幽雨

幽雨

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ずっと優しく頭を撫でてくれていた温かな手が背中を強く押している。 『家』を出る時が来たのだ。 扉を開けると3月終わりのまだ冷たい風が吹き付ける。 大気が、見えない鉛ように私を包んでは撫でてゆく。誰かの肺で温められて、はき出されてはまた冷えてゆく。途方もなく大きくて得体の知れないそれはまるで、たったいま踏み出したばかりの大人の世界そのものに思える。 まだ形を持たない私の人生、今日は霙が降っている。
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文字数 197 最終更新日 2025.03.30 登録日 2025.03.30
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