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5巻

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 1 泥棒どろぼう


 蒼穹そうきゅうを、白雲がゆっくりと流れていく。
 日本でリーマンをやってたときは、そんなふうに移りゆく景色を楽しむことなんてなかった。いつも時間か金の支払いか仕事に追われていて、自然になんて興味を持てなかったしな。
 でも、自由も金も手にしたいまは、心に余裕がある。
 ここは王都ディシディアのとある公園のベンチ。そこで仰向あおむけに寝ている俺、ジャーは日なたぼっこを楽しんでいるというわけだ。
 陽光を浴びるのに飽きたら、次はアレを飲む。

「くー、昼間から飲む酒はうめーぜー」

 ダメ人間的発言および行動をしながら、俺は日中から酒を楽しんでいた。
 そんなことをしていれば、公園内で遊ぶ子供やその母親が白い目を向けてきてもおかしくないが、こちらは日本とはだいぶ違う。
 まー個人主義っていうの? そこまで他人の行動をチェックしてない。そういう意味では、やっぱこっちのほうが過ごしやすくはあるな。
 コトッと、酒の入った水筒をベンチ横に置いた途端、どこからともなく物体が飛んできた。って、おい、せっかくの酒が倒されたじゃねえか。

「だぁーー!? 俺の酒になにしやがる!」

 なにが飛来してきたかと思えば、ボロボロのぬいぐるみだった。元は、クマだったのかタヌキだったのかすらわかりゃしない。
 すぐに、十歳くらいの子供たちがこちらに近寄ってくる。

「おにいちゃーん、ぬいぐるみ返してー」
「おめーらなぁ。人の酒無駄にするのやめてくれよ」
「昼間っから酒なんて飲んでるほうがわるいんだろー! そういうのダメ人間って言うんだぞー、母ちゃん言ってた」

 なにこいつら? この年で逆ギレっていう技だけでなく、的確に人の心を傷つけるすべまで身につけてやがる。

「まあ返してやってもいいけどよ、なにやってたわけ?」
「ぬいぐるみイジメごっこ」

 悪のエリート街道走ってるな、おい。

「……人間にやるよりはいいけどな。ぬいぐるみがちょい可哀想だわ」
「うるせーな、はやく返せよダメ人間!」

 少年の一人がいきなり俺のスネをトウキックして注意を惹きつけ、その間に仲間がぬいぐるみを奪っていった。
 無駄に連携取れてるな。

「なんだこいつ、全然効いてねえ……」

 去り際に少年が、不思議そうな表情を浮かべて言う。

「笑っちゃうほど弱かったからな。そんだけ弱いならぬいぐるみも可哀想じゃないし、勝手に頑張れ」

 フッとスカした笑みを浮かべて、俺は再び酒飲み作業に戻る。
 少年はムッとしたかと思うと、突然ぬいぐるみを俺の顔面に投げつけてきた。

「なんだよ、ダメ人間のくせにエラそうにすんなー!」

 だが、投げつけられたぬいぐるみが俺に直撃することはなかった。俺の横合いから高速で飛んできた矢がぶっ刺さり、そのまま遠くへ運ばれていったからだ。

「ひえっ」

 ガキんちょどもがおびえの眼差しを送った先には、金髪エルフのイレーヌがいた。
 堂に入ったその弓の構えを見れば、誰が矢をったかは一目瞭然りょうぜん

「な、なんだよ、おねえちゃん……」
「その人は私のご主人様です。物を投げるのはやめてください」
「でも、ダメ人間だし」
「ダメ人間ではありません。もう一度言ったら本気で怒ります」
「ごめんなさああい」

 イレーヌがちょっと目つきをキツめにしたら、全員ビビって退散してしまった。
 やれやれ、根性のないやつらめ。

「悪りぃ。剣鞘をチラチラさせておどしてはいたんだが、思いのほか通じなくてよ」
「ご主人様は優しいですから、子供には手を上げないんですよね」
「下手に手とか出すと、骨の二、三本折れちまいそうだしな」
「うふふ、一緒にお散歩行きませんか?」
「酒抜きにいいかもな」

 昼間っからあんま酔っ払ってると、またダメ人間って言われちゃうし、まあ、ダメ人間で七割合ってるけどな!
 と、自虐はさておき。
 王都内をイレーヌと並んで散策することになったわけだが……。時折イレーヌの横顔をうかがうと、妙な気持ちになる。
 すごく、大人っぽくなってきたのだ。


「なあイレーヌ、化粧とか覚えた?」
「いえ? 特にはなにもしてませんよ。一応肌や髪には気を遣っているつもりですけど」
「ふうん」
「どうしてですか?」
「顔つきが大人びてきたような……」
「本当ですか!? 少しは大人の女性として見てもらえます?」
「それはどうだろうねぇ」

 嬉しそうにグイグイ寄ってくるもんだから、どうしても綺麗な顔立ちや胸などが視界に入ってくる。元々巨乳だったけど、また成長してるっぽい……。
 俺は一応保護者的立場のつもりだから、成長を喜ぶべきなのだろうが。
 ……でも複雑。

「私も、もうすぐ十五歳です。その年になれば、この国では成人として扱われますし、結婚だって余裕でできるんですよ!」

 なぜか体を俺とは逆に向けてのセリフだった。
 ん? そっちになにがあるかと思えば、小さな教会。花で飾られたアーチの向こう、教会の入り口から、白いドレスを着た女性がちょうど出てきた。
 日本でも似たような光景を見たことがある。女性が着ていたのが、ウェディングドレスにどことなく似ていたので、すぐに結婚式を挙げていたのだとわかった。

「へー、こっちにも式なんてあるんだな」
「お金持ちの人だけらしいですよ。一般の人はあんなことはできないです」

 ってことは、貴族か。確かに周りで祝ってるやつらも身なりが良いのが多いな。

「あのっ、私もっと近くで見たいです!」
「えぇ……」
「見たいです!」
「でも部外者は迷惑じゃねえかな……」
「見たいんですっ!!」

 こんな強引なイレーヌはいつ以来だろう。
 俺は渋々、イレーヌと一緒に教会のほうへと近づく。まったく関係ないイレーヌが目をキラキラさせながら新婦を見つめている。

「そういうのに憧れる年頃か」
「ご主人様って、結婚とかしないんですか?」
「向いてそうに見える?」
「相手との相性によると思いますよ」
「へえ、例えば」
「家事全般が苦痛にならなくて、弓が使えて、エルフとかなら、結婚相手として相性が良いと思います~」

 随分ずいぶんピンポイントですなぁ。
 まあね、こういうところも可愛らしくはあるんだけども。
 俺はイレーヌの頭に手を置き、ワシャワシャと軽く撫でる。

「十五歳になりゃ、大抵の国では成人扱いなんだろ。じゃあまずは、その年齢になったら考えようぜ。物事にはいろいろと段階ってのがあると思う」
「はい!」

 よし、なんとか誤魔化せた。

「……うふふ、十五歳になったら奥さん……」

 いや誤魔化せてなかった。
 これ以上式を見せるのは危険だと判断し、俺はイレーヌの手を引っ張り場を離れる。
 ようやく教会から離れたと思ったら――。

「泥棒だ! 泥棒だっ!」

 叫び声が聞こえてきたじゃねえか。
 ザワついてるのは、どうやらあの結婚式が行われてた場所だ。

「みんなが浮かれてる隙を狙って盗みを働いたのか。悪知恵の働くやつだわ」
「……でも、なんだか様子が変じゃありません? 行ってみましょうよ」

 イレーヌの表情が硬い。あの花嫁に自分を重ねてたフシがあるからな。怒りもするか。
 イレーヌに付き合って教会まで向かった俺だったが、そこで驚愕の事実を知らされる。普通「泥棒だー」なんて叫んでたら財布なんかを盗まれたと思うだろう。
 でもさ――。

「誰か、誰か、取り返してくださいっ。お願いします、僕の大事な花嫁なんですう!」

 まさか花嫁が盗まれるなんて、誰も想像できないっての!


  ◇ ◆ ◇


 驚くことに、ちまたでは花嫁泥棒なるものが頻発しているらしい。
 どういうことなの? と近くにいた住民にいてみた。

「まんま、その通りさ。式の最中に仮面を被った大男が花嫁をかっさらっていっちまう。さっきのように」
「そりゃまた悪趣味だな。さらわれた花嫁は……、やっぱりマズいことにされちまうのか?」
「いいや、翌日になると無事に戻ってくる。怪我もないし、乱暴されることもないらしいが、……実際はどうだか」

 よく話が見えねえな。別に花嫁に欲望を発散するわけでもないなら、なんでわざわざさらっていくんだ……?

「まあ、翌日になりゃ無事に戻ってくるなら俺たちには……」

 と、俺がその場から退こうとすると――。

「ご主人様!」

 あ、ヤバい。イレーヌさんの目が正義感というか義憤的なものに満ちあふれている。

「人生で一番大切な日をめちゃくちゃにするなんて絶対許せません! 追いましょう」
「で、でもな? 明日になれば花嫁は怪我一つなく戻ってくるんだぞ。無関係の俺らが頑張る必要はないような……」

 落ち着かせようとしてみたが、すぐに無駄だと悟る。イレーヌは弓を強く握りしめ、犯人の逃げていった方角に体を向けていた。

「では、ご主人様はここで待っていてください。私が必ず捕まえてきますっ」
「あー待て待て、待ちなさい。……足速えな……」

 すでに全力疾走していたイレーヌの背中を、俺は追いかける。やれやれと嘆息しながら。
 しかし闇雲に追っても時間を消費するだけなので、住民に尋ねながら進むことにした。

「花嫁抱えた仮面男を見なかったか?」
「あれが例の花嫁泥棒か? 南門のほうへ走っていったぜ」
「サンキュ」

 やはり町には留まらないか。王都から離れたひと気のない場所にでも、花嫁を連れていく気かね。
 南門まで行くと、見張りの兵たちが慌てた様子だった。

「おい、仮面の男が通ったんだな?」
「そ、そうだ。一瞬のことでなにもできなかった。追おうとも思ったが足が速すぎるし、俺たちはここを離れるわけには……」
「俺らが代わりに追いかけるから、方角を」
「あっちだ」

 遠目にも強い存在感を示す大岩のほうへ、男は走り去ったとのこと。引き続き、イレーヌと二人でそちらへ。

「しっかし、なにが目的なんだ。愉快犯かね」
「人生で女性が一番輝く日を台無しにするなんて、どんな理由があろうと許せません」

 相当ご立腹なので、ここで犯人を逃がすわけにゃいかない。俺は銀翼ぎんよくを解放して、上空まで一気に上がる。
 現在、翼、手、尻尾しっぽまでは部分的に邪竜じゃりゅう化できるようになっている。完全体の頃に比べるとどれも本来の力には及ばないとはいえ、便利なのは間違いない。
 さて、上から見下ろしたほうが犯人を見つけやすいという考えは正しかった。
 さっそく大岩の陰に消えた男を発見したのだ。もちろん花嫁も一緒。

「イレーヌ、大岩の後ろにいるっぽいぞ。右から行け、俺は逆から回り込む」
「わかりました」

 大岩の陰で一休みしようとしていたのだろう。仮面の大男は気絶しているらしい花嫁を地面に寝かせ、自分も地べたに座っていた。
 俺たちに挟み撃ちにされたと知り、すぐに立ち上がったけどな。

「――何者だオマエら!?」
「それは俺らのセリフなんだけど」
「そうですよ、花嫁を返してください!」
「……そういうわけにはいかん」

 覇気はきを出してきやがったな。戦う気らしい。
 男は筋骨隆々きんこつりゅうりゅうで、身長は二メートルを超えているだろう。目鼻口に小さな穴が空いただけのシンプルな白い仮面に、上半身は裸という絵に描いたような変態野郎だ。下半身はちゃんとズボンはいててくれて助かる。
 で、肝心の武器だが、珍しいことになたを使うようだ。刃渡りは五十センチくらいか。
 これを二刀流で構えるのだから、なんとも不思議な戦闘スタイルだ。

「鉈だからって馬鹿にすると、痛い目見るぞ」

 仮面男がそう口にした瞬間、矢がヒュッと風を切ってやつに迫る。
 イレーヌだ。

「フン」

 その矢を仮面男は叩き落とす。図体ずうたいがデカいだけじゃなく、反射神経もなかなかのものらしい。
 ただ、イレーヌも年齢は若いとはいえ修羅場は幾度も経験している。一発弾かれたくらいで、手を止めたりはしない。

「ご主人様、彼は私に任せてくださいっ」
「あいよ」

 イレーヌの矢の連射に、仮面男が防戦一方になっているうちに、俺は花嫁を担いで少し離れた場所へ。人質に取られると面倒だからな。

「ぐぬぅ、なんという弓の腕前……」

 仮面男は次々と放たれる攻撃に、少しずつ後退せざるを得ないようだ。
 イレーヌは弓魔法ってのをマスターしており、速度を上げる「風の矢」、貫通力を高める「土の矢」、他に「炎の矢」や「雷の矢」が使える。
 いま放っているのは風の矢で、いわゆる高速ショットだ。

「攻めあるのみ!」

 防いでいるだけでは勝てないと判断した仮面男が猛進する。悪くない判断だな。あのままだとジリ貧だし。
 とはいえ、イレーヌもさすがで、土の矢で鉈の一本を正確に狙い撃つ。
 当たった衝撃で、仮面男の手から武器が飛んでいった。

「ぐぬおお!」

 しかし仮面男はひるまずに、逆にイレーヌに接近。残るもう一本の鉈を振り下ろした。
 キンッ、と金属音が辺りに響く。
 結局、二本目の鉈もやつの手の内から逃げていった。イレーヌは刃物が飛び出る仕込み靴を履いており、接近戦もこなせるのだ。
 ハイキックで、下りてくる鉈に上手く足刃そくばを当てて弾き飛ばしたらしい。
 俺はタッタッタと走っていき、やつの脇腹に剣先を近づける。

「動くなよ。もう勝負ありだ」

 なんか、おいしいとこだけいただいたみたいになっちまったな。
 仮面男は案外物わかりがいいらしく、地面にしゃがみ込んで無抵抗の意思を示した。

「……悔いはない。れ」
「随分いさぎよいじゃねえか」
「どうせ俺の命に価値などありはせん」
「なにが目的であんなことをしてたわけ? 特に襲うでもなく、翌日には怪我一つなく花嫁を返すんだろ?」

 男は口で答えるより見せたほうが早いとばかりに、仮面を外した。

「えっ……」
「マジ、か……」

 イレーヌと俺が驚いたのは、仮面男の顔が随分と酷かったからだ。
 不細工とかそういう話ではなく、もう顔がまともではないのだ。グチャグチャと言えばいいだろうか。なにかで力任せに引っかかれたように肉が裂けており、鼻や口が一部消失していたり、曲がっていたりする。
 男が告げる。

「気持ち悪いだろう? 少し前にな、魔物にやられちまった」
「冒険者とか、そういう仕事か?」
「そうではない。たまたま出先で魔物に襲われてる人がいてな。助けに入って追い払ったはいいが、結果がこれだ。……この顔になってからというもの、彼女にはフラれ、友人は離れていき、親ですら接することを嫌がるようになった」

 聞いてて辛い話だわ。
 男はテンション低めに続ける。

「人生が嫌になってな。それで、さ晴らしをしてた、というわけだ。いまの俺には一番縁のない結婚式を台無しにしてやることでな」
「なるほどねえ。それで花嫁泥棒か」
「顔がみにくくなると、心までそうなるらしいな。さあ、さっさと殺せ」

 そうは言われても、殺すにあたいするほどの悪人とは思えないしな。花嫁には危害を加えず、ちゃんと返してるわけだし。

「あの、これを使ってあげてもいいでしょうか?」

 情に厚いイレーヌは、ふところから俺の涙の入った小瓶を取り出す。
 俺、真銀光竜シルフィアスの涙は、怪我や病気を治す効果がある。なにかのときのためにと、イレーヌに預けておいたのだ。

「だな。涙はまた溜めりゃいいしな。一応、名前くらいは訊いておくか。俺はジャーっていうんだけど」
「……チャムルだ。さすがに毒殺は勘弁してほしいが」
「毒じゃなくて回復薬な。お前の顔の傷を元通りにしてやる。その代わり、治ったら一応罪は償えよ。さすがにそこまで重くはねえだろうし」
「変なやつだ。治癒師もどんな回復薬も無駄だった。いまさら希望などない。万が一治ったらなんでも従ってやる」
「ならだまされたと思って、それを飲んでみ」

 イレーヌが小瓶を男の口へ持っていくと、男は特に抵抗もなくそれを飲んだ。
 効果はすぐに表れ、顔がみるみるうちに快癒していく。
 へー、なかなかのイケメンじゃねえか。
 あのグロテスクさは完全に消え失せ、いまは若々しい肌とキリッとした目鼻立ちが目立つ。

「なんだか、体が温かくて、悪くない気持ちだ……」
「もう顔も完全に治ってるぞ」
「どうぞ」

 イレーヌが手鏡を取り出し、きちんと元通りになっていることを見せて教えてやる。あの手鏡かなり高かったんだよな。まあそれはどうでもよくて、いま大事なのはチャムルの反応なわけだが。

「あぁぁ……、うぁああぁ……!」

 顔を何度も手で触って、状態を確かめている。

「そんなに疑わなくても完全に治ってるだろ?」
「ああ、うん、治ってる……! 俺の顔だよこれ!」
「良かったですね。先ほどのは、ご主人様の力の一部です。私もあれで壊れた顔を元に戻してもらい、病気まで治していただいたんですよ」

 過去に似た状態だったイレーヌとしては、チャムルは見捨てておけなかったのだろう。

「ジャーさん、ありがとうっ。あんたは俺の恩人だ。本当になんて言ったらいいか……」
「それを使う選択をしたのはイレーヌだし、礼ならそっちに頼むわ」

 俺、男に熱い抱擁ほうようとかされるのあまり好きじゃないのよ。
 とにかくチャムルは感動して感謝の言葉を並べ続けた。これなら約束も守ってくれるだろう。

「そこまで悪質ではないとはいえ、一応ちまたを騒がせたわけだし、衛兵のとこ行こうぜ」
「もちろんだ。どんな罰でも受ける。約束だからな」

 というわけで、すんなり話がまとまったので、花嫁は元の場所に返して、次にチャムルを兵のところへ連れていった。
 イレーヌが必死に事情を説明したおかげで、情状酌量じょうじょうしゃくりょう的な感じで罪は軽くて済みそうだ。元々誰かを傷つけたわけではないからな。
 笑顔でお縄につくチャムルの姿が、なんとも珍妙だった。
 それほど、人間顔は大事ってことかね。
 これでめでたしめでたし、かと思いきや。ちょっと引っかかることがあったんだよな。チャムルが最後に変なこと言ってたんだ。

「ところで俺は人相見ができるんだが……。あんた、女に妙な縁のありそうな相が出ているな。もたらされるのはわざわいか幸いか? どちらにせよ気をつけたほうがいい。化けて出た恨み深き女にかれでもしそうだわ」

 よくわかんないけど、まあ、頭の片隅にでも置いておくか。


  ◇ ◆ ◇


 花嫁を助けたことで、関係者からぜひ結婚式に出席してくれと頼まれた。イレーヌのワクワク顔を目にすると、どうしても断れずに披露宴的なものに参加することに。
 こっちでもやることは日本とそう変わらず、新郎新婦のノロケ話的なアレが多かったな。
 美味うまい飯にタダでありつけたので、悪い話じゃなかった。
 式の帰り道、軽やかなステップを踏むイレーヌに俺は笑みがこぼれる。

「随分、ご機嫌だな」
「素晴らしい結婚式でした! 私も将来あんな綺麗なドレスを着てみたいです」
「似合いそうだな」
「ありがとうございますっ」

 ほのぼのとしながら俺たちは宿へ向かう。
 イレーヌはピュアだから、ああいう白いドレスが本当に合いそうだ。……とはいえ、まだ十四歳。グレるやつはこの辺から一気にちていったりするからな。大丈夫だとは思うが、念のため非行に走らないよう気をつけておこう。

「なあイレーヌ。もし生活になにか不満があったら言えよ」
「えー、なにも不満なんてありませんよ? いまが、すごく幸せです」
「ならいいけどよ」

 純情エルフ、イレーヌが闇堕ちする日はまず来ないだろうな。
 安心した。
 むしろ、堕落だらくの危険性でいえば俺のほうがはるかにヤバイっていうね……。せめて今日くらいは早寝して、明日は早起きしてみよう。
 そして朝一番から酒……、じゃなくて、ラジオ体操でもやってみっかね。


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