先日、2020年4-6月期のGDPの速報値が発表されました。1-3月期に比べて7.8%のマイナスで、このペースが1年間続くものとした「年率換算」ではマイナス27.8%となりました。リーマン・ショック後の2009年1-3月期のマイナス17.8%(年率換算)を超えて、比較可能な1980年以降で最大の落ち込みとなりました。
緊急事態宣言で、半強制的に経済活動を自粛させたわけですから、大幅な落ち込みとなることはやむを得ません。それでも早く経済活動が回復するのであれば、ダメージは一時的かもしれません。しかし、新型コロナの感染は最近になってまた増えてきており、さまざまな活動が制約されています。景気が元どおりの水準まで回復するには時間がかかりそうな雲行きです。
ところが、それに反して、株式相場だけは順調に回復しています。8月中旬には、コロナ渦で暴落する前の水準をほぼ取り戻しています。株式相場を見る限りでは、新型コロナの影響は一時的なショックでしかありません。今回の株価の落ち込みを、過去のショックと比べてみましょう。
リーマン・ショックの時は、日経平均株価の下落は1年半続き、約60%ものマイナスとなりました。そして、元の水準まで戻るのには7年もの月日を要しました。その前のITバブルの崩壊では3年間下落が続き、60%近いマイナスとなりました。この時は元の水準まで戻ることなく、7年後に9割近くまで戻ったところでリーマン・ショックの下落が始まってしまいました。
それに比べると、今回のコロナ渦中による株式相場の下落は小さく、短いものです。コロナ感染拡大が問題視され始めた今年1月以降、日経平均株価がもっとも下がったのは2カ月後でマイナス30%。そして7か月後には“ほぼ”元の水準まで回復しています。かつてのショック時よりも経済の影響は深刻にもかかわらず、株式相場での下落は小さなものに留まっています。「株式相場は景気を映す鏡」といわれますが、最近の状況についていえば、深刻な経済の落ち込みを映してはいません。
景気を映していないという意味では、アメリカのほうが極端かもしれません。新型コロナの状況はアメリカのほうが深刻です。それだけに経済に与える影響は大きく、2020年4-6月期のGDP成長率は、前期比でマイナス32.9%(年率換算)にも落ち込んでいます。リーマン・ショック時のマイナス8%をはるかに超えて、統計を取り始めた1947年以来、最悪の水準です。
それに対して株式相場はどうか、大手企業30社の株価から算出しているダウ平均で見てみます。やはりコロナの影響が深刻になった今年の2月には暴落し、3月には暴落前に比べて38%の下落となりました。しかし、まだ以前の高値を超えてはいませんが、その95%の水準までは回復していますので、“ほぼ”元に戻ったといってもよいでしょう。こちらも株式相場が景気を映す鏡にはなっていません。
コロナが終息した後を見据えている、という面もありますが、もうひとつ大きな理由があります。恐慌に陥るのを防ぐため、各国の中央銀行が徹底的な金融緩和を行っていますが、その資金が株式市場に流入しているのです。
アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は、リーマン・ショックの後、QE1、2、3と呼ばれる大胆な金融緩和を実施しました。ところが、今度のコロナ渦ではその3回分を超える規模の資金供給を数カ月の間に行っています。日本では日本銀行が大胆な金融緩和を続けていましたが、さらにそれを拡大し、今では日銀の資産は日本のGDPを超える規模までになっています。