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1巻

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 ◆


 さて、魔力感知や魔力操作を毎日行なうことによって、魔法関連のステータスは軒並のきなみ上昇した。俺の感覚的には、もう魔法を十分に扱えるステータスになっているのではないかと思う。
 だったらやることは決まっている。考える必要などない。
 次は、魔法を覚える!
 と、大々的に宣言したものの、どうすりゃいいんだろうか?
 魔導書みたいにわかりやすい何かがあるのか、それとも結果をイメージしながら自力で魔力を操ればそれが魔法になるみたいなパターンか?
 ん? 待てよ。もしも仮にこの世界の魔法がスキルとして認識されているのだとしたら、願望チートで使えるようになるんじゃないか?
 この前は願い方が曖昧あいまいだったから、もっと具体的に考えよう。
 たとえば魔法って言ったら火魔法とか、水魔法みたいな属性魔法があるよな。あとは、精霊魔法とか召喚魔法とか……うーん、そもそもどういう魔法が存在するのかわからないな。
 とりあえず〝この世界にある全部の魔法を使えるようになりますように〟とか願ったら……


 火魔法(下)LV:1を取得しました。
 水魔法(下)LV:1を取得しました。
 氷魔法(下)LV:1を取得しました。
 雷魔法(下)LV:1を取得しました。
 風魔法(下)LV:1を取得しました。
 土魔法(下)LV:1を取得しました。
 木魔法(下)LV:1を取得しました。
 光魔法(下)LV:1を取得しました。
 闇魔法(下)LV:1を取得しました。
 無魔法(下)LV:1を取得しました。
 治癒ちゆ魔法(下)LV:1を取得しました。
 結界魔法(下)LV:1を取得しました。
 重力魔法(下)LV:1を取得しました。
 付与魔法(下)LV:1を取得しました。
 時空間魔法(下)LV:1を取得しました。
 精霊魔法(下)LV:1を取得しました。
 契約魔法(下)LV:1を取得しました。
 召喚魔法(下)LV:1を取得しました。
 生活魔法(下)LV:1を取得しました。


 え? え? 嘘でしょ?
 今のでもしかして、願望発動しちゃった……の?
 ――って……いっっってええええぇええぇえぇえええ!
 頭が! 頭が割れる!! 死ぬぅー!!
 やばいやばいやばい。頭がはじける!
 死ぬ! やばいこれマジで死ぬって!

「おぎゃあーーーー! あぎゃあーーーー! あぁああ!!」

 涙が出るほどの激痛というか、もう号泣しながら悶絶もんぜつするくらいに頭が痛い。
 俺の泣き声を聞きつけたのか、部屋に急いで誰かが入ってきて抱きかかえてくれた。
 ああ、優しく抱きしめられると、ちょっとだけ痛みがやわらい……でない!
 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

「ぎゃああぁ!! おんぎゃあーーー!! ああぁああ!!」

 俺はなりふり構わずのたうち回って泣きじゃくる。
 くそ、マジでやばい。本当にやばい。
 下手したら死ぬんじゃないのか?
 まだ俺はこの世界に来てから二週間しか生きてないんだぞ?
 新しい人生を存分に謳歌おうかすると決めていたのに、こんなところで死ぬとか最悪だ。
 あーくそ! どうにかならないのか、誰か! 誰か助けてくれ!!
 いつまでも引かない痛みに悶絶していると、俺を抱きかかえてくれていた誰かが、穏やかな声音こわねでゆっくりと何かの文言を唱えた。

「神聖なる神の力をもって、かの者の苦痛を和らげよ。『キュア』」

 声が聞こえた瞬間、あわい光に包まれ、凄く温かい、ほわほわとした優しい何かが全身を駆け巡っていくのがわかった。
 その感覚が全身にいき渡ると、不思議とさっきまでの激痛が和らぎ、気づけばもう痛くもかゆくもなくなっていた。
 しかし、それとは別に今度は激しい睡魔に襲われる。いや、これは睡魔というよりは、いつもの気絶に近い。
 だめだ、もう意識を保てる自信がない。
 ああ、せめて、せめて、今俺に……多分治癒ちゆ魔法? をかけてくれたのであろう命の恩人にお礼を言わなくちゃ……

「……あーうーあーううあーうー……(……ありがとうございました……)」

 上手く声を出せたかはわからないが、俺は感謝の言葉を告げ終えるのと同時に意識を手放し……そのまま眠るように気絶した……


 ◆


 どうも、ルカルドです。ちゃんと生きてました。
 あーうん、マジで死ぬかと思ったわ。
 いや、本当にやばかった。めちゃくちゃやばかった。
 初めて死んだ時は三途さんずの川は見えなかったけど、さっきは見えた気がしたよ。
 本当に、俺に治癒魔法をかけた誰かには、いくら感謝しても足りない。
 俺の泣き声を聞いて駆けつけてくれたわけだし、あの落ち着く感じの声は多分母さんだな。
 両親の愛情を受けて育てられるのがこんなに幸せだとは知らなかったよ。
 ああ、母さん。本当にありがとう。俺が大きくなったら必ず親孝行しまくるから、これからもよろしくね、ママン。
 ――って、いけねえ。このままでは、いつかマザコンになってしまう。
 心の底から感謝しているが、好き好きとべったりしすぎるのはあまりに痛い。
 それにしても、先ほどの頭痛の原因ってなんだったんだろうか?
 考えられるものといえば、一気に大量の魔法スキルを取得したことくらいだよな?
 明らかに、スキルを取得した直後から、あの頭の内側からガンガンとハンマーでなぐりつけられている波動のような痛みを感じた。
 多分、あれは一気にスキルを取得した代償なのではないだろうか?
 どう考えても、全部の魔法を一度に覚えるなんて普通はあり得ないはずだ。
 一時的にキャパシティを超えていたとか、なんらかの負荷が異常にかかっていたとか……そういうことかもしれない。
 結局真相はわからないけど、またあの痛みを感じたくはないから、もう一度別のスキルか何かで試そうとは思わない。
 とにかく、これで俺は魔法が使えるようになったんだろ? ならいいじゃないか。
 結果よければ全てよし!
 これで念願の魔法使いですよ、奥さん?
 でも、俺はまだこんなところでは満足はしないぞ。
 せっかく、誰もが一度はあこがれる魔法使いになれたんだ。ただの魔法使いで満足してたまるか!
 いずれは、世界を股に掛ける大魔導士……いや、大賢者になりたいよな。
 いや、なりたいじゃない! 必ずなってやる!!
 この時の俺は、安易なスキル取得でとんでもない頭痛に苦しんだことなどすっかり忘れて、浮かれきっていた。
 後先考えずに、またしても無自覚に願ってしまったのだ。
 そして、その結果……


 大賢者(下)LV:1を取得しました。


 あっ、やっちゃった……
 かくして俺は、勢いと成り行きで大賢者スキルを手に入れた。現在、世界で誰も所有していない(と後でわかった)賢者スキルを飛び越して、その上位版スキルを。
 最年少賢者――いや、最年少大賢者の誕生の瞬間であった……


 ◆


 新しい人生が始まってから二ヵ月が経過した。
 すでに言語習得は完璧だ。成長促進さんには足を向けて寝られない。
 それはさておき、ここ最近のことを語ろう。
 基本的には俺の行動パターンは大きくわけて二通りある。
 誰もいない時は相変わらず魔法スキルや他のスキルのレベル上げを行なっていて、逆に人がいる時は、言語理解と情報収集をしている。
 その結果、かなりの情報が得られた。
 まず、正式に自分の名前がルカルド・リーデンスだと判明した。
 ステータスにも記載されていたが、他の人達も間違いなく俺を〝ルカルド〟と呼んでいる。
 ちなみに、愛称はルカだ。なんだか女の子っぽい響きもあるけど、結構気に入っている。
 家族についてもわかってきた。
 まずは、一家の大黒柱、カイム・リーデンス。
 ただの茶髪のぽっちゃりさんだと思ったら、なんと領地持ちの貴族らしい。
 そういえば俺のステータスにも〝子爵家次男〟と書いてあったな。
 でも、まさか本当に貴族だったとは思わなかった。本当にびっくりだよね。
 確かに、母さんだけじゃなくて、メイドさんっぽい人が俺の世話に来たり、部屋で俺をでる父さんのことを、お上品な執事っぽいおじさんが呼びに来たりするから、ある程度裕福な家なんだろうとは思っていたけど。
 正直言って、父さんは威厳いげんがある感じではないし、みんなが普段着ている服装も結構普通で、そんなに金持ちっぽくはない。
 貴族の服って、もっとヒラヒラしたりキラキラしたりしているイメージだったけど、さすがにああいうのはよそ行きなのか。
 貴族の生活や身分にはあまり詳しくないから、子爵なんてどうせ一番低い爵位だろうな……と思っていた時期が俺にもありました。
 案外、そうでもないらしい。
 俺の生まれたこの国の爵位は、上から大公、公爵こうしゃく侯爵こうしゃく伯爵はくしゃく子爵ししゃく男爵だんしゃく、準男爵、騎士爵まである。子爵はだいたい真ん中だね。
 うん、そう考えると大したことないのか?
 とにかく、したではないということだ。
 リーデンス家は結構歴史のある家で、父さんは十代目の当主なのだそうだ。
 貴族だけど鼻につく嫌な性格ってことはなくて、俺に向けてくれる愛情はとても温かく、一緒にいると落ち着ける、とても素晴らしい父親である。
 そして、いつも優しくしてくれる金髪の美人は、母さんのエレナ・リーデンス。
 母さんは元々男爵家の次女で、子爵家であるリーデンス家とのつながりを作るためにとついできたらしい。
 そんな政略結婚的な成り行きで結婚したにもかかわらず、母さんは父さんのことを心から愛しているみたいだし、俺を含め、自ら腹を痛めて産んだ子供に最大の愛情をそそいでくれている。
 こちらも、とても素晴らしい母親だ。
 それから、前に俺のほっぺたをツンツンしていた男の子は、兄のアルト・リーデンスで、六歳らしい。
 その下に三歳になる姉、リーナ・リーデンスがいる。
 つまり、俺はこの家の次男で、第三子ってことだ。
 次男の俺は爵位を継ぐことはないから、貴族家といっても将来に大きな影響はない。
 でも、不自由のない暮らしを送れるのはありがたいと思う。そこら辺は父さんやご先祖様に感謝だ。
 それに、母さんみたいな美人を奥さんにできるっていうのは、貴族の利点の一つなのかもしれないな。
 ゆくゆくは家を出て、一人で生きていかなきゃいけない時が来るのはわかっている。だから、それまでに少しでも何か親孝行ができればいいな。
 その第一歩として、近々、みんなが見ている時にでも寝返りやハイハイを披露ひろうして両親を喜ばせてあげようと画策している。
 普通の赤ちゃんって、半年くらいでハイハイするものなのかな?
 まあ、異世界だし、ちょっとばかり早くても気にしないでしょ!
 成長促進さんのおかげで体の発育が早いのが悪いんだよ?
 俺悪くないよな? うん、悪くない!
 まあとにかく、半年経つ頃には、伝い歩きくらいはできるようになっておきたいし、今日も一日頑張りますか!


 ◆


 新しい人生が始まって五ヵ月が経過した。
 相変わらず、魔法やスキルのレベルを上げる毎日だ。その成果もあって、今ではステータスがとんでもないことになっている。
 論より証拠だ。早速確認しようじゃないか。

「すーえーあーすーおーうーん!(ステータスオープン)」


 ルカルド・リーデンス 0歳 LV:1


 体力:180/180  魔力:10085/10085
 筋力:55  耐久:10  速さ:30
 器用:25  知力:2500  精神:1500


【称号】
 リーデンス子爵家次男  神童  転生者  世界最年少賢者  魔導王


【パッシブスキル】
 幸運(神)LV:MAX  無詠唱(王)LV:9  言語習得(神)LV:MAX
 隠蔽(神)LV:MAX  聞き耳(王)LV:1


【アクティブスキル】
 身体強化(王)LV:1  魔力感知(王)LV:9  魔力操作(王)LV:9
 鑑定(中)LV:5


【魔法スキル】
 火魔法(下)LV:5  水魔法(下)LV:3  氷魔法(上)LV:1
 雷魔法(下)LV:1  風魔法(王)LV:9  土魔法(下)LV:1
 木魔法(下)LV:1  光魔法(上)LV:3  闇魔法(中)LV:2
 無魔法(王)LV:2  治癒魔法(王)LV:1  結界魔法(上)LV:2
 重力魔法(上)LV:2  付与魔法(上)LV:3  時空間魔法(上)LV:2
 精霊魔法(下)LV:1  契約魔法(下)LV:1  召喚魔法(下)LV:1
 生活魔法(上)LV:9


【ユニークスキル】
 成長促進(神)LV:MAX  願望(神)LV:MAX


【称号スキル】
 大賢者(中)LV:7


 ちなみに、スキルのレベルは最大で10だ。ただし、最大値になると〝くらい〟がランクアップして、一段階上のランクのレベル1になる。
 スキルのランクは全部で十段階存在するみたいだ。
 下から順に、下・中・上・特・聖・王・帝王・覇王はおう・精霊・神だ。
 称号については……うん。考えてはいけない。見なかったことにしよう。
 まあ、隠蔽スキルを願望さんで取得して、レベルMAXまで育ててちゃんと他人にはわからないようにしてあるからバレることはないし、問題ないよ! オールオッケー!
 いや、それにしても……
 明らかに生後五ヵ月の赤ちゃんのステータスではないわな! あっはっはっはっは!
 うん。やりすぎちったっ。てへぺろ?
 さすがにこれは言い訳できないよねー。
 ちょっと調子に乗りすぎてるって、自分でもわかっている。
 でも、後悔はしていない。俺の辞書に自重という単語は載ってなかったんだから。誰がなんと言おうと、この成長は俺に必要だったんだ!
 それに、ちょっと魔法系スキルが高いだけで、後はそうでもないし。スキルが多いくらいは許容範囲でしょ?
 なんて言って目をつぶるわけにはいかないんだよな……
 いや、というのも、あれはちょっと前のことだったか? 異世界では定番の鑑定スキルを願望さんにお願いして取得して、部屋の中にあるものを片っ端から鑑定しまくっていた。
 その時、たまたま兄さんが部屋に俺の様子を見に来たので、出来心で鑑定してみたんだけど、その結果がね……


 アルト・リーデンス LV:1


 体力:100/100  魔力:50/50
 筋力:50  耐久:30  速さ:10
 器用:20  知力:80  精神:30


【称号】
 リーデンス子爵家長男


【スキル】
 剣術(下)LV:2  体術(下)LV:1  身体強化(下)LV:1
 火魔法(下)LV:1  無魔法(下)LV:1  生活魔法(下)LV:2


 うん。まあ、こんな感じ。
 最初見た時はマジでビビったよ? だって、ほとんどのステータスが俺以下なんだもん。兄さん本当に六歳? さすがにステータスが残念すぎないか。
 知力とか精神はまだしも、生後五ヵ月の赤ん坊に筋力で負けてるってどうなのよ?
 もっとも、こっちはまだ手足が短くてバランス悪いし、関節もグニャグニャで、自在に自分の体を操れるわけじゃないから、単純に力比べはできないけど。
 だいたい、五歳の時から最低限の訓練はやっているって聞いたぞ。
 もしかして、毎日ちゃんと取り組まずにサボりまくっているんじゃないのか? 絶対そうだ!
 鑑定した時だって、いつもなら稽古けいこしている時間だったはずだもん。
 ……まったく、兄さんは仕方ないなあ。
 そうは言っても、俺は異世界から転生してきたチートキャラ。対して兄さんは〝普通の人〟だから、比べるのはこくというものか。
 全て俺が自重せずにやりすぎたのがいけないんだ。兄さんは何も悪くない。ごめんよ、兄さん。
 今後はステータスやスキルを上げないように、もっと気をつけた方がいいだろうか?
 うーん……
 まあ、別にいいや!
 だって俺、自由に生きるって決めたし。
 次男で爵位は継げないんだから、早く強くなっておかないと、独り立ちした時に何かと困っちゃうかもしれない。遠慮えんりょなんかしてらんねえぜ!
 こうして俺が自重をかなぐり捨てたことによって、思ってもみなかった大きな影響が、未来に訪れるとか……訪れないとか……
 なんてね?


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