これは……」
「どしたの?」
「これを見てくれ」


彼女が木札を差し出してレノが覗き込むと、ここからそう遠くない位置にメダルの反応があり、こちらに向けて移動している。


「こいつもこっちの方に逃げてるのかな?」
「それにしては、真っ直ぐに私達の方に向かってるな」
「丁度いいや、適当に不意打ち掛けてメダルを強奪してくる」
「……本当に英雄とは思えない発言だな」
「やかましい。そっちも気を付けろ」
「ああ。レノもな」


その場でリノンと別れ、レノは木札を頼りに他の参加者たちが訪れる前に移動を行う。
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