バンビーノ

バンビーノ

スパンキー。中学時代に年配の男の先生にお仕置きをされる。パドル、ケツ定規、膝の上でお尻の平手打ちも経験。大学時代は緊縛師に緊縛されて過ごした時期も。
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BL 連載中 長編 R18
 翌日、河野さんたちが合流し、5人でお昼を食べた。原田さんと秀子さんはもう帰るという。僕はちょっと怖かったけど、ワクワクもしていた。午後は河野さんと矢崎さんは釣りに行く。この時期だと堤防のあたりでクロソイが釣れるらしい。河野さんは僕が逃げないように、縛っていくという。2階のロフトに上るように言われ、そこで麻縄で後ろ手に胸回りもぎっちり縛り上げられた。矢崎さんに猿ぐつわをされ、足は股まで縛られた。上はセーターだけど下はデニム短パン。やはり寒い。2人は当分戻ってこない。ロフトの小さな窓から海が見える。まだ冬の日本海の佇まいだ。時を刻む柱時計の音だけ聞こえる。少年時代の記憶の迷路に迷い込んだかのよう。レトロな別荘の片隅に短パン姿の僕。縛り上げられている自分がいとおしい。  やがて2人が帰ってきた。釣果はやはりクロソイだった。結構長い時間縛られていたので、帰ってくるかちょっと心配だった。矢崎さんが魚をさばいて刺身とあら汁を作ってくれた。これがおいしい。 「やっと生き返りましたよ。長かった。でもおいしい」 「昼間はなかなか釣れないんだよ、クロソイは」  夜はポーカーをやろうということになった。僕が勝てば2人が持ち込んだ高いワインやシャンパンを飲ませてもらえる。負ければ勝った人にパドルでお尻をひっぱたかれる。昔アメリカの学校で使われていたような長方形の木のパドルだ。最初は勝ったり負けたりだった。でも僕の酔いが進むにつれてほとんど勝てなくなった。「痛ーい!」。僕のお尻の音が夜の静寂に響く。2人は深夜まで僕を解放してくれなかった。  翌朝は早く起こされた。犬の散歩が日課の河野さんは、代わりに僕を繋いで近所を散歩したいという。僕はまたセーターにデニムの短パン。麻縄で上半身をぐるぐる巻きにされ、その縄の先を河野さんが握っていた。この時期の別荘地の朝にひとけはない。坂が多いから河野さんにひっぱってもらう。結構爽やかな朝だけど、飼い犬の気持ちがわかった気がした。  散歩から戻ると、僕は体操服と紺のブルマーに着替えさせられた。脚は白のハイソックス。3人でお昼を食べ、原田さんが撮影した僕の緊縛ムービーを見た。夜までに帰ることになった。帰りはワゴン車を2人で交代して運転する。1人は僕と後ろのシートへ。僕はまたいつものように手足を縛り上げられておじさんの膝の上に。「躾は厳しく! 男の子にはまだまだお仕置きだ!」ハーッ! 「ごめんなさい」。ブルマーのお尻に平手打ちの雨。やっぱり2人とも筋金入りのスパンカーだ。ガレージで縄を解かれ、ブルマーのお尻に手を当てる。縄の跡も腕についている。 「俺が送ってやるよ。やあ楽しかった。また3人でどっか行こうぜ」と河野さん。  僕はまだお尻をさすりながら力なくうなずいた。
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文字数 1,139 最終更新日 2022.08.16 登録日 2022.08.16
BL 連載中 長編 R18
 ワゴン車は古い港町に向かっていた。僕は原田さんに出会ったときと同じデニム短パン姿。原田さんはそのときから僕をモデルに、誘拐された少年のショートムービーを構想していたらしい。 「俺はいままで女性ばかり縛ってきた。でも君を見たとき、初めて男の子を縛ってみたいと思った。なんか違うスイッチが入ったんだよ。スイッチが入れば、俺はカメレオンだから」 「カメレオン?」 「狙った獲物は必ず捕まえる」  原田さんはときどき車を止めて、緊縛されてもがいている後部座席の僕をフィルムに収めていた。 「このモデルが務まるのは君しかいない。どう見ても少年だ」  2階建ての別荘の前でワゴン車は止まった。僕は麻縄と猿ぐつわを解かれ、上着を羽織って車外に出た。風はなかったが半ズボンの太腿は冷たい。 「ここは舞踏団が練習にも使う場所だ。ここにいまから君を吊るすから」  別荘の1階はステージのようになっていた。照明の設備も備え、吊りに使えそうな太い梁もあった。僕は黒いレザーのショートパンツにはきかえさせられた。秀子さんは赤のエナメルのショートパンツ姿で、バラ鞭と乗馬鞭を持っていた。原田さんの所属するSMサークルで、僕は何度か吊りを体験していた。でもここは別世界。古い木造家屋に麻縄は似合う。スポットライトと闇のコントラストに酔いしれ、鞭にまた酔う。秀子さんの手になる鞭でいやというほどお尻を打たれ、そのたび宙に舞う。静かな夜に鞭音が響く。夜の先にもう一つの夜が広がっているような感覚。ようやく下ろされて縄を解かれ、猿ぐつわをはずされた。 「明日サークルのメンバーがもう2人来る。俺と秀子は先に帰るよ」 「僕、どうしよう」 「卒業式まで暇なんだろ。河野さんと矢崎さんが来る。たまには男の子をいじめてみたいって」  河野さんと矢崎さんは釣り仲間で50歳前後のおじさんだ。2人が僕を責めたいって? 2人とも年季の入ったスパンカーだけど。それもちょっと楽しいかも。 「結構いい動画が撮れたよ。河野さんがまたパドルとか持ってくるから、可愛がってもらうといいよ」 「まだお尻が痛いです。赤くなってるよ」 「一晩眠れば、また白いお尻になるわよ」
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文字数 884 最終更新日 2022.08.16 登録日 2022.08.16
BL 連載中 長編 R18
 それは奇妙な卒業旅行だった。まだ寒い北国の3月。ワゴン車を運転するのは原田さん、助手席に秀子さん、そして後部座席には僕。前の2人は普通の若いカップルに見える。でも後ろの僕は冬なのにデニム短パン姿、麻縄で後ろ手にぐるぐる巻きに縛り上げられ、両脚も縛られて手ぬぐいの猿ぐつわをかまされていた。  僕が原田さんと出会ったのは大学に入学してすぐ、校門の近くの夜のスナックだった。オーバードクターの原田さんは塾講師をしながら映画を撮っていて、スナックの常連だった。下宿生活を始めたばかりの僕はお金がなく、原田さんにときどき奢ってもらうようになっていた。原田さんはいつか、僕を主人公にした映画を作りたいと言っていた。それで親切にしてくれるのかな、でも交友関係も広い人だし、ラッキーだったな。どんな映画を撮りたいかなど僕は気にも留めていなかった。  秀子さんはOLさんで、いつもショートパンツをはいていて屈託のない感じ。2人の出会いの馴れ初めは知らないけど、まあ普通に似合いのカップルだ。  原田さんは僕の思春期の思い出話を聞きたがった。僕はある夏の夜、2人の前で中学時代に受けたお尻叩きのお仕置きの話をした。僕は原田さんよりも秀子さんに聞いてほしい衝動に駆られていた。 「あなた、その先生に恋したんでしょ」  秀子さんは真顔で言った。 「違う。何だろう、もっと宗教的な感じ。僕は女の子が好きだよ。でも……」  妙にシリアスな沈黙が訪れた。 「なぜかうまくいかない。僕は変わってるって女の子によく言われる。男友達には言われないのに」 「女の子の方が勘がいいのよ。先生にお尻を叩かれて嬉しかったんでしょ? それをあたしに言いたかったんでしょ」 「やっぱり僕、変だよね」 「男の子が尊敬してる年配の男の先生に心を奪われる、いいじゃない。その先生が忘れられなくて、子供みたいな半ズボンはいてるのね」  僕はその夜もデニムの短い半ズボン姿だった。
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文字数 793 最終更新日 2022.08.15 登録日 2022.08.15
BL 連載中 長編
「お尻、大丈夫?」  休み時間、きれいなノートをとっていた子が微笑みながら言いました。僕のお仕置きの噂は、休み時間に他のクラスにも伝わり、みんなに知れ渡りました。姉は、何をやっているのと呆れていました。姉も松本先生の教え子でしたが、叱られた記憶はないと言います。教室では素振り用の卓球ラケット、理科室では一メートル定規がお仕置きの定番グッズになりました。  でもいちばん強烈な思い出は、理科室の隣の準備室での平手打ちです。実験中、先生の注意をろくに聞いていなかった僕は、薬品でカーテンを焦がすちょっとしたぼや騒ぎを起こしてしまったのです。放課後、理科室の隣の小部屋に僕は呼びつけられました。そして金縛りにあっているような僕を、力ずくで先生は自分の膝の上に乗せました。体操着の短パンのお尻を上にして。ピシャッ、ピシャッ……。 「先生、ごめんなさい」  さすがに今度ばかりは謝るしかないと思いました。先生は無言でお尻の平手打ちを続けました。だんだんお尻が熱くしびれていきます。松本先生は僕にとって、もうかけがえのない存在でした。最も身近で、最高に容赦がなくて、僕のことを誰よりも気にかけてくれている。その先生の目の前に僕のお尻が。痛いけど、もう僕はお仕置きに酔っていました。 「先生はカーテンが焦げて怒ってるんじゃない。お前の体に燃え移ってたかもしれないんだぞ」  その夜は床に就いても松本先生の言葉が甦り、僕は自分のお尻に両手を当ててつぶやきました。 「先生の手のひらの跡、お尻にまだついてるかな。紅葉みたいに」  6月の修学旅行のとき、僕は足をくじいてその場にうずくまりました。その時近づいてきたのが松本先生でした。体格のいい松本先生は、軽々と僕をおぶって笑いながら言いました。 「お前はほんとに軽いなあ。ちゃんと食わないとダメだぞ」  つい先日さんざん平手打ちされた松本先生の大きな手のひらが、僕のお尻を包み込んでくれている。厚くて、ゴツゴツして、これが大人の男の人の手のひらなんだな。子供はこうやって大人に守られているんだな。宿について、僕はあのお仕置きをされたときにはいていた紺の体操着の短パンにはきかえました。あの時の白衣を着た松本先生が夢の中に出てくる気がしました。
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文字数 922 最終更新日 2022.08.14 登録日 2022.08.14
BL 連載中 長編
 ほどなく3年生は家庭訪問で親子面談をさせられることになりました。やって来るのは学年主任の松本先生です。嫌な予感がしましたが、逃げられません。先生は真っ先にわが家を訪問しました。都立高は内申重視なので、母親は学校での僕の様子を知りたがりました。 「他の先生からも聞きましたが、授業態度ははっきり言ってよくない印象です。忘れ物とか宿題をやってこないとか、遅刻とか。2学期が特に大事なので、先日も厳しく叱りました」  母は絶句しましたが、すぐに平静を装い何があったのかと聞きました。 「けがをさせるような体罰はしません。本人も納得しているし、躾の範囲だとご理解ください」 「もちろんです。でもひっぱたくときは、なるべくお尻にしてやってください」  松本先生は大きくうなずきました。  理科だけはちゃんとやらないと。でも染みついた怠け癖はすぐには直りません。5月の連休明けでした。理科の授業で僕は松本先生に指名され、教室の前の黒板に宿題の答えを書くように言われました。僕は忘れたと素直に言えなくて、ノートを持って黒板のところへ行きました。でも答えがすぐ思いつくはずもなく、すっかり動揺していました。松本先生は僕に近づいてくると黙ってノートを取り上げました。宿題はおろか板書もろくに取っていないことがばれました。先生は前の席の女子生徒のノートも取り上げました。先生の表情が穏やかになりました。 「きれいなノートだ」  松本先生は女子生徒にノートを返すと、今度は険しい顔で僕にノートを突き返しました。僕はお仕置きを覚悟しました。 「お母さんの前で約束したよな」  僕は前の黒板の縁に両手をつかされました。松本先生は教室の横の棚から卓球のラケットを持ってきて、僕のすぐ右横に立ちました。その卓球のラケットは素振り用で、普通のラケットよりずっと重いものでした。今度はこれでひっぱたかれるのか。僕は前回よりは素直にお仕置きの姿勢をとりました。松本先生は左手で僕の腰のあたりを押さえつけました。パーン! 「痛え」。ラケットはお尻にズシンときて、僕は反射的にお尻に右手のひらを当てていました。「熱っ」。   
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文字数 874 最終更新日 2022.08.14 登録日 2022.08.14
BL 連載中 長編
 少し落ち着いてくると、痛さへの現実的恐怖が芽生えてきました。僕は思い直したように今度はきっちりと両手を教卓の角につき直し、お尻を松本先生の方へまっすぐ突き出して踏ん張りました。先生に思い切りひっぱたかれても耐えられるように。そしてもう覚悟を決めたことを先生に伝えるように。定規の先が軽くお尻に触れました。このあたりをひっぱたくぞという先生の合図のようでした。こうなったら定規が変な場所に当たると危ないので、もうお尻の位置は動かせません。先生に狙ったところをきっちり叩かれるしかない。もうどうにでもなれ。まだ叩かれない。ほんとうに叩かれるのかな。バシーン!!  ひっぱたかれた瞬間、体が前に倒されそうになりました。僕のお尻からはびっくりするほど大きな高い音がしました。これが僕のお尻の音なんだ。同時に焼け火箸でも当てられたような熱さと強い振動をお尻全体で感じました。次の瞬間、定規の当たった場所に鈍い痛みを感じ、痛みはお尻の芯にズシンと染みていくようでした。こんなに痛いんだ。定規は子供みたいに小さい僕のお尻の真ん中を測ったように長方形で捕らえ、思っていたよりもずっと広い面積をカバーしていました。僕はお尻の熱さが一瞬にして体中に伝わったかのように上気し、ショックで混乱していました。そして無意識のうちにひっぱたかれたままの格好でお尻の真ん中に右手のひらを当て、振り向いて松本先生の眼をのぞき込んでいました。 「痛ーい」と甘えるようにつぶやきながら。 「そうか、痛かったか。また忘れたら、これでケツひっぱたくからな」 「は、はい」  そう言ってしまった後、この言葉のやりとりと僕の態度が、二人のその後の立場を決定づけるような予感がしました。これでこの先生には、この先ずっと頭が上がらない。でも後悔はない。これがお仕置きなんだ。痛いけどなぜか気持ちがいい。お尻なら納得できるというか、松本先生にひっぱたかれてもしかたないと思う。それまでの照れや反抗的な気持ちはいつの間にか消えていて、僕はかなり冷静になっていました。憑きものが落ちたような気がしました。悪戯っ子がきついお仕置きをされてすっかり反省しているといった僕の態度は、松本先生にも予想以上の成果だったのでしょう。先生の様子には自信と満足感がありました。 お仕置きの間、自分はみんなの前で先生を独り占めにしていたんだ、誰よりも可愛がってもらっていたんだという恍惚感。「お尻、痛かったでしょ。あの先生、厳しくなったわね」「うん、お尻から火が出たかと思ったよ」。女の子にクスクス笑われても、僕には誇らしさと満足感がありました。
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文字数 1,078 最終更新日 2022.08.13 登録日 2022.08.13
BL 連載中 長編
 え? まさか。一瞬動揺しましたが、僕はまだ半信半疑でした。でも松本先生は、すっかりその気になってしまったのです。先生の次の言葉は、僕にとって頭から冷水を浴びせられるようなものとなりました。 「よし、さあ早く前へ出てこい! いまからこの定規で思い切りケツをひっぱたく!」  教室がざわめきました。あの頑丈そうな定規でお尻をひっぱたかれるのだと思うと、僕はひどく動揺しました。恥ずかしい。痛そう。でもどのくらい痛いのかな。一度は体験してみてもいいかも。いや、こんなチャンスめったにないぞ。どうせもう逃げられないんだし。嫌だなと思いつつも、僕は妙に新鮮な興奮を覚えていました。家でも学校でもまともに叱られたことのなかった僕は、これから始まるお仕置きの実感がわかず、夢心地で教室の前へと歩いていました。魅入られたというか、いま囚われの身となった自分が突然スポットライトを浴びているような不思議とワクワクする気持ち。でもまだ心の整理ができていなかった僕には、照れや反抗的な気持ちの方が勝っていました。僕はいかにも嫌そうにゆっくり片方ずつポケットから手を出し、しぶしぶ教卓の真横のところにつきました。自分の態度がいかにも聞き分けのない悪戯っ子のように思えました。松本先生は僕の後ろに下がって見えなくなりました。 「お前がいちばん態度が悪い!」  追い打ちをかけるように叱られて、もう覚悟を決めるしかありませんでした。教室は今度は水を打ったようになりました。こんなにドキドキしたことは初めてでした。気持ちが高ぶってきて抑えられません。松本先生には自分の心の中を背後から見透かされている気がしました。後ろを向かされているのが悔しい。いつまでこんな格好のまま立たされているの? 僕はその静寂に耐えきれず、平静を装って横を向き、生徒の席を見回しました。幼馴染みの女の子と視線が合いました。僕の方から視線をそらせ、また前を向きました。みんな興味津々みたいだ。僕はみんなから見ると横向きに立たされていました。松本先生は生徒に背を向けて黒板の向きに立っていて、前の席の生徒には定規の軌道が僕のお尻に当たる瞬間までよく見えるはずです。それにひっぱたかれる瞬間の僕の横顔も見られてしまう。自分は見世物にされていると感じました。それにしてもなかなか叩かれません。松本先生はいま、どんな姿勢で定規を構えているんだろう。定規はお尻のどの辺に当たるのだろう。思い切りひっぱたかれるのかな。先生すっかり怒らしちゃったしな。きっとすごく痛いのかな。しっかりつかまってないと、前に吹っ飛ばされるかも。
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文字数 1,069 最終更新日 2022.08.13 登録日 2022.08.13
BL 連載中 長編
 中学3年になると、新しい学年主任に松本先生が決まりました。ベテランの男の先生でした。校内でも信頼が厚かったので、受験を控えた大事な時期を松本先生が見ることになったようです。松本先生は理科を教えていました。恰幅のすごくいいどっしりした感じの先生でした。僕は当初、何も気に留めていませんでした。特に生徒に怖がられているわけでもなく、むしろ慕われているくらいで、特別厳しいという噂もありません。ただ生活指導には厳しく、本気で怒ると相当怖いとは誰かが言っていましたが。  初めての理科の授業も、何の波乱もなく終わりました。授業の最後に松本先生は言いました。 「次の授業では理科室で実験をする。必ず待ち針をひとり5本ずつ持ってこい。忘れるなよ」  僕はもともと忘れ物はしない方でした。ただだんだん中学の生活に慣れてきたせいか、だらけてきていたところはあったと思います。僕が忘れ物に気がついたのは二度目の理科の始業ベルが鳴った直後で、ほどなく松本先生が理科室に入ってきました。僕は、あ、いけないとは思いましたが、気楽に考えていました。どうせ忘れたのは大勢いるだろう。確かにその通りで、これでは実験ができないと、松本先生はとても不機嫌そうでした。忘れた生徒はその場に立つように言われ、先生は一人ずつえんま帳にメモしながら、生徒の席の間を歩いて回り始めました。そして僕の前に立った途端、松本先生は急に険しい表情になり、僕を怒鳴りつけました。 「なんだ、その態度は! 早くポケットから手を出せ!」  気が緩んでいたのか、それは僕の癖でもあったのですが、僕は何気なくズボンのポケットに両手を突っ込んでいたのでした。さらにまずいことに、僕は先生に怒鳴られてもポケットからすぐには手を出そうとしませんでした。忘れ物くらいでなぜこんなに怒られなきゃいけないんだろう。それは反抗心というのではなく、目の前の現実が他人事みたいな感じで、先生が何か言ったのも上の空で聞き過ごしてしまいました。すると松本先生はいよいよ怒ったように振り向いて、教卓の方に向かい歩き始めました。ますますまずい。先生はきっと僕がふてくされていると思ったに違いない。松本先生は何か思いついたように、教卓の上に載せてあった理科室の定規を手に取りました。それは実験のときに使う定規で、普通の定規よりずっと厚みがあり、幅も広いがっしりした木製の一メートル定規です。松本先生はその定規で軽く素振りをしてから、半ば独り言のようにつぶやいたのでした。「いまからこれでケツひっぱたくか……」。  
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文字数 1,051 最終更新日 2022.08.13 登録日 2022.08.13
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