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2巻

2-3

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「ティナおばあ様、僕も見過ごせません。僕たち、とても強いです! パーティーに参加させてくれたら、エレノアを守ります!」
「危ないから駄目よ! って、その不満そうなお顔……二人とも、こっそりパーティーにもぐり込むつもりね?」

 僕たちが素直に頷くと、ティナおばあ様はため息をついた。

「……仕方がないから、ブリックス子爵ししゃくの一員としてパーティーに招待します。でも、無茶はしちゃ駄目よ」

 ブリックス子爵家とは、僕とリズのもう一人のおばあちゃんの生家。僕たちとは血が繋がった親戚しんせきだ。
 僕の母方の祖父母――王家の傍流ぼうりゅうであるグロスター侯爵こうしゃく夫妻ふさいの孫として僕を紹介したり、ティナおばあ様の孫としてリズを紹介したりするよりは、目立たずにパーティーへ参加できると判断したらしい。
 ということで、僕とリズもエレノアの誕生日パーティーに出席することになった。

「アレクたちも来るみたいだけど……僕だってお兄ちゃんなんだから、エレノアを守ってあげる!」
「もちろん、私もよ。お姉ちゃんがいるから、怖いことなんてないのよ」
「ありがとうなの!」

 ルーカスお兄様とルーシーお姉様に頭を撫でられ、エレノアがニコニコした。
 妹のことが心配になる気持ち、僕にもよく分かる。
 ガチャ。
 その時、食堂の扉が開き、新たなお客さんがやってきた。

「あらあら、みんな楽しそうね」
「ふふ、何かあったのかな?」

 ルーカスお兄様とルーシーお姉様のお母さんであるビクトリア様と、エレノアのお母さんのアリア様だ。
 僕たちがエレノアを囲んでわいわいとさわいでいるのを見て、ビクトリア様とアリア様は微笑んだ。
 しかし、ティナおばあ様が事情を説明すると、あっという間に笑顔が消える。
 真顔になった二人は陛下に近寄った。

「あなた? 今回の件は、水面下で事を進めるはずではありませんでしたか? それをあっさりとバラすとは……」
「私たちから大切なお話があります」

 気のせいかな? ビクトリア様とアリア様から、般若はんにゃのような怖ーい圧を感じるんだけど……

「あの、その、これはだな――」

 言い訳しようとする陛下を、僕たちは黙って見守る。
 ビクトリア様とアリア様が彼の両腕をつかんだ。
 ズルズルズル……パタン。
 奥さんたちに引きずられ、陛下は食堂を出ていった。

「行っちゃった……」
「行っちゃったの」

 閉まったドアを見つめ、リズとエレノアがぽつりとこぼしたコメントが印象的だった。

「はいはい、せっかくのオムライスがめちゃうわ。みんな、食事に戻ってね」

 ティナおばあ様の一言で、僕たちは再び席に着いた。

「パーティーってめんどくさいの。挨拶ばっかりでつまらないの」
「うん、僕もよく分かるよ。たくさん人が囲んでくるもん……」
「エレノアとお兄様の言う通り! ずっとニコニコしないといけないから、お口が痛くなっちゃうよね」

 その後は、王家の子どもたちからパーティーへの愚痴を延々と聞かされた。
 ルーカスお兄様とルーシーお姉様はともかく……今回は主役となるはずのエレノアも、かなりつまらなそうだ。


 昼食後はみんなで遊んだり、お昼寝をしたりして過ごした。
 僕とリズはティナおばあ様の部屋にお泊まりして、翌日ホーエンハイム辺境伯領に帰ったんだけど……最後まで食堂を出ていった陛下を見ることはなかったのだった。


  ◆ ◇ ◆


 そんなやり取りから数日後。
 あっという間に、エレノアの誕生日パーティー当日になった。
 襲撃にそなえた打ち合わせをするために、僕たちは早めに王城に向かう。
 パーティーには辺境伯であるヘンリー様と、奥さんであるイザベラ様も参加する。いつもはリズと二人で転移することが多いけど、今日は彼らも一緒だ。

「【ゲート】って便利ねえ。もっとも、こうして遠距離を繋げるアレク君が凄いんでしょうけど」

 初めて【ゲート】を使ったイザベラ様はとてもビックリしていた。今までは何日もかけて辺境伯領と王都とを移動していたそうだから、驚くのも無理はない。
 僕たちはいつもと同じように、ティナおばあ様の私室に出た。
 部屋の主に向かって、イザベラ様は深々とお辞儀じぎをする。

「ティナ様。いつもアレク君とリズちゃんの面倒を見ていただき、ありがとうございます」
「頭を上げてちょうだい。こちらこそ、二人を保護してくれて本当に感謝しているの。イザベラさんにはとても助けられていますわ」

 二人は僕とリズという共通の話題で盛り上がっている。
 ちなみにヘンリー様は陛下とお話があるそうで、挨拶もそこそこにすぐにいなくなってしまった。
 正装に着替えてきた辺境伯夫婦と違って、僕とリズはまだ普段着だ。
 ティナおばあ様から「ぜひ着てほしい服がある」と聞かされていたんだけど……
 侍従に手伝ってもらいながらパーティー用の衣装に着替える。僕は白いシャツと半ズボンをはいてジャケットを羽織はおった。
 リズは髪までセットしてもらって、お姫様のようなあわいピンク色のドレスを着ている。
 僕たちがその場でくるっと回ってみせると、ティナおばあ様とイザベラ様は目をキラキラと輝かせた。

「うんうん、二人ともよく似合っているわ! この服、我が国の最新デザインなのよ~! サイズもいい感じね」
「本当ですね。アレク君もリズちゃんもとっても可愛いわ」

 うう……ティナおばあ様もイザベラ様も、そんなに褒めなくていいのに。
 今日の主役はエレノアなんだ。僕たちを持ち上げるのは、ほどほどにしてほしい。
 確かに、着飾きかざったリズはお姫様みたいにとても可愛いけど。
 れくさい気分になっている僕の隣で、着替えを手伝ってくれた侍従は満足そうな顔をしていた。

「そういえば、スラちゃんはお留守番るすばんなのかしら? こっちに来る時、連れてこなかったようだけど……」

 イザベラ様に質問を受けた。
 彼女の言う通り、スラちゃんはこの場にいない。なぜなら、すでにお仕事に向かったからだ。

「スラちゃんは一足先に王城へ向かったんです。エレノアの護衛をするために」

 これは陛下からスラちゃんに対する指名依頼だ。実はスラちゃんは今朝のうちに王城へ送り届けている。
『いくらアレクとリズが強いからとはいえ、幼い子どもに危険な任務をさせるわけにはいかない』……とは、この依頼を持ってきた時の陛下の言葉だ。
 駄々だだをこねてパーティーに参加することになった僕たちだけど、戦闘にはなるべく参加しないよう言われている。代わりに、リズの従魔であるスラちゃんがエレノアのそばで護衛をするのだ。
 スラちゃん、凄く張り切っていたっけ。ぎわ、僕とリズに向かって触手でガッツポーズをしていたし。
 イザベラ様はヘンリー様のところに向かうそうなので、ここで一度お別れだ。
 彼女と入れ替わるようにして、近衛騎士このえきしのお姉さんが入ってきた。

「アレクサンダー様、エリザベス様。本日は私たちが会場の護衛に入ります。お二人のことも守りますので、どうぞよろしくお願いします」

 名前は知らないけど、この人とは何回か話したことがある。
 今日は、王族の……現国王の娘が主役というだけあって、警備は王国軍と近衛騎士が中心になるらしい。顔見知りの人が多く警備に付くそうなので、僕としても安心だ。
 パーティーが始まるまで、まだ時間がある。

「先に会場をご覧になりますか? よろしければご案内しましょう」
「はい、よろしくお願いします。ティナおばあ様、行ってきます」
「おばあちゃん、行ってきます!」
「気をつけてね。あとで会場で会いましょう」

 ティナおばあ様と別れ、僕とリズは近衛騎士のお姉さんと一緒にパーティー会場に向かった。


 パーティー開始に向けて、会場となる大ホールではたくさんの侍従とメイドが忙しそうに働いていた。
 パッと見、すでにほとんど準備は終わっていそうだ。

「ここが本日の会場となります。陛下やエレノア様といった王家の方々は、正面入り口から一番奥の席になりますね」
「すっごく広い会場ですね」
「ええ。席は上位貴族から順に王族の近いところに案内されます。ホーエンハイム辺境伯ご夫妻も上位貴族となりますので、奥の方のお席になりますね」

 ブリックス子爵家は、会場の真ん中あたりになるようだ。エレノアやヘンリー様がいる場所とは遠いけど、その代わりに会場を広く見渡せる。
 今回のパーティーには百に近い数の貴族家が招待されているのだとか。ただ、遠方だから来られなかったり、事情があったりで断ってくる貴族もたくさんいるらしい。それにしても大きな会場だ。
 近衛騎士のお姉さんの説明が一段落したところで、僕とリズは会場を見て回る。
 行きう侍従とメイドを見上げると、ふと違和感を覚えた。
 あの侍従、テーブルの上のグラスを並べているけど……

「お姉さん、今テーブルに置かれている食器とグラスって、パーティーで実際に使われるんですか? お客さんが来てから並べるんじゃなくて……」
「はい、そうですが。何かございましたか?」

 僕とリズはとあるテーブルに向かう。近衛騎士のお姉さんは不思議そうな顔をしてついてきた。
 椅子に乗って間近でグラスを確かめ、確信を持った。

「グラスのふちに毒がられています。【鑑定】を使って確認しました」
「このままだと、お腹が痛くなっちゃうよ」

 僕とリズが言うと、お姉さんは目を見張った。
 さっきの侍従はグラスを並べ直すふりをして、手持ちのものと入れ替えていた。最初は傷でもついていたのかな? と思ったけど、今やどう考えてもあやしい。

「えっ!? 本当ですか? ……そこのあなた、ちょっと【鑑定】が使える者を呼んできてくれる?」

 お姉さんが少し離れたところに立っていたメイドにお願いした、その時だった。
 じっとりと体にまとわりつくような、嫌な視線を感じる!
 僕とリズはほとんど同時に振り向いた。グラスを置いた侍従がこちらをにらんでいる。

「くっ!」

 侍従はきびすを返して逃げ出した。

「こらー! 待てー!」
「あっ、リズ! 一人で行かないで!」

 身体能力を向上させる【身体強化しんたいきょうか】を使い、リズが駆け出した。
 メイドとの話を終えて振り返ったお姉さんが、走り出したリズを見て慌てて声を上げる。

「エリザベス様!? い、一体どうされたのですか?」

 怪しい侍従を追いかけて、リズはあっという間に会場を出ていってしまった。

「逃げ出した人、毒を盛った犯人なんです! 追いかけていっちゃって……」
「なんと! あなたたち、エリザベス様を追って!」
「「はっ!」」

 お姉さんの指示で、会場の隅で控えていた騎士たちが走っていった。
 リズは強いからきっと大丈夫だと思う。むしろ、広大なお城の中で迷子にならないか不安だ。

「怪しい侍従はマーカーを付けたので、僕の【探索たんさく】でも追えると思います」
「アレクサンダー様もエリザベス様も、本当に規格外ですね……」

 お姉さんは少し呆れた表情だ。
 メイドが連れてきた近衛騎士のおじさんが、グラスに【鑑定】をかける。

「……確かに下剤げざいが塗られているようですね。無色透明かつごく少量だというのに……アレクサンダー様はよく異変に気づかれましたな」
「なんだか侍従が人目を気にしているようだったので、違和感を覚えたんです。多分、リズは勘で分かったんだと思います」
「勘……我々の立場がありませんな……」
「事情は分かりませんが、とんでもなく冷静なおぼっちゃんですね……?」

 おじさんとメイドがまじまじと僕を見つめる。二人の表情からは、心の中で「なんだこの変なちびっ子は」と思っていることがありありと伝わってきた。
 あの……その眼差しはさすがに傷つきますよ?
 ちょうどその時、軍務卿のブレア様が息を切らして会場に駆け込んできた。

「アレク君、よくやった!」

 王族の誕生日パーティーに怪しい侍従がまぎれ込んでいたとなると、ブレア様といえども慌てるんだね。

「グラスが入れ替えられたのはこのテーブルだけです。怪しい人、すぐに捕まえられなかったけど……」
「リズちゃんが犯人を追っているんだろ? 先ほど報告があったぞ」

 ブレア様はリズの猪突猛進ちょとつもうしんな性格をよく知っている。「またかよ」と言いたげだ。

「実は犯人を【鑑定】したんです。そしたら、勤め先の貴族家が分かって――」
「もしかして、『べストール』じゃないか?」

 僕が教える前に、ブレア様はその家名を口にした。
 あっさり正解を言われちゃったので、少し驚いてしまう。

「ベストール侯爵こうしゃくあさはかな男でな……先の騒動で、バイザー伯爵家が爵位返上しゃくいへんじょうとなっただろう? その動きを察知して、これを機に王家の評判を落とそうと、トラブルを起こす気がしていたんだ」
「昔から、いい噂がちっともない貴族家ですからな」
「特に現当主になってからは……評判は最悪です」

 おおう……ブレア様だけでなく近衛騎士のおじさんとお姉さんも、ベストール侯爵をボロクソに言う。それだけ悪名高いのだろう。
 僕はベストール侯爵に会ったことがない。ブレア様によれば、丸々とえた中年男性らしい。

「ブレア様、これは……」
「どう考えてもクロだな。べストール侯爵を引っ張ろう。今日のパーティーにも出席するはずだから……今頃、控え室にいるはずだ」
「はっ、承知いたしました」

 ブレア様の言葉で、近衛騎士のおじさんが去っていく。ベストール侯爵も、言い逃れはできないだろう。
 あっ、でもちょっと疑問が……僕は小声で尋ねる。

「ブレア様、これって闇ギルド絡みじゃないですよね?」

 僕とリズがパーティーに参加することになったのは、闇ギルドの襲撃からエレノアを守るためだ。ベストール侯爵が一服盛ろうとしたのとは関係がないはず。

「おそらく……というか、まったくの別件だろう。この際だから、会場内の警備に回す人員を増やそう」
「ええ。会場内に危険物を持ち込む来賓らいひんがいないか、要チェックですね」

 おお、さすがブレア様と近衛騎士のお姉さん! 不手際があっても、すぐに解決策を考えついたみたいだ。
 お姉さんが警備計画の変更を伝えるため、他の近衛騎士たちに声をかけに行った。

「お兄ちゃん、ただいま!」

 そうこうしているうちに、元気いっぱいのリズが戻ってきた。リズはほくほくしているけど、後ろに控えている兵士たちはなんだか疲れ切った表情だ。

「あっ、ブレア様も来たんだね! リズねー、悪い犯人さんも、ぶたみたいな貴族の人も倒したんだよ!」
「そうか。怪我がなくてよかっ……うん? 倒した?」
「そう、倒したの!」

 おい、リズよ。あの侍従はともかく、まさかベストール侯爵まで倒したってこと? 僕もブレア様も全然理解が追いつかない。
 事の詳細は、疲労をにじませた兵士が教えてくれた。

「侍従が逃げ込んだ先が、ベストール侯爵が滞在していた控え室だったようでして。エリザベス様は鍵がかかったドアを蹴破けやぶり、彼らを追い詰めました」

 この時点で僕はめまいがしたけど、続く話はさらに凄かった。

「侍従はナイフを手にこちらをおそってきましたが、エリザベス様に蹴り飛ばされて一撃でノックアウト。剣を抜き、斬りかかってきたベストール侯爵についても同様で……エリザベス様は自らの拳で剣を叩き折り、そのまま彼を吹き飛ばしたのです」

【身体強化】で身体能力を底上げしたリズは非常にすばしっこく、守ろうとしてくれた兵士たちさえ置き去りにして一人で片を付けてしまったみたいだ。

「えっへん!」

 僕とブレア様は、思わずため息をついてしまった。
 リズ、こしに手を当ててドヤ顔するんじゃない。まったく、どれだけ大立ち回りをしたんだか。
 ちびっ子に素手で剣を叩き折られて、べストール侯爵もビックリしただろうな……

「現在、部屋は立入禁止にしています。騒動を聞いてか、陛下が様子を見にいらっしゃいましたが……『は何も見なかったことにする』とおっしゃっておられました」
「……リズ、陛下にドアをこわしたことは謝った?」

 お兄ちゃんとして、いろいろ注意すべきなんだろうけど……驚きすぎて頭が回らない。

「ちゃんとごめんなさいしたよ! 他は何も壊していないもん」

 それはよかった……あとで僕からも謝っておこう。

「さて、まだ不審ふしんしゃがいる可能性がある。パーティー会場だけでなく、王城内すべてにおいて厳重に警戒するように!」
「「「はい!」」」

 ブレア様が集まったみんなにげきを飛ばした。それに力強くこたえ、兵士たちはそれぞれの持ち場に散っていく。

「悪い人は全部リズがやっつけるよ!」
「いや、リズちゃんは少し自重じちょうしてくれ」

 ブレア様に注意されてリズはふくれっつらになったけど、ブレア様のほうが正しいぞ。僕らはあくまでも万が一の備えなんだから。


 それから二時間ほどが経過した。エレノアの誕生日パーティーの開始時刻が迫り、次々と招待客が会場にやってくる。
 会場の入り口で、僕とリズはブリックス子爵夫妻と合流した。席に移動しながら僕は小声で話しかける。

「おじ様、おば様、急に保護者役をお願いしてしまってごめんなさい。きっと危ないのに……」
「事情は陛下から聞いているから、気にしなくていいぞ。今日は周囲に親戚の子として紹介するが、実際に二人がそうなのは間違いないからな。いつか君たちの存在を公表する時の練習になるよ」

 そう言って、おじ様は目を細めた。

「それに二人の素敵すてきなお洋服が見られたんだもの。このくらいへっちゃらよ。リズちゃんの髪形、とっても可愛いわ」
「えへへー!」

 今のところ、会場に入ってきた貴族たちの中で僕とリズを気にする人はほとんどいない。

「おお、二人ともよく似合っているのう」
「ええ。初めて会った時に着ていた冒険者のお洋服もとてもかっこよかったけど、きちんとした服も素敵だわ」

 ニコニコしながら僕たちに声をかけてきたのは、グロスター侯爵夫妻――僕の母方のおじい様とおばあ様だった。

「あっ、おじいちゃんとおばあちゃんだ!」

 はしゃぐリズとお辞儀をする僕の頭を、順々に撫でてくれる。

「二人がとっても強いのは分かっているが、くれぐれも無理をするでないぞ」
「せっかく来たのだから、パーティーも楽しんでいくといいわ」

 他の貴族へ挨拶に行かなくちゃいけないそうで、おじい様とおばあ様は名残惜なごりおしそうに去っていった。
 会場内にどんどん人が増えてきた。中にはヘンリー様とイザベラ様の姿がある。ただ、他の貴族に囲まれてしまっているようで、僕たちのところには来られなさそうだ。
 上位貴族ともなると、面倒くさい付き合いが多いんだな……
 やがてすべての貴族が会場に入ったみたいだ。一度会場の照明がしぼられ、あたりが少しくらくなる。

「国王陛下と王妃様、並びにご子息とご息女の入場です」

 かかりの人のアナウンスで、王族一家がやってきた。
 座っていたすべての貴族が立ち上がり、こうべを垂れる。僕とリズも慌てて頭を下げた。
 陛下はいつもよりさらに豪華ごうかな衣装を着ていた。アリア様とエレノアは綺麗なドレスで着飾っている。
 エレノアが着ているのはうすい青色の楚々そそとしたドレスだ。ネックレスやティアラなどのアクセサリーも身につけており、まさに本日の主役! といった感じだ。
 ビクトリア様とルーカスお兄様、ルーシーお姉様も品のある洋服を身に纏っている。ただ、エレノアに比べると装飾そうしょく品が控えめだ。
 エレノアの後ろを、スラちゃんがちょこちょことついていく。
「なんでスライムが?」と貴族たちがひそひそばなしをしていたけれど、表立って聞けないみたい。それよりも「エレノア様があんなに元気そうに……」という感慨深かんがいぶかそうな声のほうが多かった。
 僕とリズが【合体回復魔法】で治してあげるまで、エレノアはとても病弱だったのだという。今の元気いっぱいな姿からは想像がつかないけどね。
 一番奥の席に着き、陛下が会場を見渡す。


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