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しおりを挟む第5話 ○○ナイツ?
王都の中心部に建てられた教会は、身分を問わず洗礼を行っている。
ジョブを確認するため、詠唱を知るため、セカンドジョブを得るため、様々な理由で人々は教会を訪れる。
窓にステンドグラスが張られ、教会の内部には、荘厳な雰囲気が漂っていた。でも、十字架の下には賽銭箱が置かれている。微妙に和洋折衷しないでほしい。
左右の壁には、ガラスで囲まれた個室が連なり、その中にはジョブを確認するための水晶が置かれていた。銀行のATMみたいだなとちょっと思ってしまった。このガラスの部屋には必ず二人で入り、一旦、閉めたら外からは開かないようになっている。一人で入って倒れでもしたら大変だからなのかな。
俺が教会に入ってからしばらくして、俺を見てこそこそ話したり露骨に目を背けたりする人がいた。ガルハンを通して俺の嫌われっぷりは知っていたがここまでとは……。気にしないが、ちょっと悲しくなるな。ちなみに教会には、母親と兄弟と一緒に来ている。
さっそく列に並んでいるとすぐに順番が来たので、ラルフと入る。
隣の個室には、弟のアンリと兄のアレンが入っていた。二人とも顔を真っ青にしているのは、きっと精霊の加護が判明したからだろう。
では、俺もやるとするか。俺の場合は、セカンドジョブの取得だ。
水晶に右手を当てると、台座からプレートが現れる。
プレートに映っているのは、現在の俺のジョブ「モノマネ師」と精霊の加護「透明人間」。次の画面に移動し、セカンドジョブの設定画面にする。
さて、俺のセカンドジョブの選択肢は何なのだろうか? ワクワクするぜ!
・ドラゴンナイツ
・スライムナイツ
・アンモナイツ
「おおおっ! ドラゴンナイツきた!」
ちなみに、騎乗用の召喚獣を持つナイト職は「○○ナイツ」という呼び方をされ、「ドラゴンナイツ」であれば、ドラゴンに騎乗する。
明らかに強力そうなジョブなので狂喜乱舞していると、ラルフが俺の手を掴んだ。
「ドラゴンナイツはやめとけ。罠ジョブだ」
「なんでだよ。ドラゴンナイツだよ? スキルもいいし、罠ジョブって聞いたことないし」
「その三つのナイト職は、経験値を得る対象に制約があるんだ。ドラゴンナイツはフィールドのドラゴンを単独討伐五匹でランクが上がる。でもな、ドラゴンって飛ぶんだぞ? 大陸で百匹もいないドラゴンを探し回るのか? 闘技場で俺のボロボロの鎧を見ただろ。ドラゴンブレス一発で死にかけたわ!」
あぶね! そう聞くと確かに罠ジョブだよな。
それにしてもラルフはドラゴンと戦ってきたのかよ、つくづく不幸な男だな。しかし、ドラゴンブレスをくらってよく生きてたなと思う。
「他はアンモナイツとスライムナイツしかない……」
「アンモナイツは海の底のダンジョンにいるアンモナイトを倒さないといけないから、魚人でもないと経験値を稼げないぞ。スライムナイツでいいじゃん。スライムならどこにでもいるからな」
ラルフはジョブの本を開き、俺にスライムナイツのジョブスキルを教えてくれた。
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【ジョブ】 スライムナイツ
【スキル】 剣術、盾術、物理ダメージ軽減、スライム召喚、騎乗、スラッシュ、一刀両断
※「スラッシュ」は、斬撃を飛ばすスキル攻撃
※「一刀両断」は、敵を攻撃力三倍の会心の一撃で叩き斬るスキル攻撃
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スキル攻撃はSPを消費して放つ強力な必殺技だが、それを二つも持っている。能力的に見ても、普通にスライムナイツは強かった。
「でも、スライムに乗るんだよな……」
「乗らなくてもいいけど。召喚できるスライムはランクが上がれば強くなる。って知らないのか?」
ガルハンの内容は把握しているが、スライムナイツのキャラはいなかったのでわからない。
ちなみに召喚獣の強さを比較すると、ジョブランク1のドラゴンと、ジョブランク2のスライムでは、スライムが勝つらしい。
「必死でジョブランク2に上げたドラゴンナイツがいてな。ジョブランク4のスライムにボコられて涙を流したんだそうだ。それ以来、俺のいた帝国では望んでドラゴンナイツになる勇者はいないな」
ドラゴンナイツはだめ、アンモナイツもだめとなると、選択肢がないから仕方ないよな。
スライムナイツを選択して、モノマネ師をセカンドに移動、スライムナイツをファーストジョブに設定する。
なお、モノマネ師とスライムナイツのレア度は、ともにランク9だった。レアジョブかもしれないけど、ネタジョブ感が半端ないな。まあいいや、あとは地道にジョブランクを上げるだけだ。よく考えたら、スライムはかっこいいかもしれない。
個室を出て、母にスライムナイツだったと報告したら、気にしないでと慰めてきた。いや、スライムナイツは強いんだが……。まあいいや、油断させておくのが一番いいからな。
アンリとアレンも部屋から出てきた。二人からどんな精霊の加護だったかを聞いて、母親の顔が怒りに染まっている。
ちなみに、アンリのジョブは「ランスナイト」、アレンは「シールドナイト」だったようだ。かっこいい名前のジョブで、二人が羨ましいよ。
教会にいると周りの視線が痛い。俺は馬車に乗り込み、さっさと帰宅した。
さっそく家の中庭でスライムを召喚してみたら、アーモンドチョコのような形のブルースライムだった。真ん丸な目と大きな口で愛嬌があり、かなり大きなサイズだ。
騎乗すると、ピョンピョン跳ねて速度もそこそこある。立派な手綱と鞍が付いている。手綱はゴムのように伸びるので扱いやすい。
気に入った! スライムは最高かもしれない。
ラルフが笑って、スライムにまたがる俺を眺めている。
「スライムに乗るってなかなか愉快な姿だけど、いい感じみたいだな」
「実用的ではあるな。そろそろ部屋に戻るか。勉強しないと騎士学校入学までに間に合わない。ラルフ、大陸史を教えてくれ」
「頑張るなあ。大陸史は俺に任せとけ!」
ラルフの言葉が頼もしい。ちなみに大陸史は、ラルフの故郷のヴィクトリア帝国で習う帝国史とほぼ同じだ。
ヴィクトリア帝国はここガリア王国の北にあり、何度もアッシリア大陸を統一しながら、何度も崩壊している。二百年前まで、ずっとこの繰り返しだったらしい。
支配国家が変わるごとに、町や地方の名前が変わるのが面倒だ。帝国の民なら、まだ支配地域の地名に馴染みがあるかもしれないが、王国の箱入り貴族である俺には厳しいな。強引に暗記するしかないけどね。
ラルフは教え方も上手く、いい教師で本当に助かる。
ひと通り教わると、あとは自分で頑張ることにした。
背後のソファーでは、メイドのミケがラルフの犠牲になっている。彼はミケの耳がお気に入りらしい。膝の上に飼猫のルーンを乗っけながら、ミケの耳を嬉しそうに撫でていた。
「うにゃあっ、ラルフ様、み、耳はもうダメですよ」
「まあまあ。もふもふして可愛いよ。あー、俺にもネコ耳が生えねーかな」
生えないよ! まあ、ミケは耳を撫でさせる代わりにケーキをもらって餌付けされているみたいだし、ほっとこう。
さて、大陸史と地理学の勉強を続けよう!
第6話 準備完了
ナイト職の獲得、勉強ときて、今度は装備品を整えようとしたのだが、これが大変だった。
貴族の装備は、材質を「ミスリル」で整えた方が良いとされている。
俺はラルフに頼んで、王都の武器商にミスリルの鎧と剣と盾を注文してあった。自室で勉強しているとラルフが入ってきた。
「ジャック、商人が来たぜ」
「ああ、面倒だからここに連れてきてくれ」
ドアをノックされたので「入れ」と告げる。
現れた武器商人は優雅に一礼すると、剣をテーブルの上に置いた。キラキラと輝く西洋風の剣だ。
これがミスリルの剣か。そう思って胸を躍らせて鑑定してみると鉄の剣だった。俺はこめかみを引きつらせながらもう一度鑑定してみた。やっぱり鉄の剣だな。
俺が鑑定スキル持ちとも知らずに、商人は堂々と言う。
「こちらがミスリルの剣になります」
「ほう、よく見せてもらおうかな。引き抜いてもいいか?」
どうぞ、と商人が頷くので鉄の剣を手に取った。
やけにピカピカしているな。何かの塗料を塗りつけているのだろうか。鞘を爪で強く引っかくと、銀色の粉が付着した。うん、あからさまな偽物だ。
俺は商人を睨みつけながら、その鉄の剣を引き抜き喉元に突きつけた。
「これは鉄の剣だな。さてと、言い訳を聞こうか」
「い、いえ、あの、それは」
慌てる商人にラルフが言う。
「鉄の剣をミスリルの剣って売るのは詐欺じゃね?」
「言い訳さえできないようだな。ラルフ、そいつを連れて行け。王国法に従い、貴族を騙した罪により全財産を没収する。命があるだけマシと思え!」
「そ、そんなお許しを!」
俺が鋭い声で命じると、ラルフが商人の襟首を捕まえて部屋の外に出て行った。
商人は涙ながらに許しを請うが、偽物を売りつけようとした罪は重い。俺は冷ややかに涙目の商人を見送る。
こんな馬鹿げた方法で俺を騙そうとするなんて馬鹿な奴だ。怒りを抑えて、ため息をついていると、ラルフが戻ってきた。どうやら衛兵長に引き渡したらしい。
「ラルフ、別の商人を呼んできてくれ」
「わかった。あの商人、評判のいい武器商だって聞いたんだけどな」
そうつぶやきながらラルフが部屋を出て行くと、俺は再び机に向かって勉強を始めた。
いきなりひどい目に遭ったが、詐欺みたいなことをする商人なんてそんなにいないはず。今日中にミスリル装備は手に入るだろう。
そう思っていたのだが、二人目の商人まで偽物のミスリルの剣と鎧を持ってきた。再発防止のため、その商人も容赦なく叩きつぶしておいた。
三人目の商人になって、やっとまともな装備を持ってきた。
これで俺とラルフのミスリル装備が手に入った。しかし、その商人に訓練用の剣を注文したら、またしても騙されそうになった。
訓練用の剣は、竹刀みたいな剣で、怪我をさせないように内部が空洞になっているんだが、その空洞部分に鉄が仕込まれていた。こんなので殴ったら相手が怪我をするだろう。
「ラルフ、連れて行け!」
「またかよ。ほらほら暴れんなよな」
「はっ放せええぇぇ」
装備を用意するだけで、こんなに苦労するとはさすがに思わなかった。
次で最後だろうと思っていたら、その商人は偽の魔法書を売ってきた。
さらに、暗殺防止の銀の食器が毒性の鉱物で作られていたり、ポーションは空き瓶に水を入れた偽物だったり、解毒薬はそこら辺の雑草をつぶして固めた物だったりした。
知らなかったが、俺は騙されやすいと商人の間で評判になっていたらしい。母、アンリ、アレンのせいだろう。
悪質な品物が多かったので、俺は容赦なく商人から全財産をはぎ取ってやった。
「ラルフ、そいつを連れて行け」
「ジャックを騙して破滅した商人はこいつで二十人目だよな。懲りないねえ」
「ひいいっ! お許しくださいジャック様」
俺のつぶした商人はそのあとも増え続けた。
俺は頭を抱えてテーブルの上に倒れ込んだ。
もう人間不信になりそうだよ。ジャック・スノウ、ただ今、悪役街道一直線でございます。
ラルフが二十数人目の商人を引きずってドアの向こうに消えると、入れ違いでミケが部屋に入ってきた。
今日は俺の父親のジグリット・スノウが帰宅予定日なので、そのことかと思ったら違うらしい。ミケは激しく動揺しているようだ。俺はソファーから立ち上がって、ゆっくりとミケに尋ねた。
「落ち着け。父上が帰ってきたのではないんだよな?」
「は、はい。さ、宰相閣下が来られました。ジャック様に頼みがあるらしいです」
「宰相閣下だと。王国の二番目に偉い人がどうして俺を? 待たせるわけにはいかないな。すぐに行く」
俺はミケを従えて、宰相の待つ客間に向かう。
客間に入ると、メガネをかけた中年の男がソファーに座り紅茶を優雅に飲んでいた。さすがは王国の宰相だけのことはあるな。メガネの奥の眼光が鋭いし、何より存在感がある。
「ジャック・スノウ殿、突然の来訪、申し訳ない」
「王国を支える宰相閣下に……」
「それより君に頼みがある」
俺の挨拶を遮り、宰相は威圧しながら右手を差し出した。
「君の持つ営業許可証を王国に返したまえ」
「営業許可証?」
「そうだ。君が商人から没収した営業許可証は国の管轄下にある。つまり私の管理すべき領域だ」
この王国で店を出すには営業許可証がいる。許可証は、店の数を調整して経済を円滑にするため、王国で管理しているのだ。
王都のような都市では、営業許可証は恐ろしいほどの価値を持つ。俺がつぶした商人は貴族と取り引きできるほどの豪商で、第一区画に店を持つ者ばかり。おかげで、他の貴族が商品を買えなくなってしまったらしい。
「第一区画の営業許可書は、精霊の種や魔法書などの専売の権利書でもある。一つの子爵家が大量に持つのは危険だ。そこで宰相の私が来たわけだ」
俺が営業許可証を王国に返さなければ、王国に正面から喧嘩を売ったことになる。知らない間に死亡フラグが立ってたよ!
宰相のメガネの奥の瞳が怖かった。これは頼みではなく命令だな。俺は慌てて執事長を呼んで営業許可証を持ってこさせた。
「君の理解が早くて助かったよ」
宰相は営業許可証を受け取ると立ち上がって部屋を出る。俺は冷や汗を流しながら宰相を見送った。振り返ると俺の後ろでラルフが腹を抱えて笑っていやがる。
「良かったじゃねーか。ここがヴィクトリア帝国だったら、今頃、暗殺者に襲われてたんじゃね?」
「笑えないよ!」
「それにしてもジャックは商人に嫌われすぎだろ」
「まあな。ただ、金は恐ろしいほど貯まったがな」
商人から没収した財産の一部は俺の懐に入った。残りは子爵家の資産になる。
ちなみに、数日前にラルフに金貨を渡したら、猫用のブラシとかをそろえていた。さらにミケを奴隷から解放して従者の契約をしたらしい。猫好きのラルフらしい金の使い方だ。
そのミケが再び現れて、父ジグリット・スノウの帰宅を報告した。
「ジャック様を執務室に呼んでくるようにと言われました」
「わかった。ラルフは部屋で待っててくれ」
「はいよ」
俺は二人と別れ、執務室に向かった。
執務室は最上階にある。部屋に入ると金髪で大柄の厳つい男がいた。俺の父親、子爵家当主ジグリット・スノウである。
アンリとアレンと母は、左右に分かれて並んでいる。俺はその中央で、胸に手を当て貴族の礼をした。
「父上、無事にご帰還されて安心いたしました」
「うむ。留守の役目ご苦労であった。皆の顔が見れて余も嬉しい。ジャックよ、宰相は帰ったか?」
「はい。先ほどお帰りになりました」
ジグリットは豪快に笑う。
「あの狸め、営業許可書だけ取って帰ったか。ジャック、明日にでも詫びの品を持って王城に行くがよい」
「はい」
次いでジグリットはアレンとアンリに声をかけた。俺は、その様子をじっくりと観察する。
この豪傑を体現したような男は、存在自体がブラックと言っていいほどあらゆる悪事に手を染めている。ただ今は、どの貴族の当主も彼と同じようなものだ。
現在王国の貴族は、第一王子と第二王子の後継者争いで二つに割れており、きれいごとだけでは割り切れなくなっているのだ。
ジグリットの二人への話は終わったようだ。
「今日はもう下がって良い。皆、大義であった」
彼の言葉を受けて、全員が膝を折って退出していく。
母は俺の悪評を報告するだろうな。さっさと家を出て、無事に騎士学校に入学したいものだ。その前に王城に行って謝ってこなくては。
◆ ◇ ◆
次の日、詫びの品である高級な酒をアイテムボックスに放り込み、ラルフを連れて屋敷を出た。
まずは近くの商人の店に向かう。ミスリルの剣は手に入れたが、ミスリルの装備の他、必要品すべてはそろわなかったんだ。
「回復薬と解毒薬に訓練用の竹刀、銀の食器に服と……」
俺はメモを見ながら、騎士学校に必要な物を確認していた。ラルフが俺の横で笑って軽口を叩く。
「武器と防具と教本以外の全部じゃね?」
「まあ、その通りなんだが……、笑うなよ」
「ジャック、あそこの店にしようぜ」
ラルフが四階建ての大きな店を指差した。どこの店でも同じような気がするし、ここでいいだろう。俺たちは店のドアを開けて中に入った。
店内には、ミスリルやオリハルコンの剣が整然と並べられている。感心して眺めていたら店員が笑顔で近づいてきた。
「いらっしゃいませ」
「このメモの品を買いたい。用意してくれ」
「かしこまりました。少々お待ちを」
店員は俺たちを店の奥に案内すると、メモの商品を次々と持ってきた。
鑑定して確かめてみたが、全部本物のようだな。アイテムボックスから金貨を取り出して支払いを済ませる。
あんなに大騒ぎして武器と防具だけしか買えなかったのに一瞬で手に入ったよ。俺はため息をついて肩を落とした。
「こんなことなら初めから直接商人の店に出向けばよかった」
「だよな。まあ、商人二十数人がそろってジャックを騙すなんて誰も思わないよな」
「さてと、入学準備も整ったし、王城に行くかな。何か納得いかないけど」
悪いのは騙そうとした商人であって俺ではない。やり過ぎたのは認めるけどさ。
買った商品をアイテムボックスに放り込み店員と別れようとすると呼び止められた。店員が何かを差し出してくる。
「これは二週間絶対に消えないマジックペンです。普通のペンとしても使えますよ」
「もらっていいのか?」
「はい、サービス品ですから」
何かに使えそうだと考え、ありがたく受け取ってポケットの中に入れた。店員に別れを告げて王城に向かう。
「いい店だったな」
俺がポツリと呟くと、ラルフがまじまじと俺を見る。
「そりゃあ、そんだけ商品を買ってくれたらサービスの一つもするって。あれが普通の対応だと思うぞ」
「その普通の対応を俺は生まれて初めてされたわけだが?」
「そうなのかよ!?」
ゴードンはニコニコ顔で俺を騙していたし、二十数人の商人も隙あらば偽物を買わせようとしてきた。本当俺は商人と相性が悪いよな。
王城を見上げながら遠い目をした俺の頭をラルフがよしよしと撫でる。子供じゃないんだが、まあいいか。
「そういえば王城に行くなんて久しぶりだな」
「ジャックは行ったことあるんだ?」
「一応貴族の嫡子だからな」
俺の記憶では、貴族の子弟の社交界のついでに行ったことがあった。あまり覚えてないけど王女様がいた気がするな。
近づくにつれ、どんどん大きくなる王城の城壁に圧倒されながら、城門の前にたどり着いた。門を守る衛兵に呼び止められたので名乗っておく。
「スノウ子爵家嫡子ジャック・スノウだ。今日は宰相閣下に会いに来た。通してもらえるか?」
「はっ! 失礼しました。どうぞ」
「お役目ご苦労様。行くぞ、ラルフ」
敬礼する衛兵の横を通り抜けて王城の敷地に入った。
王城は巨大過ぎて、近くで見るとますますその大きさがよくわからなくなるな。
宰相のいる宰相府は、中央の王宮にある。そこまで行くのに結構な時間がかかるだろうな。
正面に見える扉をくぐると、オリハルコンの装備に身を包んだ騎士が並んでいた。王城を守る精鋭の王宮騎士団の騎士たちだろう。騎士の一人に声をかけたら、宰相閣下はいないと言われた。
「宰相閣下がいない?」
「今日は王国の南部の視察に行かれております。明日には戻られるかと思いますよ」
「詫びの品を持ってきたんだがいないなら仕方ないな。明日また来るよ」
それにしてもよく動く宰相だな。
騎士に礼を言って来た道を引き返す。やることがなくなったな。帰って勉強してもいいけど、せっかくなので王城を見て回りたい気もする。俺が少し考えていたら、ラルフが手を合わせて頼み込んできた。
応援ありがとうございます!
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