零壱

零壱

「大将と嫁」同人誌完売御礼代わり、X書き殴り小話

「大将と嫁」シリーズじゃないです。
なんも考えず、春だよなあと思って書きました。
お暇な時にでも。



※ ※ ※



「落ち着かないんだよ」

それはぶっきらぼうな声だった。
隣にどさりと座った男を横目に見る。僕と男の間には、人一人分の空間がある。

「おまえがいないと、落ち着かない」
「毎晩取っ替え引っ替えしといてよく言うね」

呆れた僕は男から桜に目を移した。学校の敷地内の桜。もうだいぶ散ってしまった。
ここはただのベンチで、今もただの昼休み。
一人でパンを食べていたら男がやって来た。それだけ。
大学構内では遊び人で名の知れた男が、心底嫌そうに舌打ちする。

「触ってない。誰も」

ベンチに着いた手でなんとなく握っていたパンの空き袋。
男の手が、指が、恐々と、隣り合った。

「今、触ってるけど」

誰にでも軽々しく触れる指先なんて絶対嫌なのに、人差し指がほんの少し触れているのに、僕はどうしてだか、手を引けない。

「おまえにはこんくらいしかできねぇんだよ。わかれよ」

男が空き手で顔を覆って呻く。
チラッと横を見たら耳まで真っ赤だった。
息を吸って、吐く。
心臓がトクトクと脈打って、僕の顔まで少し熱くなってくる。遊び人でだらしない男相手にそうなっている事実が嫌で、いっそのことと手を重ねてみた。パンの袋越しだ。僕と男の手の間で安っぽいビニール袋がカサリと音を立てた。

「っ、おま、」
「はっきり言ってよ。わかんないから」

桜に顔を戻した僕に、うーとかあーとか唸る男。
全然らしくなくて、少しだけ笑った。


登録日 2026.04.13 09:52

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