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第5章 約束の地へ
action 6 遺品
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あちこちで白い煙が上がっている。
交差点付近は、さながら大空襲の後の焼け野原といったありさまだった。
違うのは、燃えカスとして残っているのが、木材などの建物の残骸ではなく、炭化したゴキブリ人間のおびただしい死体であるという、ただその一点だ。
僕と一平は靴の底が焦げるのも気にせず、その焼け野原の中を歩き回った。
ふたりとも無言だった。
僕はM19を、一平はレールガンをてこ代わりにして、死体をひっくり返して回った。
死体を掘り返すにつれ、僕はだんだんと絶望的な気分に陥り始めていた。
周囲に広がる惨状は、それほどひどいものだったのだ。
あれほどの数の人間ゴキブリたちが、原型を留めぬほどすべて真黒な炭になってしまっているのである。
正直、何も見つからないでほしかった。
悲観的な考えが、僕の心をじわじわと満たしてきていた。
はっきりいって、あずみの生存は絶望的だった。
あの凄まじい爆発の中、いくらあずみが超人だとしても、生きていられるとはとても思えない。
ごめんな、あずみ。
熱かっただろうな。
苦しかっただろうな…。
後悔の念が、今頃になって胸を締め上げてきていた。
足が鉛のように重い。
いっそ、僕も死んでみるか。
幸い、銃はここにある。
そんなことをちらっと考えた時、
「あ」
少し離れたところを歩いていた一平が、だしぬけに驚きの声を上げたのだった。
危うく僕は飛び上がりそうになった。
鼓動が激しくなる。
ついに見つかってしまったのだろうか。
あずみの死体が…。
「どうした?」
おそるおそる近づくと、一平が金属の棒を死体の山の中から引っ張り出していた。
「これって、あずみの…」
「スピニングポールだ」
僕はうなずいた。
あずみが常時携帯していた、ポールダンス練習用の道具である。
ポールは手で触れないほど、熱かった。
うう…。
酸っぱいものが胃の底から込み上げてきた。
「これも…」
ポールを僕に渡した一平が次に引っ張り出したのは、金色に輝くブラジャーだった。
あずみが身につけていた、防具代わりのプラチナ製ブラである。
「くそ…」
一平が脱力したように、その場に座り込んだ。
僕も一平に習った。
「これ、形見にもらってもいいかな」
ブラを大事そうに両手で抱えて、一平がぽつりと言った。
「ああ」
僕はうなずいた。
「俺はこれでいいよ」
少し冷めてきたポールを振って見せた。
ブラジャーを顔に押し当てて、ひくひくと泣き出す一平。
慰めるすべもなかった。
泣きたいのは僕も同じなのだ。
だが、なぜか涙が出なかった。
素直に泣くことのできる一平が、うらやましくてならない。
あずみはもういない。
それはわかりすぎるほどわかっているのに、まだその死を認めないもうひとりの自分が、どこかにいるような感じなのだった。
「俺を責めないのか」
一緒に涙にくれる代わりに、僕はたずねた。
「これ、全部、俺のせいだし」
「違うだろ」
すすり泣きの合間から、一平が怒ったように言った。
「おいらをバカにすんなよ。アキラ、おまえが撃ち損なったの、おいらの捨てたペットボトル踏んだからだろ? ちゃんと見てたんだ。だから、悪いのはおいらなんだ。おいらが、あずみを殺しちまったんだ!」
「馬鹿」
僕は思わず一平の小さな肩を抱きしめた。
「誰もそんなこと思ってないさ。天国のあずみだって…」
そう。
あずみなら、笑ったに違いない。
ほんと、お兄ちゃんって、ドジなんだから。
そんなことを言いながら、クスクス笑ったに違いない。
「ふたりとも、気が済んだ?」
声に振り向くと、
いつの間にか、背後に光が立っていた。
サングラスに、綺麗な夕日が映っている。
一平が、手の甲でごしごしまぶたをこすりながら、うなずいた。
「行こう」
僕は、一平の手を引いて、立ち上がった。
いつまでもこんなところにいたくない。
まして、あずみの炭化した死体なんて、見たくない。
こうなったら、せめてあずみの希望を、叶えてやろうじゃないか。
そう思ったのだ。
なぜって…。
僕の心のよりどころときたら、今となってはもう、それしかなかったからである。
交差点付近は、さながら大空襲の後の焼け野原といったありさまだった。
違うのは、燃えカスとして残っているのが、木材などの建物の残骸ではなく、炭化したゴキブリ人間のおびただしい死体であるという、ただその一点だ。
僕と一平は靴の底が焦げるのも気にせず、その焼け野原の中を歩き回った。
ふたりとも無言だった。
僕はM19を、一平はレールガンをてこ代わりにして、死体をひっくり返して回った。
死体を掘り返すにつれ、僕はだんだんと絶望的な気分に陥り始めていた。
周囲に広がる惨状は、それほどひどいものだったのだ。
あれほどの数の人間ゴキブリたちが、原型を留めぬほどすべて真黒な炭になってしまっているのである。
正直、何も見つからないでほしかった。
悲観的な考えが、僕の心をじわじわと満たしてきていた。
はっきりいって、あずみの生存は絶望的だった。
あの凄まじい爆発の中、いくらあずみが超人だとしても、生きていられるとはとても思えない。
ごめんな、あずみ。
熱かっただろうな。
苦しかっただろうな…。
後悔の念が、今頃になって胸を締め上げてきていた。
足が鉛のように重い。
いっそ、僕も死んでみるか。
幸い、銃はここにある。
そんなことをちらっと考えた時、
「あ」
少し離れたところを歩いていた一平が、だしぬけに驚きの声を上げたのだった。
危うく僕は飛び上がりそうになった。
鼓動が激しくなる。
ついに見つかってしまったのだろうか。
あずみの死体が…。
「どうした?」
おそるおそる近づくと、一平が金属の棒を死体の山の中から引っ張り出していた。
「これって、あずみの…」
「スピニングポールだ」
僕はうなずいた。
あずみが常時携帯していた、ポールダンス練習用の道具である。
ポールは手で触れないほど、熱かった。
うう…。
酸っぱいものが胃の底から込み上げてきた。
「これも…」
ポールを僕に渡した一平が次に引っ張り出したのは、金色に輝くブラジャーだった。
あずみが身につけていた、防具代わりのプラチナ製ブラである。
「くそ…」
一平が脱力したように、その場に座り込んだ。
僕も一平に習った。
「これ、形見にもらってもいいかな」
ブラを大事そうに両手で抱えて、一平がぽつりと言った。
「ああ」
僕はうなずいた。
「俺はこれでいいよ」
少し冷めてきたポールを振って見せた。
ブラジャーを顔に押し当てて、ひくひくと泣き出す一平。
慰めるすべもなかった。
泣きたいのは僕も同じなのだ。
だが、なぜか涙が出なかった。
素直に泣くことのできる一平が、うらやましくてならない。
あずみはもういない。
それはわかりすぎるほどわかっているのに、まだその死を認めないもうひとりの自分が、どこかにいるような感じなのだった。
「俺を責めないのか」
一緒に涙にくれる代わりに、僕はたずねた。
「これ、全部、俺のせいだし」
「違うだろ」
すすり泣きの合間から、一平が怒ったように言った。
「おいらをバカにすんなよ。アキラ、おまえが撃ち損なったの、おいらの捨てたペットボトル踏んだからだろ? ちゃんと見てたんだ。だから、悪いのはおいらなんだ。おいらが、あずみを殺しちまったんだ!」
「馬鹿」
僕は思わず一平の小さな肩を抱きしめた。
「誰もそんなこと思ってないさ。天国のあずみだって…」
そう。
あずみなら、笑ったに違いない。
ほんと、お兄ちゃんって、ドジなんだから。
そんなことを言いながら、クスクス笑ったに違いない。
「ふたりとも、気が済んだ?」
声に振り向くと、
いつの間にか、背後に光が立っていた。
サングラスに、綺麗な夕日が映っている。
一平が、手の甲でごしごしまぶたをこすりながら、うなずいた。
「行こう」
僕は、一平の手を引いて、立ち上がった。
いつまでもこんなところにいたくない。
まして、あずみの炭化した死体なんて、見たくない。
こうなったら、せめてあずみの希望を、叶えてやろうじゃないか。
そう思ったのだ。
なぜって…。
僕の心のよりどころときたら、今となってはもう、それしかなかったからである。
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